羽田空港で売れ続ける大ヒット空弁「焼き鯖すし」が愛される3つの理由

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今から約20年前、福井県の小さな町で誕生した「焼き鯖すし」。誕生以来徐々に話題になり、今や全国の百貨店催事などで飛ぶように売れる大ヒット商品となりました。

 

f:id:kimuraosaka:20190728231520j:plain▲焼き鯖すし 1,188円

 

筆者も焼き鯖すしの大ファン。自分で食べるのはもちろん、地元の名産品ということもあって、お土産にすると必ず喜ばれます。

そんな焼き鯖すしについて、創業メンバーのひとりで株式会社若廣 取締役CMOの佐野さんにお話を聞いてきました。

 

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▲全国の催事でお忙しい中、取材にご協力いただいた

 

焼いた鯖をすしにしてもいいんじゃないか

 

──早速ですが、焼き鯖すしってどのように生まれたんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:創業メンバーは私と私の同級生、ひとつ上の先輩、現在の社長、会長の5人です。私と同級生が19歳、社長が20代前半、会長が40代前半のときに福井県三国町の某飲食店で出会いました。
会長を除く4人は若く、「何か大きなことがしたい」という夢だけはあったので、三国町の大きなお祭り「三国祭り」でヒット商品を生み出そうと、焼き鯖すしを考案して売り出したのが始まりです。

 

──焼き鯖すしという発想はどこから出てきたのでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:社長・会長は福井県外の出身で、そういう人間からすると「福井の人ってよく鯖食べるよね」というイメージだったらしいです。焼き鯖は冷めても焼きたてでもおいしいですし、だったら伝統的な「鯖寿司」もあることだし、焼いた鯖を寿司にしてもいいんじゃないかって。

 

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▲伝統的な鯖寿司と同じく押し寿司スタイル

 

──三国祭りでの反響はどうでした?

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:これがすごくびっくりしたんですけど、初日に200本用意していたら、なんと1時間ぐらいで完売したんですよ。これは売れるかもしれない、となりましたね。福井の名物にしたいねと話し合い、鯖街道(注:鉄道などがなかった時代、福井で獲れた魚介類を徒歩で京都へと運んでいたルート)スタート地点の小浜市で、販売を始めることになりました。

 

──でも、同じ福井県といっても三国町と小浜市では遠く離れています(注:福井県は嶺(れい)北地方と嶺南地方に大きく分けられ、三国は嶺北、小浜は嶺南に属する。嶺北と嶺南では方言も文化も大きく異なり、交通の弁もそれほどよくない)。ツテも何もなく事業をスタートさせるのは大変だったんじゃないですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:若いからですかね、勢いでやってしまいました(笑)。ただそうすぐにうまくはいかなくて、「焼き鯖すしなんて邪道だ」と言われることもありましたね……。寿司って本来生魚を食べるものですからね。

 

──たしかに、炙りはあっても焼いた魚の寿司ってないから、邪道といわれてもおかしくない。そんな中でヒットへ繋がるきっかけはなんだったんでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:試食販売を始めたことです。味には絶対の自信を持っていたので、食べてもらえば納得していただける、と確信していました。
転機となったのは、2003年に小浜市で「若狭路博」という大きなイベントが開催されたことです。私たちも出店させていただいて試食販売を行なったところ、毎日500本ほど売れるという、これまでにない大盛況になったんです。当時従業員は5人で1日2時間ほどしか寝られませんでしたが、これはやるしかない! と。

 

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▲今でも店頭での試食は欠かさない

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:それと同じタイミングで羽田空港での販売も始まりました。国内線の機内食が廃止になり、空港の中で何かを食べる、何かを持ち込んで飛行機に乗るってことがスタンダードになったんです。

 

焼き鯖すし、羽田へ行く

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──羽田空港への出店って魅力的ですよね。創業間もない若い会社でそこに食い込めたのはどうしてでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:まだそれほど忙しくない頃、当時は20代前半と若かったので、仕事がひと段落した昼過ぎぐらいにキャッチボールとかして遊んでたんですね(笑)。そんなとき、うちの工場の横に、地元名産品でレンコダイの酢漬け「小鯛のささ漬け」のメーカーさんがありまして、キャッチボールの合間に話すようになったんです。そんな中で空港はすごく売れるよって教えてくれて。「紹介してあげようか?」っておっしゃっていただけたんです。

 

──へー!

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:話はトントン拍子に進み、とりあえずってことで羽田空港から30本の発注をいただいたのですが、到着したその日の昼過ぎに「もう完売した」って連絡がきまして。

 

──爆速で完売だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:これは売れるぞって、あれよあれよと発注数が伸び、1年後に空弁ブームがやってきて、羽田空港に「空弁工房」っていう売り場もでき、メイン商品として、うちの焼き鯖すしを置いてもらえるまでになったんです。

 

──売り上げはどれぐらいだったんでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:当時、羽田空港で1日30個売れるお弁当はヒット商品、100個だったら大ヒット商品といわれていたんですね。そんな中で、うちの焼き鯖すしは1日1,000〜1,500本ぐらい売れていました。
飛行機に乗らなくても空港に来る、というようなお客さんもたくさんいらっしゃったようです。そのうちにテレビや雑誌で売り上げランキングが掲載されるようになり、ありがたいことに5年連続で焼き鯖すしが売り上げ1位をいただきました。

 

──1位の反響ってやっぱり相当なものですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:うちは百貨店での催事が多くて、北海道から鹿児島までいろいろ行かせてもらうんです。その中でも「全国うまいもの大会」みたいになると、東京の叙々苑さん、三重の赤福さん、広島の八天堂さんとか、各都道府県の代表みたいなメーカーさんが集まってくる。
するとその催事がローカルテレビに取り上げられることが多くなります。そこでうちの焼き鯖すしって「羽田空港で5年連続1位を獲得した」という風に紹介されることが多いんです。すると、放映30分後にはぶわーっとお客さんがいらっしゃることもありますね。だいたい上位売り上げ5本の指には入らせてもらっています。

 

ひと口でわかるおいしさ

話題性だけでなく味に絶対の自信を持っているから、「食べてもらえばわかる」と大きなチャレンジにも果敢に挑戦。押しも押されもせぬ鉄板グルメへと成長を遂げ、現在に至る焼き鯖すし。

そうです。若廣の焼き鯖すしって本当においしいんです。

ふっくらジューシーな鯖の身と固すぎず柔らかすぎずな酢飯、その間には香り豊かな大葉とほんのりピリリなガリが挟まれ、脂の旨味の中に薬味がしっかり利いた絶妙なうまさ。

 

f:id:kimuraosaka:20190728230210j:plain▲見た目も最高だ

 

なんでこんなにおいしいのでしょう。

聞くと、全国に配送される焼き鯖すしは全て1つの自社工場のみで作られており、いろいろとこだわりがあるとのこと。

工場を見せていただくと、おいしさの秘密がなるほどしっかりとあったのでした。

 

おいしさの秘密1:ジェットオーブン

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焼き鯖すしといったらこの色。こんがり黄金色に焼き上がり、見た目だけで食欲をそそります。この色を出すために採用しているのが、独自に調整されたジェットオーブンというマシーン。

 

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▲写真はオーブンの一部のみ

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:ジェットオーブンがないとこの色は出せません。

 

毎朝数千本の鯖をこのオーブンでこんがり焼き上げています。

ちなみに鯖は、焼き鯖すしにしたときに脂がちょうどよく残るノルウェー産を使用。かつ海外の加工提携工場に年3回訪問し、レシピ通りに作られているかの確認をしています。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:加工提携工場まで訪問するのはうちぐらいだそうです。現地の方がそう言ってました。

 

おいしさの秘密2:大葉を使うこと

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大葉を入れることで風味がぐっと引き立つのもおいしさのポイントです。

ただ大葉には細かな毛がたくさん生えているため、その毛に微生物がたくさん付着。日保ちさせようとするとかなり難しく、お弁当業界では敬遠されがちな食材なのです。けれども若廣では独自の洗浄方法などを活用することで、大葉の使用を実現させました。

 

f:id:Meshi2_IB:20190805183414p:plain佐野さん:大葉をやめようかっていう話も出たんですが、やっぱり味にはこだわるべきだと、大葉使用のための開発をすすめました。

 

おいしさの秘密3:丸い形

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一般的な押し寿司といえば角ばったものを想像しますが、焼き鯖すしはふんわり丸い形が特長。

 

この丸い形は機械ではできないため、1本1本手作業で作らなければなりません。コストも時間もかかりますが、丸みと共に鯖とシャリの一体感が生まれ、固すぎず柔らかすぎずの絶妙なさじ加減の押し寿司が出来上がります。

 

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▲ラップでくるんで

 

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▲きゅっと押す

 

一度こうして形を整えた後に、ラップをはずして一口大に切り分け、さらにラップでくるんで出来上がりです。 

 

作りたてが買えるのは直売所だけ

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羽田空港をはじめ全国で食べられる焼き鯖すしですが、配送の関係上、店舗に焼き鯖すしが届くのはどうしても出来上がり翌日になります。作りたては福井県小浜市にある若廣の工場直売所でしか買えません。

 

羽田の焼き鯖すしと直売所の焼き鯖すし、両方食べたことがある筆者の個人的な感想ですが、羽田もおいしいけど直売所のおいしさはハンパない。鯖のしっとり感、ご飯のほろっと感、大葉の新鮮さ、感動レベルです。

 

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▲さばのぼりもいる

 

買ってきました。さあ食べよう。

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▲お箸と爪楊枝、醤油、おしぼりまで同梱されています。この至れり尽くせり感もうれしいんだよな〜

 

ひと口食べると鯖の脂の旨味が口内を満たし、ガリと大葉がほどよいアクセントとなって、何口食べても飽きないおいしさ。鯖の身が分厚く、食べ応えがあるのもうれしいところです。相変わらずおいしい!

 

取材中、関西から出張で訪れたという男性が「以前食べたこの味が忘れられなくて」とわざわざ直売所に買いに来られていました。直売所には距離を超えるおいしさが確かにあるようです。

 

今後は日本を飛び出し、海外でも焼き鯖すしの展開を進めていくのだそう。「鯖街道をシルクロードにのせようって気持ちで(笑)」と佐野さん。焼き鯖がシルクロードを華麗に泳ぎきる姿、楽しみにしています!

 

お店情報

株式会社若廣 工場直売所

住所:福井県小浜市川崎1-3-5
電話番号:0120-89-3844
営業時間:9:00〜15:00
定休日:なし

 

書いた人:木村桂子

木村桂子

福井県出身、大阪府在住。某エンタメ系企業にて雑誌編集に携わり、その後コピーライターを経てフリーランスに。大衆居酒屋から小洒落たカフェまで、うまいと聞けばどこへでも突入。ゆえに体重増量中。

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