何度だって確かめたい!「無限レシピ」は本当に無限にご飯が食べられるのか
「無限レシピ」をご存じだろうか。
「無限レシピ」とは、素材をちょちょいとアレンジすることで、いくらでもご飯が食べられる魔法のようなレシピのこと。
野菜を2、3分調理すると、あっという間においしい料理が完成するのだ。
「無限ピーマン」が大ブームになったことも記憶に新しい。
ちまたにすっかり定着した「無限レシピ」だが、本当に無限に食べられるのだろうかという記事を昨年書いたところ、大きな反響があった。
今回も、白米に合う「無限レシピ」をさらにいろいろと作ってみて、ご飯がどれだけ進むか試してみたいと思う。
撮影に協力いただいたのは西小山「ヤオヤプラス」。
クマみたいな見た目だが心優しい社長が切り盛りする新進気鋭の青果店である。
▲さあ何を作ろう。宣伝がてら無理やりヤオヤプラスの看板を入れ込んだ
「無限レシピ」をまとめた本には、おいしそうな料理が並んでいる。
これがあっという間に作れるのかと感心しながらページをパラパラ。
気になったページには付箋を貼っている。
使われているのは野菜を中心とした食材だ。
どれもおいしそうで悩ましい。
▲「俺ポテサラ好きなんだよね、これ作ってよ」
突然偉そうに指示をしてきたのは私の担当編集Oである。
仕事をくれる人には逆らわない。
それは私は会社を辞めてフリーランスになったときから心がけていることだ。
▲仕方ないので右の男の意向を最大限に反映した4品目を作ることにした
調理に取り掛かろう。
まずは必要な食材を用意する。
簡易キッチンに食材とまな板を並べる。
準備は終わった。
ふと後ろを見ると誰かが立っている。
▲クマだ、いや社長だ。彼はさっきからおなかが空いて不機嫌だ。動物園か
勝手気ままに食べたいものを指図するグルメな編集、おなかが空いて暴れる寸前のヤオヤプラスの社長。
彼らを満足させることはできるのか。
さあ楽しい「無限レシピ」の始まりだ。
無限レシピ① うまさ倍増の「青のりポテサラ」
材料
- じゃがいも 2個(300g)
- 青のり 小さじ2
- マヨネーズ 大さじ3
- 牛乳 大さじ1
- 塩胡椒 少々
「無限レシピ」=いくらでも食べられる。
だが、ポテサラはもともと大好評メニューじゃないかという声が聞こえてきそうだ。
しかし、この「無限レシピ」は通常のさらに上をいくうまさだという。
▲まずはじゃがいもの皮をむいてラップに包んでレンジで5分加熱する
▲あちちちち。想像以上に熱い
▲柔らかくなったじゃがいもにマヨネーズと青のり、塩胡椒をかけてつぶしながら混ぜる
▲完成である
早い。
地方から東京出てきたばかりの人は、駅と駅の近さに驚くというが、まさにそんな感じだ。新宿と新宿三丁目くらいの感覚だろうか。
「あっ」という間でにできてしまったから、この勢いで次の料理も作ってしまおう。
▲さっきより社長が近づいてきている。おなかが空いて我慢できないようだ
無限レシピ② やみつきになる「しめじコンビーフ」
材料
- しめじ 1パック
- コンビーフ 1缶
- 万能ネギ 2本
- しょうゆ 大さじ1
- みりん・酢 各小さじ1
次の「無限レシピ」はしめじを使った一品だ。
▲皿にしょうゆ、酢、みりんを合わせて、その上からコンビーフ入れる
「コンビーフを買ってきてくれ」と頼んだら、担当編集Oは本当にコンビーフを買ってきた。
こういう時に安いコンミート(馬肉)ではなくコンビーフを自腹で買って来るところはなかなか見所がある。もしかするとかなり出世するかもしれない。
▲コンビーフの上にしめじをのせてラップをかける
レンジで3分加熱する。しめじがシナっとしない場合はもう少し加熱する。
▲小口切りにしたネギを散らして完成である
これまたあっという間に完成してしまった。
駅間に再び例えるならば、五反田駅と大崎広小路駅に匹敵する。
乗ったと思ったらもう次の駅。
なんだ歩けばよかったと人は思うことだろう。
だが忘れてはいけない。
電車という文明の利器がそう錯覚させてしまったことを。
同じように「無限レシピ」を考えた人も電子レンジに足を向けて眠られない。
▲外にいるのが寒いらしく店内に戻った
無限レシピ③ 魅惑の「ニラしょうがナムル」
材料
- ニラ 1束
- おろし生姜・ごま油・鶏ガラスープの素 小さじ1
- 塩 ひとつまみ
- すりごま 大さじ1
ニラも「無限レシピ」で魅惑のひと皿にしてしまおう。
これは先ほどにも増して簡単。
▲ざく切りにしたニラと材料を全て入れてレンジで2分加熱
▲箸で混ぜたら出来上がりである。早い!!!
▲少し味見したことを後悔した。これはヤバイ。ご飯が欲しい
無限レシピ④ ご飯に合いすぎる「塩辛パクチー」
材料
- パクチー 1束
- 塩辛 大さじ2
- ごま油 小さじ2
- レモン汁 小さじ1
近頃評判の食材パクチーも「無限レシピ」に化ける。
▲こちらも材料を全て混ぜたら完成。パクチーは適度な大きさにカット
パクチーでご飯が食えるのか?
その答えはこのあとわかる。
こうして、「無限レシピ」が出そろった。
さあ実食だ。
食べてみよう
▲ふらふらと社長が近づいてきた
おなかが空いたあまりフラフラとしている。
目の前に並ぶ数々の「無限レシピ」と、鍋で炊いたばかりの白飯。
久しぶりの食事との再会に感激したあまり声が出ないようだ。
名作映画『南極物語』のラストを飾る感動の再会シーンに見えなくもない。
ただ、社長は犬を襲ったホッキョクグマに似ている。
▲空腹のあまり夢中でタロージロー……ではなく、ご飯にかぶりつく
興奮のあまり変な顔になってご飯に飛びかかる社長。
▲うめー。白米うめー
いや、「無限レシピ」食ってください。せっかく作ったんだから。
▲ニラから行きます
▲やっぱり目が怖い
「ニラの風味と、生姜がいいアクセントになって、もうこれはメシが止まらないっす」
無我夢中で飯をかき込む社長。
小田和正は「言葉にできない」と歌ったが、まさにそんな心境だろう。
それまで飢餓状態にあった彼が、無言で白飯をかき込む姿は愉快である。
あっけないほど簡単に完成した「無限レシピ」だが、こんなに喜んでもらえるとは。
▲その様子を見ていたら私も腹が減ってきた
「青のりポテサラは、香りがいいですね。酒のあてかと思いきや、ご飯にもあう。ポテトに青のり、これは大発見だ!」
ひとり興奮して大騒ぎする社長。
「まるでポテチのようだ!」という感想は確かに的を射ている。あの味が手軽に楽しめるのだ。
それもヘルシーに。
そうこうしているうちにこの匂いを嗅ぎつけたのか、向こうから坊主頭で福顔の男性が現れた。
▲「無限レシピ」のロケでおなじみのカメラマン・木村さんである
「無限レシピ」の撮影が行われるときは必ず声をかけられる名物カメラマンだ。
この日も空気を読んでマイ茶碗持参で登場してくれた。
カラーコーンで作られたレッドカーペットの横をさっそうと登場するその様子にみんなが笑顔になる。
西小山界隈の顔なじみの居酒屋さんでは、彼が入店すると慌てておにぎりを握り始めるといううわさもある。
彼ほどおにぎり……いや白米が似合う男がいるだろうか。
▲挨拶もそこそこにご飯をよそう木村さん
おいしそうな料理を前に笑顔になる二人だが、なぜか「炊き出し」感が漂うのは気のせいだろうか。
「おい、前の坊主、俺の分を残しておけよ」という社長のセリフが聞こえてきそうだ。
▲私が入ったことでさらに炊き出し感が増した
木村:しめじコンビーフは、コンビーフのこってりさと、しめじのうま味がマッチしてますね。お酢が入ってるのか〜。それが意外とさっぱりとした口当たりのポイントなんですね。お好みでもっとお酢を追加してもおいしそう。
ちゃんとしたコメントが聞けたのはここまで。
その後は「うまいうまい」「うまいうまい」しか言わずに黙々とご飯を食べ続ける男たち。
そしてもうひとりの刺客が現れた。
ネパール人は「無限レシピ」をどう感じたか
▲向こうから誰かが歩いてきた
「キンさーん、元気〜?」
近くのネパール料理店で働くプレム君だ。
来日してまだ数年だが、得意な日本語と料理の腕をいかして頑張っている。
彼の働くお店はこの界隈の評判で、私はそのお店の常連でもある。
私を見つけて人懐こい笑顔でプレムは近づいて来た。
▲だが、訳もわからないまま茶碗を持たされる
ランチ休憩中の彼に突然訪れたタダメシのチャンスである。
もっと喜んでくれるかと思いきや、この異様な空間に恐れをなしている。
プレム:ナニコレ?
私:無限レシピ
だめだ、話が余計にこんがらがってしまう。
私:これおいしいの。食べて!
一生懸命誠意を尽くして説明したのが通じたのか、プレムは慣れない箸を手に「無限レシピ」に手を伸ばした。
私は「これ食べて、これ。パクチー好きでしょ」と塩辛パクチーを指差した。
だがプレムは渋い顔をしている。
▲「コレナニ?」「塩辛」「ナニそれ」
パクチーは大好きだというプレムだが、それとあえられた見たことのない物体にビビっている。
その正体は塩辛だ。
茶色のドロドロした得体のしれない食材。
だが彼は勇気を出して口に運んだ。
▲「なんじゃこりゃ」と言っている
勝利である。
大勝利だ。
塩辛パクチーを口に入れた瞬間、塩辛のうま味と同時にパクチーの爽やかさが口いっぱいに広がるのだ。
ごま油がパクチーの青臭さをマイルドにして、レモン汁が塩辛の臭みを消している。
口中に広がるのはかつてない爽やかなうま味。
塩辛はようやく出合ってしまったのだ。
パクチーという黒船に。
プレムは次の「無限レシピ」に手を伸ばした、
▲その結果まさかの3点盛り
箸を手に喜々とした顔で目の前にある「無限レシピ」を見つめるプレム。
ようやく信用を得たらしく、箸を持つ手が止まらないのだ。
▲「カメラを見て」と言ったら固まってしまった
ただただ食べ続けるプレム。
「キンさんすごいよ、おいしいよ」と感激している様子だ。
「コレまでこんなにおいしい日本の食事には出合ったことないよ」というセリフを期待していたが、「たこ焼きが一番」と空気を読まずに一蹴された。
確かにたこ焼きはうまい。
あれも「無限レシピ」だ。
▲「いや〜おいしいよ〜キンさんすごいよー」
べた褒めされて悪い気分はしない。
ただ私は、「無限レシピ」という本に載っているレシピをそのまま試しただけなので、少しくすぐったい。
▲せっかくだから写真撮ろうよと言われた。私はスターになった気分である。プレムは帽子の向きが前後逆だったことに気づいたらしい
そんなこんなで、みんなを大満足させた「無限レシピ」。
タイトルの問いの答えは出た。
やはり「無限レシピ」は、ご飯が進む。
ご飯を食べそうな見た目の人は、やっぱりよく食べる。
さらに、海外の人にだって好評である。
野菜がもりもり食べられる「無限レシピ」は最高である。
皆様にもぜひ試していただきたい。
本当においしいから。
▲おいしー
ということで、ご飯がすすみまくる100以上のおかずレシピが載った『無限レシピ』(ワニブックス)、好評発売中である。
書いた人:キンマサタカ
編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)