町中華の名店が提供する「伝説の看板メニュー」
町中華にはお店の名前を冠した丼というのがけっこうありますね。
その中でも僕がナンバーワンだと思っているのが、横浜にある「酔来軒(すいらいけん)」が出す「酔来丼(すいらい丼)」なんですよ。
お店の前にもどーんと書いてありますよ。
酔来丼そのものもおいしくてグッドなんですが、泣かせるのがこの400円という価格。
酔来丼を提供する酔来軒はこちらの兄弟で切り盛りしています。
右が兄で三代目店主の野木発成(のぎ・はつなり)さん、左が弟の野木寧二(のぎ・やすじ)さん 。お店は、今から80年前おふたりのお爺様がこの地で創業したそうです。
メニューに「酔来丼 400円」と、ひとつだけ赤文字になっているものがありますね。
さっそく作っていただきましょう。
かつては兄弟で食べていたまかない飯だった「酔来丼」
──それまで酔来丼は店員用のまかない飯だったそうですね。
三代目:そうなんです。店にあるものをご飯にのせて食べていたんですよ。
まずはチャーシュー。赤みを帯びたチャーシューは食紅を使った昔ながらのもの。
この窯でチャーシューが焼かれています。
そのチャーシューを細かく刻みます。
中華鍋で目玉焼きを油で揚げるように焼いていきます。
これをご飯をよそった丼に、メンマ、ゆでもやし、刻んだネギ、チャーシューと一緒にのせて出来上がりです
「出来上がりました」と三代目。
実は酔来丼に合わせたいのが小ラーメンなんです。
丼などをたのむと+200円でついてくる小ラーメンですが、これがまたいいんですよ。
酔来丼(400円)と小ラーメン(200円)。
2つ合わせても600円という価格が驚きでしょ。
まずは、酔来丼をいただきましょうか。
メンマ、ゆでもやし、刻んだネギとチャーシュー、目玉焼き。
これらが混ざり合って、絶妙なハーモニーを奏でるわけですね。
そこに特製のタレをかけていきます。特製タレの中身は、ラーメンで使う醤油タレ、ごま油、洋カラシといたってシンプル。
全体をよく混ぜるのがポイントです。
混ぜるとこんな感じになります。
初めて食べるときは、これらの具材が混ざった味を想像するじゃないですか。でもね、不思議なことに、混ぜることでまったく新しい味になるんですよ。
三代目は「ごま油とネギが合わさることで旨みが生まれてくるんじゃないですかね」とおっしゃる。
たしかにそれもあるのですが、細かくした目玉焼きやチャーシューのおいしさも加わって、とにかくこれまで食べたことのない旨みが押し寄せるのです。
これはもう、実際食べてもらわないと、わからないおいしさなんですよね。
そしてこちらが、小ラーメン。
小ラーメンといいながらもけっこうなボリュームです。
小ラーメンを見ていて気がつくのは、酔来丼ってラーメンの具材をご飯にのせているのですね。
この料理を考案した三代目に聞きました。
三代目:もともとまかないで食べていたのですが、今から20年くらい前、牛丼が安くなるというニュースを見て、危機感を覚えたんですよ。うちも安くておいしい丼ものを提供しようと、それでまかない飯をアレンジしてみたんです。
──ああ、牛丼が1杯290円になったときでしょうか。
三代目:そうですね。ウチで出しているライスが250円の時代ですから、なんとか少ない材料でおいしいものを提供しようと考えたメニューなんです。
ラーメンの具材をご飯にのせるというのは、誰もが考えつきそうでやらなかったメニューですね。大発明だと思います。
三代目に材料の分量を教えていただきました。
【酔来丼・材料】(1人分)
- ご飯 250g
- ゆでもやし 30g
- ネギ 30g
- メンマ 20g
- チャーシュー 30g
- 玉子 1個
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(特製ダレ)
- 醤油タレ(醤油でも可) 大さじ1
- ごま油 小さじ1
- 洋カラシ 小さじ1
他のメニューもいただきましょうか
▲トマトの肉団子(600円)
肉団子の中にミニトマトが入っているんですね。
これは肉とトマトの旨みが押し寄せてきます。ビールに合う一品です。
作り方を見せていただきました。
ミニトマトを肉だねで包みます。
油であげていきます。
タレを絡めればできあがりです。
さらに、こちらの「しいたけシュウマイ」は最新のメニューです。
人気が出過ぎて、普通のシュウマイはなくなってしまったとか。
▲しいたけシュウマイ(500円)
シュウマイ1つにしいたけが丸々1個入っています。
しいたけの旨みの詰まったシュウマイです。これもおいしいですねぇ。
なんと裏メニューもありました
「あれ、こんなのがありますよ」と平山カメラマン。
メニューの台の裏側に書いてあるんですね。
そう、スペシャル酔来丼です。酔来丼よりもさらにボリューミーなんです。
それではお願いしましょう。
▲スペシャル酔来丼 850円
目玉焼きが2個。分厚いチャーシューが7枚ものっています。
チャーシューの厚みを見れば、850円という値段がお値打ちだとわかるでしょう。
こちらもよく混ぜていただきます。ただし、チャーシューが大きいままなので、普通の酔来丼とはちょっと味わいが違いますね。
三代目:だから、お客さんの中にはスペシャル酔来丼で、チャーシューを細かく刻んでくれという方もいらっしゃいます。これやってみると、丼の半分以上がチャーシューになるんですよ。
──しかし、なぜこれが裏メニューなのですか?
三代目:チャーシューが切れたらうちは店を閉めちゃうんですよ。だからスペシャルばっかり出ると早くチャーシューが無くなるので、気がついた人だけの特典になっているんです。
スープがなくなり次第閉店というラーメン店はありますが、酔来軒さんはチャーシューが切れたら閉店なんですね。
三代目の作る本物の酔来丼が食べたくなったら
酔来丼のおいしさはうまく説明できませんが、これをそのまま真似して、家でつくってみると、けっこう近い味になります。
特製ダレのラーメンに使うという醤油タレは、いくつかの醤油をブレンドしているそうですが、普通に1種類の醤油だけでも大丈夫です。
あとはメンマ、ゆでもやし、ネギ、刻んだチャーシューに目玉焼きがのっかります。
目玉焼きは中華鍋に油を入れて揚げ焼きにしているので、黄身が半熟、白身の周辺が少し焦げた状態になっています。
僕が思うに、この目玉焼きこそが酔来丼のポイントだと思うのです。ぜひ皆さんも自宅でつくってみてください。そして、その後、酔来軒のものを食べてみてください。
どこか似ているけど、違うかなって思うはずです。
撮影:平山訓生
お店情報
酔来軒
住所:神奈川県横浜市南区真金町1-1
電話番号:045-231-6539
営業時間:11:00~21:00
定休日:毎月第3月曜日 毎週火曜日(休日は変更になる場合もあるので、来店前に電話して確認することをおすすめします)
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。