シュクメルリだけじゃない。ジョージア料理が今日本でアツい理由とは?──創業66年の名店に聞いてみた

ニンニクたっぷりの「シュクメルリ」などで、近年日本でも注目が集まっているジョージア料理。気になるジョージア料理の魅力や「日本人の口に合うの?」などの疑問を、東京・新宿の「スンガリー」にききました。

エリア新宿東口(東京)

大手牛丼チェーンやコンビニで「シュクメルリ」(ニンニクの効いた鶏肉の煮込み料理)が発売されるなど、ここ数年注目を浴びているジョージア料理。

素材の味わいを活かした料理や独特な製法のワインなど魅力は尽きませんが、「ジョージア料理が話題になってから、ジョージアがどこにあるか知った」なんて方も多いのではないでしょうか……(恥ずかしながら筆者もその1人です)。

そんなわけで今回は、東京新宿に店舗を構える老舗レストラン「スンガリー」に「そもそもジョージア料理ってどんなものがあるの?」や、「日本人の口に合うって本当?」などの疑問について聞いてみることに。まずはオンラインでお話を伺ったあと、後日実際にお店にもお邪魔しました!

ジョージア料理は「洗練された田舎料理」? プロに聞くその魅力と背景

今回ジョージア料理について教えていただくのは、スンガリーを運営する株式会社インターダイングループの代表取締役、隅洋一さん。

スンガリーは1957年にロシア料理店として開店し、時代の移ろいとともに東京、および京都でロシア、ウクライナ、ジョージア料理を提供してきたという歴史あるレストランです。

▲隅洋一さん(左)と筆者(右)

JUNERAY(筆者):本日はよろしくお願いします! 早速ですが、スンガリーさんは現在「ジョージア料理を食べられるお店」としても有名ですが、当初はロシア料理店として開店されたと伺いました。

隅さん:こちらこそよろしくお願いします。当店は、創業者である加藤幸四郎氏と加藤淑子氏が移住先である旧満州ハルビンから日本に帰国後、ハルビンで体験したロシア文化への郷愁の念を込めてオープンしました。

とはいえ、スンガリーが開店した1957年はまだソビエト連邦の時代でした。当時の「ロシア料理」という言葉は、ジョージアをはじめ、ウクライナやウズベキスタン、カザフスタンなど、旧ソ連圏全体の料理を指していたんです。その影響で、スンガリーの開業当時も「ロシア料理」とひとまとめに呼んでいました。現在では、各々独立した国になっているので、当店でも「ロシア料理」「ジョージア料理」「ウクライナ料理」と分けて表記することにしています。

JUNERAY:なるほど。「ロシア料理」といっても、さまざまな地域の料理を包括していたということなんですね。

隅さん:ソビエト連邦がもともと多民族国家だったということもあり、これらの地域には、ジョージア料理、ウクライナ料理、ウズベキスタン料理など、今でも多様な食文化が共存しているんです。

JUNERAY:それは、日本でヨーロッパ各国の料理が食べられる、というようなイメージとは異なりますか?

隅さん:似ているけれども、ちょっと違うかもしれません。日本では、海外の料理でも日本人シェフが作ることが多いですが、ウクライナ料理はウクライナ人が、ジョージア料理はジョージア人が、というように、おのおのが自分の地域の食文化を広めていったという感じです。

▲ハチャプリはチーズをたっぷりと包んで焼き上げられたパンで、定番のジョージア料理の一つ。現地にはたくさんのバリエーションがある(写真提供:スンガリー)

JUNERAY:食文化が、グラデーション状に広まっているということなんですね。とても興味深い背景だと思います。ロシア料理とジョージア料理の特徴の違いや共通点は、例えばどんなものがあるのでしょうか?

隅さん:使う食材は、基本的に共通のものが多いです。気候風土による違いや、調理方法や味付けの違いはありますね。食材は似ているけれども、独自の料理文化を作り上げてきたのがジョージア料理といえるのではないかと思います。そこは実際に食べていただきたいところですね。

▲ハルチョーはジョージア料理で、スパイシーな味付けのスープにやわらかく煮込まれた牛肉、お米が入っている(写真提供:スンガリー)

JUNERAY:そうなんですね……。 ジョージア国内では、家庭とレストランで出てくるお料理に何か違いはあるのでしょうか?

隅さん:ジョージアの食文化も近年多様化してきましたし、勉強熱心な若手のシェフが作るジョージア料理には新しい魅力が生まれてきていると思います。でも、家庭で食べる料理のおいしさというのは今も昔も変わらず大切にされている気がしますね。

JUNERAY:食文化が絶えず変化する中でも、家庭で食べる料理はまた格別なんですね。

隅さん:そう思います。近年都市部では現代的なお店もみられますが、昔ながらの家庭料理こそ洗練されている、と感じることも。味へのこだわりや、家庭料理ならではの温かさがありますね。当店では、そのような「洗練された田舎料理」を意識してご提供しています。

ジョージア料理が「日本人の口に合う」といわれるわけ

JUNERAY:日本でも、大手牛丼チェーンがシュクメルリを販売して注目を集めましたが、「ジョージア料理が日本人の口に合う」という意見をどう思われますか?

隅さん:そうですね、大手牛丼チェーンさんの提供したジョージア料理の味に着目すると、ジョージア料理は「白いご飯に合うから好まれやすい」と言えると思います。

JUNERAY:それは日本人にとって重要な要素な気がします……(笑)!

隅さん:家庭料理ということもあり、塩や胡椒、ガーリックなど、シンプルな味付けのものが多いんです。一方、ワインと合わせるのに適した複雑な味わいの料理もあります。

このように、シンプルさと複雑性の両面を持ち合わせている点が、広く受け入れられる要因かもしれません。また、素材のおいしさを活かした味わいという点も、日本の方に親しまれやすい理由の一つなのではないでしょうか。

JUNERAY:世界中の様々な料理の味を知っている日本人にとっても、おいしいと感じられる味わいの懐かしさ、そして新鮮さが魅力なんですね。

▲仔羊の串焼き料理のシャシリーク。ジョージア料理は「世界的に羊を非常においしく調理する国の一つ」と隅さん(写真提供:スンガリー)

隅さん:さらにざっくりお答えするならば、ジョージア料理はもちろんのこと、ロシア料理もウクライナ料理もカザフスタン料理も、現代の日本人の口には合うと考えています。

JUNERAY:なんと……! それは例えば「クセの強い香辛料が少ない」などの理由があるのでしょうか?

隅さん:現代の方に特に受け入れられている理由として、そもそも今の日本に食の多様性があるからでしょうね。

JUNERAY:いろんな料理を楽しむ土台ができている現代だから、より親しまれやすい、と。

隅さん:そうですね。今では世界中の様々な食材に日常的に触れる機会があるからこそ、ジョージア料理など一見遠い国の料理も受け入れられやすいのではないでしょうか。

JUNERAY:なるほど…! ところで、料理文化が海外に輸出されるときって、多かれ少なかれローカライズが起きると思うんです。寿司でいうとカリフォルニアロールみたいなものができるとか。日本に入ってきているジョージア料理も、現地の味と異なっているものがあるのでしょうか?

隅さん:そういうものもあると思いますが、ジョージア料理自体もともと懐が深いので、シュクメルリ一つとっても、レシピが色々あるんです。スンガリーではサワークリームを使ってさっぱりした後味に仕上げることもありますが、これもバリエーションの中の一つです。

▲シュクメルリは、ニンニクをたっぷり効かせた鶏肉の煮込み(写真提供:スンガリー)

JUNERAY:「生クリーム入れる派、入れない派みたいな派閥がある」、なんてお話を聞いたことがあります。日本で言う「家庭のカレー」みたいな感じなんですね。

隅さん:ええ、ですから、言い換えればご自宅でも作りやすい料理だと思いますよ。食材も日本のスーパーで全て揃えることができます

JUNERAY:そうなんですか! 外国料理を作るときって、「専門店に行かないと材料が手に入らない」ハードルが待ち受けているものだと思っていたので、意外です。

隅さん:難しくないレシピもあるので、身構えずに挑戦してみていただいてよいと思います。それこそシュクメルリは簡単ですし、シンプルだからこそのアレンジも楽しめますよ。

気になるジョージアの「アンバーワイン」

JUNERAY:最後にワインについて伺いたいのですが、ジョージアは「ワイン発祥の地」として知られるほど、ワインの生産が盛んですよね。

隅さん:ええ、ジョージアには昔ながらのワイナリーがたくさんありますし、今でも家庭で自家醸造を行っている人が多いです。日本でもジョージアワインはずいぶん知名度が上がりましたね。

JUNERAY:わたし自身ジョージアワインが大好きで……最近では特に「アンバーワイン(オレンジワイン)」が注目されてきていますよね。ジョージアの伝統的なワインの醸造方法が2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されたことも記憶に新しいです。

隅さん:クヴェヴリという素焼きの甕(かめ)を土中に埋めて醸造するワインの製造方法ですね。今では若い造り手を中心に、伝統的な醸造方法に新しい技術を取り込んで、かなり高品質なワインも増えてきました。クヴェヴリに電熱線を巻いて、コンピューターで制御しながら温度管理をしているなんて話も聞きました。

JUNERAY:ええー! 紀元前から使われている道具に新技術を……。アンバーワインは豊かな香りと渋みが特徴的ですが、お店ではどのような料理と合わせて飲まれていますか?

隅さん:アンバーワインはどんな料理にも合わせやすいと言われていて、現地では前菜からメインまでアンバーワインを飲み続けることは珍しくありません。

当店でも、特にアンバーワインに関しては、いわゆるマリアージュを重視せず、好きなものを気楽に飲んでいただくように考えています。料理に合わせるよりも、ワインそのものの味の好みで召し上がっていだたきたいですね。

JUNERAY:日本人に親しみやすい料理とフードフレンドリーなワイン、ジョージア料理が日本でも浸透しつつある理由が分かったような気がします!

とろけるチーズと香り高いワイン。「スンガリー」で食べる絶品ジョージア料理

ロシア料理との関係や、家庭料理としての懐の深さなど、ジョージア料理についてとても興味深いお話が伺えました。

と、ここまできたら自分の舌でジョージア料理を味わってみなければ! ということで、後日実際に「スンガリー 新宿三丁目店」にお邪魔してみました!

スンガリー 新宿三丁目店は、靖国通り沿いの地下にあります。人の往来も盛んな地上から、1歩地下に下りるとまさに別世界。棚にはマトリョーシカ人形などかわいらしい調度品が並び、小旅行をしているかのような気分です。

▲白ワイン(左)/1,050円、アンバーワイン(右)/980円

まずは、ジョージアのぶどう品種を使用した白ワインとアンバーワインをグラスで注文。ほとんど同じ種類のぶどうを使っていながら、製法によってこれほど色合いにも差が出ます。

白ワインは柑橘類や白桃などの香りがあり、南仏の白ワインを思わせる軽やかな味わい。一方アンバーワインは、アプリコットやナッツなどを感じさせる複雑な香りと、やわらかな渋みが特徴です。

▲ハルチョー/1,188円

牛肉を煮込んだスープ、ハルチョーからいただきます。スパイシーな香りがあり、一口食べると、意外と軽い食感に驚きます。ほんのり酸味のきいたスープは、様々なスパイスと牛肉のうま味が溶け込んだ奥深さがあり、西欧のビーフシチューのこってりした味付けとはまた異なったやさしい味わいなので、いくらでも食べ進められそう。お米が入っているのも面白く、「ジョージア風の雑炊みたいだな」と感じました。

▲ハチャプリ/1,848円

チーズの香りを漂わせて運ばれてきたのはハチャプリ。ご覧の通り、チーズがぎっしり詰まった熱々のパンです。「これは日本でブームになりそうだわ〜」と、納得のビジュアル!

表面の生地はサクサクとして薄く、口の中でいろんな食感のチーズがとろけます。モッツァレラチーズのような弾力がありながら、クリームチーズのようなまろやかさ、フェタチーズのような豊かな風味も合わさって、ボリューミーながらついつい手が伸びる味……!

▲シャシリーク/2,178円

こちらは仔羊のフィレ肉を串焼きにしたシャシリーク。羊くささは全くなく、上品でやわらかな肉質に驚かされます。少し甘酸っぱいプラムのソースをつけて食べると、爽やかな酸味で羊肉のうま味がより引き立ちます。ディル、黒コショー、赤唐辛子、ガーリックを漬け込んだ自家製スパイスが添えられていて、合わせて食べると印象がガラッと変わって面白い! 羊肉好きさんには一度は食べていただきたい一皿です。

▲ヒンカリ/1,408円

ヒンカリはジョージア版小籠包。「東洋の食文化からも影響を受けているはず」との隅さんのお話でしたが、トマトソースとパクチーのコンビネーションが新鮮! もちもちの皮が魅力的です。

▲シュクメルリ/2,068円

そして最後はおなじみ、シュクメルリ。フォークだけでほぐせるほど、プレス焼きをした後にやわらかく煮た鶏肉はまさに絶品で、ニンニクの香りが食欲をそそります。スンガリーのシュクメルリはまろやかな酸味がとてもいいアクセントになっています。

▲ロシアンチャイ/680円

食後はジャムとともにロシアンチャイを。バラのジャムの香りに包まれて、今、自分が新宿にいるのを忘れそうなほどに優雅なひとときを過ごすことができました。

料理自体はかなりのボリュームでしたが、味付けがやさしく酸味とスパイスが効いているおかげで、満足感はありながらも、不思議と無理なく食べ切れました。

素材を活かす調理法やシンプルな味付けなど、ジョージア料理自体は意外とヘルシーな印象。例えて言うならば、風邪をひいたときでも食べられそうな上、元気も湧いてきそう……そんな料理です。

名店・スンガリーのジョージア料理は、上品さが漂いつつ、一口食べればどこか温かい気持ちになる、まさに「洗練された田舎料理」でした。

ジョージア料理に興味を持った方、その魅力を体感してみたいという方は、ぜひ一度足を運んでみてください!

お店情報

スンガリー 新宿三丁目店

住所:東京新宿新宿3-21-6 新宿龍生堂ビルB1
電話番号:050-5831-3420
営業時間:月~木: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
17:00~22:00 (料理L.O. 21:00 ドリンクL.O. 21:30)
金、祝前日: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
17:00~22:30 (料理L.O. 21:30 ドリンクL.O. 22:00)
土、祝日: 11:30~15:30 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
17:00~22:30 (料理L.O. 21:30 ドリンクL.O. 22:00)
日: 11:30~15:30 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
17:00~22:00 (料理L.O. 21:00 ドリンクL.O. 21:30)

定休日:年中無休、年末年始・ビル設備点検日に休みあり。
12月31日のランチまで営業。12月31日ディナー~1月4日まで冬季休業

www.hotpepper.jp

書いた人:JUNERAY

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、クラフトビアアソシエーション認定ビアテイスターの元花屋。たまにバーテンダー。記事を書いたり、ドリンク開発をしたりします。

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