
※この記事は2020年3月頃に取材いたしました。コロナウイルスの対策に関しては2020年の7月頃に追加で取材しています
やたら気前のいい新規オープン店を発見
個人経営の新規オープン店というのが少ない立ち食いそばだが、2019年の8月、なかなか面白い店が、東武練馬にオープンした。
「立喰いそば源」という店なのだが、まずはとにかく気前がいい。

▲海鮮かき揚げそば(380円)
海鮮かき揚げそばのかき揚げには、エビイカがごろっと入っているうえ、直径10センチ以上はある巨大なもの。
別皿で提供されるが、それも納得。
正直、そばの上に乗せたら、大きすぎて食べにくいだろう。それほどのサイズなのだ。

しかも注文を受けてからの「揚げ」なので、重くなくサックリしていてうまい。
ツユは甘めの作りだから、このサイズのかき揚げでも食べ飽きることがない。
ツユが弱く感じたら、無料トッピングのまぐろ節を入れると、ツユにグッと力強さが出てくる。

冷凍麺使用のそばは喉越し良く、スルスルと食べられ心地いい。
これは冷やしもおすすめだ。

そして、さらに驚くのはこれが380円で食べられるということだ。

「源」はかけが280円だから、この海鮮かき揚げは100円ということか?
それはあまりに頑張りすぎなのではないかと、いらぬ心配をしてしまう……。

また、源にはそば店としては珍しいテラス席がある。
風通しが良いうえに、硬質プラスチックで囲まれているため見通しも良くて、なかなか気持ちいい。
目立たなすぎる立地は、まさに隠れ家

さらに、ロケーションも面白い。
東武東上線東武練馬駅の南口を出ると、線路沿いに上板橋方面へ伸びる狭い通りに飲食店や商店がポツポツ並んでいるのだが、「源」があるのはその通りの路地をさらに少し入ったところ。
駅前や駅ナカにあることが多い立ち食いそば店だが、ここの立地はなんとも立ち食いそば店らしくなく、どこか隠れ家風なのだ。

客観的に見ると、なんだか引っかかりどころだらけの「源」。
なぜこのような店を始めたのか聞いてみたところ、これもなかなか興味深いものだった。
立ち食いそば愛あふれる兄弟が経営していた
実は「源」は兄の佐藤博幸さんと、弟の佐藤知英さんの兄弟による経営。
店に立つ弟の知英さんは、寿司や仕出し料理の店で働いて和食の技術を身につけ、立ち食いそば店を自ら始めるため、そばチェーンの「文殊」で働き始めた。
そして「文殊」大山店、川越店で5年ほど働いた後に退社し、「源」を始めたのだ。
そう言われてみれば、ツユの感じが少し「文殊」と似ている。

一方の兄、博幸さんの本業は、高級贈答品などを扱う会社の経営。
ここまで聞くと、弟の夢を叶えるために兄が力を貸したのかと思ってしまうのだが、それは正しくない。
もともと博幸さんは大の立ち食いそば好きで、何十年もあちこちの店を食べ歩いてきた立ち食いそばマニア。
「立ち食いそば店を自分でやりたい」というのは、実は博幸さんの夢で、その兄の夢を実現するべく、弟の知英さんが力を貸したのだ。
なんだか、漫画に出てきそうな兄弟愛、立ち食いそば愛である。

そんな佐藤兄弟の思いが詰まっているからだろうか、なんだか「源」は居心地がいい。
2杯目はとろろそば(380円)をテラス席でいただいたのだが、なんだか食べているとホッとした気分になってくる。
取材した日はあいにく雨だったのだが、それでもだ。

それにしても、ただのとろろそばだと思っていたら、別盛りで山芋の千切りもついてきた!

混ぜて食べればシャキシャキした食感が良く、うれしいサービス。なんとも「源」らしい気前の良さだ。

サイドのいなり(1個70円)もごはんに刻みあげ、紅しょうが、ごまが混ぜ込まれている。
気前がいいだけではない。しっかり手間がかかっているのだ。
テラスで食べながら左に目を向けると、通りを歩く人が目に入り、その人がチラリとこちらを見る。
隠れ家風な立地でありながら、実は通りを歩く地元の人からは意外に店が認知されているようだ。
それもあって、営業時間こそ長くはないものの、すでに地元の常連客がしっかりついているのだとか。

▲かけそば/かけうどんなら280円という価格設定
最後にずいぶんと安い価格設定について聞いたところ、「自前物件だからできること」という答えが博幸さんから返ってきた。
貸しテナントではなく、自分で土地を購入し、店を作ったのだ。
なんとも熱い立ち食いそば愛に、聞いていてうれしくなってしまった。

取材したのは3月だが、7月現在、店はアルコール消毒液を用意したりサーキュレーターで換気するなど、路地で元気に営業している。客足は少し減ったもの、それでも地元のお客さんは、通ってくれているそうだ。

まだあまり知られていないが、東武練馬には安くてうまいB級グルメの店がたくさんある。
そんな土地でも、「源」はきっと長く愛される店になる。
立ち食いそばファンのひいき目ではなく、そう、強く思った。
お店情報
立喰そば源
住所:東京都板橋区徳丸2-1-8
書いた人:本橋隆司

フリーランスの編集、ライターとしてウェブや雑誌などで仕事中。近著は『東京立ち食いそばジャーニー』『立ち食いそば大図鑑』(ともにスタンダーズプレス)そばであればだいたい好き。
- サイト:立ち食いそば図鑑の中の人のサイト
- Facebook:東京ソバット団
撮った人:安藤青太

カメラマン、書籍制作。グラビア系から食べ物系まで何でも撮るカメラマン。本橋とは『立ち食いそば図鑑 東京編』『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作。その他『檀蜜DVD色情遊戯2』『相撲部屋の幸せな猫たち』『東京の、すごい旅館』など。好きな立ち食いそばはコロッケそば。


