福岡のショッピング・マダムご用達。懐かしき「ビクトリア」の釜めし・ソップがけ【福岡・天神】

子どもの頃、親の”お買い物”について行くのはまあまあしんどかった。子どもが楽しめる場所になんて行かないし、永遠くらい長いし。じゃあなぜ行ったのか。それを我慢した先に待っている”美味しいもの”が捨てがたかったのだ。天神・新天町「ビクトリア」にそんな思い出を持つ福岡人は少なくないらしい。

エリア天神(福岡)

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天神と新天町の歴史

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新天町商店街の北通りにある「釜めし ビクトリア」。

 

福岡で育った人間にとって、天神におでかけの際のごちそうといえば、デパートの食堂のお子様ランチか新天町「ビクトリア」の「釜めし」だった。家族で一張羅を着て天神に出かけ、「釜めし」を食べて風船をもらったという思い出をお持ちの方も多いのではなかろうか。いまだに福岡のショッピング・マダムに大評判な「釜めし ビクトリア」の「釜めし」と「鶏のソップがけ」。その歴史は天神の歴史と言っても過言ではない。

 

九州随一の繁華街・天神は今でこそオシャレなファッションビルやデパート、飲食店がひしめき、九州各地からの買い物客やアジア各国からの観光客で賑わっているが、かつての福岡の中心といえば、那珂川の向こうにある商人の街・博多。戦後間もない頃の天神(を見た訳ではないけれど)は空襲による焼け野原が広がり、西鉄の駅と地場のデパートがあるだけの「郊外」だった。そんな天神に戦後復興のために新天町商店街が作られたのは、昭和21年のことである。

 

二代目オーナーに聞く「ビクトリア」の歴史

「釜めし ビクトリア」の歴史について、二代目店主の加藤康裕さんにうかがった。

——「ビクトリア」は新天町商店街の開業時からあったんですか?

「ウチはちょっと遅れて昭和29年の創業です。その頃、ここら辺は肉屋さんとか魚屋さんとか生鮮食料品のお店が集まる一角だったんですが、近くに大型スーパーができて生鮮食料品店の廃業が相次いで、空いたところにウチが入ったんです。西鉄福岡駅の隣りにある岩田屋デパートに対して新天町は『平面デパート』と呼ばれて、それはそれは賑わっていたんですよ」

——なぜまた福岡ではなじみの薄い「釜めし」のお店を?

「もともと父と叔父が川端町で進駐軍を相手にステーキハウスをやっていたんですが、これが当たって、貯まったお金で叔父はビアホールを、父は釜めし屋さんを始めたんです。叔父がアイデアマンで、東京浅草あたりで評判になってる『釜めし』を福岡でもやったらどうかという話だったみたいです。と言っても、『釜めし』オンリーでは冒険なので、最初は1階で喫茶、2階を釜めし専門でやっていたんですが、2〜3年で入りきれないほどの人気になったんです。『釜めし』という、日常的なんだけどちょっとグレードが高いという感覚が良かったのかもしれません」

——今でもお昼どきなんかはいっぱいですもんね。

「昔はもっと席数が多かったんですが、博多どんたく(毎年5月3・4日に開催され、国内最大級の動員数で話題になる市民参加の祭り)のときなんかは100席が10回転するほどでした」

——「ビクトリア」の「釜めし」はふんわり優しい味わいですよね。

「厳選した米を鶏ガラスープで一釜ずつきちっと炊き上げています。スープは鶏ガラを4〜5時間煮てかつお節やさば節、調味料を加えてるんです。東京とかの「釜めし」は味付けが濃いめですが、福岡の人の口に合うよう味付け薄めで素材の味をいかしています」。

——毎回具を何にするか迷ってなかなか決められないんですけど、昔からこんなにメニューが多かったんですか?

「そうですね、だいたい創業時からありました。定番の他に、タケノコやカキなど季節の『釜めし』がいくつかあります。『めんたい釜めし』(930円)は創業50周年記念のときに私が考えたものです」

——「ソップがけ」はどうやって生まれたんですか?

「『ソップ』というのはスープのことですね。お店を始めて2〜3年後のことなんですが、『釜めし』は暑い夏場が課題でした。そこで何かさっぱり食べられるものはないかと考えていた父が、奄美大島の鶏飯をヒントにビクトリア風のオリジナルを作ったんです。これが当たったのと、実はウチがたぶん福岡でも最初に冷房を入れたんですよ。当時の冷房は水冷式だったので、そのために井戸まで掘って。おかげさまで夏でも涼しい中で食事ができるって評判になりました」

 

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「ビクトリア」の歴史を話してくださった、二代目オーナーの加藤康裕さん。

 

それでは実食!

「釜めし」は炊き上がりに時間がかかりそうなイメージがあるが、ランチタイムには経験豊かなベテラン職人が注文を見越してベースの「釜めし」を28口もあるコンロで次々と炊いているので、後は具を乗せて蒸すだけで、あまり待つことなく「釜めし」が出てくる。意外とすぐに出てくるので、中には作り置きを出してんじゃないの? と疑うお客さんもいるらしいが、私が厨房に入れてもらってこの目で確かめたのだから、ご安心あれ。もし10分以上かかりそうな場合にはオーダー時にその旨を告げてくれる。

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毎回注文に迷ってしまう、バリエーション豊富な「釜めし」。

 

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ランチタイムには全部で28口もあるコンロに釜がずらり。

 

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一番人気の「博多釜めし(そぼろ)」930円。ごはん自体は薄味の優しい味わい。これが飽きが来ずに食べられる秘訣(ひけつ)か。

 

Aランチだと8種類の「釜めし」から選べ、小鉢・サラダ・赤出しがついて1,080円。Bランチは赤出しの代わりに茶碗蒸しと鶏のスープ(これがまた美味!)がついて1,280円。

 

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「鶏のソップがけ」930円。具は焼いてほぐした鶏のささみ、高等ネギ、青じそ、紅しょうが。

 

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お茶漬け感覚でさらさらといただける「鶏のソップがけ」。美味なスープはおかわりOK!

 

「釜めし」以外の楽しみ方

ランチタイム以外では、やはり注文が入った分を15〜20分程度かけて炊き上げている。この待ち時間に串カツなどのツマミを頼んでビールを1杯、というのが浅草風の粋な楽しみ方というものらしい。

 

また、鶏ガラスープが得意なお店だけに、「水炊き鍋」も要チェック! 2日前までに要予約で平日のみの1日2組限定(1組4名以上)だが、小鉢、料理2品、雑炊、デザート付きで2,500円とかなりお得。プラス1,500円で飲み放題(2時間)にもできるのだ。

 

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こちらはツマミにもなるサイドメニュー。

 

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1階席の様子。

 

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商店街を見下ろす窓際には、半個室のスペースもある2階席。

 

お店情報

釜めし ビクトリア

住所:福岡福岡市中央区天神2-7-144 新天町商店街北通り
電話番号:092-771-4081
営業時間:11:00~20:30(LO 20:00)
定休日:なし
ウェブサイト:釜めし ビクトリア

www.hotpepper.jp

※この記事は2017年4月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:兵土 G. 剛

兵土 G. 剛

福岡のタウン情報誌の編集部に15年勤めた後、フリーライターに。食うの好き、飲むの好き、きれいな女の人好き。マメさなし、根性なしの偏屈じじぃ。

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