少年時代にマンガ家を夢見た男が選んだ道、それは「お客さんの似顔絵を描ける」名物店長だった【大阪】

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店長が似顔絵を描いてくれる居酒屋さん

こんにちは。ライターの吉村智樹です。

 

2018年の夏は、各地で記録を更新するほどの酷暑となりました。そして、猛獣のような暑さが列島を駆け抜けた次に迫りくるのが、夏バテ。全身がだるく、いっそ「記念に描き残しておきたい」ほど顔色もすぐれない。

 

夏バテに打ち克つパワーチャージにおすすめなのが「豚肉」。豚肉には、疲労回復の効果が大きいとされるビタミンB1が豊富に含まれています。

 

また、豚肉は和洋中、焼いてよし煮てよし蒸してよし揚げてよしの万能選手。ほぼどんな料理にも合いますし、お高くないのがいいですよね。

 

そんな、食べて元気が出る豚肉を使った料理を、お安く、さまざまなバリエーションで楽しませてくれるお店が、大阪福島区にある「とん彩や」。豚肉の串ものや鍋が評判の居酒屋さんです。

 

さらにこの「とん彩や」には、大きな特徴が。それは「店長さんが似顔絵を描いてくれる」ところ。なかなかないですよ、そんな居酒屋さん。豚肉で取り戻した活力がみなぎる表情を、イラストで描き残しておけるなんて、インスタ映えよりぜいたくじゃないですか?

 

なんと午前中からオープン。朝飲み&朝ブタOK!

お店の場所はJR大阪環状線「福島」駅の南側からトントンと徒歩わずか。下町風情が豊かな、飲食店がひしめく路地の角にあります。

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▲JR大阪環状線「福島」駅を出て南へすぐ。ひと駅隣りが大都心「大阪」とは思えない下町感

 

かわいいブタの絵が描かれた巨大なちょうちん型看板が目印。道に迷うことは、まずありません。

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▲大きなちょうちんを模した看板、愛らしいブタのイラストが目印

 

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▲足元にも豚肉専門店らしいディスプレーが

 

居酒屋さんでありながら、オープン時間は……ブヒ! なんと午前10時30分から! 

「朝飲みOK」「朝ブタOK」な、うれしいお店です。

 

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正しい店名は「とん彩や 福島店」。今年でオープン11年目を迎えます。店名だけ聞くと居酒屋チェーンのようですが、お店は福島」駅前のここ、ただ一軒のみ。「いつか全国展開したい」という夢をいだき、あえて一号店だと表明しているのだそう。

 

つまみのみならず、午前10時30分から午後3時までの「ランチタイム」には、ボリュームあるとんかつや生姜焼きなど、豚肉を使ったさまざまな定食も提供しています。

しかも、ごはんおかわり自由。アーンド、カレーをごはんにかけ放題! とんかつ定食とカツカレーが一度に味わえるのです。ベイブ体型の僕には、もう「天国」としか言いようがありません。

 

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▲「ジャンボとんかつ200g定食」。午後3時までやっている定食各種は、ごはん、カレー、味噌汁、コーヒーなどのソフトドリンクが「おかわり自由」。たまご、漬物、明太子など日替わり総菜が取り放題。太っ腹!

 

店長が描いたイラストがそこら中に

「とん彩や」の外観には、店長さんが描いた愛らしいタッチのイラストが、あちこちに。「豚肉とイラストが楽しめるお店」であることが、早くも見受けられます。

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▲外観のイラストは店長が描いたもの

 

店内の壁にも、いたるところにも、味わい深いオリジナルイラストが満載。店名の通り「彩り」にあふれた、グラフィカルなお店なのです。

 

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▲店内も店長が描いた味わい深いイラストがいたるところに

 

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味があるウオール・ペインティングをほどこしたのは、店長になって4年目という遠藤しんぢさん(36歳)。

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▲店中にイラストを描いたのは、ベレー帽と丸メガネがトレードマークの店長、遠藤しんぢさん

 

安い、うまい、そして珍味も

厨房のフライパンからは、豪快に炎があがります。

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▲料理をつくるのは店長の遠藤さんご自身

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:いま焼いているのは、豚の「カルビ焼き」(380円)です。玉ねぎの甘さとしゃきしゃき感が、豚肉とよく合いますよ。

 

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シンプルな料理ながら、肉がジューシーで、うま!(ぶただけど)。冷たいビールにも白ごはんにも絶妙にマッチしますね。

素材となる豚肉は「産地や品種などのこだわりは特になく、そのときそのとき、いいものを仕入れています」とのこと。

 

そして、ここが大きなおすすめポイント。商品の値段が全体的に安い。ビール中ジョッキで一杯 290円ですよ。安いの大好き! 心は晴れやか。晴れときどきぶたです。

 

遠藤さん、ほかに、おすすめの豚肉料理はありますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:では定番の「豚の角煮」(380円)と「串豚足」(1本 150円)はいかがでしょう。

 

豚の角煮! 直球勝負ですね。大好物です。もうひとつの「串豚足」とは……豚足の串刺し、ですか? 初めて耳にしました。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:「串豚足」は珍しいと思います。「よそのお店では見たことがない」と、よく言われます。「豚足に興味があるけれど、かぶりつきには抵抗感がある」というお客さんが多かったので、はじめたメニューです。足のかたちがわからなくなるまで身をほぐし、串に刺します。食べやすいですよ。そのかわり、つくりにくいですが(笑)。めっちゃ手間がかかるんです。

 

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「串豚足」は、確かに特徴ともいえる「チョキ」が見当たらない。豚足の爪先のヴィジュアルに苦手意識があった方でも、これならいただけます。大きな口を開けずとも、豚足ならではの「ぷにぷに」と「コリコリ」をひと串で楽しめるのがいいですね。

 

「2時間も煮込んだ」という角煮も、う、うまい(涙)。誰もが好む、奇をてらわないお味。食感も、ほろっほろ。

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▲ランチタイムは、この絶品な角煮が3切れも入った「どっさり角煮定食」(850円)も評判

 

「ご家族連れに喜んでもらいたい」から始まった似顔絵

そして、いよいよ気になる、店長直々に描いてもらえる「似顔絵」の話を。壁にはたくさんの、お客さんの似顔絵が貼られています。

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f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:「娘の結婚式の記念にするから描いてくれ」と言われることもあり、このごろは「責任重大になってきたな」と感じています。

 

「とん彩や」のメニューに「似顔絵」が加わったのは7年前。似顔絵を描いてほしい人は500円を支払い、まず顔の画像を撮影します。絵を描くのは遠藤さんですが、たとえ遠藤さんがお休みの日であっても、スタッフが撮影した画像をもとにドローイング。

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画材はA4サイズのケント紙とコピック(カラーマーカー)。依頼者は原画をそのまんま購入できます。一点ものの似顔絵を、パウチまでほどこしてもらって500円は、そうとうお値打ちです。

 

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▲これら似顔絵は仕事の空き時間や閉店後に描く。なかなか大変だ

 

作品ができあがったら、後日ここ「とん彩や」で直接受け取るか、指定の住所へ郵送してもらうシステム。遠藤さんが描く似顔絵は「特徴をつかんでいる」と評判がよく、依頼をするお客さんが後を絶たちません。似顔絵を始めたきっかけは、なんだったのでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:7年前、家族連れのお客さんがお見えになられた時、「自分がやれる技術で、楽しんでもらえることってないかな」と考え、似顔絵を思いつきました。そしてサービスで描いたら、とても喜んでくださったんです。ただ、それが口コミで広がりましてね。「僕も」「私も」と依頼が殺到し、さすがに続けられなくて、現在は500円をいただいています。

 

お店のホームページで漫画を連載。しかも超問題作!

「自分がやれる技術で」……。実は遠藤さん、居酒屋さんの店長のほか、アマチュア漫画家という顔をお持ちです。

「とん彩や」のホームページには現在、遠藤さんが描く『久″留米(ぐるめ)刑事の居酒屋事件ぼ』『くせっ毛10パー★セント』『繁盛居酒屋漫画 とん彩な日々(TONSAI DAYS)』の、3本の漫画が連載されています。

お店のホームページに漫画の連載がスタートしたのは8年前。現在も少しずつ更新が続いているのです。

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▲現在作稿中の連載漫画『繁盛居酒屋漫画 とん彩な日々(TONSAI DAYS)』。ケント紙にペンで描いている

 

「とん彩や」ホームページ(連載漫画すべてを読めます)

tonsaiya.com

そのうちの一本、『久″留米(ぐるめ)刑事の居酒屋事件ぼ』の第一話「五ツ星殺人事件」は、なななんと、280ページを超える大作! 

息をのむ展開。本当に面白い。そして、超問題作なのです。

 

『久″留米(ぐるめ)刑事の居酒屋事件ぼ』第一話「五ツ星殺人事件」
http://tonsaiya.com/archives/4229277.html

 

有名グルメブロガーがインターネット上につける評価をうのみにするユーザーたち。
レビュアーのカリスマ性ゆえに、低評価をくらって窮地に追い込まれるシェフたち。

 

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SNS、SEO、アフィリエイト……
グルメブログやグルメサイトに根をはるこれらネット用語が、すべて殺人事件を解くカギとなってゆくミステリー。お店の側も、お客さんの側も、さまざまな問題をはらんでいます。ひとつの殺人事件をきっかけに、それら病根があぶりだされてゆくのです。

 

複雑に入り組んだ構成ながら、ぐいぐい読ませるストーリー。なにより「飲食店側からのグルメサイトへの反撃」ともいえる辛辣(しんらつ)な内容の漫画が殺人事件を描いた作品が、居酒屋さんのウエブサイトのトップページから読めるなんて……素晴らしすぎます! 感動しました。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:「五ツ星殺人事件」は、描きはじめた当時は「ひとりのレビュアーがグルメサイトへお店への批判を掲載すると経営が本当に息詰まってしまう」という風潮が飲食店業界にあって、インターネットがお店へ及ぼす影響が強かったんです。そういう話を聞くと「許せないな」という感情がわいてきた時期でした。オーナーはさらにそういう気持ちが強く、オーナーが原作、作画を僕が担当しました。共同作業で生まれた作品なんです。

 

なるほど、原作者はオーナーさんだったのですか。グルメサイトへの投稿に対し、漫画化というエンタメに昇華させて意見を述べるあたりに、「とん彩や」のクリエイティブの原点を見た気がします。

 

名作『がんばれ元気』の影響で漫画家を夢見る

ホームページで漫画を連載する遠藤さんは、大阪の門真(かどま)生まれの枚方(ひらかた)育ちという郊外っ子。漫画歴は小学校3年生から始まります。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:小山ゆうさんが描くボクシング漫画の名作『がんばれ元気』を読んで「なんて面白いんだろう」と感動したのが、漫画に興味をもったきっかけです。そして将来は「漫画家になりたい」と思うようになりました。

 

『がんばれ元気』に影響を受けた小学生が、いま、元気の源である豚肉料理で働く人たちを応援していることに運命を感じますね。遠藤さんはそれから大学ノートに鉛筆で、見よう見まねで漫画を描きはじめ、クラスメートに読んでもらうようになったのだとか。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:小学校5、6年生の頃、同じクラスに漫画を描くのが上手な男子が、ほかにふたりいたんです。その子たちと意気投合し、自分たちで漫画雑誌をつくり、同級生に配っていたんです。雑誌と言っても、3人の作品をコピーしてホチキスで留めた程度の簡単なもの。それでも、楽しみに待ってくれる友達がいましてね。「読んでもらえる」ということに、やりがいを感じていました。

 

小学生の時代に早くも同人誌をつくり、すでに「連載」を抱えていたというから、すごい。

ちなみに当時の遠藤さんが描いたのは「『ドラゴンボール』のような格闘漫画」。残念ながら転居の際に「消えてしまった」そう。その漫画雑誌は現存せず。オラ残念!

 

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▲独特なタッチ。ひとコマ漫画もいい味してる

 

そうして漫画家になることを夢見ていた遠藤さん。しかし中学、高校へと進学するうちに、その夢は失われていったのです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:遠藤:中学生にもなると、漫画を描くのが上手なやつなんて、いくらでもいるんです。「上には上がおるな……」と。そして、いったんくじけると、立ち直れず、次第に作品を最後まで仕上げられなくなってきました。さらに高校へあがってからは、少々グレまして(笑)。

 

高校卒業後は「酒、ギャンブル、異性」に明け暮れ、再び漫画を描き始めたのは、なんと「とん彩や」で働きだしてからなのだとか。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:先代の店長さんが漫画で「お店案内」を描いていたんです。その方が辞めることになり、オーナーが「ほかに誰か描ける者はおらんか」と探していたので、「あの……僕も昔、漫画を描いていたので」と立候補しました。

 

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▲つねにかぶっているベレー帽に、漫画家としての誇りを感じる

 

壁の空きスペースを「無駄やなあ」と感じ、イラストで埋める

店内の壁にペンキでイラストを描き始めたのは、まだ一介の店員だった「5、6年前」。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:壁の空いているスペースをずっと「無駄やなあ」と感じていまして。そして当時の店長とオーナーに断って、絵を描き始めました。漫画の原作からもわかるようにオーナーは理解のある方で「若い者が、新しいことを好きなようにやればいい」と。

 

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ホームページでの連載漫画や、壁のイラスト、そして「似顔絵」。

「飛ばねぇ豚は、ただの豚だ」という言葉もあるように、この「とん彩や」は食欲が満たされるだけではなく、創造性の飛翔を感じるのです。

 

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▲朝から夜まで、この豚料理を求めてお客さんがやってくる

 

ライター(筆者)の似顔絵を描いていただいた

では、僕も似顔絵を一枚、お願いします!

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:了解です。ではお顔の写真を撮ります。お、いい表情をされていますね。

 

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マジっすか。

お世辞でもうれしいです。おだてられて、木に登りそう。後日、似顔絵ができあがるのが、いまから楽しみ。

では最後にもうひと品、おすすめの豚肉料理をお願いします。

 

f:id:Meshi2_IB:20180827105850p:plain遠藤店長:遠藤「とろり軟骨どて煮込み」(3切れ 290円)はいかがですか。これも、よそにはめったにないメニューですよ。

 

珍しさゆえに「テレビでも紹介された」という豚軟骨の煮込み。うわあ、舌の上でとろけます。れろんれろん。とろぉんとして、これはうまいです。

 

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連載漫画に見られる反骨の気概もありながら、軟骨の煮込みのような柔軟な発想もある。もろもろ含めて、豚骨精神といえる、いい持ち味にあふれたお店でした。

 

さて、できあがった似顔絵がこちら。いかがでしょう。

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お店情報

とん彩や 福島

住所:大阪大阪福島福島5-10-13
電話番号:06-6456-1038
営業時間:10:30~24:00(ランチ10:30~15:00、LO 23:30)
定休日:不定休(ウェブサイトのカレンダーを参照ください)
ウェブサイト:http://tonsaiya.com/

www.hotpepper.jp

 

書いた人:吉村智樹

吉村智樹

よしむらともき。関西ローカル番組を構成する放送作家。京都在住。街歩きをライフワークとし、『VOWやねん!』ほか関西版VOW三部作(宝島社)、『ジワジワ来る関西』(扶桑社)、『街がいさがし』(オークラ出版)、『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅』(鹿砦社)など路上観察系の書籍を数多く上梓している。

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