※当記事は2020年2月に取材しました
酒通のライター・パリッコさんが提唱している酒場カテゴリーに「天国酒場」というものがある。街の中にある居酒屋もそれはそれで最高だが、見晴らしのいい景色を一望しながらくつろげるような、店のシチュエーションにただただ感謝したくなるような酒場をそう呼んでいる。
「天国酒場」の一例としてパリッコさんがよく名前を挙げているのが、東京・京王稲田堤駅近く、多摩川沿いにあった川茶屋「たぬきや」である。
▲パリッコさんと初めて「たぬきや」に行った時の模様
「たぬきや」は残念ながら2018年に閉店してしまったのだが、川沿いの開放的な空間で美味しいお酒と絶妙に気の利いた料理が味わえる素晴らしい店だった。何も考えずにぼーっと過ごす時間がキラキラ輝いて見えるような、まさに天国のような場所であった。
筆者もそれ以来、パリッコさんが言う「天国酒場」的な酒場を探し求め、自分が住む関西にも素晴らしい場所がいくつもあることを知り、気候のいい時期に足を運んだりしている。
さて、そんな筆者のもとに、関西の酒事情についていつも教えてくれる頼れる友人から「神戸の山茶屋が最高ですよ」と、ありがたい情報が寄せられた。それによると、神戸市の北側に横たわる六甲山系にはハイキングコースの要所に山茶屋が点在しており、中には酒類と各種のアテを用意して、登山客のくつろぎの場になっているところも多いのだとか。
今回は、友人におすすめされるまま、神戸の山茶屋をいくつかめぐってきた記録をご紹介させていただきたいと思う。
運動不足の身には「ほぼ登山」
まず一か所目は、「布引雄滝茶屋」(ぬのびきおんたきちゃや)だ。
栃木県の華厳の滝、和歌山県の那智の滝、と並び“日本三大神滝”に数えられる「布引の滝」を目の前に臨む場所にある茶屋である。
この「布引雄滝茶屋」、JR新神戸駅から山側に歩いて10~15分ほどの位置にある。JR新神戸駅といえば、東海道・山陽新幹線の停車駅だ。新幹線を降りて15分後には滝を見下ろす茶屋でビールが飲める、そんなギャップが楽しめるのがこの店の魅力なのである。
▲JR新神戸駅で下車し、駅舎を出るとすぐに「布引の滝」への案内が
まあ、「徒歩10~15分」と書くと簡単な道のりに思えるかもしれないが、実際はかなりの勾配がある石段を登っていかねばならず、運動不足の身には決して楽でなく、息が切れる。
しかし、登った先の一杯のうまさをイメージすればこの道のりも苦ではない。
▲すぐに見える「生田川」の中流にあるのが「布引の滝」だ
駅を出て歩くこと5分。
「布引の滝」と総称される4つの滝の中の「雄滝(おんたき)」へ向かう石段が見えてくる。
▲右手の石段を登っていけば「雄滝」である
▲さっきまで電車の中だったのにもうこんな渓谷のような景色
登った先には気持ちのいい空間が
ハァハァ言いつつ、「雄滝」にたどり着いた。布引の滝の中でも最大の規模で、落差は43メートル。近くで見るとなかなかの迫力である。
記念撮影はここで撮っておくのがおすすめだ。
▲「雄滝」に着いたら茶屋までもう一息だ
最後のがんばりでさらに石段を登る。登り切ったら「おんたき」と書いた緑色ののれんが見える。ここが「布引雄滝茶屋」。
▲気持ちが落ち着くスポット
▲オープンエアで気持ちいい空間
▲登山者の方がひと言メッセージを綴っていくノート
▲オリジナルTシャツも
景色も最高のアテに
さて、早速ひと息入れたい。こちらが店のメニューだ。
▲おでんをはじめとした各種おつまみ、酒類もあり
まずはこちらのおでん鍋で煮込まれている、おでんをいくつかいただこう。
▲ダシのいい香りが漂っている
そこに瓶ビールもいただいて、眼前に滝を見下ろすカウンター席に座れば、極上の酒場空間のできあがり。
▲ビール大瓶(600円)、おでん(300円)
下をのぞき込むと滝つぼがある。
▲おでんも美味しいけど、景色もまた最高のアテである
▲視線を上に向けると「神戸布引ハーブ園」へ向かうロープウェイが見える
ハラヘリなら湯豆腐をぜひ
さて、この「布引雄滝茶屋」のメニューの中でもぜひおすすめしたいのが「湯豆腐」(700円)である。頭の中に「湯豆腐」のイメージを事前にしっかり思い浮かべてから次の写真を見てほしい。
ジャーン。すごいボリューム。
もはや“鍋”!
この店の「湯豆腐」はダシの中から豆腐だけでなく、白菜、ネギ、ちくわ、豚肉、鶏肉、焼き穴子、しめじ、とろろ昆布と様々な具材が現れる盛りだくさんな一品。
聞いてみると、当初は豆腐だけのシンプルな湯豆腐だったのだが、登山客から「とろろ昆布も入れてほしい」とリクエストがあり、「じゃあもう色々入れてしまおう」と、それ以上のリクエストに先回りするかのように具だくさんになったのだとか。これさえ食べればもうお腹いっぱいなぐらいである。
旨いなー、と思ってビールを飲んでいると、「おつまみ、よかったら」と、枝豆のサービスが。
▲こういう優しさが嬉しい
ちなみにこちらは同行した友人の注文した「ぜんざい」(500円)。
▲これまた最高だな
大正4年からこの場所で営業を続け、創業から105年もの年月を数える「布引雄滝茶屋」。JR新神戸駅を利用する際には、ふと思い出してみてほしい素晴らしい茶屋だ。
ちなみに、二日前までに予約すると「ミニ会席」というコース料理をいただくこともできる。
▲茶屋からさらに少し登った先の展望台の眺望が素晴らしい
店舗情報
布引雄滝茶屋
住所:兵庫県神戸市中央区葦合町布引遊園地45
電話番号:078-241-3484
営業時間:10:00〜17:00、土曜・祝日9:00〜18:00、日曜7:00〜19:00
定休日:不定休
「高座の滝」を目指す
次にやってきたのは阪急電鉄芦屋川駅。
駅を出て少し歩くと駅名になっている芦屋川の流れが現れる。
▲ポカポカとした陽気の中の芦屋川
川に沿って山側へ歩いていくと「高座滝・ロックガーデン方面」を示す案内板が。
▲「高座の滝」の近くに目的地はある
この「高座の滝」の手前にある「滝の茶屋」が次の目的地である。
▲山へ向かう急な坂道を黙々と登る
やはりこちらも山の上にある茶屋なので、ハイキング感覚で坂道を登っていく必要がある。
とはいえ、決してハードな道のりではない。子どもからご高齢の方まで登っている姿を見かけた。
山小屋風の「滝の茶屋」がイイ感じ
さあ「高座の滝」へと続く通り道に面するようにして「滝の茶屋」が見えてきた。
▲ここもまた、いい雰囲気だな
▲店先ではお菓子やカップ麺、飲み物などが販売されている
店内にはゆったりした感覚で椅子とテーブルが置かれ、登山客がくつろいで過ごせるようになっている。
▲店内には時おり気持ちいい風が流れてくる
▲天井からたくさんのランタンが吊るされている
▲「滝の茶屋文庫」と名付けられた貸し出し無料の本棚には登山関連書がたくさん
まずはおでんで一杯
席につき、店の中央にドーンと置かれ、一際目を引くおでん鍋からいくつかいただく。
▲これを食べずにはいられないだろう
▲三色串天(400円)のおでんが華やか
ここのおでんもまたダシがしみて旨いな。ビール(大瓶、600円)が進む。
▲登ってきた甲斐があったな
湯豆腐、ギョーザも気が利いている
改めて卓上のメニュー表を見てみる。ちょうどいいおつまみが揃っている。
▲定休日は「雨」
「滝の茶屋」の「湯どうふ」(400円)はこんな感じ。
▲菊菜が乗っている
▲「ピリ辛四川ダレ」でいただく「ギョーザ」(350円)も美味しかった
▲2杯目にいただいた「手作りチューハイ」(500円)はこんな風に輪切りのレモンが添えられている
それにしてもこの店も、穏やかな空気に包まれて過ごすことのできる素晴らしいロケーションだ。
山茶屋ってどこも最高なんじゃないか!? 店を切り盛りするお二人を記念撮影させていただいた。
▲「いい感じに書いたってください!」とのこと
店舗情報
滝の茶屋
住所:兵庫県芦屋市山芦屋町1
電話番号:0797ー34-1683
営業時間:8:00~17:00
定休日:雨天時など不定休
3軒目は「大谷茶屋」へ
最後にもう一軒、「滝の茶屋」を通り過ぎていよいよ「高座の滝」が見えてくる手前の「大谷茶屋」へ。
▲右手に赤ちょうちんが見え、正面へ進むと「高座の滝」がある
▲店先では、ここでもおでんが売られていた
店の方に伺ってみると、ここはもともと「大谷茶屋」の敷地ではあるのだが、その「大谷茶屋」自体は店主の高齢化に伴って休業中となっている。
なのだが、「大谷茶屋」の一部の敷地を使い、土曜、日曜、祝日のみ日替わりのスタッフが「六甲山カフェ」として営業を続けているのだとか。日によって提供される食べ物、飲み物が異なるところも魅力なのだという。
▲戸が閉ざされた「大谷茶屋」の母屋
取材時は「ORIGAMI CAFE」のスタッフの方が営業をされていて、店先のおでんのほか、淡路島産のレモンを使った「淡路島レモンハイボール」、ビールやコーヒーなどが提供されていた。
おしゃれなダイニングかと思えるほど美味
こちらでは“おかんの味”だというおでんと「淡路島レモンハイボール」におつまみがついてくるというお得な「ちょい飲みセット」(600円)をオーダー。
▲こんな風に露天の席でいただくことができる
▲テーブルに添えられた椿の花が鮮やか
▲おでんの玉ねぎは淡路島産
▲「ちょい飲みセット」につくのも「淡路島産生ワカメの食べるラー油和え」だ
淡路島産の食材を使ったおつまみと飲み物がどれも美味しく、なんだかおしゃれなダイニングにでも来たかのような気分である。
なんと素晴らしい眺めだろう
店の敷地内を見せてもらうと中は洞窟のようになっていて面白い雰囲気。ここで飲食をしていってもいいのだという。
▲岩肌むき出しの不思議な空間
「ORIGAMI CAFE」の店名の由来は店主の息子さんが大好きな折り紙から。その息子さんも店のお手伝いをしている姿が微笑ましかった。
▲独創性あふれる折り紙作品の数々
▲折り紙の作者が記念撮影に応じてくれた
取材後、私は「高座の滝」を見て、さらに上の「ロックガーデン」という登山道を目指した。
岩がゴツゴツと迫る登山道で、正直予想以上にしんどかったが、山の高みから見下ろす神戸の街は本当に美しく、記憶に刻みたいと強く思うようなものだった。
▲ロックガーデンより。なんと素晴らしい眺めだろう
と、今回は3店を紹介するにとどまったが、六甲山系にはまだまだ魅力的な茶屋が存在する。また体力をつけて山に登り、それぞれの魅力を味わいに行きたいと思っている。
※当記事は2020年2月に取材しました
店舗情報
六甲山カフェ(旧大谷茶屋)
住所:兵庫県芦屋市山芦屋町1
電話番号:非公開
営業時間:土、日曜・祝日 10:00~16:00
定休日:不定休
書いた人:スズキナオ
1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。