日本のミリメシってどんなの?やっぱり無骨&栄養満点なの?「自衛隊のごはん」シリーズ著者に聞いてみた

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みなさん、日々、日本の治安を守る自衛隊についてどんなイメージを持っていますか?ご存じのとおり自衛隊は、陸海空それぞれの組織が独立し、日本各地に基地や駐屯地を持っています。

むろん、関係者以外はその敷地内には気軽に立ち入ることはできません。よって、自衛官たちの食事内容や食事情も謎に包まれています。

自衛隊のごはんというと、「メニュー名のみが書かれた銀色のカンヅメ」「トレーニングに適したタンパク質中心のアスリート的メニュー」といった、いわゆるミリメシっぽいものを想像する方も多いはず。国を守るために日夜、厳しい訓練に耐える隊員たちは、食事もストイックな内容なのではないか? と想像の域を超えません。

 

そんな中、自衛隊の食事について書かれた書籍を発見。電子書籍のみでリリースされている「自衛隊のごはん」シリーズ(著者:廣川ヒロト)がソレです。

自衛隊のごはん 陸海空統合版

自衛隊のごはん 陸海空統合版

  • 作者: 廣川ヒロト
  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Kindle版

ご覧のとおり陸海空と各自衛隊がひと通りシリーズ化されている!!

自衛隊のごはん 海上自衛隊 呉・佐世保編

自衛隊のごはん 海上自衛隊 呉・佐世保編

  • 作者: 廣川ヒロト
  • 発売日: 2014/10/18
  • メディア: Kindle版

 

気になる内容は隊員たちが利用する食堂にて、いっしょになって実食するレポートが主な内容となっています。

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▲「自衛隊のごはん 陸海空統合編」より

 

またその他にも、そもそも入ることができない駐屯地や、艦艇内、さらには潜水艦の中、といった風景までもが紹介されており、料理だけでなく施設内の貴重な様子も楽しむことができます。

 

これはミリタリーファンにとってもうれしいポイント。

 

駐屯地の規模によっては、数千人の食事を支えている食堂もあり、日本の治安や安全はこうした食によって支えられているといっても過言ではないでしょう。いや、大げさじゃなく。

ところで一連のシリーズを眺めていて気になったのが、いわゆる出版社からの発売ではなく「著者が個人として、電子書籍のみ発行している」ということ。取材の申請許可が大変そうなことは想像に難くないのですが、よほどの交渉力と取材力、さらに使命感を持ち合わせていなければここまでできないのではないでしょうか。

ということで、福岡在住の著者・廣川ヒロト氏に取材を申し込むと、快く引き受けてくださいました。

 

ミリメシは意外に家庭的!?

── 廣川さんは、元自衛官だとお聞きしていますが。

 

「はい。平成4年5月に入隊して、第2施設群第367施設中隊(当時の名称は第321施設中隊)という部署に所属していました。福岡県の飯塚市にある駐屯地に配属されて、4年ほど勤務し退職しました。その後、調理師やウェブ制作をするフリーランスとして活動し、現在は文筆関係とデザイン系の仕事をしております。処女作『自衛隊のごはん海上自衛隊 佐世保・編』からはすでに3年が経過しており、最新作(『女性自衛官さくらのミリメシ日記』第1巻)は漫画ですね」

 

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▲こちらが著者の廣川ヒロト氏

 

── 電子書籍を出すキッカケは?

 

「自衛隊という場所は、入ることができなかったり公開されていないことがあったり、一般の人が知らないところが多くあります。自分が経験してきたことと照らし合わせて、”食事”にフォーカスして紹介したいと思いました。隊員食堂も公開されておりませんので。ただ実際は栄養士が献立を考えていて学校の給食のような感じです。それぞれの食堂で飽きさせない工夫をしていることが感じられますね。そういうところが表現できれば、と思いました」

 

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▲元自衛官とはいえ、個人でアポをとるバイタリティがスゴい

 

── アポイントをとるのも大変だと思うのですが。

 

「最初に陸上自衛隊に取材を申し込んだときは、何度か断られました。実績がなかったので。めげずにいろんなところに当たった結果、佐賀の目達原駐屯地(『ほんとうの自衛隊のごはん 目達原駐屯地編』に収録)の広報さんが協力してくれまして。駐屯地司令や、上級部隊にかけあってくれまして、ようやく取材が実現しました」

 

──こちら(写真下)が、目達原駐屯地での食事ですね。

 

「そうですね。目達原駐屯地で食べさせていただいたのは、肉豆腐を中心に、イカ団子汁、梅じゃこの炊き込みご飯などで、個人的に『あたり』だったと思います」

 

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▲これが陸上自衛隊の目達原(めたばる)駐屯地のメニュー。ところてんにわらび餅といったデザートも


── コーヒー牛乳とかもついているし、品数も多くて、なんだか家庭的でホッとするメニューですね。

 

毎週金曜がカレーの理由は……

── 最初の佐賀の駐屯地ですと、お住まいの福岡に比較的近い場所ですよね。それ以外の基地だと、どんな感じでしたか?


「2度目は、航空自衛隊の芦屋基地(『自衛隊のごはん 航空自衛隊 芦屋基地編 ほんとうの自衛隊のごはん』に収録)だったんですが、このときはすでに目達原駐屯地編を刊行したあとで、取材許可はスムーズにおりました。実績があるとないとでは、やはり違うなと感じました。芦屋基地(航空自衛隊では“基地”という)では、朝昼晩の3食をいただきました。航空自衛隊はハンバーガーなどの洋食も出るようですが、意外と和食系の定食スタイルも豊富に用意されている、といった印象です」

 

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▲こちらが芦屋基地の朝ごはん。おかずは、レバー煮に胡麻チキンサラダ、ポテトベーコン。朝食らしく、納豆や卵もついている

 

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▲同じく、芦屋基地の昼ごはん。おかずはつぼ鯛のみりん焼きがメイン。牛すじと野菜の煮込みなど。きんかんもつく


── シリーズが進むごとにパワーアップしていってますよね。

 

「そうですね。3作目の海上自衛隊(『自衛隊のごはん 海上自衛隊 ・佐世保編』に収録)のときは、断られることはいっさいなく、護衛艦こんごうや、潜水艦いそしおの内部で食事をいただくことができました」

 

── 海自、となるとやはりカレーを?

 

「そうですね。海上自衛隊では、毎週金曜にカレーを食べることが旧海軍のころから続いている伝統となっています。カレーのおいしさもそうですが、福神漬けやらっきょうといった付け合せメニューとの組み合わせもまた特徴的なんです」

 

── 週末がカレー曜日、と。

 

「それもちゃんとした意味があって、ひとつは洋上での曜日感覚を忘れないように、もうひとつは前日から準備することができ、調理員の休み時間を確保できるということがあります」

 

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▲護衛艦こんごうでのカレー。やはり金曜はカレーが定説となっているとのこと。アスパラの豚肉巻きフライやグレープフルーツも確認できる

 

── なるほど!

 

「これに加えて、潜水艦いそしおの食堂で食事ができたのは貴重な経験でした。ここで食べた“鶏肉の揚げ漬け”は、本当おいしかったですね!」

 

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▲潜水艦いそしおで食べた鶏肉の揚げ漬けを中心としたメニュー。ワカメスープや明太子ビーフン、オクラ納豆といった副菜も豊富

 

── 潜水艦での食事なんて、すごく貴重な体験ですよね。

 

「潜水艦は長い期間、海に潜ることもあって、隊員一人あたりの予算も大きいようです。海上自衛隊では、1日あたり陸上部隊で870円、艦艇乗組員1,025円、潜水艦乗組員1,073円と、それぞれの隊や任務内容によって違ってきます」(平成26年4月1日現在の情報です)

 

缶詰のミリメシも存在する

── 自衛隊などの特殊な機関だと、そういった食事も何か特別なんじゃないかと想像してしまいますが、意外と普通なんですね。そこが驚きというか。

 

「そうですね、まさにそうした疑問から本当のことを紹介できればと思い、各地に取材依頼を出しました。陸上・海上・航空自衛隊、それぞれに特色があって、さらに基地ごとでもカラーが違いますので、そうしたニュアンスも著書のなかで感じ取ってもらえるかと思います。先ほども言いましたが栄養士さんが栄養のバランス献立を考えています。デザートもついたりしますから、とてもじゃないですが紹介しきれません」

 

── 著作内で、施設の中の写真がたくさん出てきますが、これだけでも貴重な風景ですよね?

 

「やはり特別な場所なので、できるだけそういう写真も多く紹介したいなと。自衛隊側のチェックに関しては、ちょっと踏み込んでみたときに、各所によって差がでてくることがありましたね。取材してみていちばん感じたのは、書く側の視点と、紹介される側の視点にはやはり大きなギャップが存在するということでしょうか」


── 取材箇所によってメニューも味付けも違うと思いますが、実際はどうでしたか?


「陸海空それぞれ取材しましたが、やはりどこも一度に1000人規模が利用する食堂なので、比較的薄味であることが多かったと記憶しています。しかし卓上の調味料は充実していますね。ふりかけとか。基本的に、どの基地の食堂でも単身者が利用していて、外から通ってくる隊員は各自弁当を持参します」


── 素人考えだと、いかにもミリメシ的な「ラベルがついていない無骨な銀色の缶詰」というイメージが強かったのですが、そういう食料はないのですか?

 

「つい最近までは作られていたのでまだ存在はするんでしょうが、今後はなくなるでしょうね。そういう缶詰って、訓練や災害派遣の時に食べたりするんです。ただ、銀色の缶ではなく、通常は自衛隊カラーであるオリーブドラブ色(緑色)が一般的ですね」

 

── 緑色の缶詰! ミリメシっぽいですねー。

 

「読者の中には、そういうイメージを持たれている方がけっこういらっしゃって、普通の食事を食べられていてビックリしましたっていう声は多かったです(笑)。ただ、缶詰じゃない、レトルトパウチ包装(戦闘糧食Ⅱ型)タイプもありまして、そっちはわりとおいしいんですけどね」

 

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▲著書内では缶詰などについての記述も

 

── 陸海空、ひととおり取材されていますが、印象に残った取材は?

 

「佐世保やのような海上自衛隊は、取材を通じて伝統のようなものを感じましたね。そもそも航空自衛隊は基地、陸上自衛隊は駐屯地、海上自衛隊は艦艇(船)といったように、仕事場自体に大きな違いがあるんですが、海自では艦艇それぞれに本格的な食堂が備わっているんです」

 

── また違う基地の「自衛隊ごはん」が読んでみたくなりました。今後はどんな作品を手がける予定でしょうか。

 

「わかりやすくマンガを挟み込んでみるとか、やってみたいですね。個人的には、これまで九州方面の取材が多かったので、北海道の基地(駐屯地)を取材してみたいです。昭和の時代は、東西冷戦のさなかだったこともあってか、北海道は重要な拠点でしたし。元自衛隊員としては、北海道に24時間以内に着任する訓練があったりして、かの地には特別な思いがあります。それと、一度米軍に問い合わせてみたのですが、断られましたね。自分で英語ができればもっと手応えも違うと思うのですが……」

 

── なるほど、とても楽しみです。さらなるパワーアップした「自衛隊ごはん」を期待しています。今回はどうもありがとうございました!

 

取材協力:廣川ヒロト 公式サイト

※この記事は2017年9月の情報です。

 

書いた人:赤坂太一

赤坂太一

北海道生まれで福岡市在住のフリーライター。自動車・バイク・飛行機などのりもの系で取材や撮影することが多い。福岡移住から5年が経過し、福岡グルメの奥深さに体重が増え続けているのが悩み。

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