町中華のチキンライスって、なんであんなにおいしいのだろう
町中華に行って、メニューにチキンライスがあればできるだけ注文するようにしています。なぜかと言えば、町中華のチキンライスはおいしいからです。なぜおいしいかは、このあと説明しますね。
というわけで、最高にうまいチキンライスを提供するお店、新小岩にある五十番にやってきました。
典型的な町中華の外観ですよ。のれんもいい感じですね。
もちろん店内も昔懐かしい町中華の雰囲気です。
壁にかけられたメニューも味があります。
椅子やテーブルの雰囲気は昭和を感じさせますね。
ラーメンは400円という安さ。だけどしっかりうまい!
まずは、町中華の代表選手とも言えるラーメンを注文してみましょう。
▲ラーメン(400円)
税込みでこのお値段です。
これで、こちらのお店の素晴らしさがわかってもらえると思います。
少し前まで380円でしたが、材料費が上がったことで2022年10月から400円になりました。スープは鶏ガラ、豚ガラでとっています。
優しい味で、毎日でも食べられそうな感じです。大きなチャーシュー、ナルト、わかめ、ネギという具材。どれをとっても素晴らしいわけですよ。
こういうラーメンを食べさせてくれるお店ですから、いい町中華に間違いないわけです。
なんと“チキン”ライスの具材が豚肉!
それでは、チキンライスを注文しましょう。
▲チキンライス(サイドスープ付きで600円)
ほどなく提供されたのがチキンライス。
ちゃんとサイドスープも付いていますよ。食べ始めるとわかるのですが、ご飯がけっこうな量なんですね。
具材は肉に玉ねぎというシンプルさです。よく炒められていて、香ばしいのがいいですね。
そして、こちらのチキンライス、最大の特徴は、具材の肉が鶏肉ではなく、ポーク、すなわち豚肉なんですよ。
うまさのポイントは鶏肉ではなく豚肉を使っているところなんでしょうか。
しかし、豚肉を使っているのならチキンライスじゃなくてポークライスですよね。
そこで、なぜ豚肉なのにチキンライスなのか、店主に聞いてみました。
先代からこのスタイルなんです
こちらが、店主のMKさん(66歳/※本人のご希望により本名は伏せさせていただきました)。
MKさん:うーん、これ先代からそのまま受け継いでやっているんで、理由は特にわかんないんですよ。
ちなみにこちらの五十番の創業がいつかと聞けば、一緒に働いているSMさん(65歳/本人の希望により本名は非公開)は「オリンピックの次の年、昭和40年ですね」と言います。
ちなみにオリンピックの次の年というオリンピックとは、1964(昭和39)年の東京オリンピックのことです。
現在店主のMKさんがこちらで働き始めたのが1972(昭和47)年。もう1人の調理人であるSMさんがその3年後の1975(昭和50)年に、こちらで働き始めています。
MKさん:ウチは、もともとは神田須田町にあった五十番というお店の系統なんです。
MKさんが先代からお店を引き継ぎ、二代目となったのは1988(昭和63)年。お店を引き継ぐ条件はMKさんのお姉さまと一緒に働くことだったそうです。
それで、現在もお姉さまがホールを担当しています。
なんと、親子丼の具材も豚肉なんです
チキンライスの具材が豚肉だと驚いていると、なんと親子丼に使っている具材も豚肉なんだそうです。
親子丼の注文を受けるとホール担当のお姉さまは「豚肉なんですが、いいですか」とお客さんに聞くようにしてます。
先日、こう言われた若い女性が「だったらいいです」と別のものを注文しているところに出くわしました。なんともったいないって思いましたよ。
だってここの親子丼、めちゃくちゃおいしいんですから。
▲親子丼(600円)
親子丼という名前ですが、こちらも使っている具材は豚肉。
おそば屋さんなんかでは「他人丼」として提供されているメニューです。豚肉、野菜をラーメンなどに使うスープで煮て、卵でとじてあるんです。うま味満載の一品。
他では絶対に味わえない、ここ五十番にしかない親子丼ですよ。
再び質問「チキンライスの具材が豚肉なのはなぜ?」
さらにこちらのお店には「肉てんぷら」というメニューがあるのですが、当然ながらこの具材も豚肉です。そもそも豚肉はどの部位を使っているんですか?
MKさん:わかりません。仕入れをしている肉屋さんからすでに切ったものが来るので、それを使っているだけなんですよ。
さっそく見せてもらいました。
すべての料理にこちらの豚肉を使っているそうです。
そこで、再び質問してみました。チキンライスの具材が豚肉である理由も、それなのでは?
MKさん:たぶん肉屋さんからの仕入れの問題なんでしょうね。ラーメンなどのスープ用に鶏ガラは仕入れているんですけど、鶏肉そのものは仕入れていないんですよ。なので、ウチにある肉の材料は豚だけなんですね。
とのこと。もちろん初代が始めたメニューなので、これはMKさんの想像なのですが、僕はそれが正しいと思っています。
というのも、他の町中華でもチキンライスに豚肉を使っているお店がけっこうあるのです。たぶん、そういったお店でも鶏ガラは仕入れているけれど、鶏肉は仕入れをしていないので、チキンライスに豚肉を使っているんだと思います。
もちろん、なかにはチキンライスという名前ではなく、ポークライスという名前で出しているお店もあります。
いずれにしても、食材のロスを減らすために使う具材を豚肉で統一したんじゃないかと僕は思っています。
さらに昔のお客さんは、チキンライスの具材が豚肉なのか鶏肉なのか、さほど気にしなかったのではないでしょうか。
ケチャップで炒めてあれば、「まあ、チキンライスだよね」って思ったんじゃないでしょうか。
作っている過程でわかる、チキンライスのうまさのポイント
まず、チキンライスのうまさのポイント①。油はラードを使っているんですね。
中華鍋にラードを入れます。
ラードで炒めるのが、うまさのポイントだそうです。
そこへ玉ねぎ、豚肉が入ります。
玉ねぎはけっこう大きめにカットされています。
中華鍋にご飯を投入して炒めます。
いよいよここにケチャップが入りますよ。
ケチャップはけっこうな量を使います。
そしてうまさのポイント②。よく炒める!
なかなかの量のケチャップが入りますが、酸味は強くありません。よく炒めることで香ばしさが出てきます。
炒めたチキンライスをお皿へ。
一時、オムライスの提供が中止されていた理由は……
さて、ここからさらにオムライスを作っていきます。
チキンライスの先にオムライスがありますからね。
卵を2個割って、お玉に入れ、中華鍋で焼きます。
絶妙な卵の焼き加減。まさに職人技です。
美しく焼き上がった卵を、チキンライスにかぶせます。
このあと、皿に盛られたオムライスをSMさんが受け取り、ふきんで卵部分の形を整え、ケチャップをかけて出来上がりです。まさに熟練の共同作業です。
▲オムライス(サイドスープ付きで730円)
はい、こちらがお店の看板メニューのオムライスです。ところで今から3年ほど前、このオムライスが提供されない時期がありました。
きっかけは、こちらのオムライスが某グルメサイトに「最高峰の昭和系オムライス」と紹介されたことでした。
それで多くのお客さんが押し寄せ、オムライスを注文するようになりました。
しかし、タイミングが悪いことに、ホール担当のお姉さまが体を壊して休んでいるときに重なったので、十分に対応できなくなり、オムライスの提供は中止したんだそう。とはいえ提供をやめたのはオムライスだけで、チキンライスの提供は続けていたそうです。
3カ月ほどオムライスの提供はお休みしたんだそうですが、今は提供されています。
作り方を見てもらえればわかると思いますが、オムライスの卵の下はチキンライスで、このチキンライスで使っている具材は豚肉というわけです。
まさに町中華のオムライスの最高峰ですな。
撮影:平山訓生
お店情報
五十番
住所:東京都葛飾区新小岩2-13-4 1F
電話番号:03-3674-0845
営業時間:11:30~20:00
定休日:水曜日(※定休日は変更になる場合もあるので、来店前にご確認ください)
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。