40年間そばを食べ続けてきた男が語る「大衆そば」の素晴らしき世界とは【東京ソバット団】

東京ソバット団の立ち食いそばワンダー紀行。立ち食いそばファンの間で知らぬ者はいない坂崎仁紀氏に「大衆そば」について聞いてきました。もちろん、美味いそばをいただきながら。坂崎氏がおすすめする大衆そばの名店、浅草「翁そば」のカレーそばと冷やしたぬき、最高でした。

エリア浅草 (東京)

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「大衆そば」ってなんですか?

こんにちは、東京ソバット団のソバット本橋です! 今回からブランディングのために呼び名が変わりましたが、気にしないでください。

さて、実は最近『うまい! 大衆そばの本』(スタンダーズプレス)という本が出ましてね。これが食としてのそばをいろいろな角度から考察した、そば好きにはたまらない本なんですよ。

 

それでもって著者の坂崎仁紀さんは立ち食いそばファンの間では有名人でして、大先輩であり知り合いだったりするんですが(この記事はPR記事ではありません)、今回の本は立ち食いそばではなくて「大衆そば」についてのもの。

耳慣れない言葉に「大衆そば」ってなんなのよと、あれこれ問い詰めたんですが、これがなかなかおもしろい話が聞けたんで、ぜひ紹介したいなと。もちろん、坂崎さんがおすすめする、最高な「大衆そば」のお店も紹介します。

今回は、立ち食いそばファンのみならず、そば好きなら見逃せない内容になってますよ。

 

というわけで坂崎さんと東京浅草にやってきました。そばの名店がひしめく街としても、有名ですね。

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昭和34年生まれ、58歳の坂崎さんは、なんと40年のそば歴を誇るツワモノ。その坂崎さんに大衆そばについて話をうかがうべく、浅草の「翁そば」にやってまいりました。ここでそばを食べながら、あれこれ話をうかがおうという寸法なのです。

 

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「翁そば」は浅草六区の路地にある、大正3年(1914年)創業の老舗。演芸場が近いとあって地元の方々はもとより、落語家や漫才師のみなさんからも愛されてきた、名店です。

 

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店内はテーブル3つに小上がり卓2つ。もう、なんというか、「ザ・そば屋さん」です。

これが落ち着くんだよな~。

さてさて、さっそく話を聞きましょうか。まずはですね、「大衆そば」って、聞き慣れない言葉なんですが、そもそもどんなそばのことを指すんでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180705201214j:plain坂崎:そばってそもそもが大衆の食べものだったわけですよ。同じく江戸時代がルーツの天ぷらも寿司もそうですが、最初は屋台で売られていた、庶民的な食べものだったんです。でもそれが長く続くうちにいろいろな決まりごとができて、格式が高くなって、高級化していった。藪そばとかや更科とかの老舗系や手打ちの本格系ですよね。一方で高級化せず、おいしいそばを安く提供し続けてきたのが、「大衆そば」だと考えます。

 

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ここ「翁そば」も、もりが450円で一番高い鍋焼きうどんでも750円。本格そばだともりで800円ぐらいするお店はざらにありますから、確かにここは「大衆そば」と言えますね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180705201214j:plain坂崎:格式張らず、手軽に食べられる。家庭料理の延長のようなそばは、まるごと「大衆そば」なんですよ。街場のそば店もそうだし、チェーン店を含む立ち食いそばも、「大衆そば」ということになるんです。そういう「大衆そば」が語られることは。これまであまりなかったんで、歴史的側面からちゃんと紹介したいと考えて作った本なんですよ。

 

一部のそば店が高級化していく一方、格式張らず手軽に食べられる、そば本来の姿を残す「大衆そば」もまた、しっかりとあり続けてきました。ただ、老舗店や高級店はひんぱんにメディアに取り上げられる一方、それら街場のそば店や立ち食いそばがが話題になることは、ほとんどなかった。

まあ、最近は立ち食いそばはたまに話題になることがありますが、街場のそばはほぼ皆無でしょう。坂崎さんの本は、そんな「大衆そば」にスポットを当てようという試みなのです。

 

大衆的な値段でどれだけおいしいものを作れるか

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f:id:Meshi2_IB:20180705201214j:plain坂崎:たとえば大塚の「みとう庵」も「大衆そば」です。「きざみ鴨汁せいろ」なんていう本格的なそばが、400円で食べられる。大衆的な値段でどれだけおいしいものを作れるか、という工夫が「大衆そば」にはあるんですよ。もちろん東京だけじゃなくて、地方にもその土地に根ざした、大衆的なそば店がたくさんあります。とにかく老舗系や本格系に行かなくても、おいしいそばのお店はたくさんあるということを、知ってほしいんですよ。

 

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さて、話に熱が入ってきましたが、注文したそばがやってきたんで、熱いうちにいただきましょうか。まずは私が頼んだカレー南蛮(650円)。

 

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なんでしょうか、このツユの表面張力。こんなの出てきたら、うれしいに決まっているじゃないですか!

 

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たっぷりのカレーあんはダシがききつつも、ほのかにスパイシー。これが太麺に絡みまくって、ワシワシ食べる感じ。そばで良く使われる、「たぐる」ってのとは違うんですよ。いいですね~。

 

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そして坂崎さんが頼んだのが、冷やしたぬき(500円)。

 

これもいい顔していますね~。質実剛健なおかつ端正。ひと口いただきましたが、きっちり締められたそばのワイルドな感じがたまらんでした。

ツユはカツオがききつつ、かえしとのバランスもいい、完成度の高いタイプ。それで食べるそばが、ごわめな太麺。ツユとそばの混然一体となったうまさがなんとも良くて、麺量がかなりあるのに「翁そば」のそばはどれもグイグイ食べられちゃうんですよ。「大衆そば」、いいですね~。

 

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「大衆そば」の話もせず、黙々と食べ続ける二人でした。

 

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さらに私が驚いたことがひとつ。見てくださいよ、カレー南蛮のそばを食べ終わったタイミングで、カレーあんがほとんど残らなかったんですよ。(右上の丼)

 

あふれんばかりに入っていたカレーあんでしたが、あの量って実はちゃんと計算されたものだったんです。すごい、感服です。

これも「大衆そば」の特徴である、工夫の1つなんでしょう。

 

高級店と安いチェーン店の二極化が進んでいる

いやはや、「大衆そば」の素晴らしさを十分に味わったわけですが、心配なことが1つ。それはこのような個人経営の大衆そば店が、今後、減っていってしまうだろうということ。

現在ある「大衆そば」の多くは戦後、高度経済成長期の1960年代に始まったお店が多く、店主の高齢化が進んでいるのです。「翁そば」は代替わりがうまくいっていますが、後継者の問題でお店を閉めてしまうパターンも多く……。また、仕入れや経営ノウハウを共有できるチェーン系の立ち食いそば店が強力なライバルとしてあり、その勢力は拡大する一方。

「大衆そば」にとっては、なんとも厳しい将来が予想されるのですが……。

 

f:id:Meshi2_IB:20180705201214j:plain坂崎:今は高級店と安いチェーン店の二極化が進んでますからね。チェーン店もいいんですけど、やっぱり個人店に頑張ってもらわないと面白くないですよ。ただ、正面から挑んでもかなわないだろうから、チェーンにはできない発想が必要になるでしょう。カレー店も最近は小規模な個人経営で面白いお店が増えているから、それを参考にするのもいいと思いますよ。

 

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たしかに増えてますね。「間借りカレー」なんてスタイルもありますし。

 

f:id:Meshi2_IB:20180705201214j:plain坂崎:今までのやり方とは違う、新しい方向性で若い人たちが「大衆そば」のお店を始めてくれたら、うれしいですね。そういうお店が新しい老舗になってくれればいいんです。ラーメンとか他にもライバルは多いと思いますけど、100年後もきっとそばを食べているはずですから。

 

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最後は「大衆そば」の将来について語ってしまいましたが、その魅力が伝わったでしょうか。これまであまりスポットの当たらなかった「大衆そば」ですが、安くておいしいお店は、実はたくさんあるんです。

『うまい! 大衆そばの本』には、そんなお店が紹介されているので、これを参考にぜひ、大衆そばの世界に足を踏み入れてみてください。

 

うまい! 大衆そばの本 (名店めぐりと個性派メニュー)

うまい! 大衆そばの本 (名店めぐりと個性派メニュー)

 

 

お店情報

翁そば

住所:東京都台東区浅草2-5-3
電話番号:03-3841-4641
営業時間:月曜日~土曜日11:45~15:00 16:30~19:30
定休日:日曜日

www.hotpepper.jp

 

書いた人:本橋隆司

本橋隆司

フリーランスの編集、ライターとしてウェブや雑誌などで仕事中。近著は『東京立ち食いそばジャーニー』『立ち食いそば大図鑑』(ともにスタンダーズプレス)そばであればだいたい好き。


撮った人:安藤青太

安藤青太

カメラマン、書籍制作。グラビア系から食べ物系まで何でも撮るカメラマン。本橋とは『立ち食いそば図鑑 東京編』『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作。その他『檀蜜DVD色情遊戯2』『相撲部屋の幸せな猫たち』『東京の、すごい旅館』など。好きな立ち食いそばはコロッケそば。

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