私たちにとって身近な存在であるお弁当。
お弁当といえば、みなさんはどんなものを思い浮かべるだろうか。私は子どもの頃大好きだった母の手作り弁当の印象が強い。
彩りが乏しくて茶色の多い、だけど大好物が散りばめられた、母の甘やかしがたくさん詰まったお弁当。運動会や遠足の日だけではなく、毎日食べたいと思っていた。
成人した今もなお、あの大好物の入った茶色いお弁当が無性に恋しくなる時がある。
ところで数年前、私は衝撃的なお弁当と出会った。
ケーキのお弁当である。
「大好物が散りばめられた」どころの騒ぎではない。
お母さんの甘やかしを超えてきた。大好物しか入ってないお弁当。いや、大好物がお弁当の形状をしてそこにあったのだ。
パティスリーで手に入る「はしっこ弁当」
ケーキのお弁当、正式名称は「はしっこ弁当」。
その名の通り、中身は数種類のケーキの切り落とし「はしっこ」がぎっしり詰まっており、仕上げに生クリームとフルーツでデコレーションされたケーキ、ことお弁当である。
ケーキなのかお弁当なのか、混乱が止まらないが、とにかく甘党の願望を具現化した最高の食べ物であるのは間違いない。
「はしっこ弁当」は千葉市の「ミズノヤ」というパティスリーで作られている。
「ミズノヤ」は市内でも評判のお店だ。繊細かつ丁寧に仕上げたかわいらしいケーキは、都内の有名店に負けないくらいおいしい。
かわいらしいケーキ達の並ぶケーキケース。とてもまぶしい。
ケーキケースの隅にさり気なく積んであるのが、「はしっこ弁当」だ。
ケーキの華やかさに気を取られていると見落としてしまうかもしれない。
実はこの「はしっこ弁当」、隠れた名物商品である。早い時間に売り切れることもあるという。
質の高い味はそのままに、ケーキ2つ分はありそうなボリュームで、この破格のお値段なのだから無理もない。
ところで、「はしっこ弁当」を購入する際は、必ずやらなくてはならない儀式がある。
ケース内のケーキをしっかりと眺めておくことだ。ケーキのラインアップを記憶に留めておく。
これが後々役立ってくるので、忘れずに行わなくてはいけない。
ケーキをお弁当として食べる喜び
お弁当タイムを盛り上げるためにも、セッティングはばっちりキメたい。
ランチョンマットを敷き、お供に緑茶を添えた。
そして絶対に譲れないアイテム、お箸。ケーキを豪快にお箸ですくう喜びを私は知っているからだ。
お弁当のフタを開けると鼻先をくすぐるケーキの甘い香り。
お弁当を開ける瞬間は、いくつになってもワクワクしてしまう。
「はしっこ弁当」の魅力は、シンプルながら中身の分からない見た目だ。
中身は1つ1つ違うため、毎回異なるケーキとの出会いにロマンを感じずにはいられない。
一期一会を大切に、期待を胸に「はしっこ弁当」と向き合うのだ。
ひと口目は柔らかな黄色いスポンジだった。
ここで思い出すのが、ケーキケースを凝視して記憶に刻んだケーキの面々。
箸の上のケーキと記憶のケーキの照合作業に入る。
(このほんわり口溶けの良いスポンジはミズノヤ名物、水野谷ロールか…!)
ふた口目に当たった黄緑色の生地には驚きが隠せなかった。
(メロン味のスポンジ……! フルーツ系のケーキに使われているのだろうか……!)
お箸が加速して止まらない。
濃厚なしっとりとしたチョコを当ててしまった。次から次へとあふれ出すイマジネーション。
(一体どのケーキのチョコなんだ……!)
上に乗ったイチゴやブルーベリーは口の中をリセットする役割を担っている。脇役ながら良い仕事っぷりは、お弁当でいうお新香のような位置づけだろうか。
これらのおかげで、ひと口ごとの喜びをより新鮮に味わえるのだ。
この後も、ストロベリークリームや黒糖生地など、初お目見えのお宝をざくざくと発掘できた。
そういえば以前、一度だけマカロンを掘り当てた時は、思わず息を飲んだものだ。いつかまたあの大物に出合いたいものである。
そんな風に思いをはせながら食べ進めては、時折お茶を喉に流し込み、そしてまたお箸でケーキを掘り、もりもりと食べた。至福の時間。
「はしっこ弁当」の隣に添えた「海岸通りの塩ブッセ」も強くおすすめしたい。
絶妙な塩気の効いたクリームが特徴的なブッセだ。「はしっこ弁当」のお供に塩むすび感覚でいかせていただいた。
スイーツに塩気が加わると無限に食べられるから、人体は不思議である。
おわりに
ケーキは、スイーツの中でもよそ行きの、特別な日に食べるというイメージがある。
「ケーキを独り占めしたい」「ケーキをおなかいっぱい食べたい」
誰もが一度は夢見る願望だ。しかし現実ではなかなかかなわない。
そんな願いを「はしっこ弁当」は、お弁当という形でいとも簡単にかなえてくれた。ケーキを遠慮なく食べられる。本当に何て素晴らしいケーキを、お弁当を生み出してくれたのか。
感謝が止まらない。ありがとう、「はしっこ弁当」。
お店情報
MIZUNOYA(ミズノヤ)
住所:千葉県千葉市美浜区高洲1-16-55
電話番号:043-205-4702
営業時間:10:00~19:30
定休日:水曜日
ウェブサイト:https://ameblo.jp/y-mizunoya/
※この記事は2017年11月の情報です。
※金額はすべて消費税込です。