無数にひしめく飲食店が呑ベエたちを夜な夜な飲みこみ続けている繁華街「五反田」。
クラブやバーといった夜のお店がある一方で、株式会社学研ホールディングスや株式会社ポーラといった大企業の本社があったり、現在はIT系のベンチャー企業も増えて“五反田バレー”と呼ばれていたり。
人情味のある繁華街のムードと最先端のビジネスの気配がまじりあう、ほかにはない色を持った街です。
そんな五反田の東エリアは、特にユニークな飲食店が点在するディープゾーン。人目を避けるかのように伸びる「壱番街」をゆくと……。
ひっそりと佇むのが、知る人ぞ知る「呑み処 談」(以下、談)。ランチタイムは曜日限定のつけ麺が名物と聞いて、お邪魔してみました。
“味なお店”で週替わりのつけ麺ざんまい
▲一番乗りでした。お邪魔します
▲お店を切り盛りする成典亨(せい・のりゆき)さんと友美さんご夫婦
▲五反田で愛されて12年。『じゃりン子チエ』のテツみたいな成さんの似顔絵
▲一緒についてきた、つけ麺大好きの知人(非番の消防士)
▲ランチは、曜日ごとに替わるつけ麺が評判の「談」
火・水・木のつけ麺シリーズで、まず目を引くのは「トマトつけ麺」(850円)です。ん? トマトがトップバッター?
典亨さん:「トマトつけ麺」はオープン当初からある一番人気のつけ麺なんです! イチオシですよ。
一方その頃、消防士はメニュー表の中に「鬼嫁つけ麺」(900円)を発見して目を輝かせていました。
▲辛さと金額のバロメーターが「家出」→「別居」→「調停」→「離婚」→「孤独」で表現されています。斬新!(※辛さアップの金額は、上記メニュー表の通り)
友美さん:「鬼嫁つけ麺」もオープン当初からあるロングセラーなんです。辛いですよ。大丈夫ですか?
「ハイッ、大丈夫です!」と力強い言葉とともに、「調停」の辛さを注文する消防士。辛み耐性には自信があるようです。
12時、どんどんお客さんが来店し、MAX12人のお店はあっという間に満席に。そんな中、私たちのつけ麺が登場しました。
煮えたぎる鬼嫁
▲きたきた! ビビンバのような石碗に入った「トマトつけ麺」。麺は小盛りの200g。サービスの半ライス、半熟玉子つきです
▲熱く輝くトマトスープの海! 砂浜のような粉チーズがじわじわと沈んでいく
「トマトつけ麺」は、自家製のトマトソースにタマネギ、キャベツ、エリンギ、シメジなどの具がたっぷり。スライスチーズと粉チーズが溶けた、熱々のイタリアン鍋の趣。
一方の「鬼嫁つけ麺」はこちら。
▲マグマのようにブクブクと熱く泡立つ! チャーシューにキャベツ、モヤシ、ニラが真紅に染まる「鬼嫁つけ麺」
石碗の中で煮えたぎる「鬼嫁つけ麺」の湯気を吸っただけで「おいしそ……かはっ……」と咳き込む消防士。本当に大丈夫なのか。
それにしても、さすがは石碗。20分経ってもスープが冷める気配なし。モチモチの麺をスープにひたし、フーフーしながらいただく幸せ。
おっと忘れてた……と目の前の消防士を見ると、うわわわ、唇が真っ赤! 目も真っ赤! 大の男が顔から出るもの全部出して泣いています。しっかり!
「これは嫁じゃない、純粋な鬼です……」と、命からがら声をしぼりだす消防士。全身の血行がよくなったのか、頭と首から汗がダラダラ。「この炎は……厄介だぜ……」ってやかましいわ。
「まあまあ、ごはんを食べて、ごはんを」とすすめると、「白メシの熱さが辛い……辛すぎる……令和の大火が起きた」と、白いごはんにすら辛さを感じる世界線に飛ばされたようです。
▲スープにのたうちまわる消防士を見て「そんな大げさな……」。つい興味が湧きましたが、ごはんにスープ1、2滴おとして食べただけで白目!
▲麦茶のおかわり、すでに5杯目。しかし、いまだ口の中を消火できない消防士。一人でお店の麦茶を飲み干す勢い
涙と鼻水をふきながら「こ、これは、素人は手を出してはいけない……デンジャラスな最終つけ麺でした」と言い残し、完全に沈黙する消防士。いや、最終じゃないんだよ、まだ先に「離婚」と「孤独」があるんだよ!
▲顔から出るもの全部出して泣いている人にやさしいティッシュ
石碗特有のぐつぐつ期が去り、スープが少しずつ冷えてくると、「お? ちょっと辛さがおさまってきたような……」とスープをすすりはじめる消防士。荒ぶっていた鬼嫁と仲直りできそうな気配が漂ってきました。
それにしても、「調停」でさえこの激辛ぶり。最終段階「孤独」ではどうなってしまうのか。メニューを考案した成さんご夫婦に聞いてみました。
「鬼嫁つけ麺」は五反田で一番辛い食べモノだった!
──「家出」→「別居」→「調停」→「離婚」→「孤独」のうちの「調停」。まだ先があるとは思えない衝撃的な辛さでした。
友美さん:「調停」は去年作ったんです。「別居」から「離婚」に至るまでの辛さの差がありすぎるから、間が欲しいとお客さんから希望をいただいて。
典亨さん:今は、「別居」までは韓国や沖縄で採れる唐辛子を、「調停」からは韓国のスーパー激辛唐辛子を使っています。
──あの辛さは韓国由来でしたか。名前も含めて、おもしろいメニューですね。考案されたのは?
典亨さん:つけ麺のレシピは全部僕が担当しました。メニュー名を考えたのは妻です。
友美さん:このメニューを作った12年前は、夫婦ゲンカばっかりしていて。私がしょっちゅう家出を繰り返していたんです。それで「家出」や「別居」のワードを思いついて。
典亨さん:そうそう、最初は「家出・別居・離婚」からの出発だったんですよね。でも、数年前に「離婚」の先を作ろうという話になって。
友美さん:離婚の先には何があるだろう? って二人で考えて、「再婚」と「孤独」で迷ったんですけど。「再婚」は辛くなさそうでしょ?
──それで「孤独」になったんですね。もはや想像できない辛さなんですけれど、ちなみに味見ってされてますか? 「調停」ですら辛すぎません?
典亨さん:味見はもちろんしてますよ! 妻は「家出」までしか食べられないから、ぼくが味見役。でもやっぱり「孤独」は辛い。「孤独」を作って数年になるけれど、今まで完食されたのは4人です。
──ひえっ、4人もいることに驚いた! 「調停」のスープの数滴をまぶしたごはんで白目をむいていた私には、想像のつかない世界です。
友美さん:でもね、先日、辛いもの好きのYoutuberさんが来店されまして。「孤独」をスープまで飲み干されて「五反田イチ辛い!」と仰いました。
典亨さん:夫婦でびっくりした(笑)。
──五反田の王者でこの辛さなら、日本の王者はどうなっちゃうんだ!
友美さん:激辛料理の沼は深いようですね(笑)。「家出」なら、そこまでの辛党じゃなくても、おいしく食べていただけると思いますよ!
夜は中華メニューが揃う居酒屋に変身!
ちなみに、夜には夜の名物があると聞いて、居酒屋さんバージョンの夜の「談」へ。
さっそく注文してみたら、香ばしい湯気とともにこんな面々が登場! 評判の皿を駆け足でご紹介しましょう。
▲ジュワジュワ熱々の餃子! 食欲そそるニンニクの風味に全身が喜ぶ「ともちゃん餃子」(500円)
▲たっぷり入ったジューシーな豚肉の旨味こそ明日の元気! 拳の大きさもあろうかという「ジャンボ焼売」(400円)
▲ムチっとした歯ごたえとツルツルの喉越し。ひき肉と長芋も皮の中に包み込まれたトロトロ「ワンタン」(400円)
▲妻・友美さんが作る「ともちゃん餃子」のあまりの売れ行きが悔しくて作ったという成さんのワンタンは、負けん気あふれるビッグサイズ
▲麺類では「中華麺deナポリタン」(700円)が評判。モチモチの縮れ麺にソースがからむ、イタリアンと中華の華麗な競演。3人前はありそうなボリューム!
▲夜の「談」といえば「青汁割り」(400円)。暇さえあれば健康に気をつかってしまうアラフォー世代に大好評の、頼もしい相棒
昼はつけ麺屋、夜は居酒屋として営業する「談」。店主ご夫婦のユニークなアイデアが反映された味なお店です。辛党さんはどうぞランチに。“五反田イチ辛い”と名高い「鬼嫁」シリーズにも挑戦してみて!
お店情報
呑み処 談
住所:東京都品川区東五反田1-17-10
電話:03-3444-4418
営業時間:11:30~14:00、18:00〜24:00
定休日:日曜日・祝日