ルーツは上杉謙信?3年かけて作られる新潟特産の香辛料「かんずり」がすごい

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「かんずり」という香辛料をご存じですか?

「かんずり」とは唐辛子に糀(こうじ)、ゆず、塩を加えた調味料です。味はざっくり言えば「ゆずの香りがする塩気のある練り唐辛子」といったところ。鍋の季節になると店頭でもよく見かけますが、実はさまざまな料理に使える優等生でもあります。

 

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この「かんずり」、スタンダードなものでも3年もの年月をかけて作られています。作っている会社は「有限会社かんずり」。そう、商品名がそのまま社名なのです。「かんずり」を製造しているのは、日本でかんずりだけなのです。

かんずり社で営業部主任の森健太郎さんにいろいろ教えていただきました。

 

――「かんずり」という商品はどのように生まれたのですか?

 

「先々代の東條邦次が会社を立ち上げたのが1966年です。約400年前の戦国時代には、寒さをしのぐために唐辛子をすりつぶしたものが食されており、上杉謙信の軍が出兵する際にも携行されていたといわれています。これが現在の『かんずり』の原型です。各家庭でオリジナルの唐辛子ペーストが伝わって来たようですが、少しずつ自作する家も減っていき、地域の食文化を残そうと現在のレシピ=かんずりとして商品化したのが始まりだったようです」

 

なんとかんずりのルーツは戦国時代にまでさかのぼるのですね! 

 

――「かんずり」と類似品との違いはなんでしょう?

 

上越妙高地域でかんずりに似た唐辛子ペーストの商品があるのは、前述の各家庭のレシピから派生したものです。『かんずり』が大きく違うのは、原料に糀を使っており、最低3年間じっくりと発酵させているところです。また、唐辛子を雪原にまいて、灰汁を抜く“雪さらし”を行うことも大きな違いです。他の商品は発酵の過程がないかと思いますので、唐辛子発酵食品という意味ではシェア100%です」

 

雪さらし、テレビでこの光景を見たことのある方もいるのではないでしょうか。上越妙高地域の冬の風物詩としても知られており、毎年撮影に訪れるファンもいるほどです。

 

これが雪さらし。コントラストが美しい。

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▲写真提供:有限会社かんずり

 

「かんずり」ができるまで

ここからは、「かんずり」のできる工程をHPから一部引用してご紹介します。

 

1年目

素材選び

かんずり用唐辛子は、自社栽培と妙高市の契約農家が栽培したものを使用。見た目が大きく実が厚く、辛さにも深みとうま味があるのが特徴です。

 

5月頃 苗床から畑へ

雪の多い年は除雪車で雪を掘りおこし、土を出して苗床作りをします。前年の唐辛子から取っておいた種を使い数千本の苗を作り育てます。

 

8~11月 収穫と選別・洗浄・塩漬け

収穫した唐辛子はたっぷりの水で洗い、虫・傷みなどを取り除くため選別した後、天然海水塩で塩漬けにします。

 

1~3月 雪さらし

塩漬けされた唐辛子を大寒の日(1月)から雪さらしします。これによって唐辛子の強いアクを雪が吸い取り、塩抜き効果と共に辛味がやわらかくなります。3~4日さらしている間は毎日天気予報とにらめっこ。

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▲写真提供:有限会社かんずり

 

1~3月 元仕込み

雪さらしした唐辛子に糀、柚子、食塩を加え、ここから長い熟成・発酵に入ります。

 

2年目

6~7月 手返し

「かんずり」のたるを手返しします。イメージとしてはかき混ぜる感じ。気温が高くなる8月前に行うことにより、さらなる発酵を促します。またたるの置く場所によって発酵の早い物・遅い物が出てきてしまうため、完成するまでに何度か置く位置を変えて均一に発酵するようにします。

 

3年目

6~7月 手返し

 

11~12月 寒ざらし

初雪が降る頃、商品になる一歩手前の仕込み唐辛子に最後の試練。たるを外に運び出し外に置くことでより一層マイルドな味に仕上がります。たるの上に雪が積もって自然冷蔵庫に。

 

その後、瓶詰め・袋詰め、出荷となります。手間暇かかっているんですね。

工程を見てわかるように、原材料はいたってシンプル、添加物などは一切入っていません。同じように仕込んでも熟成、発酵の段階で、たるの置かれた場所やその年の気候により、たるごとに微妙な差が生じます。とはいえかんずり使用歴の長い筆者にはまったくその違いはわかりません。この差が生じるのは自然食品ならでは。むしろ「かんずり」の魅力ではないでしょうか。

 

「かんずり」の種類

では、「かんずり」の種類をご紹介します。

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▲左から、かんずり70g(702円)、生かんずり吟醸六年仕込み85g(1,080円)、生かんずり57g(594円)

 

左のかんずりは店頭でもっともよく見かけるスタンダードな一品です。生かんずりは糀の発酵を止めずに仕上げており、通常のかんずりに比べてさわやかなゆずの香りが強いのが特徴。吟醸六年仕込みは、これだけで酒のあてになるおいしさです。普通のかんずりもおいしいですが、さすが6年もかけて作られる逸品。物産展などで販売される際は飛ぶように売れるそう。生かんずりは常温保存すると発酵が進んでしまうので、冷蔵庫で保存を。

 

かんずり漬け商品もあります。ああ、日本酒……!

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左のえのき茸80g(648円)はかんずり漬けの中でもとりわけ評判の高い商品。酒盗80g(540円)は塩分控えめで、ああもう日本酒が(以下略)。

 

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こちらは現在販売されていませんが、参考までに。「かんずり」をパウダーにしたものを使用した辛口ぬれおかきもありました。

 

有限会社かんずりオススメの「かんずり」の使い方

さて、「かんずり」は焼いた肉や魚に塗るもよし、鍋やおでん、うどん、そばなどの薬味とするもよし、しょうゆやぽん酢と混ぜてもよしと、きわめて万能。そこで、森さん自身がお気に入りの「これぞ!」というおすすめの使い方を教えていただきましょう。

 

「焼肉、焼き鳥ではタレに溶いてもいいですが、自分はべったりつけて食べます。カルビやぼんじり、鶏皮のような脂の強いものにも、さっぱり系のロースやささみにも、どちらにも合う万能型です」

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べったりつけましたとも。タレにも塩にも合いました!

 

「鍋料理全般には鉄板ですが、中でも白菜と豚バラ肉のミルフィーユ鍋にぽん酢にかんずりを溶いて食べてください。無限に食べ続けられます」

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いや、ほんとに無限に食べ続けてしまえる勢いで食べました。

 

「豚汁にたっぷり溶かして。豚の脂と味噌に『かんずり』の相性は抜群です。同じ理由で味噌ラーメンにも」

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味噌と「かんずり」の相性抜群。担々麺に入れるのもありですね、きっと。

 

「餃子のたれにラー油代わりに使ってみてください」

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これはいい! 油っこくならないのがいいですね。

 

食材にじかに塗ったりたれに加えたり、いい仕事してくれます。

シンプルな素材から丁寧に作られる新潟の誇る特産品、「かんずり」。辛さはマイルドですが、辛いのが苦手という人は、まずはぽん酢で鍋を食べるとき、ちょっとぽん酢にかんずりを加えてみてください。辛いというよりコクが出て、ぽん酢の味がぐっと深くなります。

冷蔵庫を開けるとソースやマヨネーズの隣に「かんずり」がある。一家に一かんずり、おすすめです!

 

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書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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