「天の川」という羊羹をご存知ですか?
京都にある七條甘春堂という和菓子屋さんの代表作なのですが、その美しさは特筆すべきものがあります。
ちょっとググるとたくさんの人が写真をあげているのがわかります。みんなに見せたくなるくらいきれいな羊羹なのですよね。
もちろんおいしい。
青い琥珀羹の透明感がギャラクシーなんです。女性のタイツなんかでコズミック柄がちょっと流行りましたけど、「天の川」のほうが早かったんだからね。
天の川というくらいなので七夕合わせ、夏季限定の商品です。取り寄せようと思って検索したら、もっと僕の心を鷲掴みにしたお菓子を発見してしまったのです。
その名も「金魚」。七條甘春堂の工芸菓子です。尋常ならざる凝りようです。見てくれよな。
日本文化の特徴のひとつに「見立て」というものがあります。
ある対象を他のものになぞらえて表現することを見立てと言います。たとえば京都・竜安寺の枯山水は、玉砂利を水の流れに見立てて表現し、涼しさを演出するというわけですね。
夏場はいろんな和菓子屋さんが涼し気な羊羹を作りますが、この「金魚」の美しさと卓越した見立てのセンスにはひと目で虜になりました。
水底に石を配置することで透明度や水の温度がビビッドに感じられるようになっています。
苔や汚れのついてない石が見えるのは、清い流れの表現なのです。
ディフォルメ表現としてすげえんだよこれ。
オンラインストアで思わずポチッと発注したものの、到着が待ちきれない。
はやる気持ちが行動を誤らせました。「僕のイメージにある金魚を自作しよう」と思い立ってしまったのです。
材料は以下のとおり。
- ゼリエースメロン味
- 金魚の役には熊ちゃんのグミを抜擢
- 小石の代役としてラムネと金平糖を起用
- そして無味のゼラチン
ゼリーの側から「金魚」を作ってみる発想です。
すごい、夏休みの小学生並みだ。
- 型にゼリエースメロン味を流して底の部分をつくる。
- 固まったら小石となるラムネと金平糖を置き、無味透明のゼラチンを溶かした液体を半分まで流す。
- ゼリーが固まったら熊ちゃんのグミを金魚が泳いでいるように置いて、ふたたび無味透明なゼラチン液を注ぎ熊ちゃんグミを沈める。
勢いと思いつきだけで京都の和菓子職人にチャレンジかました「僕の考えた金魚ゼリー」が、これ。
間違えました。
これはタコ型グミでこしらえた方の部分です。予定を大きく上回って気持ち悪いです。水分を吸ってぶよぶよになっています。いあいあ。
ということは、金魚を目指して作ったレプリカはどうなっているのでしょうか。
あっ、意外と悪くない。
グミが水分を吸ってふやけるので、熊の輪郭がいい具合にごまかされているじゃないですか。そして金平糖の青が流れだしたことで、水底の青さもいい感じになってしまいました。ラムネは解けてしまって小石的な部分は皆無。色味もテクスチャも、さながら手入れされていない金魚鉢といった風情です。そのように見立てました。ちくしょう、ドブ川をつくろうとしたのに!
さて実食。
わかってるんです。
味付けしてないゼラチン汁なので味なんかしません。
しかし、ある程度たくさん食べると金平糖やラムネの甘みが時々出てくるので、これはこれでリズムがあっていいかも。
って、よかねえよ!
やたら薄味のゼリーだよ。
素材はちゃんとしたお菓子なのに、僕の自由研究、いや、探究心に巻き込まれたせいで味気ないスイーツにされてしまった材料たち。食べ物で遊んじゃいけないよな。
さて、お待たせしました。
お待たせしすぎたかもしれません。
七條甘春堂の金魚が到着しました。
和菓子の粋を集めた美しさ
嗚呼、この日本庭園の池を切り出したような完璧な構図。
高低差のある石が見せる深み。
赤い金魚の愛らしさ。二匹だけというのがふるっています。
そして金箔を散らすことで水面のきらめきが眩しく感じられます。
ミニチュアの水槽のような断面です。水の透明感は寒天です。小石もそれぞれ模様や色が違っており、リアリティとおいしそうな雰囲気の両方を盛り立てます。
小石と金魚は餡細工。和菓子らしい上質な甘さと舌触りで、それが寒天と一緒になって涼味を運んできます。当たり前なんだけど、すげえうまいの。
美しすぎる羊羹「天の川」は琥珀羹部分の口どけが儚くていいのですけど、「金魚」のしっかりした食べごたえには、充実の「甘いもの食った感」があります。
夏季限定「天の川」のシーズンでもあります。「天の川」は評判の商品なので予約販売はすでに終了、ゲットするなら店頭販売のみというのが現状ですが、万難を廃して食べてみることをおすすめします。
「金魚」は幸い、今のところ販売期間の期限はないぞ。
「金魚」と「天の川」を合わせて日本の夏スイーツを堪能するのは、なんか大人な感じでいいよ。
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