アメリカ人は平気でラーメンをハックする【理系メシ】
アメリカンな食べ物と言えば、ピザ! バーガー! そしてドーナツ! それを全部インスタントラーメンで作ってしまうのだ。本当だ。
拙著『ラーメンを科学する おいしい「麺」「だし」「うまみ」の正体』(カンゼン)のインスタントラーメンの項目を書く時に、アメリカのインスタントラーメン事情を調べた。カップヌードルが誕生した理由がアメリカにあったからだ。アメリカには丼がない。そこでアメリカ人はマグカップにチキンラーメンを割って、お湯を入れて食べていたのだ。
それを見た安藤百福が作ったのがカップヌードル。だからカップヌードルは縦長の容器なのだ。あれはマグカップなのだ。アメリカ人の発想は日本人と違う。それがラーメンに表れている例は他にないかと探したら、出てきたのが「ラーメンバーガー」。「ラーメンピザ」に「ラーメンドーナツ」。
目を疑ったが、本当に作って食べていた。
アメリカ人の考えるイノベーションとは何か? を「ラーメンバーガー」「ラーメンピザ」「ラーメンドーナツ」を作りながら考えたい。
まずは「ラーメンバーガー」から。
「ラーメンバーガー」を作ってみた
材料は1個分で、
- インスタントラーメン 1袋
- 卵 1個
- ハンバーグ 1個
- 照り焼きソース 適量
- マヨネーズ 適量
以上。
シンプルである。
とにかく簡単。中学生でも作れることを証明するため、うちの子どもに作らせる。はい、お湯にインスタントラーメンの麺を入れて。スープは使わない。
「ういーす」
袋に書いてある規定の時間だけゆでたら、麺をざるにあげて、流水で洗う。
「手で?」
手で。
「あっち! あっちー」
お前はバカか。まず水かけて冷やしながら、洗いなさいよ。
「ギガ熱し」
知らんわ。
ボウルに移し、卵を割り入れて、麺とよくからめる。
ラップを下に敷いた円形の器に麺を入れる。
「こんなぐらい?」
多すぎ。2つに分けて。麺がバーガーのバンズになるからな。
上から重石(缶詰などで良い)を乗せて、冷蔵庫へ。30分放置する。
冷えたところで取り出し、ラップごと引き抜けば、ほら。
「すげえ丸い」
油(分量外)を少々敷いたフライパンで焼く……って、油を入れ過ぎ! 焼くんだぜ? 揚げてどうするんだよ。
弱火でじっくり両面を焼いて、焼けたら取り出して、次はハンバーグ。
ひき肉から作るのは面倒だから、スーパーの肉売り場で買ったハンバーグを使う。ひき肉から作りたい人は作ってください。そして両面が焼けたら、市販のテリヤキソースをからめる。テリヤキソースも作りたい人は、しょうゆと砂糖とみりんを混ぜて作ればよい。ソースは多い方がおいしい。
ラーメンのバンズの上にハンバーグをのせる。
マヨネーズをかけたら、上からもバンズ。
完成。簡単だったな。
では試食。
「うめえ! これ、うめえ! うん、卵のとこがおいしい。卵が効いてる」
ホントだ、卵がうまいな。ハンバーガーではないが、これはこれでおいしい食べ物だ。チーズを足したり、もっと具を増やせば、リッチにおいしくなりそうだ。
考えてみれば、ラーメンの麺だって小麦粉、パンも小麦粉。細く切ってゆでるか、塊で焼くかの違いだけである。やるな、アメリカン。
「ラーメンピザ」も作ってみた
続いてラーメンピザだ。
材料は1枚分で、
- インスタントラーメン 1袋
- 市販のトマトソース 適量
- チーズ 適量
- サラミかハム 適量
ラーメンの麺を2つに割る。インスタントラーメンの麺は薄い麺が2枚重なっているんだよ。
「こんなの、割れなくね?」
そういう時は包丁を入れて、少し押し込めば割れるだろ? はい、2枚になった。ラーメン1袋分で「ラーメンピザ」は2枚作れるわけだ。
トマトソースかピザソースをたっぷり塗る。
上からチーズ。
サラミをのせる。
オーブントースターで焼くことおよそ10分。
お、うまそうじゃないか。作るのも簡単だし。さあ食べてみて。
「これさあ、ラーメンじゃなくて良くね?」
マズい?
「おいしいんだよ? おいしいんだけど、ラーメンにチーズとサラミ乗っけただけというか、意味なくない?」
どれ……うん、そのとおりだな。学生が食べるものがなくて、インスタントラーメンにも飽きちゃって、思いつきで作った味だな。まあでも、飲み会でもう1品欲しい時にいいんじゃないか?
「飲み会はよくわかんないけど、そういうものって思えばいいかも」
私はこれはあり。今度、誰かに食べさせよう。
「ラーメンドーナツ」に挑戦してみた
さて、問題の「ラーメンドーナツ」、通称ラムナッツだ。嫌な予感しかしないぞ。
材料は2~3個分で、
- インスタントラーメン 2袋
- オルチャータ 500㏄
- 卵 1個
- 粉砂糖 適量
- チョコレートソース 適量
- ホイップクリーム 適量
オルチャータは甘い豆乳とココナツミルクの中間ような飲み物で、スペインでは普通に飲むそうだ。輸入食品雑貨でもめったに扱っていない(カルディには一部ある)ので、豆乳やココナツミルクを水で薄めて、砂糖を入れて代用すればいい。
オルチャータを沸騰させて、
麺を煮る。
ボウルに入れて冷まし、卵を入れてよくあえる。
平たい器に伸ばして入れて、冷蔵庫で3時間冷やす。
ひっくり返して器から出し、丸い容器や空き缶を使って型抜き。
丸く型抜きしたが、ドーナツの形にこだわらなければ四角く切り分けてもいい。その方が無駄が出ない。
油でこんがりと揚げる。
中火→弱火で5~6分、泡が出なくなり、油の中で麺が浮き上がったら完成。
粉砂糖を振り、
チョコクリームとホイップクリームをのせて、はい召し上がれ。
どう?
「う、うまい!」
マジで?
「う、う、ううーん」
どうした?
「食べられなくないマズさ」
なんだそりゃ。
「断面見るとダメ、それに口の中で麺がほどけてイヤだ」
あ~。
「ダメだ、ギブ! 麺はしょっぱい方がいいよね」
どれどれ……これは!
芸術的に完成されたマズさだぜ。ラムナッツって名前まで付けて、マズさが心に染みる。なぜだ、アメリカン? いやがらせか?
アメリカ人のチャレンジ精神は素晴らしい。とりあえずやってみるという精神から学ぶものはある。あるが、しかしながら、考えりゃわかることをやらなきゃわからないってどうなのか。日本人は、欧米人より発明の才能がないと言われる。猿まねの国民だと。そんなことは全然ないのだが、そう思われてしまうのは、ラーメンで寿司を作るとかラーメンを天ぷらにすることに、日本人がものすごく抵抗するからじゃなかろうか?
世界で通用する発明は「ラーメンピザ」であって、無化調・自家製麺・低温チャーシューのこだわりのしょう油ラーメンではない。この温度差がグローバル化の本質を表している気がする。新しいから、革新的だからとラムナッツはニュースにも取り上げられた。
しかし、だ。イノベーションが何かはわからないが、少なくともラムナッツではないことはたしかだ。だまされるなよ。
今日の料理
ラーメンバーガー
http://www.notquitenigella.com/2013/11/04/ramen-burger-recipe/
ラーメンピザ
https://www.facebook.com/buzzfeedtasty/videos/1627010727551570/
ラーメンドーナツ
https://www.youtube.com/watch?v=VZXLG8bXjEY
書いた人:川口友万
サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。
- サイト:サイエンスニュース
- サイト:科学実験酒場 友の会
- ブログ:高実茉衣のこあく茉衣にゃん茉衣ペースブログ