いきなりですが、皆さんは家庭で大阪風お好み焼きを作られますか?
私は土日のお昼によく息子に作ってあげるのですが、なんと言うんでしょうか。お恥ずかしいことに、息子は私が作る大阪風お好み焼きが好きではないみたいなんです。
▲いつも作っている大阪風お好み焼き
目の前に大阪風お好み焼きを出すと、明らかに表情は渋くなっていき、完食しないこともしばしば……。息子が残した大阪風お好み焼きを肴に、1人ビールを飲むわけです。
それ故に、
「大阪風お好み焼きをもっとうまく作れるようになりたい!!」
と、何度も思う機会があったわけです。
▲料理研究家の樋口さん(画像提供:樋口直哉)
そんな心の声が届いたのかは定かではありませんが、タイミングよく料理研究家の樋口直哉さんに大阪風お好み焼きの作り方を伺えることに。
ということで本日は、大阪風お好み焼きを家庭で上手に作る方法を徹底的に伺っていこうと思います。
なぜ私の大阪風お好み焼きは息子に不評なのか? 樋口さんに聞いてみた
キンマサタカ(以下、キン):樋口さん、今日はよろしくお願いします。
樋口直哉(以下、樋口):よろしくお願いします。大阪風お好み焼きは構造的な料理なので、コツやポイントを理解できていないと上手に作りづらいんです。お店と違って家では鉄板も使えませんし。
今回は家庭でできる範囲に絞って、いろいろとお話しできればと思います。
キン:大阪風お好み焼きをうまく焼けるようになりたいので、いろいろと教えてください。
樋口:いきなり作り方やポイントを教えてもいいのですが、まずは大阪風お好み焼きを作る様子を簡単に見せていただけますか?
キン:もちろんです! 改善点があればどんどん教えてください。
樋口:はい、ではお願いします!
キン:まずはキャベツ2〜3枚を刻んでいきます。
キン:次に大きめのボウルに、刻んだキャベツと紅生姜、生地を入れてよく混ぜ合わせます。
キン:サラダ油を引いたフライパンに生地を流し入れて、上に豚バラ肉をのせます。よく中まで焼けていないことがあるので、弱火でじっくり焼き上げます。
キン:最後にお好み焼きソースとマヨネーズ、青のりをかければ完成です! 樋口さんどうでしょう? 改善するポイントは見つかりました? 結構ベーシックな作り方だとは思うんですが……。
樋口:ありがとうございます。いくつか改善点が分かりました。では材料の分量や手順とともに、ポイントをお教えしていきます。
キン:改善点、すごく気になります。手順に沿って詳しく教えてください!!
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方
材料(1~2人分)
- 薄力粉……90g
- 出汁(和風顆粒だし5gを水で溶いたもの)……200ml
- 山芋……50g
- 塩……小さじ1/2
- キャベツ……340g
- 青ネギ……50g
- 紅生姜……20g
- 天かす……大さじ2
- 卵……2個
- 豚バラ肉……120g
- お好み焼きソース……適量
- マヨネーズ……適量
- 青のり……適量
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 キャベツのカット編
樋口:まずはキンさんの工程と同じくキャベツからカットしていくんですが、早速1つ目の改善点であり、大阪風お好み焼きを美味しく作る重要なポイントがあります。
キン:キャベツのカットが最初の改善点ですね。詳しく教えてください。
樋口:いくつか改善点があるんですが、まず1つ目はキャベツは外側と内側の葉をバランスよく使うことが重要です。
樋口:先ほどキンさんは外側の葉のみを使っていたと思うんですが、ここを変えると、全体のふわっと感がガラッと変わると思います。
キン:なるほど。ちなみに外側と内側の葉をバランスよく使うとどんなメリットがあるんでしょうか?
樋口:キャベツは外側と内側の葉で厚みや固さが異なります。後ほど説明しますが、大阪風お好み焼きはいかに生地の中に空気を含ませられるかがポイントになるので、外側と内側の葉をバランスよく使うことで、生地の中が立体的な構造になり、空気が入りやすくなるんです。
キン:なるほど! 外側から剥いで使うのではなく、全体をバランスよく使うことが大事なんですね。
樋口:そういうことです! あとはカットの仕方も改善するといいと思います。キンさんはキャベツを均等にカットしていましたが、大阪風お好み焼きの場合は、あえてサイズ感をそろえずにやや大きめの粗みじんにする方が美味しく仕上がります。
キン:均等ではない大きめの粗みじんの方が、生地の中に空気が入りやすくなるからですか?
樋口:その通りです! なので、キャベツの使い方を意識すれば、よりふわっとした大阪風お好み焼きを作りやすくなると思います。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 キャベツのカット編でのPOINT
- キャベツは外側と内側の葉をバランスよく使うこと。
- キャベツはサイズ感をそろえずに大きめの粗みじんにすること。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 生地編
樋口:続いて、生地の作り方にいきましょうか。
キン:はい、お願いします。
樋口:薄力粉に顆粒和風だしの素を水で溶いた出汁、塩を入れてよく混ぜ合わせたあとに、すりおろした山芋を入れて軽く混ぜれば、ベースとなる生地は完成です。
キン:いつもちょっとダマがあるくらいに軽く混ぜ合わせていましたが、よく混ぜた方がいいんですね。あと、薄力粉と出汁で生地を作っていたんですが、すりおろした山芋はやっぱり入れた方がいいですか?
樋口:まず生地についてですが、山芋を入れる場合はよく混ぜた方がいいでしょう。薄力粉と水はしっかりと混ぜ合わせることでグルテンが形成され、生地に固さが生まれるので、キャベツなどの具材がバラバラになりづらくなります。
そこに山芋を入れることで生地がほどよく柔らかくなり、ちょうどいいバランスになるんです。家庭で大阪風お好み焼きを作る場合は、生地をよく混ぜてから、すりおろした山芋を入れると美味しく仕上がりやすいと思います。
キン:逆に山芋を入れない場合は、生地をよく混ぜない方がいいんですか?
樋口:山芋を入れない場合は、生地を混ぜすぎない方がいいでしょう。グルテンが強く出て生地が固くなってしまうので。
ただ、サラサラした生地で大阪風お好み焼きを作るのは技術が必要です。ですので先ほどと重複しますが、家庭で作る場合は生地をよく混ぜてから、すりおろした山芋を入れる方がいいと思います。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 準備編
樋口:では、準備編にいきますよ。
キン:準備編ですか。生地に具材(キャベツ、青ネギ、紅生姜、天かす)を合わせるだけですよね?
樋口:その通りなんですが、実はここに最大のポイントがあり、キンさんの大阪風お好み焼きをグッと美味しくする改善点があるんです。
キン:そうなんですか! ぜひ教えてください。
▲先ほど作った生地
樋口:先ほどのキンさんが混ぜ合わせた生地ですが、これだと混ぜすぎかなと思います。
キン:生地と具材を混ぜすぎですか……。
▲理想的な生地の混ざり具合
樋口:理想はこのくらいです。生地に具材を混ぜ合わせるタイミングで卵を割り入れ、全体に空気を含むように、スプーンやヘラを使って下からすくうように混ぜてください。黄身が全体に混ざりきっていないくらいがベストだと思います。
キン:完全に混ざっている状態ではない方がいいんですね。ちなみになぜ生地と具材はよく混ぜ合わせない方がいいんですか?
樋口:生地と具材をよく混ぜてしまうと、せっかく空気が入るようにカットしたキャベツの間に生地が入り、生地の中の空気が抜けてしまいます。全体に空気を含ませるように軽く混ぜ合わせた状態で、すぐに焼き始めるのが重要なんです。
キン:なるほど! すごく論理的で腑に落ちました。
樋口:あとは同様の理由で、1人分ずつ小さな器などに入れて作った方がいいですね。
キン:家庭で大阪風お好み焼きを作る時は、人数分の生地と具材を最初に混ぜてしまっていたんですが、そうすると生地に空気が入らなくなってしまうわけですね。
樋口:はい。大阪風お好み焼きのお店では、小さめの器に生地と具材が混ざっていない状態で提供されることが一般的で、それには理由があるんです。
キン:具材がポロポロ落ちるので、「なんでもっと大きいボウルにしてくれないんだよ!」と思っていたんですが、大阪風お好み焼きを美味しく作るための重要なポイントだったんですね。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 準備編でのPOINT
- 生地と具材は焼く直前に合わせ、空気を含ませるように軽く混ぜること。
- 小さめの器などで1人分ずつ生地と具材を混ぜ合わせること。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 焼き方編
キン:樋口さん、ここまでものすごく勉強になってます! 次は焼き方編ですよね。ここにも大阪風お好み焼きを美味しくするポイントはありますか?
樋口:はい、焼き方編の最後にポイントがありますので、お伝えしていければと思います。
▲大阪風お好み焼きを焼いている様子
樋口:まず改善点ですが、先ほどキンさんは中まで火が入るようにと、最初から弱火でじっくり焼いていましたよね。
キン:はい、以前に中まで焼けていないことがあって。
樋口:最初の火加減は200℃〜220℃の温度で焼くことが非常に重要なんです。フライパンなら中火でうっすら煙が上がるくらいで生地を流してください。
キン:そんなに高温で焼いたら中まで火が入る前に焦げちゃうじゃないですか? なぜ最初は高温で焼くのが重要なんでしょう?
樋口:簡単に言うと、大阪風お好み焼きは「焼く」と「蒸す」で美味しく仕上がる料理なんです。はじめに焼く工程で生地を膨らませます。この時火が弱すぎると、生地に火が通る前に空気が抜けてしますので、ぺったりしてしまうのです。
生地を高温で素早く焼いてひっくり返せば、焼けた生地が蓋の役割を担います。それにより、キャベツから出た水蒸気が留まることで蒸され、焼きと蒸しが同時並行して行われる状態になるわけです。
キン:なるほど。大阪風お好み焼きを美味しくするために、最初は高温であることが重要なんですね。
樋口:はい、その通りです。火の通りが心配なら、生地を流したら蓋をして、弱火に下げます。これで160℃くらいで加熱ができます。
キン:ちなみに豚バラ肉ですが……。まず豚バラ肉をフライパンに敷き、その上に生地を流し入れた方がいいですか? 先に生地をフライパンに流し入れ、その上に豚バラ肉をのせた方がいいですか?
樋口:豚バラ肉は蓋の役割も果たすので、生地の上にのせるのがいいと思います。
キン:ちなみに生地をひっくり返すベストな瞬間はありますか?
樋口:フチの部分が乾いて黄色っぽくなったら、お好み焼きの中心部が70℃を超えて、ある程度固まっているので、このタイミングでひっくり返すといいですよ。空気が抜けないように優しくひっくり返すのもポイントです。
キン:ちなみに、ひっくり返す時によく失敗するんですが、原因は焼きが甘いからですかね?
樋口:ひっくり返す時に失敗してしまうのは、焼きの甘さと入れる具材の量が多すぎるからかもしれません。1人分の分量ずつ焼いて、フチが乾いて黄色くなったタイミングでひっくり返せば、失敗する可能性はかなり抑えられると思います。
キン:なるほど。火加減と入れる生地の量が多いことが失敗の原因になっているわけですね。ポイントを押さえれば問題なくひっくり返せました。
ここからはどのように調理していくんですか?
樋口:ひっくり返したあとは、さらに5〜6分ほど蒸しと焼きの工程を同時並行して行っていきます。この時に、中身の空気を潰すように上からギュッと押し付けるのはNGです。
キン:最初は強火で次は弱火ですね。
作り方を丁寧に解説していただくと、樋口さんが「大阪風お好み焼きは構造的な料理」と言っていた意味がよく分かります。
樋口:そうなんです。はじめは庶民的な料理でしたが、次第に作り方が洗練されていった食べ物だと思います。
樋口:裏面が焼けたらもう一度ひっくり返して、火を強めて中火で表面をカリッと焼き上げれば、焼きの工程は完了です。
▲ふっくら感をお伝えするためにLサイズの卵を置いてみました
キン:いつも焼いている大阪風お好み焼きと比べると、サイズがひと回り小さく、ふっくらとした厚みがある焼き上がりになりました。樋口さんに教えてもらいながらポイントを押さえて作ると、仕上がりがまるで違いますね!
樋口:山芋は加熱すると膨らむ性質があるので、厚みが出ているんだと思います。キャベツの切り方と山芋の性質がうまく作用することで、よりふっくらした仕上がりになります。
最後に、お好み焼きソースとマヨネーズをかけて、青のりをふりかければ大阪風お好み焼きの完成です。お好みでかつお節(分量外)や辛子(分量外)などを添えてもいいと思います。
キン:ソースをかける工程でポイントはありますか?
樋口:そうですね。大阪風お好み焼き自体は淡泊な味わいなので、しっかりお好み焼きソースをかけるべきだと思います。お好み焼きソースの味わいが肝になる食べ物なので、そこはケチらない方がいいです。
キン:ちなみに、中濃ソースなどで代用することは可能でしょうか?
▲左:中濃ソース 右:お好み焼きソース
樋口:できれば、お好み焼きソースを使っていただきたいですね。中濃ソースだと物足りない味わいになってしまいます。
お好み焼きソースは中濃ソースに比べて、野菜や果物の繊維質を多く含み、果物の甘みやうま味がしっかりと味わえるように仕上げられているものが多いことが特徴です。
お好み焼き自体は淡泊な味わいなので、しっかりと生地の上にのり、うま味が強いお好み焼きソースを使用すべきだと思います。中濃ソースを使う場合は、1/3程度のトマトケチャップと少量のはちみつで調整してください。
キン:なるほど。ソースの違いを聞くと、お好み焼きソースをマストで使うべきだと理解できました。
樋口:良かったです。ぜひできたてを味わってみてください。
キン:どんな味なのか食べるのが楽しみです! 樋口さん、本日は丁寧に教えていただきありがとうございました!
樋口:私も楽しかったです。ぜひ美味しい大阪風お好み焼きを息子さんに振る舞ってあげてください。
樋口さんに聞く大阪風お好み焼きの作り方 焼き方編でのPOINT
- 焼き始めは200℃〜220℃の高温で生地を一気に焼き固めること。
- ひっくり返す時は空気が抜けないように優しく返すこと。
- 上からヘラなどで押すのはNG。
樋口さんに教わりながら作った大阪風お好み焼きを食べてみた
息子に作ってあげる前に、まずはできたてを食べてみます。
まず口に入れた瞬間に、外のカリカリ感と中のふわふわ感が段違いで、正直びっくりしてしまうほどのクオリティーでした。
箸を入れた瞬間に違いが分かるほどで、じっくりと蒸されたキャベツの甘み、豚バラ肉とお好み焼きソースの濃厚なうま味、ほんのり出汁が効いた生地が合わさり、箸が止まらなくなる味わい。
断面を見ると、大阪風お好み焼きの中に空洞があるのが目視できるかと思います。この空洞がキャベツの美味しさを引き出しているわけですね。
正直、ほとんど同じ材料を使って、少し作り方を工夫しただけでこんなにも美味しくなるのかと思うほどでした。これなら息子も食べてくれるんじゃないかと自信を得ることができました。
さて、早速週末に樋口さんに教わった大阪風お好み焼きを息子に作ってみました。
「今回はいつもの大阪風お好み焼きとは違う。料理のプロに作り方を教わったから、きっと美味しいはず」とひと言添えた上で食卓にサーブ。
息子からは「なんかいい香りがする」とひと言。熱々の大阪風お好み焼きの上にふりかけた青のりが彼の鼻腔をくすぐったようです。
箸を手にして恐る恐るひと口。無言のままもうひと口。その様子を見守る私。一体どんな感想がくるのかと身構えた瞬間……。
「うまい!」
と息子がひと言。
間髪入れずに「どううまいの?」と聞くと、「甘くてうまい」という感想を頂戴することができました。
小学生らしいアホな答えではありますが、じっくり蒸し焼きにしたキャベツとお好み焼きソースの甘みを感じたんじゃないかなと思います。
どうやらお気に召したようで、あっという間に完食してくれました。ということで、無事美味しい大阪風お好み焼きを作れるようになりました。
まとめ
今回は、料理研究家の樋口直哉さんに大阪風お好み焼きを家庭で上手に作る方法を丁寧に教えていただきました。
工程ごとに、たくさんのポイントを教えていただいたのですが、大阪風お好み焼きの中にいかに空気を含ませてふんわりと仕上げるかという点が一貫しているように思いました。
実際に作ってみましたが、ポイントを押さえて作ることで、でき上がりの完成度はかなり変わると実感できました。大阪風お好み焼きを作る時はしっかりと意識して作っていきたいなと思います。
工程の中に複雑で難易度が高い作業はなかったので、気になった方は、ぜひ樋口さんのレシピを参考に大阪風お好み焼きを作ってみてくださいね。
機会があれば、広島風お好み焼きを上手に焼く方法も樋口さんに伺えたらと思っています。
樋口さんから教わった美味しい大阪風お好み焼きを作るためのポイントまとめ
- キャベツは外側と内側の葉をバランスよく使うこと。
- キャベツはサイズ感をそろえずに大きめの粗みじんにすること。
- 生地と具材は焼く直前に合わせ、空気を含ませるように軽く混ぜること。
- 小さめの器などで1人分ずつ生地と具材を混ぜ合わせること。
- 焼き始めは200℃〜220℃の高温で生地を一気に焼き固めること。
- ひっくり返す時は空気が抜けないように優しく返すこと。
- 上からヘラなどで押すのはNG。
書いた人:キンマサタカ
編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)