【うま味の研究】トマトやチーズがダシになるって、ホント?【理系メシ】

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「うま味」の正体ってなんなんだ?

つけ麺を食べるたびに思うのだが、味が濃い! つけめんのダシ、濃い! 

ただでさえ濃い上に魚粉まで入れて、どこまで濃くすればいいのか。

しかし、うまい。うまいがとても濃い。

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濃いからうまいのか、うまいから濃いのか。

最近のラーメンはダシがややこしくて、昔は鶏ダシにうま味調味料としょう油だったと思うが、今はそんなものでは許されない。

 

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貝に豚骨、鶏、さらに酒粕を使っているなんてものまであって、確かにおいしいんだけど、どうなのか。

それは正しいベクトルなのか。入れすぎじゃないのか。

ダシってだいたいどういうものなんだ?

わからないことはプロに聞け! 

そういうわけで、NPO法人うま味インフォメーションセンターへ話を聞きに行った。

 

そもそも「うま味」ってなんなんだ?

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NPO法人うま味インフォメーションセンターとは、「(前略)うま味に関する正確で有益な情報を知らしめることによって『食と健康』への関心を高め、うま味の理解を深めるとともに食育の推進、ひいてはQOL(生活の質)の向上に寄与することを目的とする」団体である。

 

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ご応対いただいたのは、同センター理事で農学博士の二宮くみ子さん。基本の味のひとつである「うま味」が正しく理解されるよう、各方面でさまざまな取り組みをしている。現在の一番の活動目的は「減塩」。

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plain「うま味」を上手に使うことで、減塩ができるんですね。動物性油脂が少なくても、「うま味」があればおいしく食べられます。「うま味」を感じると唾液が出てくるんですよ。それが酸っぱいものを食べた時の唾液と違って、粘性のある唾液がじわじわ出ます。

 

最近の塩分過多、脂肪過多の食事を見直し、「うま味」で満足感を得る食事に変えようというわけだ。よく「あとをひく味」というが、食べ終わった後でも最後まで下に残る味覚が「うま味」なのだそうだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plain唾液は口の乾燥を防ぐので、ドライマウスが原因になっているような高齢者の味覚障害を改善することができます。東北大学などでは薬を使わず、意識して「うま味」を取ることを指導されています。なかでもグルタミン酸とイノシン酸が組み合わされると、「うま味」は7~8倍も強くなります。

 

「うま味」の正体はうま味調味料の代名詞的に使われるアミノ酸の一種、グルタミン酸と核酸のイノシン酸、しいたけなどのグアニル酸、貝類のコハク酸などがあり、その組み合わせで味の強さが変わる。「うま味」は単独よりも複数のアミノ酸や核酸が重なることで強さを増していく。

だから、違う種類のダシを組み合わせることで、「うま味」がより強くなる、という理屈だ。

もちろんバランスが大事で、なんでも混ぜて濃くすればいいかというと、苦みや酸味が強くなるなど味がマイナスになってしまう。日本には昆布とカツオ節という強力なうま味の素があるが、海外ではどうしているのだろう?

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plainいろんな国に行きましたけど、日本みたいに繊細な味のスープストックを使っている国はないですよ。海外では味を重ねて行きますから。だから「うま味」だけを単体で感じることがなかなかできない。でも最近は、「うま味」を知る外国のシェフが増えています。アメリカ人のシェフで、パルメザンチーズの皮をダシに使っている人がいました。

 

おお、「MOTTAINAI」精神ですな。

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plainちなみに野菜のなかで一番グルタミン酸が多いのは、トマトなんですよ。

 

なるほど。

トマトにチーズ、どちらも「うま味の塊」なのだ。

だから日本人はイタリアンが好きなのか? 

じゃあ、トマトとチーズもダシになるのか? 

さっそく昆布とカツオ節とで比較してみることにした。

 

トマトやチーズは、本当にダシになるのか

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まずはドライトマト。

スーパーで100グラム入りを売っていたので買ってきた。

問題は昆布。

重量を合わせるととんでもない量になる。

 

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うちは昆布の問屋か。

 

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これはないだろうよ。

 

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一回のダシに20グラム程度が使われるので、昆布はそれで。

 

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水に浸して1時間ほど放置。

その間にチーズの用意。

 

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パルミジャーノ・レッジャーノの皮を切り落とす。

 

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細かく切る。

 

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沸騰したお湯に突っ込んで、弱火で10分。

カツオ節もダシ用の厚切りを同様に煮る。

 

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煮えたらこす。

いわばチーズの一番ダシである。

 

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トマトと昆布も煮る。

 

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トマト……煮えたけど、これでいいのか?

透明だぞ?

 

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トマトもこす。

トマトの一番ダシ。

 

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奥左から反時計回りに

  • チーズ
  • トマト
  • 昆布
  • カツオ

のダシ。

 

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昆布は昆布の味。

カツオは、カツオダシだけであまり飲まないので、改めて飲むときつい。

魚の乾いた味で酸っぱい。

 

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チーズは思ったよりも乳製品っぽい。

ヨーグルトと上澄みとバターを足したような感じ。

トマトは、びっくりするほど甘酸っぱい。

透明なのに、どこに溶け込んでいるのか。

チーズもトマトも単体ではダシとしては使い物にならないだろうと思う。

チーズは味のぼやけたスープとも言えないスープだし、トマトはとにかく酸っぱい。

 

それぞれを混ぜてみる

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さっそく、それぞれを混ぜてみることにしよう。

昆布とカツオは? 

おお、これはおいしい。粉末ダシの味だ!

……って、本末転倒か。こっちの味が本来のダシ。

ではチーズとトマトのダシを混ぜると……おお、これは……ミネストローネ? 

あれ……? おいしいのはなぜ? トマトスープのおいしいやつの味だ、これ。

単独では使い物にならなかったのに、混ぜたら、全然イケてる。

 

じゃあ、全部混ぜてみたら? 

……うまい。

とてもおいしいスープの味。和風ではなくて洋風の、よく煮込んだトマトスープの味だ。なるほどね。

せっかくなので、トマト&チーズのダシぢからをラーメンでたしかめてみよう。

 

ラーメンのダシにしてみた

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まずドライトマトとチーズを水に浸して1時間。

その後、沸騰させてダシをとる。

 

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市販のスープを半分に分けて、

 

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片方はお湯、片方はトマト&チーズのダシ汁で割る。

 

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麺を入れて、味の差をみようというわけだ。

 

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腹が減った! と帰ってきた子どもに食べさせてみる。

「うめえ! これは何? しょうゆ?」

……そこからかよ。

反対側のやつも食べて。

 

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「お! んん? バター味? 酸味もあるけど。後味が酸っぱい」

いい舌してるね。

チーズとトマトでダシをとったんだ。

どっちがおいしい?

 

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「こっち! コクがあってうまい。バターじゃないのか、チーズかあ」

よくトマトや粉チーズを入れるラーメン屋さんがあるけど、あれは理にかなっているんだな。

ダシはいくつもが組み合わさるとやたらにおいしくなる。

 

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二宮さんはうま味調味料はちょっとだけ使ったらよいとアドバイスしてくれた。

基本的にはダシをとるが、温度や素材で味は少しづつ変わる。

だから味を一定にする調整用として使うと良い、とのこと。目安は0.3%。

ほんとにちょっとで良いのだ。でも劇的においしくなる。

まさに隠し味である。

 

協力:NPO法人うま味インフォメーションセンター

www.umamiinfo.jp

※この情報は2017年7月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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