こちらは見ての通り、ナポレオンの肖像画。
ぽつぽつと点描のように描かれてるが、意外なもので出来ている。
なにで出来てるかお分かりだろうか!?
なんとワインのコルクなのです!
肖像画1枚に使われるコルクはなんと2000個!
彩色を一切加えず、ありのままの色を利用している。
作者はソムリエの久保友則さん。
ワインバーでのソムリエ、ワインの輸入業などを経て、現在はワインと発酵食品のセレクトショップ「市松屋」の店長を務めている。
コルクアート制作をはじめてから5年。偉人の肖像画を20作品作ってきた。
この取材、普通ではありえない条件を提示されていた。
「ワインを飲みながらであれば取材OK」というものだ。
「コルクアートってワイン飲まないと絶対できないですから! 酔って視界がぼやけると、人物の輪郭がちょうどいい具合に浮かびあがります」と久保さん。
まっ昼間から飲酒するいい言い訳が出来て、こちらとしても願ったりかなったり。ワインをたしなみながらインタビューをおこなった。(3杯飲んだ)
コルク2000個! 彩色は一切しない
── 肖像画1枚にコルクをいくつ使ってるんでしょうか?
久保:だいたい2000個ですね。
── つまりワイン2000本分。
久保:芸術系の学校に通ってたわけじゃないので、どうすればコルクで人物画作れるか自己流で考えまして。結果、濃さのグラデーションが10段階あって、2000個集めれば出来るなと。
▲色の濃さで10段階に分けている。薄いのは白ワインで、濃いのは赤ワインだ
── 彩色は?
久保:一切、彩色してません。自然についた色です。ワインは横にして保存するので、ワインに触れる側に色がつきます。その期間が5年10年経つとしっかり内部まで色が入って、色あせしにくくなるんです。
── 集まる色にバラつき出そうですね。
久保:そうですね。薄い色はたくさん集まるけど、濃い色のコルクは熟成期間の長いワインなので貴重です。
▲初作目のナポレオン。「一作目なのでボンドはギトギト、表面もデコボコです」と久保さん
久保:内部までしっかり色が入ってないコルクは、だんだん色あせします。ナポレオンもはじめは髪の毛フサフサだったのに、今じゃすっかり島流し後のハゲたオデコになっちゃってますね(笑)。最近は色あせも計算にいれてて、印象が決める目や口まわりは変化が起こらないコルクを使ってますね。
▲子供のおもちゃに作った家と車。シルバニアファミリーを乗せて遊ぶ
── そもそもどうやって作ってるんでしょう? 企業秘密ですか?
久保:はじめは内緒にしてたんですけど、最近は全部話してます。プレーヤーが増えたら、もっとたくさんの人の目にコルクアートが触れるので。でも、コルク集めるのが大変過ぎて、ぜんぜん現れませんけど。
── なかなか2000個は集まりませんからね!
久保:1日1本ワイン飲むとして2000個まで6年かかるので、自力じゃムリですね。最初は「ちょっとでもいいから分けてください」とネットでお願いしてました。徐々に拡散されて、レストランやワイン愛好家から送られてくるようになって。今はむしろ置き場がないくらい集まってきます。
久保:まずデザイナーのハヤシコウさんにデジタルの点描にしてもらいます。初作品からずっと一緒に作ってるデザイナーさんですね。点描が出来たら、それに合わせて僕がコルクを積みます。だいたい1カ月かかりますね。
── 積むだけで1カ月かかるんですか?
久保:コルクってじつはまっすぐな円柱じゃないんです。色のついた側だけを表面にすると、どんどんゆがんでいくので、ちょうどいいところで互い違いにしなくちゃいけない。それぞれ長さも直径も違うし、色の濃淡も考慮して……と調整してると1カ月くらいはかかっちゃいますね。デジタルをアナログに戻す作業ってけっこう大変なんです!
DM3000通送ったら、トルシエさんからオーダー来た!
── ソムリエになる前は、デザイン系の仕事をされてたんでしょうか?
久保:いえいえ、ミュージシャンでした。音楽の専門学校出て、活動してたけど「ここで戦うのは大変だ」と諦めました。曲書いたり歌ったりは好きだけど、抜きん出る物はないと。それから20年間、ワインバーだったり輸入業だったり、ずっとワイン関係の仕事してます。
▲現在、久保さんが店長を務めるワインと発酵食品のセレクトショップ「市松屋」。パスツールの肖像画が飾られている
久保:レストランで働いてた時にですね、転んで大腿骨折りまして。入院に20日、リハビリに3カ月かかって、4カ月ほど働けない状態になったんですよ。
── そりゃ、大事故!
久保:子どもも5人いるし、稼がなきゃいけない。ベットでも何かやれることはないかと考えて……。「そうだ、コルクアートを知ってもらおう」と。ワイン好きに片っ端からFacebookやInstagramのダイレクトメール送ったんですよ。
── あ、営業もされてたんですね。
久保:「作品見てください。オーダーも受けてますよ」ってメールを日本語とフランス語で3000通送りました。
── さ、さ、さ、3000通!?
久保:コピペして送り続けてると30通目ぐらいでいったん送れなくなるんです。昼に送って止められて、夕飯後にまた送るみたいな生活でした。
── すごい行動力……! 反響はありましたか?
久保:ロンドンのかたが記事にしてくれたり反響ありました。GACKTさんからも返信ありましたよ。
── あのGACKTさん!?
久保:GACKTさんにメッセージしたら返信きたので驚きました。「さすがにフォロワー50万人の有名人が返信しないよな。事務所の人だよな」って思ってたんですけど、上っ面のトークじゃないんですよ。あきらかに作品を見ていただいてる会話で。「いま映画の撮影中だけど、今度見に行きますよ」って。
── 送ってみるもんですねえ!
久保:サッカー日本代表の監督をされてらっしゃったトルシエさんからは「僕の肖像画を作って」とオーダーをいただきました。同じくフランス人で、仲の良い友人が経営されてる「パッション」という代官山のお店に飾っていただいてます。
▲トルシエ氏が作っているワイン。サイン入り
── ええ!? そんなこともあるんですね!
久保:入院費が50万円かかったんですが、ちょうど50万円で肖像画を購入いただきました。まだ未完成だったにも関わらず、入院中に振り込んでいただきまして……。本当にスゴイ方です。
── 粋なはからいですね!
── どこで作品を見られるんでしょうか?
久保:実物が見られるスポット一覧をブログにのせてます。いずれ自宅1階をアトリエにして、常時見られるようにしたいですね。
── オーダーもできるんですよね?
久保:はい、オーダー制作できますよ。肖像画なら制作期間は1〜2カ月、価格は50万円ぐらい。モチーフや色の濃淡によって、お値段が変わるので、一度ご相談ください! あとは、僕が依頼を受けて一人で作るというより、みんなでワイン飲みながら、共同作品作れたら楽しそうだなと思ってます。自分たちが飲んだワインが作品になったら楽しくないですか!?
── 楽しそう! ワイン空けるの手伝いにいきます!