ニュータッチ「凄麺」が20種ものご当地シリーズを原則終売せず育てるワケ

「佐野らーめん」「京都背脂醤油味」「横浜とんこつ家」……スーパーでよく見かける「凄麺」のご当地シリーズ。現在20種類あるこのカップめん、実はラインナップがほぼ変わることなく販売され続けている“精鋭たち”だったんです。商品愛にあふれた開発秘話を、どうぞ!

f:id:pegaman:20201122230030j:plain

 

筆者はカップめんが好きだ。そして各地のローカルフードが好きだ。だからこそ、その2つが合わさった「ご当地ラーメン再現カップめん」はとっても好きである。

 

「お、ここまで再現してきたか」「そうそう、こんなめんやスープだった」などと、ホンモノを彷彿とさせるその再現度に、一喜一憂できて楽しい。

 

その意味で日ごろからお世話になっているのが、ヤマダイのご当地めんシリーズである。

 

「凄麺」や「ニュータッチ」のブランドで知られるこの会社は、なぜか33種類ものご当地めん(2020年12月現在)を展開しておりノンフライめんの「凄麺」だけでも20種類もある(同上)

 

なぜ、これほどまでにご当地シリーズにこだわるのか。そして、ご当地めんを愛する地元の方にも認められる味をどう作るか。

それを聞きに、東京・秋葉原にある株式会社ヤマダイの東京営業部へ向かった。

 

f:id:pegaman:20201111202908j:plain

 

開発部門は茨城の本社にあるものの、営業部門の中心は東京にあるヤマダイ。全国的なヒット商品の多い同社だが、東京営業部は意外と小さなビルにあって少し驚いた。

 

f:id:pegaman:20201111203225j:plain

 

スーパーマーケットの一角で一大勢力を築く「ご当地シリーズ」。ヤマダイ株式会社の取締役で、経営企画部広報室室長の森田佳奈さんに、その開発秘話を伺った。

 

いきなり難関の「佐野らーめん」からスタート

──まず、なぜここまでご当地ラーメンにこだわるんですか?

 

森田:弊社の社長が「その土地ごとで熱狂的に愛されてきたラーメンがあるのは、すごく面白い!」とずっと思っていたんです。そうしたご当地ラーメンを、気軽に旅ができない全国のたくさんの方たちへ、手軽にカップめんで届けようとしたのが始まりです。

 

──連休さえ取れない人もたくさんいますからね……。最初はどこのラーメンからはじまったんですか?

 

森田:2002年に発売し、2017年に現在の形にリニューアルした「佐野らーめん(238円)」です。

 

f:id:pegaman:20201111212658j:plain

 

──めんが独特な、いきなりハードルの高いところいきましたね……。

 

森田:はい。当時カップめんで平打めんはあまり無かったですし、手打ちで多加水の、モチモチでなめらかなめんをカップめんで再現するなんて、ありえなかったんですよ。

 

f:id:pegaman:20201111214001j:plain

 

──僕が開発担当なら心が折れて、田舎に帰りますね。

 

森田:(笑)。ホントに苦労したそうですが、2001年に生まれたばかりのノンフライめん、「凄麺」の生めん感覚の味わいが生かせました。
市内のラーメン店からなる「佐野らーめん会」さんからお墨付きをもらって、地元の方からも「カップめんでよく再現した」と言っていただけました。

 

パッケージの写真は「担当者自身が撮る」

f:id:pegaman:20201122230432j:plain

 

森田:ご当地ラーメンは、あえてパッケージのデザインをバラバラにしています。

 

──そういえば! ふつうは統一させますよね?

 

森田:棚から選ぶ楽しみをより演出するため、商品名の字体は筆文字からシックなものまであります。ラーメンの写真も俯瞰で撮っていたり、斜めから撮っていたりしますし。あとこのパッケージ写真は、開発の担当者自身が撮るんですよ。

 

──カメラマンじゃない?

 

森田:開発のメンバーならば、どう撮れば商品の魅力が一番伝わるかを知っていますから。

 

f:id:pegaman:20201111214323j:plain

▲ヤマダイの開発部門がある本社

 

原則終売はせず、精鋭たちをリニューアルで強化する

──ちなみに、商品のラインナップはどのくらいのペースで入れ替わっているんですか?

 

森田:基本的には、終売せずに売り続けます。

 

f:id:pegaman:20201111214454j:plain

 

──そんなことありえるんですか?

 

森田:終売する商品もありますが、多くはずっと販売します。最初は売れなくても、ガマンして売り続けたら、どんどん浸透してくれたものもありますから。

 

──人もラーメンも、長い目で見るのは大切。

 

森田:おいしくするために、さらには味に飽きないように、お客さまにとっては変わらないと思える範囲でリニューアルして、一つの商品を大切に育てますね。

 

──静かに質を高めると。そういえば公式サイトに、毎月のようにリニューアル情報のプレスリリースが出ていますね。

 

森田:弊社は新商品が少ない分、精鋭たちをリニューアルでどんどん強くして戦います。

 

──心強いな。最近はどんなリニューアルがありましたか?

 

森田:たとえばこんな感じです。

  • 尾道中華そば→さらに幅の広い平打めんに。
  • 和歌山中華そば→スープの濃厚な豚骨感を高め、チャーシューは丸型から四角に。
  • 名古屋台湾ラーメン→好みの辛さが調整できる辛ダレ小袋を添付。

 

──おお、けっこう変わっている。

 

f:id:pegaman:20201111223802j:plain

▲リニューアル後の最新版「和歌山中華そば(238円)」。パッケージ写真も再撮影され、四角くなったチャーシューもちゃんと写っている

 

森田:さらに、最近ではこれが一番のリニューアルポイントなんですが、(「ニュータッチ」シリーズを含む)11種類の商品から、アレルゲンの卵と乳成分をなくしました卵や乳成分を使わなくても、意外とラーメンは作れるんです。

 ※原材料切替前に製造した商品の賞味期限が切れる2021年4月までは、「卵」と「乳成分」が入っている時期の製品が混在している可能性があります。購入の際は「原材料名」の欄をご確認ください。

 

f:id:pegaman:20201111224206p:plain

 

▲リニューアル対象となった11商品 

 

──すごい。“ホンモノ”に入っているアレルゲンが入ってないことで、「はじめての和歌山ラーメンはカップめんだった」という方もいるかも知れませんね。

 

森田:はい、(卵や乳成分に対しての)アレルギーを持っているお子さまの親御さんから、「やっと子どもと一緒に食べられました」と喜びの声もいただきました。

 

ホンモノっぽくする奥の手

──ちなみにリニューアルで売上がアップした商品はありますか。

 

森田:熟炊き博多とんこつ(238円)」ですかね。スープをこってりに変えたり、スープの味に干渉する「紅しょうが」をなくしたり。広く知られている分、みんなが納得する味にするのが難しくて。今はクセもありつつ、臭みが強過ぎないように調整しています。

 

──知られている分、ハードルが上がって苦労するんだなあ。

 

f:id:pegaman:20201121201444j:plain

 

森田:そうなんです。ちなみに通常のめんは5種類(極太、太、中細、細、平打)なのですが、この博多のめんだけは特注しないと作れない、堅い「細麺」にしています。

 

f:id:pegaman:20201111225227j:plain

▲スープの種類に合わせてめんの種類も使い分けている

 

f:id:pegaman:20201111225032j:plain

博多とんこつのためだけに特注する極細めん。濃厚スープと高菜が、香り高いめんにからむ

 

森田:ご当地ラーメンによってはお店ごとに太さが変わるので正解はありませんが、最終的にはスープとのバランスでめんを決めますね。

 

f:id:pegaman:20201111225254j:plain

▲『ザワつく!金曜日』(テレビ朝日)の“第1回ご当地カップ麺No.1決定戦”で優勝した「富山ブラック(238円)」。醤油スープだが、太めんを使用している

 

地元民に認められるまで

──そんなご当地めんを作る際、どんな方をターゲットにしますか?

 

森田:観光客向けというより、地元の方にフォーカスします。その土地の方が認めてくれたものじゃないと、全国に広められないので、営業担当者が現地に行き、さらには現地のラーメンを取り寄せて、意見を集約して作り上げますね。

 

f:id:pegaman:20201111230034j:plain

▲「喜多方ラーメン(238円)」は、日本最大級のラーメン店舗団体「蔵のまち喜多方老麺会」からの推奨を得ている

 

──地元の方にも食べてもらっているんですか?

 

森田:はい、例えばスーパーのバイヤーさんやラーメン店の方、ご当地ラーメンの団体の方に食べてもらって、味へのアドバイスをもらうこともありますよ。

 

──地元民の味覚に耐えうるご当地ラーメンをカップめんで作る。そんな難しいことをやるしかないのなら、僕ならやはり地元へ帰りますね。

 

f:id:pegaman:20201111230124j:plain

▲「千葉竹岡式らーめん(238円)」は、その代表店・梅乃家の店主が推奨する

 

森田:(笑)。実は有名店にこっそりアドバイスをもらうこともありますが、そこは前面に出さず、バランスを注視しながら作りますね。

 

──地元のキーマンの力も加わっているわけですね。

 

森田:ラーメン通の方は「めんはこの店に寄せて、スープはこの店に寄せているね」と分析されています。そのとおり(笑)! ってこともありますよ。

 

──正解を探す旅も楽しそうですね。

 

森田:あとは「どっちの具材を入れようか……」って葛藤もあるんですよ。地元の方に聞きながら、最後まで考えることもあります。

 

──同じくらい重要なら、迷いますよね……。

 

森田:はい。ちなみに多くの商品で、地元産の調味料や食材を使っています。たとえば「富山ブラック」だと山元醸造株式会社の丸大豆醤油、「熟炊き博多とんこつ」のスープは、福岡の一番食品さんと共同開発していますね。

 

──特に調味料は地元の味が出ますからね。そうやって作り上げたラーメン、地元での売れ行きはいかがですか?

 

森田:はい、やはり地元が一番売れます。あとはそれぞれの地域で全然売れ筋が違うので、営業もそれを意識して売り場を作っていただきますね。ちなみに東京だと「佐野らーめん」「京都背脂醤油味」「横浜とんこつ家」あたりです。

 

──そういえば、その3つは近所のスーパーでよく見るなあ。

 

f:id:pegaman:20201111230426j:plain

▲パリパリの焼のりが3枚入って気分が高まる、「横浜とんこつ家(238円)」。おかわり自由のライスが欲しくなる

 

「コスト」と「カップめんの限界」に勝つために

──ちなみに森田さんが、個人的に好きな商品はなんですか?

 

森田:長崎ちゃんぽん(238円)」です。

 

──他社にもよくあるから、真価が発揮されそう。

 

森田:はい。弊社の長崎ちゃんぽんは野菜と魚介のエキスが濃厚なスープと、カップめんとしては異例のもちもち極太麺の相性がよくて。ちなみにこの極太麺、当初は“ちゃんぽん専用麺”として気鋭の若手社員が5年がかりで開発したのですが、好評により他の商品でも採用しています。
女性人気が高いほか、社内の営業マンからの人気も高いんですよ。くど過ぎずもしっかり味が付いています。

 

──ちゃんぽんはノーマークでした。食べてみたいな……。

 

f:id:pegaman:20201111230604j:plain

▲さっそくこの取材後に食べた「長崎ちゃんぽん」。カップめんとしては異例の極太めんの食感が楽しく、濃厚スープはかなりの再現度

 

森田:あとは「奈良天理スタミナラーメン(238円)」です。

 

──おお。ご当地ラーメンの中でも、刺激的な一杯ですよね。

 

f:id:pegaman:20201111230855j:plain

 

森田:はい、これはポイントの「白菜」をフリーズドライにしてクオリティを上げたとき、大きく売上に影響が出ました。

 

──ちなみにフリーズドライにすると、コストは上がるんですか?

 

森田:はい、予算とのせめぎ合いです。だから「肉」を入れるのをあきらめました。

 

──大きな決断だ。

 

森田:はい。あとはカップめんに入るかの問題で。ただ「奈良天理スタミナラーメン」は白菜が命だから、肉の味わいはスープで出して、白菜のクオリティに賭けたら、結果的に高評価をいただけました。

 

f:id:pegaman:20201111230950j:plain

f:id:pegaman:20201111231001j:plain

 

──それなら、もうウン十円値上げすれば、白菜も肉も両方入れられるのでは?

 

森田:それでお客さまが手を出せなくなったら意味がないので、値上げは考えていません。

 

──……いま「凄麺」って238円ですよね。もうこれより高いカップめんも当たり前ですから、本当にコストとのせめぎ合いですね。

 

森田:泣きが入るくらいです(笑)。

 

f:id:pegaman:20201111231226j:plain

 

──確かに具材もよく再現されていますが、「あと少しボリュームや生感があればいいのにな」と思うこともあるんですよね……(笑)。コストの問題だったんですか。

 

森田:ええ(笑)。あと具材は限界があるんですよね。カップめんは具材の水分を飛ばして賞味期限を長くしないといけないので、生の具材にかなわないところはあります。そこで生タイプのもやしを使ったり、野菜のブロックを使ったりして実際の具材に近づけています。

 

──確かに、「横浜とんこつ家」のほうれん草のブロックも、「横浜発祥サンマー麺」の生パック野菜も、いい感じでしたね。それもコストぎりぎりの選択なんだなあ。

 

f:id:pegaman:20201111232200j:plain

▲家系ラーメンの雰囲気を高めてくれる、ほうれん草ブロック

 

ラスボス、社長

森田:商品化の際に、最後に「社長試食」っていうのをやるんですけど。もうラスボスなんですよ。

 

──なんか怖いな。

 

森田:はい。発売日が決まってから「あと、ひとひねりないと出せない」と、延期やボツになるんですよ。もう本当、ラスボスなんですけど……クリアするのに、すごく苦労していますね。

 

──最恐のラスボスですね(笑)。

 

f:id:pegaman:20201111232251j:plain

 

森田:(笑)。でもやさしいところもあって、「もう少しだけ原価を上げてクオリティを高めたい……」と必要性を語って頼み込めば、要望に応えてくれることもあります。それだけ質にこだわる人なんですよ。

 

コロナ禍で大ブレイク!

──これ、旅行に行きづらい今の世の中にもいいですよね。

 

森田:そうですね。コロナ禍の当初はカップめんの買い占めもあって、すごい売れ行きでした。緊急事態宣言が明けたあと、一部のスーパーで「おうちで旅行しよう」と、ときには10品、さらには20品全部を、日本地図のボードと一緒に並べてくれたんです。
それ以降は需要がずっと高いままで、全部の商品の売上が上がっています。

 

f:id:pegaman:20201111232401j:plain

 

──せめてカップめんで、日本中を旅したいと考える人がたくさんいたんだ。

 

森田:Go Toトラベルキャンペーンが始まっても、旅に出られない方々も多いですから。家にいながら、旅の楽しさを知るツールに思っていただけたのかもしれません。

 

ギフト用の「スペシャル」がある

──ちなみに、ここに置いてあるセットはなんですか?

 

f:id:pegaman:20201111232746j:plain

 

森田:今年、旅行に行きづらい方のために「凄麺の日(10月29日)」に合わせて作った(好評につき2020年末にも展開中)、ギフト用の6種アソート(1,425円)です。「スペシャル」を1品ずつ入れました。

 

──スペシャル?

 

森田:具材のチャーシューを分厚くしました。

 

f:id:pegaman:20201111233101j:plain

▲「スペシャル」にはそれを証明するロゴが入っている

 

──サイズを比べたら一目瞭然ですね。ラーメンのチャーシューって小さくてどこか儚いですが、圧倒的だ。

 

f:id:pegaman:20201111233314j:plain

▲左がスペシャル、右が通常。厚さが倍以上違う?

 

f:id:pegaman:20201111233338j:plain

▲ドーンと相当な存在感

 

──こんなチャーシュー、カップめんじゃ見たことないな……! セットじゃなくて、50円増しとかでバラで売ってほしいんですが。

 

森田:残念ながら、その予定はありません……!(笑)

 

これからのこと

──ちなみに「凄麺」以外にもご当地シリーズがありますが、どんな工夫をしていますか?

 

森田:「凄麺」シリーズはどれもノンフライめんですが、「ジャンキーだからこそおいしいもの」はあえてフライめんの「ニュータッチ」シリーズで出します。スープもフライめんに合わせたものにしていますね。

 

──確かに、大盛りでドーンとかき込みたくなるラインナップです。

 

f:id:pegaman:20201111235001j:plain

f:id:pegaman:20201112144003j:plain

 

──最後に今後、ヤマダイのご当地ラーメンは、どんな展開を見せていきたいですか?

 

森田:カップめんのジャンクなイメージを払拭して、ふだん食べない方にこそ、食べてほしいです。カロリーもほとんどの商品が300kcal台ですから、女性にもオススメできると思います。ぜひ手に取ってほしいですね。

 

──そうそう、カップめんを愛する僕からも言わせてほしいんですが、総じてカロリーが低いんですよね。僕もダイエット中は特に食べていましたし、スープを残せば塩分も抜けますし。

 

f:id:pegaman:20201111235121j:plain

 

森田:あと、「熟炊き博多とんこつ」や「長崎ちゃんぽん」の例外を除いて、基本的に各営業所がカバーできる地域のご当地ラーメンしか出してこなかったのですが、弊社も営業所を増やしているので、カバーできるエリアが広がれば、今はない地域のラーメンも作れるかも知れません。

 

──猛烈に期待しています!

 

f:id:pegaman:20201111235251j:plain

 

www.newtouch.co.jp

 

書いた人:辰井裕紀

辰井裕紀

卓球と競馬とサッポロ一番みそラーメンが好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当しておりローカルネタが得意。

過去記事も読む

トップに戻る