クラフトビール×羊肉料理という“俺得”な店「ひつじあいす」の魅力を全世界に届けたい

自家醸造のクラフトビールと羊肉料理を堪能できるという“俺得”なお店。東京・上野の「シノバズブルワリーひつじあいす」に行ってきました!

エリア上野(東京)

10年以上前、初めてIPAスタイルのクラフトビールを飲んだ時の衝撃は忘れられません。グラスから漂うトロピカルな香り、口の中に広がるフルーティーな甘み、後からガツンとやってくる力強い苦み。これまでに飲み慣れてきたビールとは全く異なる味わいに戸惑いつつも、杯を重ねるごとにどんどんハマっていく。その後、この世の中には多種多様なスタイルのクラフトビールが存在することを知り、いろんなクラフトビールを試しながら自分好みの1杯と出合えた時の喜びや、何よりもその奥深すぎる世界に“沼る”までに時間はかかりませんでした。

そのようなクラフトビール体験と同じように、衝撃を受けたのが羊肉との出合い。ネパール料理店で初めてマトンカレーを食べた時、肉のやわらかさ、濃厚なコクと独特の甘みに感動し、なんとなく「癖や臭みが強い」という先入観を抱いていた羊肉に対する印象が180度変わりました。そこからマトンカレーに限らずいろんな羊肉料理を試すようになり、メニューの中に羊肉料理を見つけると半自動的に注文する体になってしまいました。

前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは、自家醸造のクラフトビールと羊肉料理を堪能できるという、まさしく“俺得”なお店。東京上野の「シノバズブルワリーひつじあいす」です。

クラフトビール×羊肉料理のペアリングを心ゆくまで楽しめる

上野恩賜公園の不忍池近く、上野2丁目仲町通りにある「シノバズブルワリーひつじあいす」は、マイクロブルワリー(小規模のビール醸造所)を併設した羊肉料理の専門店。自家醸造のクラフトビールと、世界各国のレシピをアレンジした羊肉料理を楽しめるお店です。

▲1階カウンター席の目の前に鎮座するタップたち。自家醸造クラフトビールを常時2種類提供し、月替わりビールやゲストビールもドラフトで楽しめる
▲1階はカウンター席のほか、ゆったり座れるテーブル席も。開放的なオープンキッチンから羊肉の香ばしい匂いが漂ってくる
▲2階は通路との間にのれんがかかった半個室、完全個室で快適に過ごせる。自分でビールを注ぐことができるタップが設置されたテーブルも(飲み放題付きビールサーバー体験プランの利用が必要)

▲ひつじあいす(750円)

早速クラフトビールと羊肉料理をいただいてみましょう。

まずは常時提供している自家醸造クラフトビールの一つ、アメリカンペールエールの「ひつじあいす」から。明るい黄金色の見た目どおり、爽やかな口当たり、さっぱりとした喉ごしが1杯目にぴったり! じんわりと広がる甘み、程よい苦みのバランスがとても心地よく、初めてクラフトビールを飲んだ時のワクワクした気持ちを思い出しました。クラフトビールファンはもちろん、初心者にもおすすめです。

▲不忍YELL ALE!(780円)

続いて、もう一つの自家醸造クラフトビール、ヘイジーIPAスタイルの「不忍YELL ALE!」をいただきます。柑橘系の爽やかな香りの中に、青草のような複雑な香りがほんのり漂います。口当たりはしっかりとしたボディ感があり、トロピカルな甘みとともにホップ由来のコク、苦みがガツンと押し寄せてきます。余韻も長く、鼻に抜けるフレッシュなアロマに思わずニンマリ。クラフトビールファンの中にはホップの魔力に魅せられた“ホップ狂”ともいえる人たちが(自分も含め)存在しますが、これは間違いなく“ホップ狂”をうならせる1杯だと思います。

▲かぶりつきラムチョップ タレ・シオ(各1本660円)

そして、これらのクラフトビールと相性抜群なのが、定番メニューのラムチョップ。タレはしょうゆベースの香ばしい味付け。シオはお好みで、ゆずこしょうを付けていただきます。肉がやわらかく、とってもジューシー。羊肉ならではのコクやうま味をしっかり楽しめて、臭みや脂っこさはありません。この奥深い味わいが、クラフトビールの華やかな香りや苦みとめちゃくちゃ合うんです。

▲極上ラムパッチョ(1,980円)

こちらは、希少部位のラムのフィレ肉を1頭分使ったというラムパッチョ。まずは何も付けずに、フィレ肉だけでいただきます。しっとりとした食感、かむたびに広がるラムのうま味と甘み、満足感のある味わいなのに、あっさりしていてくどさがありません。もちろん、臭みもなし。

中央の卵黄を崩して、ナッツや玉ネギと一緒にいただくと、さらに甘みやコクが引き立ちます。バルサミコ酢を使ったソースが程よい酸味をプラスしてくれて、爽やかな後味にどんどん箸が進みます。クラフトビールとの相性? もちろんサイコーです。

クラフトビールと羊肉料理、それなりに合うだろうとは予想していたのですが、期待値をはるかに超える相性の良さに驚きました。甘みやコクという共通の要素がマッチするだけでなく、クラフトビールの力強い苦みが爽やかな後味を演出してくれるところや、羊肉料理が意外とあっさりなので、クラフトビールと一緒に食べてもすぐにおなかいっぱいになったり、食べ飽きたりしないところも魅力だと思いました。

チベットで衝撃の羊肉体験。命をいただくことの尊さを知る

このようなすてきなお店がどんな経緯で生まれたのか、そのおいしさの秘密に迫るべく、「シノバズブルワリーひつじあいす」を運営する長岡商事株式会社 代表取締役社長の前川弘美さん、店長/醸造家の上松貴昭さんに話を聞いてみました。

▲(左から)前川弘美さん、上松貴昭さん

──クラフトビールと羊肉料理の組み合わせ、とってもおいしかったです! お店ができるまでの経緯をお聞きしたいのですが、まずは羊肉料理との出合いを教えていただけますか?

前川さん(以下、敬称略):ちょうど20歳の頃、フレンチレストランのメインディッシュで仔羊(こひつじ)のローストをいただき、「なんておいしい食べ物なの!」と感動したのが、私と羊肉の最初の出合いになります。

その後、チベットを旅した時にカイラス山という聖山に行きたくてチベット人に連れていってもらったのですが、食べるものがほとんどない過酷な道中で、「登山が終わったらおいしい羊肉料理を食べたい」と話していたんです。そして登山が終わると、なんとチベット人が生きた羊を連れてきたのです。「いや、生きている羊を食べたいとは言ってないんですけど……」とすごく困惑したのですが、そこで生きた羊を調理して食べるという体験を通して、命をいただくという行為の尊さを、心の底から実感することができました。

 

──なるほど、それは忘れられない体験ですね。

前川:羊肉がきっかけで飲食に対する関心が高まったこともあり、私はここ上野2丁目仲町通りで父が営んでいた飲食店を手伝うようになりました。もともとこの通りは飲食と花町の文化が入り交じった場所だったのですが、当時は花町の雰囲気が色濃くなりすぎていたんです。再び、飲食の文化をこの通りに根付かせていきたい。そんな思いでお店づくりを試行錯誤する中、キラーコンテンツとしてたどり着いたのが、ラムチョップでした。

 

──そうなんですね、数ある羊肉料理の中でもラムチョップを選んだのはなぜでしょうか?

前川:私は音楽フェスが大好きで毎年のように通っていたのですが、フェスでヘトヘトに疲れておなかがすいた時、唐突に「ここでラムチョップにかぶりつきたい! 絶対に元気になれるのに!」って思ったんです(笑)。もちろん、当時はラムチョップを提供するお店はありませんでしたから、いつかフェスでラムチョップの屋台を出店したいと考えていました。

そこから妄想が広がり、高級フレンチで出てくるような仔羊のローストよりもリーズナブルな価格帯で、気軽に手で持ってかぶりつくスタイルのラム肉を食べられるお店はどうかな。上野という町のテイストに合わせてしょうゆベースの味付けにすれば、焼き鳥のように新たな下町のソウルフードになるんじゃないかな、と頭の中でイメージを固めていき、2009年にラムチョップを看板メニューにした「下町バルながおか屋」をオープンしました。

念願だったフェス出店を機に、お客さんとの強い絆が生まれる

──当時はそれこそフレンチのメインディッシュならまだしも、手で持ってかぶりつくスタイルのラムチョップを出すお店はあまり聞いたことがなかったように思います。お客さんの反応はどうでしたか?

前川:「なんだ、これは?」という反応でしたね(笑)。そもそも羊肉料理を食べたことのある人があまりいなかったので、受け入れてもらうまでは非常に苦労しました。私としては焼き鳥と同じように日本人の食文化に浸透させていきたいという思いがあったのですが、リーズナブルといっても焼き鳥1本と比較すると高いので、そのハードルも乗り越えなければなりません。

 

──そこから、どのようにしてラムチョップのおいしさを伝えていったのでしょうか?

前川:1回食べていただいたら必ず気に入ってくださるという確信があったので、まずはその1回目のハードルをどのように下げるかを考えました。ベタな施策なんですけど、例えば「下町バル通信」というラムチョップのおいしさやお店の思いを込めたチラシをつくり、定期的に近所に配ることで足を運んでくださるお客さんを地道に増やしていきました。

また、羊肉の癖や臭いに対するマイナスイメージも大きかったので、良質な羊を育てている産地の選定、臭みを感じさせない焼き方や味付けを随分と研究しましたよ。ただし、私たちは変に臭みを取るということはしていません。適切な環境で育ち、新鮮な状態で提供される羊肉って、そんなに手を入れずとも臭みはないんですよ。そういった先入観を取り除いてもらうための情報発信にも力を入れてきました。

 

──何かブレイクスルーとなった出来事はありますか?

前川:オープン翌年から、念願だったフェスへの出店がスタートしたことです。そのタイミングでSNSでの情報発信を始めたことで、「絶対に行きます」とか「SNSを見てきました」と言って来てくださる方々とたくさん出会い、そこから交流が始まったことで、ファンミーティングのようなイベントを開催することもできました。フェス帰りに私たちのお店に直行してくださるお客さんもいて、すごくうれしかったですね。

未経験から修業を経て醸造スタート。地元でホップ栽培の輪も広がる

──そのような出会いを経て、「シノバズブルワリーひつじあいす」というブルワリー併設のお店を立ち上げた経緯を教えていただけますか?

前川:もともとこの場所では、総合居酒屋を営んでいたんです。しかし、コロナ禍で総合居酒屋という形態が打撃を受けたことに加え、上野2丁目仲町通り自体の活気が失われる中で、このまま放っておくと誰からも必要とされないエリアになってしまうかもしれないという危機感を抱きました。そこで、不忍池から一番近い通りとして再興するために何ができるかを考え、ただの総合居酒屋ではなく、昼でも気軽に足を運ぶことができて、地元のアイコンになるような場所をつくりたいと思ったんです。

また、私は地域のイベントもいろいろと企画しておりまして、その中のコンテンツの一つとして上野発のクラフトビールを造ってみたところ、それが非常に好評で地元の方々からも「ブルワリーをやったらどう?」と言われていたんです。それなら、地元に根付いたクラフトビールを造る醸造所をやろうかな、と。

 

──醸造所って、そんなに気軽につくれるものなんですか? 免許を取るのもすごく大変ですよね……。

前川:免許を取得するのも大変なんですけど、やっぱり造り手がいないと絶対にできないじゃないですか。そう考えた時、上松のことが頭に思い浮かびました。当社は世界のビールを取り扱うビアバーを長らく運営しておりまして、そこで店長を務めていたのが彼なんです。ビールの知識や経験が豊富なのはもちろん、国内の醸造所を一緒に回って「いつかビールを造ってみたいね」と話していたこともあったので、上松がいるからできると思ったんです。

 

──上松さんは最初に話を聞いた時にどう思いましたか?

上松さん(以下、敬称略):ボス(前川さん)に「自分たちでブルワリーをやれたらどうかな?」と聞かれて、「それは楽しそうですね」と返すぐらいの、軽い世間話のつもりだったんです。すると後日、「醸造所をつくるから醸造家をやってほしい」と言われて、「あ、マジだったのか」と(笑)。でも昔からの夢だったのでうれしかったですよ。すぐに知り合いの酒屋さんに頼み込んで修業をさせてもらいました。

 

──それまで醸造のご経験は?

上松:全くないです。半年ぐらいかけて仕込みからたる詰め、熟成まで一通りの工程を学ばせてもらいました。

前川:上松が修業している間に開店準備を進め、2021年12月にオープン。その後、2022年4月に免許が下りたので、そこから第1号の仕込みを始めました。また、店舗の準備と並行して、どうせなら上野の町でホップを育てようという話になり、大学院の都市デザイン研究室の方々と連携してビルの屋上を使ったホップ栽培を始めました。初めての醸造では両手に収まるぐらいのホップしか収穫できなかったため、輸入ホップも使っていたのですが、徐々に地域の方々や企業の皆さまの間でホップ栽培の輪が広がり、今ではタンク丸ごと地元産のホップを使って醸造できるようになりました。

 

──実際に醸造をスタートしてから、手応えはいかがですか?

上松:これまで相当数醸造しているのですが、面白いぐらい意図したものが出来上がっています。それでも、毎回醸造する時はドキドキなんですけどね。

 

──お客さんからの反応も上々ですか?

上松:そうですね、クラフトビール好きな方にも楽しんでいただけていますし、普段ビールを飲まない方がクラフトビールを「おいしい」と言って飲んでくださるケースも多いです。

 

前川:そう、ビールが苦手な方が「ここのクラフトビールはおいしい」と言ってくださるんですよね。あとクラフトビールファンは情報のキャッチアップがすさまじくて、まだほとんど情報を出していない最初の造りから、うわさを聞きつけて来店してくださったり、遠方からわざわざお越しくださったりするお客さんもたくさんいました。とてもうれしいのと同時に、「気合を入れて造らないといけないぞ」って改めて気が引き締まりましたよ(笑)。

▲店内に併設された醸造設備

──お店ではラムチョップ以外の羊肉料理も提供していますが、羊肉料理に対するこだわりを教えてください。

前川:日本の羊農家さんをいくつか見学させていただいた時に、羊肉をもっと広く世の中に浸透させる必要があると感じました。なぜなら、日本の羊は海外と比べて圧倒的に飼育頭数が少ないため、部位ごとに購入することができず1頭買いが当たり前になっていたからです。

私たちはラムチョップを世の中に広めるという部分に関しては多少貢献できたかもしれませんが、これからはラムチョップ以外の部位のおいしさも伝えていくことで、日本の食文化を豊かにしていくとともに、日本の羊農家さんを応援していきたいと思い、羊をとことん愛する「羊、愛す=ひつじあいす」というコンセプトを掲げています。定番のラムチョップはもちろん、1頭から少ししか取れない希少部位のフィレ、タン、ハツ、今まであまり扱われることがなかったハチノスやセンマイなどを提供しています。

また、宗教的禁忌がない羊肉は世界中で愛されており、平和の象徴であると考えています。だからこそ、世界各地の羊肉料理を取り入れ、そのおいしさや多様性に出合っていただくことを大切にしています。

地域のアイコンとして、笑顔と喜びが伝播していく場をつくる

──お店をやっていて良かったと思うことはありますか?

上松:醸造所併設のお店ができたことで、飲食店だけをやっていた時よりも幅広い地域の方々とのつながりが生まれたことですね。それから、長年のお付き合いがあるお客さんに、自分が造ったクラフトビールを「うまい!」と言って飲んでもらえた時もとてもうれしかったです。

前川:地域のアイコンにしたいと思ってスタートした店舗が、まさに地域のコミュニティーとして皆さんの交流や情報交換の場として機能しているのを見ると、チャレンジして良かったなって思いますね。お店の中だけでなく、ホップ栽培などの活動を通じて地域が一つになっていく姿を見ると、私たち自身も励まされ、勇気づけられます。そのように応援し合う気持ちや励まし合う気持ち、感謝し合う気持ち、そして何よりも楽しむ気持ちがどんどん広がっているのがすごくうれしいんですよね。

上松:当社のスピリットとして「笑顔と喜び=ハッピー」という合言葉を掲げているので、私たち自身が幸せな気持ちになることで、そのポジティブな感情が周りに伝播していくといいなって思っています。

 

──素晴らしいですね。今後の夢や目標を教えてください。

上松:おかげさまでタンクが足りなくなるぐらいクラフトビールを楽しんでいただけているので、ぜひとも増設したいですね。もう少し大きい設備と人材がそろえば、地域のお店でもタップで提供していただくことや、ボトリングしてお土産に買っていただくこともできると思うので、醸造家としての次の夢は増設です。ボス、よろしくお願いします。

 

前川:増設、やりましょう(笑)! クラフトビールに関しては上松の言うとおり、地域発のクラフトビールとしてより多くの方々に親しんでもらえるよう努力し続けることが大事だと思っています。また羊肉に関しても、牛・豚・鶏に続く第4の肉として、日本の食文化に根付いていくような取り組みを進めていきたいです。そして、私たちだけが発展するのではなく、上野の地域全体が発展していくことを目指しているので、上野発のイベントやフェスづくりもどんどん仕掛けていきたいと思っています。

 

──夢がどんどん広がりますね! 本日はありがとうございました。

 

お店情報

シノバズブルワリーひつじあいす

住所:東京都台東区上野2-10-7 かきくけこビル1F・2F・3F
電話番号:03-3836-1901
営業時間:月曜日〜木曜日、土曜日・日曜日・祝日 12:00~23:00(L.O. 22:30)、金曜日 17:00~23:00 (L.O. 22:30)
定休日:年末年始

www.hotpepper.jp

書いた人:松山響

沖縄生まれ東京育ち。

編プロ→ブランディングカンパニー→フリー編集者/ライター。

女性誌のグルメ特集で“カフェ巡り”の真髄に触れ、食品宅配サービスのPR媒体で自炊にハマり、日本全国の酒蔵ストーリーをつくる企画に挑戦して太るなど、食と酒には公私ともにお世話になっている。

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