満月の夜にする動物たちの謎の行動とは?イノシシ肉を食べながら「山での不思議な話し」を現役猟師に聞いてきた【別視点ガイド】

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東京は山手線の駒込駅から徒歩3分。

駅前の喧騒(けんそう)もやや落ち着いたエリアに「多満 × 猟師工房」はある。

大きな丸に「た」と描かれたちょうちんが目印だ。

 

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普通の居酒屋さんのような、なんの変哲もない外観だが、このお店の売りは猪(イノシシ)と鹿を中心とした”山肉”だ。

山肉とは野生鳥獣の肉のこと。おしゃれで高級というイメージがある”ジビエ”と言わず、あえて”山肉”と表現することで気軽に楽しんで欲しいそう。

埼玉に拠点を置く猟師団体「猟師工房」とコラボすることで、相場の半分程度で肉を仕入れ、安く提供している。

 

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▲多満の広報 兼 現役猟師のナナフシさん

 

「猟師工房さん、捕って処理するまでの時間も早いし、真空パックの仕方もうまい。肉の処理がとにかく上手なんで、味が落ちてないし、臭みもないんですよ」

とおっしゃるのは猟師のナナフシさん。

 

平日はIT系企業で会社員として勤めつつ、休日はもっぱら山にこもる現役猟師だ。

実はナナフシさんとは以前面識があり、「山での不思議体験」をインタビューさせていたことがある。

 

www.another-tokyo.com

 

行きつけの飲み屋のマスターだった多満の店長さんと猟師工房をつなげた縁で、facebookページを更新したり、いまはお店の広報役を買ってでている。

「昼は普通に会社勤めなので……」と顔出しはしてないが、その風貌は穏やかそのもの。語り口も軽快でロジカル。寡黙な山男として猟師像とはかけ離れている。

 

既存の猟師イメージと違うとはいえ、ナナフシさんはなかなかのすご腕。

もっぱら1人で猟に出かけ、長い時で1週間ほど山にこもるという。

「足跡を見れば、なんの動物か、何歳なのか、子連れなのか1人ものなのかパッと分かります。足跡を触って、匂いを嗅けば、土の温かさや残り香で、どれぐらい前に歩いたのかも分かりますよ」と名探偵さながらのセリフ。

そんなナナフシさんと、おいしい山肉をむさぼりながら、猟にまつわる不思議な話しをうかがった。

 

ベテラン猟師は獣の顔つきで生まれが分かる

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▲たたき3種盛り(猪、鹿、鴨) 972円

 

まずは、たたきの3種盛り。

左から猪のロース、鹿の外もも、鴨のロース。

猪には白ワイン・ビネガー・はちみつで作った甘めなソース、鹿には赤ワイン・バルサミコ酢・はちみつで作ったソースがかかっている。

鴨は塩と本ワサビでシンプルにいく。

 

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── うわ、猪うまっ!! ソースが甘めなのもあるけど、肉自体に甘味がありますね。獣臭もまるでないですね。

 

ナナフシ:猟師工房さんの肉の処理がうまいんですよ。処理の手際でかなり味が変わるので。たとえば撃つ場所。見つけたらすぐ撃つってわけじゃなく、生かして見つからないよう追っかける。川に近づいたらやる。場所を考えないと、血抜きしてから川で洗うまでに時間かかるので臭いが出たり、味が落ちたりします。

 

── いつもこんなうまいもん、山で食べてるんですか?

 

ナナフシ:山でこんなにおいしく料理できません(笑)。焼いて食べるか、燻製にして持ってくかですね。

 

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▲ 鹿と猪 3種炙り焼き 3,672円

 

素材の味をガツンと堪能できる、炙り焼きもオススメだ。

猪のスペアリブとロース、鹿のランプ(ももと尻のあいだの肉)、そして特別に手に入ったということで、希少部位の鹿の首がたっぷり盛られている。

 

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鹿のランプにはイチジクソース、鹿の首にはソースはオリーブとアンチョビのソース、猪には本わさび。

肉ごとに一番合うソースを丁寧に仕上げているのが心憎い。

 

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▲鹿のネック肉

 

── 鹿の首のお肉、すんごい柔らかい!

 

ナナフシ:交尾前の鹿の首は柔らかいしおいしいんですよ! 盛っちゃうとホルモン出て臭くなるので。

 

── ああ、タイミングによっても味が変わるんですか! 捕ったエリアでも違いますか?

 

ナナフシ:同じ種でも、味どころか顔つきも違いますよ。個体によって肉の硬さも匂いも味も違うますよ。

 

── 顔つき?

 

ナナフシ:僕の師匠は70歳過ぎなんですけど、大ベテランで歩くスピードも、もう速くて。山じゃ置いてかれます。罠にかかった猪も素手でつかんで10秒で縄結んじゃうすごいおじいさんで。そんな師匠の発言でいまだ信じらないのは「獣の顔つきで生まれが分かる」って言うんですよ。

僕がおもに活動してる本州のほぼ真ん中に位置する地域では、獣が3方向から集まります。日本海、関東方面、中部地方。師匠は顔の輪郭でどっちから来た動物なのか分かるんですって。「顔が違う」と。僕はぜんぜん見分けつかないんですけどね!

 

── ハンターハンターの主人公みたいな師匠!

 

満月の夜は、なぜか獣の自動車事故が増える

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▲猪鹿ミートソースのピザ 864円

 

── どれぐらいの頻度で山に入るんですか?

 

ナナフシ:昔は週末ごとに活動域の狩場に入ってたけど、仕事が忙しくなって、ここのところは月1ぐらい。大型連休の際は、4日ほど山にこもるので、行き帰り含めて6日間ぐらい山にいますね。テントも寝袋も使わないので10リットルの小さなバッグ1つで入ります。

 

── え、そんな少ない荷物で!? どうやって寝るんですか。

 

ナナフシ:冬だと葉っぱもないので木の根元に穴掘って寝ます。近くに炭火を安定燃焼させると6時間ぐらい持つので、暖も取れます。あとは、熊が昨年の冬眠時に使っていた穴ぐらを間借りすることもあります。熊が冬眠中であること、活動域で冬眠しそこなった熊がいないことを念入りに確認してから冬山に入り、その穴を利用します。

山ではなるべく現地調達の品で過ごしたいんですよ。自然にあるものを最大限活用する、僕のモットーでもあります。

 

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▲4種類のお肉で作ったハンバーグ 1,080円

 

ナナフシ:それだけ山にいると、不思議な体験もするんですよ。

 

── 山での不思議な体験? 気になる!

 

ナナフシ:僕は猟をするよりも、動物の生態調査が好きで、気になる動物をつけてまわってるんですけど。満月の夜はね、動物たちが不思議な行動するんですよ。

 

── 不思議な行動?

 

ナナフシ:タヌキでも猪でもモモンガでも、種族を問わずとにかく落ち着きがないんです。獣って人の話し声に敏感ですし、足音も4つ足と2足歩行で違いますから、普通は警戒して近寄ってこないんです。でも、満月の夜は平気でのそのそ歩いてて、妙に遭遇率が高まりますし、なにかに向かって突進したりしてる。

 

── なんだろ、興奮してるのか……。

 

だから、満月の日はやたら車の事故が多いんですよ。車道にも出てくるから。峠道で鹿や猪がよくひかれてるのはきまって満月の夜ですね。

 

── 人間でも満月の日は事件が増えるとか聞きますけど、獣もなにか血が騒ぐんでしょうかね。

 

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ナナフシ:不思議と言えば、動物に命を救われたこともありますよ。

 

── どういうことでしょう?

 

ナナフシ:その日は、曇ってて雨が降る直前でした。そんなときはおとなしくしてる動物が多いんです。体が濡れるのを避けたいので。でも、そのときは猪が「グゴ! グゴ!」とやたら鳴く声が聞こえたんです。

 

── はい。

 

ナナフシ:同時にメス鹿の「モー!」という、求愛か断末魔のような鳴き声が聞こえた。猪と鹿が近くにいても一緒に鳴いたりしませんし、どっちも同じ方向見て鳴いてるんです。

 

── ほう、珍しい事態なわけだ。

 

ナナフシ:僕は雨をしのごうと、丘陵地帯で落ち葉と倒木でテント作ってたんですが、あまりにも鳴くもんですから「おかしいな」と。何だか胸騒ぎがして急いでブナ周辺の根元を掘って、うずくまりました。

 

── はい。

 

ナナフシ:そうしたら、動物たちが鳴いてた方向からめっちゃデカいつむじ風が横を駆け抜けていくんです。すごい音で! もし直撃してたら谷に転げ落ちてたでしょうね。あまりに知られてないんですが山とか谷とかって、風と風がぶつかって竜巻やつむじ風がけっこう起きるんですよ。

 

── 動物の鳴き声で警戒してなかったら危なかった。

 

ナナフシ:山ではささいな音に敏感なので察知できましたね。動物も緊急事態の声を発するんだなーと驚きました。

 

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▲山肉料理に渋めの赤ワインがめちゃくちゃよく合う

 

山の奇妙なお話しをサカナに、うまい肉を食べる。

これもまた、満月の夜のように不思議な一夜であった。

 

お店情報

多満 × 猟師工房

住所:東京都北区中里1-2-2 坂本ビル1F
電話番号:03-5842-1318
営業時間:16:00~22:00
定休日:火曜日
ウェブサイト:https://taman-komagome.gorp.jp/

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」を書いてます。

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