「オタクはカレーが好きだ」
特にそれを証明するものがあるわけではないけども、そういうイメージはたしかにある。手早く食べられて趣味に没頭する時間を削ることもなく、スパイスが脳を活性化させるエナジーフード。そしてオタク文化の街といえば秋葉原、秋葉原といえばアイドル。そこにカレーがあれば最強じゃないか!
そんなおいしいカレーとアイドルに出会えるお店が本当にあるから秋葉原は奥深い。そんなお店が「カリガリ」。
もともと渋谷にオープンし、現在は秋葉原と丸の内に2店を構えるこちらのお店。その秋葉原店はアイドルがお給仕をするお店、として知られているのだ。
たとえばある平日の夕方、お店に行くと制服を着ていたのは、福井のアイドルグループ・せのしすたぁのまおさん。
ステージでは激しいアジテーションでお客さんをあおり、会場をブチ上げるスタイルで有名な彼女。さぞお店でもお客さんに激しく……はなかった。普通にお給仕してます。
ちなみに「カリガリ」のカレーは、ココナッツカレーベースの「カリガリカレー」、「インドカレー」「ジャパニーズカレー1」「ジャパニーズカレー2」「スープカレー」の定番メニューに、季節限定のカレーと種類いろいろ。
まおさんにおすすめを聞いたら「う~ん、じゃあ『カリガリカレー』にトッピングでチーズと揚げナスと生卵!」ということで、そちらを注文してみました。
▲カリガリカレー+チーズ+揚げナス+生卵 (1,285円)
普通のファミレスなんかで「トッピング何がいい?」とか聞いてたら、若干の厄介客感がありますが、こちらのお店だとノー厄介(しつこいのは論外)かつ、かわいい子と話せて一石二鳥! お客さんが多くない時なら、アイドルともゆるっと話せるムードもあるこちら。カレーというフランクな料理ならではのゆるさがお店に充ちてる感じがいいのです。
しかもカレー屋さんとは思えないほどお酒やおつまみも充実、しかも普通の居酒屋さんにはないような珍しい品も時折入荷。聞いた話では、夜は飲みに来て、”たまに”カレーを食べる常連さんなんかもいるほど。アイドルがいる、という一点だけでない不思議なカレー屋さんです。
まおさんに話を聞いてみた
── そもそもなぜ「カリガリ」で働くことになったんですか?
まお:大阪で吉河順央さんと栗原ゆうさんがやってる「エミュリボン」ていうライブカフェ&バーがあって、そこで何度かお給仕したんですよ。それでわたしが福井から引っ越して東京に住むことになって、どこかバイト出来るところないですかね? って相談したら、「エミュリボン」が関西で唯一「カリガリ」のカレーを出しているお店なのもあって紹介してもらったんです」
(ちなみに吉河順央さんはアーティストで、音楽活動のほかにでんぱ組.incを輩出したディアステージの立ち上げから携わることで知られる。「カリガリ」との関わりは後ほど。栗原ゆうさんは東京大阪股にかけて活躍するシンガーソングライター)
── 大阪経由で秋葉原のお店を知ったんですね。
まお:それで一緒にお店に来てご飯食べたらめっちゃいい! って思って、すぐ面接してもらって決めました!
── いつもアイドルのライブ後に物販とかやってますけど、それとカレーの接客はテンションぜんぜん違いますね。
まお:もちろんですよ! ライブの時は「おら~!」って感じですけど、ここだとこんなかわいい服着て働いているからみんなびっくりしますね。あと秋葉原で他のアイドルさんのイベントやってたから来たよ、って人が多くてうれしいです。「なかなかライブを見る機会はないけどご飯なら来られる」っていうんで気になっていた人がけっこう来てくれて。いいところで働かせてもらっています。
── もちろんステージ上のまおさんを知らないお客さんも来るわけですよね。
まお:もともと「カリガリ」が好きっていう人も来てくれますけど、けっこう話とかしますし皆優しいです。ここで知ってライブ来てくれる人もいますしね。
── 働いていて心配はない?
まお:接客の仕事は前もしていたからそんな心配ないんですけど、秋葉原って海外から来たお客さんも多いじゃないですか? そういう人が来たら、英語しゃべれんからどうしようって(笑)。チキン! とかエッグ! あとパクチー! くらいなら話せるんですけど。
── パクチーは英語なんですかね(笑)。
まお:秋葉原=アイドルってイメージですけど、わたし秋葉原でライブとかぜんぜんやってないんですよね(笑)。
そう言って笑うまおさん。それだけにたしかにせのしすたぁの活動範囲は地元福井、東京だと新宿・渋谷方面がメイン。ただそれだけに「前から気になっていた」という秋葉原寄りの人と会えて、相乗効果あり。最近はミスiD2018のセミファイナリスト入りするなどソロ活動も目立つまおさん。カレーをきっかけに東京東側の知名度を広げていく!
別の日に再訪してみると……
さてまた別の日に「カリガリ」に来てみると、この日お店に入っていたのはHAMIDASYSTEMのHASEGAWA BEETさん。いわゆるアイドルのイメージである前のめりな明るさとは真逆な女の子3人が、ポップな楽曲を武器に成長していくライブが今東京地下アイドルシーンで話題の3人組・HAMIDASYSTEM。
HASEGAWAさんのおすすめトッピングは、2色掛けカレーにブルーチーズにチーズ、そしてうずらの卵に加えて無料の福神漬け。
まさかのダブルチーズ!
▲2色掛けカレー+ブルーチーズ+チーズ+うずらの卵+福神漬け(1,393円)
HASEGAWA:わたしチーズとうずらの卵とかたんぱく質の食べ物がめっちゃ好きなんです(笑)。あとお漬物が好きなので福神漬は入れておきたいなと。
── ここで働く前は接客業の経験はあったんですか?
HASEGAWA:やっていたバイトはファミレスとかホテルとかずっと接客業でした。でもここだと接客としてもてなしつつ、お客さんと普通の会話もする、みたいな感じですね。
── アイドル兼お給仕として働いてるわけですよね。
HASEGAWA:でも、あんまりアイドルに見られなくって。ここで働いてる人ってアイドル以外にも役者さんとかいろいろなんですよ。その中でアイドルっぽく見てもらえない(笑)。なぜなんでしょうね?
── 声低めだからかなあ、ステージではその声がいいんですけど。そもそも「カリガリ」で働きだすきっかけはなんだったんですか?
HASEGAWA:知り合いが働いていたんです。それで自分もバイトを探していたんで、自分も入ろうかなって感じで。多い時は月5くらい入っていました。最近ライブが増えてなかなか入れなくなったんですけど……。
── もともとカレーは好きだったんですか?
HASEGAWA:家ではカレーを食べるのが好きなんですけど、外で食べるって概念がなくって(笑)。でも「カリガリ」で働き始めてからは他のお店でも食べるようになりましたね。いろんなカレーを食べてみたくなって。
── お、ではいずれ研究の成果が出た「HAMIDASYSTEMカレー」なんかも出ることもあるんでしょうか。
HASEGAWA:それはないです! (きっぱり)普段、料理は手伝う程度で、普通のルーでしか作れないんで(笑)。それでいてわたし以外の2人も結構ヤバイと思うので……。
アイドルライブ帰りのお客さんも多い「カリガリ」、アイドルの方もライブが終わった後にお店に来たらそこでばったり、なんてことも。
ちなみにお店のツイッターなどを見れば、その日お店にいる子の情報がわかることも。
アイドルも毎日いるわけじゃないので、そこは要確認で。
2人のようなアイドルが店員としている以外にも、「カリガリ」では「Caligari Curry Live」という企画を定期的に行っていて、ひとりのアイドルと「カリガリ」がコラボ的に店内でグラビア撮影するというもの。
撮影後はその子おすすめのトッピングと生写真がセットで提供されます。ちなみに取材時はPALETの羽原由佳さんのおすすめセットが販売されていました。
アイドル以外にもいろんな人が集まるちょっと変わったカレー屋さん「カリガリ」。なぜそんなフツーじゃないカレー屋さんが出来たのか? 2005年に渋谷店(既閉店)を誕生させて以来、このお店を育ててきた二木さんに話をうかがいました。
二木:もともと銀座のクラブで働いていて、夜におなかが空いたっていう人のためにガッツリ食べれるもので何がいいかなって思ってカレーを作り始めたんですよ。ただ「日本風のをクラブで出すのもな、でも欧風のも違うし」って簡単なタイカレーを作り始めたんです。
── それが「カリガリカレー」のルーツなんですね。
二木:そうなりますね。ただ本場のタイカレーがあんまり好きじゃないみたいで(笑)、改良に改良を重ねていったら日本風に近いココナッツカレーになっちゃったんです。「カレーなの?」って言われるくらい謎の食べ物になりましたね。
── 辛いけど優しい感じの味ですよね。もともと二木さんはカレーが大好きで?
二木:普通にみんなと同じくらい好きですね。
── あ、普通なんですね(笑)
二木:だから他のカレー屋さんに研究しに行ったりはしなかったんですよ。すごいカレーを作るぞ! っていうよりは、おいしいカレーを作ることが出来るから何かやるならこれでやろうと思った感じですね。
── 生きるスキルとしてのカレー作りみたいな。でもそれで渋谷でお店をやっていたわけですよね。
二木:その頃、仕事をして帰って寝て起きて仕事をしてって毎日だったんですけど、一人暮らしをするのももったいないと思って、今でいうシェアハウスみたいなところに住んでいたんです。そこが芸大生とかアーティストがいるところで、そのうちの1人がもふくちゃんだったんです。
── でんぱ組.incを立ち上げたり、ディアステージを生んだプロデューサーですね。
二木:そういう面々が周りにいて。その頃からぼくはドルオタにはならなかったんですけど、アニオタになっていったんです。『涼宮ハルヒ』とかの時代ですね。周りもアニメとかアイドル方面の活動しだして。それこそディアステとか。ぼくはぼくで「インド人完全無視カレー」とかホリエモンのカレー(※堀江貴文が刑務所の中で外に出たら食べようと夢想い描いた至極のイノベーションカレー)とか。
── ああ! あの辺は二木さんがカレーを作っていたんですね!
二木:そういうネットで話題になるようなものをやっていたので、秋葉原で店舗はやりたいと思っていたんですね。そのタイミングで吉河順央さんを紹介してもらって、彼女も昔からカレー好きで何かやろうって話はしてたんですよ。それで秋葉原にお店を出すのが決まった時に、特別メニューとかお願いしようとしたら「あれもやるこれもやる」って話になって、制服ディレクションとかお店のデザインとかいろいろやってもらって。
── それでこの秋葉原カリガリが出来上がったんですね。
二木:そういうアキバ文化を取り入れていったら、店員もアイドル活動をしている子が入ってきたり、あと役者さんやっていたとかモデルさんとか自然とそういう人が来るようになったんです。自分も何かになりたいと思っているような子をスタッフとして集められたらいいなと思っていたので、こういうお店も面白いかなと。お客さんもそういう子を育てていこうって人も多くて、そういう感じで営業してきましたね。
── なるほど、一風変わったカレー屋さんのルーツがよくわかりました。またお店以外にも、いろんなレトルトカレーをリリース中。しかも、お店で発売してるものの他にも、いろいろとディレクションと製造を担当してるそうで。
二木:パッケージはその企業さんのだったりしますけど、よく見たら「製造:カリガリ」って書いてあったりしますよ。具体的には言いにくいんですけど……テレビ局で販売しているカレーとか。
── ああ、局のショップで売ってる番組名が入ったカレーとか、そういうのですね。
二木:あと最近は「うちの奥さんのカレーがおいしすぎるのでレトルトにしたい」て依頼が来ましたね。「まわりに食べさせてもおいしいっていうんで、どうにか人に食べさせたい」って。クラウドファンディングでお金を集めて、成功させていましたね(笑)。
── たしかに気になりますね! 商品化したいほどうまい奥さんのカレーって。
二木:ねえ、「そんなにうまいんだ! って(笑)。ただレトルト化するのもコツがあって工場も何種類かある中で、そこでやれることやれないことがあるんで。
秋葉原のお店とレトルト、それぞれで面白いことをやる場の中心にカレーがある、というのがいいですよね。カレーパーティーがずっと続く感じといいますか、そういう輪の中心にいて違和感がない強さもまたカレーならではなのでしょう。
あと最後に二木さんにこんなことを聞いてみた。
── ちなみにオタクはカレー好きってイメージがあるんですけど、実際どうなんですかね?
二木:最初は秋葉原はカレー屋さんが多いって聞いていたんですけど、そんなに多くはないですね。オタクの人はカレーも好きだと思うけど、ラーメンには負けますよ(笑)。あと最近の秋葉原は肉ですね! 「肉のせました」とか牛カツとかそういうお店多いです。
── たしかに言われてみれば秋葉原って実際は肉を推してるお店って多いですね。こちらのお店もトッピング的には竜田揚げ推してますしね。でも「カリガリ」の通りは3軒カレー屋さんがありますよね。
二木:この通りはたまたま多いんですよ。むしろカレー屋さんが秋葉原で一番集まっている通りになってほしいですね!
さまざまな趣味が混じり合った街を象徴するようであり、海外からのお客さんも気軽に食べられるカレーは秋葉原らしい料理といえなくもない。
いつか「秋葉原の匂いといえばカレー」という日が来るのか?
その時には中心に「カリガリ」のカレーとアイドルがいるはずです。
お店情報
秋葉原カリガリ
住所:東京都千代田区外神田3−6−9 沖村ビル1F
電話番号:03-3527-1262
営業時間:平日 11:30~15:00(LO 14:30)、17:00~23:00(FLO 22:15 DLO 22:30)、土曜日・日曜日・祝日 11:00~23:00 (FLO 22:15 DLO 22:30)
定休日:年末年始