【姫乃たま】サブカル好きが集う東中野「BAR バレンタイン」でナゼかモテを学ぶ【今夜もヒミツ酒:8軒目】

f:id:Meshi2_IB:20160615101639j:plain

誰にでも秘密はあります。たとえば、故郷などないような顔をしている酒場の人たちにも、きっと。おいしいごはんとお酒に緩んだ、その口元から溢れる、あなたの秘密を教えてくれませんか。

 

扉を開けると、上下左右にサブカルワールドが

中央線の列車を降りて東口に出ると、駐車場におじさんがぽつりと立っていて、暗がりで少しだけ揺れながらひとり佇んでいて、ああ、東中野に着いたあと思いました。

f:id:Meshi2_IB:20160615101703j:plain

今夜訪れる「BAR バレンタイン」は、

f:id:Meshi2_IB:20160616175328j:plain

 

東中野駅から徒歩16秒(くらい)。

f:id:Meshi2_IB:20160615101956j:plain

 

昭和風の雑居ビルを3階まで上ります。扉を開けるとそこには……。

f:id:Meshi2_IB:20160616093808j:plain

 

映画、プロレス関連のグッズが天地左右ところ狭しと並んでいて、むせかえるようなサブカル空間!

f:id:Meshi2_IB:20160615102150j:plain

今夜も「BAR バレンタイン」の客席では、イベントが3つくらい企画できそうな豪華メンバーが気楽に飲んでいます。ライターや、編集者、女優さんや……。顔見知りじゃない人同士も、プロレスや映画など共通の話題で盛り上がって、あっという間に意気投合しています。

f:id:Meshi2_IB:20160616181536j:plain

 

しかしこのお店、客席も濃いですが、バーカウンターに立つ店員さんも濃い!

f:id:Meshi2_IB:20160615102113j:plain

写真左からラブオさん、雅さん、マスターのMUNEさん。なお、それぞれ手に持っているのはもちろんダミーですよ。店内で使用されることはありません!

姫乃たま(以下、たま):しかしラブオさん、おっきいですね~。

ラブオ:105キロあります。

たま:かっこいい!

MUNEさん:ラブオ君は学生プロレスしてて、いまは卒業してプロレスラー志望。そういえばこの間、めちゃくちゃデカい外国の人来たよ! 背中とお腹が同じくらい出てて、みんな触りたーいって、このお店ではモテまくってた!

たま:球体……いいですね~。

 

ここの店長であるMUNEさんは知る人ぞ知るTシャツブランド「ハードコアチョコレート(略してコアチョコ)」の代表兼デザイナー。

 

シンプルだけど奥深い官能小説の世界

今夜、お話をうかがうのは作家の大泉りかさん。女性向けのエッセーから男性向けの官能小説まで、幅広く執筆活動をされている大先輩です。つい最近、新刊『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)を発表されたばかり。

f:id:Meshi2_IB:20160615102241j:plain

お互い結構な酒飲み。午前中は起きられないという点も私と同じです

りかさんの書いたモテ本『もっとモテたいあなたに 女はこんな男に惚れる』(文庫ぎんが堂/イースト・プレス)、話題ですけど、どうしてモテ本を書こうと思ったんですか?

 

この店に来ている人にモテて欲しくて……。


えっ?

 

いや、もともとは創作の文章が書きたくて、ずっと書き溜めてて、26歳くらいの時に飲み会で会った編集者に読んでもらったら、「出せるかどうかわかんないけど枚数足りないから書き足してみる?」って聞かれたんです。それを書き直して出版したのがデビュー作。若い女子にありがちな、自分の経験を元に書いた小説だったんだけど、たまちゃんが地下アイドルに関する本を出したのと同じ感じかな?

 

そうですね、私も本を出版してますけど、飲み会で持ち込んでデビューって初めて聞きました!

その後は、ケータイ小説で殺し屋とうっかり殺人を犯しちゃった女の子のサスペンスを書いたり……。当時はメルマガで配信されてたんだけど、今思い出すと、時代を感じるね! で、それを読んでくれた知り合いの編集者が、ラノベの部署に異動した時に「書いてみる?」って誘われて、お色気ドタバタコメディーを書いたりしていたら、そのうち官能小説の雑誌から声がかかって。

 

官能小説って書いたことないですけど、いろいろと難しそうですよね。

官能小説って構造はすごくシンプルで「オトコとオンナがいて、会って、交わる」ってだけなんですよ、極端に言えば。肝心のシーンも「この後どうしよう……むしろ、こういうことがされたい」って妄想するわけだから、楽しいは楽しいんだけど、その前段階での出会い方を考えるのが大変かも。たとえばこういうバーの店主で、奥さんがいて、バイトの女の子から誘われて、お客さんとして来たアイドル に誘われて……みたいなのを考えるわけだけど、そこにリアリティを出すのが難しいんですよね。だってそんな都合のいいシチュエーションなんてないし(笑)。ほかにも出版社によっては、10ページに一度は結ばれてくださいとか、女の子が複数人出てこないといけないとか、縛りがある時もあります。

f:id:Meshi2_IB:20160615102301j:plain

 

モテ本の執筆動機は「趣味人にモテて欲しかった」

ほかの女流作家の方ってどういう作品を書いてるんですか?

 

女性の情念を書く人もいるし、飛行機の元客室乗務員の人で、そっち系ばっかり書いてる人もいる。


私もそうですけど、女性は実体験を元にして書く人が多いんですね。

そうだねー。妄想を書くのは男性が多いかも。

f:id:Meshi2_IB:20160616181045j:plain

ちなみに書きたくない時とかないんですか。

あるあるある! 章が書き終わった時に作業を止めるとキリが良すぎて、次に書き出すタイミングがなかなかつかめなくて。章を書き終えたら、次の章を3行でもいいから書くようにしてる。

 

そういえば、中学の時に数学の先生が、応用問題で終わりにしないで、基礎問題を少し解いたところで止めましょうって言ってました!

 

小説は男性の都合が良いように書くんですか?

 

まあ、そうなんだけど、読んだ男性のためになるように「○○してもらったから、好きになっちゃった」とか、女性が喜ぶポイントをあえてヒロインに言わせるようにしてます。「オンナの気持ちに気づけ~」って念じながら。


少しモテ本に通ずるところがありますね!

 

モテ本は読者のターゲットを決めるのが難しくて、モテる人がもっとモテるための本と、本気で結婚したい独身の人が読む本は違うじゃない?


はー、難しいですね。どうやって決めてるんですか?

ターゲットはこのお店で飲んでるような人たちかな(笑)。映画とかプロレスとかが好きな趣味人で、独身で、Tシャツの柄でおしゃれしてる人たち。


あー、トップスの形とかじゃなくて、Tシャツの柄がおしゃれのすべてという感じの。私はすっごく好感持てますけどね。

 

「クエ食べよう」なら誘ってもOK

f:id:Meshi2_IB:20160616181517j:plain

もしかして、『メシ通』はモテに使えるんじゃないかなあと思うのですが。

ライターさんが書いてくれたうんちくを女の子に紹介できるのはいいよね。ラーメン店に連れて行かれても、ここのラーメンのどこがおいしいとか特徴を教えてもらえたら楽しい。

 

ああ、いいですね! しかも『メシ通』の内容なら、しつこくなくて丁度いい。

ちなみに私は焼き肉みたいに共同作業できて、一緒にわいわいできる飲食店デートを推奨しています!


そういえば、飲み会で山羊の肉を食べた時は無差別に恋心が芽生えそうになりましたね。山羊のあまりの臭いに吊り橋効果が……。

そうそう、そういうの楽しいよね! あんまり食べたことないものを食べに行くのもいい。トルコのお酒とかね。水を入れると白くなったりするし。

 

えー、それは行ってみたい! 相手がどういうリアクションをとる人なのか知ることができるのもうれしい。

あと若い子だと、そんなに高くないお寿司屋さんでも、カウンター座っただけで「初めてなんです」って喜んでくれたりするよ。刺身からちゃんと食べると高くなるので、盛り合わせを頼んでから、好きなものを頼むのがおすすめ。旬なものを食べに行くのもいいよね。


んー、たとえば……芽キャベツ!

芽キャベツ(笑)!

 

小さーい! でも中はキャベツ! ってなります。

f:id:Meshi2_IB:20160615102313j:plain

そういえば、私クエって食べたことないの。

 

あー、「クエ食べに行こう」って誘われたら行っちゃいますね!

そんなに好きじゃない人から飲みに行こうって誘われても困っちゃうけど……。

 

「クエ食べに行こうよ」だったら行きますね!

クエってひとりで食べるのもあれだし、女ふたりで食べるのも何だかなーってなるしね。


おしゃれで高級な料理だともう「おいしい」って言うしかないので、その点でクエとかトルコのお酒とかは冒険してる感じがあっていいですよね。

値段が高そうな料理は相手の男性に対して、変なプレッシャーもあるしね(笑)。私の場合、シェアして食べるのが好きだから、おしゃれなお店に入ったら、お皿は全部デカイくせに、肝心の料理が小っさくて気まずい思いしたこともある。

 

わはは!!

 

「美味しくなかったネタ」でむしろ盛り上がりたい

f:id:Meshi2_IB:20160616181939j:plain

ところで、りかさんてモテには昔から関心があったんですか?

そうですね。モテって一言でいっても、どうモテたいのかって人に寄って様々なんですよね。「彼女・彼氏が欲しい」「結婚したい」「たくさんの人に言い寄られて、その中から一番いい人を選びたい」「とにかく異性にチヤホヤされたい」「不特定多数と身体の関係を結びたい」……。それぞれ望むものが違う。

わたしは、サブカル趣味の男子、趣味人が好きなんですが、あんまり女性に対しては至らないというか女心を知らないというか、勘違いしている人が多い……。それでいて「俺たちなんてモテない」っていって卑下しすぎている。「そうじゃないよ!」って思ったのが、関心を持ったきっかけかな。彼氏が欲しいっていう女のコに「どういう人がいい?」っていうとだいたい「普通でいいです」って言う、その女の言う“普通”を解説してます。


趣味があると、なかなかデートに使う予算の配分に至らないっていいますよね……。

そういう人たちがモテ本の知識でモテるようになったらいいなって思う。新宿は昼も夜も混んでるから、お店は予約した方がいいよとか。そういう、ちょっとしたことって大事だから。


あ、そんな初歩的なことから教えてくれるんですね。

お酒飲めない男性でも、お冷やじゃなくて、お茶でもいいから頼んでくれたら、女の子もビール頼みやすいよ、とか……。


わはは、細かいですけどそうですね! 炭酸水とかもアルコール感あっていいですよね。

あとは、大して美味しくないお店に当たってもいいから、どこにでもありそうな個性のないお店っていうよりも、特徴のあるお店に連れて行ってほしいかな……。


そうですね。「あそこ、まずかったねー」って話で一緒に盛り上がりたいです。うーん、雑誌に載っている恋愛マニュアルを遵守するよりも、もっと気軽に身の回りの知っているものを紹介して欲しいかもしれません。知らない場所とか話って面白いから。あと理想を言えば、そば店で昼酒飲んだり、古本店へ行ったりとか……。

昼酒、贅沢でいいよねー!


なんというか、バレンタインに来るような女性同士で話すのも、なんか変な感じですが……(笑)。

 
今夜もまだ飲むぞという、みんなの気概を感じつつ帰宅。

f:id:Meshi2_IB:20160615101827j:plain

帰りの電車で「BAR バレンタイン」の窓が見えることに気づきました。こんなに濃厚なバーが電車から見えてしまっていいものか、少しだけドキッとしました。

 

でも、その感じが好きなんですよね。

 

今夜の一品

f:id:Meshi2_IB:20160615102340j:plain

ちょっと贅沢な「袋ラーメン」(450円)。お仕事終わりが遅い人も、ふらっと来て、気軽に腹ごしらえできます。袋麺や缶詰が好きなお客さんが多いのも「BAR バレンタイン」の特徴(?)

 

※記事内の表示価格はすべて税込みです。

 

今夜のお店

BARバレンタイン

住所:東京都中野区東中野4-2-1 帆刈ビル3F
電話番号:03-5330-8336
営業時間:火曜日~土曜日 20:00~翌2:00/日曜日 20:00~24:00
定休日:月曜日
ウェブサイト:http://bar-valentine.jugem.jp/

 

書いた人:姫乃たま

姫乃たま

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)があ る。

過去記事も読む

高円寺にたたずむスナック「美星」は予約いっぱいの評判のお店。そのワケは……

f:id:Meshi2_IB:20160312153159j:plain

漫画家のなかむらみつのり氏と「美星」に行ってみた

占い好きの女性は多いが、男性の場合、なかなか占い師のもとに足を運ぶことは少ないのでは? しかし、かの西郷隆盛どんを初め、政治家や実業家など、権力を持つ男性たちは、古来よりしばしば占いを頼りにしてきたといわれる。男性とて、時には占いに自分の未来を尋ねてみたくはないですか?

ということで、高円寺の「エトアール通り商店会」にある、飲みながら占いをしてもらえるというスナックに、本厄まっただ中のメシ通レポーターの増山かおりと、同じく本厄まっさかりの漫画家なかむらみつのり氏の2名が潜入してきました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153200j:plain

古着屋も並ぶ商店街の一角。赤いテントに青いドアが目印の「美星」が今回のお目当て。これで「ビスター」と読む。

確かに、占いをしてくれるスナックであることがわかる。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153201j:plain

体を張った体験モノの漫画(メシ通での連載漫画はこちら→「ひものみち」)を多く執筆しているなかむら氏(左・42)と、厄年と結婚適齢期のはざまで揺れる増山(右・31)。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153202j:plain

半月状の窓から中をうかがいつつ、なかむら氏がその扉を開くと……。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153203j:plain

とってもいかついマスター、大清水高山氏が登場! マスターは、かつて警視庁に勤め、さまざまな人物を見てきた経験をいかし、ここ高円寺にて20年このお店を続けているのだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153204j:plain

マスターの占いは「人間鑑識学」というタイプのもので、参考までに手相も見るが、店に入ってきた瞬間の表情から、すでに占いは始まっているのだという。

 

なかむら氏「今まで占いって2回くらいしかしてもらったことがなくて、『人間鑑識学』というのは初めてなので緊張します!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153205j:plain

占いを受けるにあたって、マスターから1枚記入用紙を受け取り、

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153206j:plain

名前や生年月日などを記入する。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153207j:plain

「メガネも外したほうがいいんですかね?」となかむら氏。無防備な素顔があらわになった。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153208j:plain

大清水マスター「では、お顔の相からいきます」

 

マスターは真剣な面持ちで、なかむら氏の表情を見つめる。 

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153232j:plain

大清水マスター「……はい! では、参考までに利き手から手相を見ます」 

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153209j:plain

なかむら氏は、やはり緊張を隠せない様子だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153211j:plain

大清水マスター「次は、反対も」

 

マスターが一通りなかむら氏を見終えたところで、なかむら氏が口を開く。

 

なかむら氏「2年前、健康診断で飲んだバリウムが喉にひっかかって、炎症を起こして入院しそうになったり、去年も胸のあたりが痛くなりまして。まず不安なのは、体のことなんです」

大清水マスター「まず、結果として長生きするのは間違いないです。もともとみつのりさんは生まれながらにして、自分が持っている法律や法則、正義感にしたがって生きていらっしゃる方だと思います。なので周りの人が言うことを真に受けてはならない。不安がちらっとでもよぎると、自律神経からくる体の不具合が起こります」

なかむら氏「非常に思い当たるフシがあります! 気持ちの持ちようによって、体調も変わってくるっていうことなんですね?」

大清水マスター「そうです。なかむらさんという商品を、不安から過小評価してしまうことには、ご注意されたほうがいいと思います」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153212j:plain

と、ここで、おもむろにマスターの携帯電話が鳴る。

「いつご希望ですか? お名前は……はい、じゃあ、あした待ってますね。よろしくどうぞ」

新たな占いの予約の電話だったのだ。手元の予約表には、びっしりと占いの予定が詰まっていた。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153213j:plain

なかむら氏「いやあ驚きました……。それ、ちょうど今朝書いていたネームで使った言葉なんですよ! 上司が部下に対して、『商品を売る前に、お前自身が商品なんだからしっかりしろ』っていうセリフを書いたんです。いや〜、お見事です!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153215j:plain

大清水マスター「おでこに、掲示板のように出てましたよ」

なかむら氏「そういえば、“オーラの色”があるって聞きますけど、僕は何色なんでしょうか?」

大清水マスター「例えば俳優さんはレインボー、お医者さんや歯医者さんは傷みを和らげるピンク色のオーラを持っている人が多いのですが、なかむらさんは、リトルコスモです」

なかむら氏「リ、リトルコスモ? なんだか宇宙みたいで、かっこいいじゃないですか! リトルコスモの上は、ビッグコスモなんですか?」

大清水マスター「いえ、人間としてはリトルコスモが最上級。100万人近くの人を見ていますが、非常に少ないです。人間としての卒業に近づいていますね」

なかむら氏:「マジっすか!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160322132431j:plain

なかむら氏「ということは、政治家に向いてるとか、世の中を動かす道もアリということですか?(ニヤリ)」

大清水マスター「政治家になることも考えてらっしゃるとのことですが、自分の生業としているやり方で、社会風刺をしたほうが力強いという気がいたします」

なかむら氏「政治家になるんじゃなくて、社会風刺をする漫画を描いていけばいいんですね! 健康が一番心配で、あとはなせばなると思ってやってきたので、安心しました」

大清水マスター「なかむらの前になかむら無し、なかむらの後になかむら無し、一生現役、一生一人親方ですから」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153218j:plain

ちなみに、なかむら氏の手相の中には大きくカーブしている線「霊感線」があり、これによって、さまざまな人や場所に呼ばれ、偶然のような必然が生まれているのだという。漫画家という職業も、なかむら氏が選んだことではなく、漫画のほうに呼ばれた結果なのだそうだ。これにより、なかむら氏が漫画に選ばれし男であることが判明した。

 

なかむら氏「もう、迷うことはないですね!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153219j:plain

すっかり忘れかけていたが、ここはスナックでもあるのだ。マスターにお酒を注いでいただき、しばしまったりタイム。

 

大清水マスター「うちは無制限飲み放題、カラオケも歌い放題で女性は2,800円。男性はプラス1,000円で3,800円。この料金で朝まで飲めます」

なかむら氏「めちゃくちゃ安いじゃないですか!」

 

9割方のお客さんは別料金での占いを受けつつ飲んでいくというが、占いをせず飲みだけでの利用もOKだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153220j:plain

大清水マスター「ここで20年やってるけど、1日も休んだことがないんです。出張のときを除いては」

なかむら氏「1回もですか! そもそも、なんで占いを始めたんですか?」

大清水マスター「占い自体は小学生からやってたんです。中学生のとき、学校の先生の不倫相談にものってましたから。保健室の先生と教頭とかね……」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153221j:plain

「子どものときから変に正義感が強くて、悪い人間にやめてくれといっても通じないということで、警察官になろうと思っていました。でも、いざなってみたら、拳銃をもった公務員としか感じなかったんです。内部からのバッシングもあったし、いろんな修羅場を見てきましたね」

カラオケ盛り上げグッズにも、マスターの過去が刻まれていた。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153222j:plain

「警察を退職したあと、日本にいちゃいけないと思って、アメリカのサンタモニカのビーチで、1年半毎日スクワットして過ごしました。週末はグランドキャニオンでずっと逆立ちしたりして」

そう話しながらグラスを傾けるマスター。ちなみに、このグラスをマイクに持ち替えると、素晴らしい美声を披露してくださるので、来店の際はぜひリクエストしてみてほしい!

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153223j:plain

ふと、店内に気になる貼り紙があることに気づいた。

 

なかむら氏「これは何ですか?」

大清水マスター「毎年、宣言してるんです」

なかむら氏「あっ、平成二十八年に貼り替えてあるじゃないですか! 延長したんですね。今、何キロなんですか?」

大清水マスター「136キロですね」

なかむら氏「……増えてるじゃないですか!」

 

f:id:hotpepper-gourmet:20160615132110j:plain

こんなおちゃめなマスターだが、さきほどのハードトレーニングのエピソードからもわかるように、大変な肉体派だ。この写真は、かつてボディービル大会に出場したときのもの。真ん中でポーズを決めている逞しい青年が、マスターその人である!

 

f:id:hotpepper-gourmet:20160615132129j:plain

なかむら氏「うわー! こんなに筋肉が!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153226j:plain

思わずおさわりしてしまう、なかむら氏。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153227j:plain

続いて、増山も占いをお願いすることに。彼氏と結婚したいと思いながらも言い出せず、モヤモヤとした毎日に業を煮やし、いま付き合っている男性と果たして結婚できるのか? と尋ねることにした。用紙には自分と相手の名前、生年月日を記入する。

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153228j:plain

「人間鑑識学」ということで、携帯に入っている彼氏の写真も見ていただくことに。

 

増山「2年半くらい付き合っていて、わたしは最初から結婚したいと思って付き合っているんですけど、彼が果たしてどう思っているのか……教えてください!」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153229j:plain

大清水マスター「健康のバイオリズムは3カ月、運命のバイオリズムは6カ月周期で変わると言われているんです。あなたがこういうバイオリズムだったら、彼はこう。8月生まれのあなたと、3月生まれの彼の誕生日で計算すると、真逆なんですね。でも、真逆だから悪いというわけじゃない。あなたが彼をフォローし、彼があなたをフォローできる、助け合いという関係になりますんでね。特に2016年は、信頼できるもの同士が力を合わせてひとつの価値観を共有するコラボレーションの時代。彼にとっても、そろそろ年貢の収め時という気がいたします」

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153230j:plain

大清水マスター「結婚して揺るぎないステイタスを確保するまでは、あなたは役者でなければいけない。あなたは今、試されているんです。彼はそこまで責任のない男ではないですよ。彼はそろそろ決断すると思います。彼は野心家の顔をしてますんで、仕事でなにか野心を抱いていると思うけれど、そろそろ彼も自分の力量を自覚して行く気がします。今年の春くらいには、今まで以上に、俺にはかおりが必要なんだなと思うようになるので、そこまでは最後の詰めが必要です。1%でもうがった気持ちがあったら、100%だめなのと同じ。信じるなら、100%信じてあげましょう」

 

増山の目に、思わず涙が……。

 

増山「自分にも悪いところがいっぱいあるし、今仕事ができているのもその人のおかげだし……うう……」

大清水マスター「取材の方が泣くなんて、いいことですね。今まで苦しかっただろうけどもね、往々にして女性は答えありきで物事を進める。男性はプロセスを大事にして決めていくというところが、違うと思いますのでね」

増山「2016年は自分の気持ちをリセットして、100%彼を信じて、生きていきたいです!」

 

 

f:id:Meshi2_IB:20160312153231j:plain

なかむら氏が「リトルコスモの持ち主」であることが明らかになり、増山も新たな道を見いだしたこちらのお店、占いだけでも、スナックとしても、ぜひ足を運んでみてくださいませ。マスターが力強く、迎えてくれますよ!

 

※ 金額はすべて消費税込です。

 

お店情報

美星(ビスター)

住所:東京都杉並区高円寺南3-48-4
電話:03-3312-2554
営業時間:13:00〜翌5:00
定休日:なし(出張鑑定のため臨時休業あり)
鑑定料金:30〜45分 3,240円
スナック料金:女性2,800円、男性3,800円
ウェブサイト:http://fortune-bisuta.jimdo.com/

 

書いた人:増山かおり

増山かおり

1984年、青森県七戸町生まれ。東京都江東区で育ち、百貨店勤務を経てフリーライターに。『散歩の達人』(交通新聞社)にて『町中華探検隊がゆく!』連載中。『LDK』(晋遊舎)『ヴィレッジヴァンガードマガジン』などで執筆。著書に『JR中央線あるある』(TOブックス)、『高円寺エトアール物語~天狗ガールズ』(HOT WIRE GROOP)。

過去記事も読む

昼は職人、夜はバーテン。ダブルワーカーが営む酒場が気になる【二条】

f:id:mesitsu_la:20160502165734j:plain

どうも! 一昨々日も一昨日も昨日も飲んで、なんなら昨夜は酔いつぶれて家のトイレに籠城していた、メシ通レポーターの平山です。あー、頭が痛い。

 

おいしいお酒と楽しい酒場があれば、遠い距離もなんのその。京都市内を々浦々、出かけて行きますが、今回はJR二条駅近くにあるバーをご紹介します。

 

「二条って夜、何もないやん」と、京都をお知りの方は言うでしょう。まあ、そうなんだけどさ。二条駅といっても、あの二条城に行くには歩いて20分近くかかるし、住宅地も近いので夜はオヤスミが早いもんで。 

 

でも、二条にはあるんやで。「サマータイヨウ」という酒場がな。

 

二条の夜に輝く、沈まない太陽

f:id:mesitsu_la:20160502165725j:plain

場所は御池二条の交差点を少し南に下ったところ。二条駅の東口の斜向いです。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165726j:plain

小さな雑居ビルの小さな入り口、そのかたわらに看板が。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165728j:plain

「ケイカイ心をコウキ心に変えてぜひ3Fまでどうぞ」と書かれた黒板。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165730j:plain

昭和54年に建てられた、当時の容相を残すレトロなビル。

 

どうしても雑居ビルのなかにある飲み屋さんって、入店をためらってしまいがち。でも勇気を出してグワッとドアをあければ、ステキな空間が広がっていることもあるんです。このお店もそう。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165732j:plain

3階にあがると、ぬくもりのある木のドアが。これはワンクッション用のドアで、開けると正面にトイレ、左手にお店の入り口があります。いざ入店!

 

音楽と笑い声が飛び交うオトナの秘密基地

f:id:mesitsu_la:20160502165733j:plain

店内は満席。後ろにはロータイプのテーブル席がふたつありますが、こちらもギッシリ。飲み友達がたまたま、カウンターの横に立つようなかたちで飲んでいたので、その隣に陣取りました。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165757j:plain

▲瓶ビール 700円

 

生ビールはアサヒですが、喉が乾いていたため瓶ビールをチョイス。アサヒのグラスでサッポロを飲むのです。このお店の瓶ビールはサッポロラガーなのがうれしいですね。赤星を見るとテンションがあがってしまう……。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165743j:plain

照明に反射してキラキラ輝くボトル。ウィスキーは20種以上、カクテルはスタンダードなものから、お好みを伝えてオリジナルカクテルまで、いろいろとつくってくれます。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165750j:plain

豪快に笑うこの人がマスターのマコトさん。

 

背もデカイ、身体もデカイ、手のひらも声もデカイ。気さくなアニキです。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165740j:plain

店内のBGMはレコード。音楽好きのマコトさんがチョイスしたレコードが棚に150枚ほどあり、その時々で盤は変わります。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165800j:plain

▲コンビーフとチーズのカリカリ焼き 300円

 

リーズナブルなオツマミも充実しています。口寂しくなってきたので、お気に入りのアテ、コンビーフとチーズのカリカリ焼きを注文。香ばしく焼き上げられたカリッカリのチーズとコンビーフのハーモニーがたまりません。

 

週替わりの限定カクテルは必飲!

f:id:mesitsu_la:20160502165747j:plain

辛いものと酸っぱいものが好きな私は、あま〜いカクテルは普段ほとんど飲みません。バーボンロックと水! が常套句ですが、ここではちょくちょくカクテルを注文します。

 

それは、週替わりで登場するフレッシュフルーツをたっぷり使った限定カクテル。

 

フルーツの自然な甘みがめちゃくちゃウマ〜なので「甘いのは苦手!」という方でもこれは気に入るはず。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165746j:plain

大玉のグレープフルーツを半分も使って、フレッシュジュースを絞っているマコトさん。そこに方々から注文が入り「ちょま、ちょっと待って待って」と慌ただしくなる厨房。

 

「なんでみんな一気に言うの?」

 

f:id:mesitsu_la:20160502165751j:plain

▲グレープフルーツのカクテル 700円

 

絞りたての果汁がたっぷり入って、これはウマイ!  爽やかな甘みと酸味が、初夏の一杯にピッタリです。結構アルコールが入っているようですが、全然気にならないキケンな一杯です。

 

グラスのフチにできるエンジェルリングに、たくさんの果肉がついてくるのがうれしいですね。それだけフレッシュジュースが入っているということですから。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165807j:plain

で、

 

これだけならまあ、街中にある普通のバーですけれども。

 

マコトさんはバーのマスターとしての顔だけではなく、昼間の顔も持っているのです。

 

リアル太陽の下では、布職人

f:id:mesitsu_la:20160502165655j:plain

さて、ここはサマータイヨウの近所にある商店街。

 

その一角に、

 

f:id:mesitsu_la:20160527154841j:plain

「3JO CRAFTSMAN SHOP」と書かれたカッチョイイ店構えのショップがあり、

 

f:id:mesitsu_la:20160502165705j:plain

トートバッグを中心に、クラッチバッグやエプロンなどが並ぶ……

 

f:id:mesitsu_la:20160502165712j:plain

お店のマスターがマコトさんなんですね。

 

撮影しながら雑談してたんですが、夜にしか会わない人に昼間会うと、何話していいかわからなくなりますね。

 

彼は皮や布製品をつくる職人と、バーのマスター、2足のわらじを履きこなすダブルワーカー。深夜までバーの営業があって、どうやって昼間の工房もやってるのか謎です。パワフルすぎるやろ……。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165709j:plain

これらの商品がまたカワイイのなんのって。ひとつひとつ丁寧に縫製されたバッグは使いやすくて丈夫です。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165703j:plain

「一乗寺キャスケット」というブランドを展開して、自転車用のグッズもつくっています。

 

以前友達から裾バンド(スポーツ自転車に乗る際に、パンツの裾が汚れないように足首に巻くバンド)をプレゼントされたんですが、誰がつくっているか知らないまま、サマータイヨウに飲みに来た際にそれを装着していたら「あ、それ僕がつくってます!」という話で盛り上がったことがあります。

 

f:id:mesitsu_la:20160502165710j:plain

奥は工房になっています。

 

マコトさんは身体が大きいので、写真を撮るとモノの縮尺が若干おかしくなる……。

 

ダブルワークって大変そう……と思いますが、楽しいとマコトさんはあっけらかんと笑います。それぞれのお客さんのジャンルは違っているし、違っていながらそれぞれのお客さんがそれぞれのお店に来てくれるなど、相互効果もあるのだそう。

 

現在商店街に構えるお店も、ゆくゆくは工房をメインにして移転したいとのことです。

 

彼のパワフルさの秘密は、ふたつの仕事をそれぞれ全力で楽しみながら新しいことに挑戦し続けることにあるのかもしれません。

 

さあさあ皆さん、二条に来た際はぜひ、この酒場で楽しく一杯やりませんか。

 

 ※ 金額はすべて消費税込です。

 

店舗情報

サマータイヨウ

住所:京都市西ノ京職司町19-3 二条ビル3F
電話番号:075-801-0139
営業時間:20:00〜翌1:30(LO 翌1:00)
定休日:木曜日
ウェブサイト:facebook

 

平山(おかん)

書いた人:
平山(おかん)

京都在住。合同会社バンクトゥの編集者/ライター/たまにイラストレーター。阪神間の酒場をうろつく酒好き。大学時代のあだ名「おかん」がいまや通称に。趣味は料理とアジア旅行。

みちのくの幸がズラリ勢揃い!東北の生産者と東京をつなぐ「できる食堂 プエドバル」【北千住】

f:id:Meshi2_Writer:20160411100722j:plain

やってきました北千住!

 

f:id:hotpepper-gourmet:20160608164517j:plain

飲み屋がひしめき合う、酒好きにはたまらないエリア!

 

煮込みで有名な「大はし」をはじめ、自家製すり身揚げがうまい「千住の永見」、本格的なつまみがたっぷり味わえる立ち飲み「徳多和良」など、いい店が多い!酒好き・居酒屋さん好きが「おとなの遠足」と称して遠方からもやってくる、

それが北千住。

 

年季の入ったお店が多い中、今年(2016年)4月でちょうど一周年を迎えるおもしろいお店があると聞き、本日の探訪となりました。なんでも「東北が思いっきり味わえるお店」なのだそうですよ。

 

東北全県のワインが楽しめる!

f:id:Meshi2_Writer:20160411100747j:plain

一見、飲食店というよりショップのようにも見えますが、今回の目的地「できる食堂 プエドバル」の入口です! のぞいてみればカウンターだけのお店で、名前のとおりバルスタイルなのかな。ともかく、入ってみましょうか。 

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411100916j:plain

「いらっしゃいませー!」

おお、まず目に飛び込んできたのは東北の日本酒!!

全県いろいろとそろっていますねー。おねえさんもやっぱり東北?

 

はい、山形鶴岡市出身の梅です!

 

さん、きょうはよろしくお願いします。こちらは日本酒メインのお店なんですか?

 

いえいえ、東北産のワインもそろえてありますよ。東京広しといえど、東北全県のワインが飲めるお店ってうちだけじゃないかと自負しております!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411100953j:plain

おお、東北6県のワインがずらりと!!!

東北6県すべてにワイナリーがあること、知られていないですよねえ。私は仙台育ちですが、地元でもあまり知られていないかもだなあ。東北応援の飲食店はおかげさまで震災以来増加しているのですが、東北ワイン充実のお店はめずらしい。 

 

お通しのワカメに箸が止まらず

おや? なんか横でうごめくものが……

f:id:Meshi2_Writer:20160411101104j:plain

 

立派でしょう? 山形の実家近くで獲れたアワビです。これは今日の特別メニューですが、ほかにもたくさん東北の素材を使った料理や、郷土料理がありますよ! さあ、まずはお通しから召し上がってください。

 

ハキハキした応対がなんとも小気味いい梅さん。カウンターに座ってまずビールを頼めば、一緒に出てきたのがこちら。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411101225j:plain

てんこ盛りのワカメ!

三陸海岸で獲れた茎ワカメを細く裂いたもので、味つけはオリーブオイルと塩のみ。シンプル極まりないけれど、食べ飽きない。むしろ食べるうちにクセになってくる。ワカメといっても茎の部分は歯ごたえ抜群、食感がいいんですよ。もちろん低カロリーで、食物繊維たっぷり(というか繊維のかたまり)。飲み始めのスターターとして、すばらしいなあ。

 

東北を活性化したいという思いで開店

f:id:Meshi2_Writer:20160411101354j:plain

「ふふふ、おいしいでしょう…?」

 

い、いつの間に隣に!?

ちょっとジョージ・クルーニー似のこちらの男性、オーナーの植村昭雄さん。東北は青森八戸市のご出身とのこと。

 

さてこちらのお店、「東北をたっぷり味わえるお店」と聞いたんですが、ふるさとの青森に限定せず、東北全般をお店のテーマとされたのはどうしてなんですか?

 

f:id:Meshi2_Writer:20160418173718j:plain

 

私は東京に出てきて25年になるんですが、東日本大震災を機に、東北各地への炊き出しや支援活動を行うようになったんです。

現地で出会った生産者の方々とは今に至るまで交流が続いていますが、やはり震災後は風評被害にも悩まされ、売り上げが落ちていました。また震災とは別に、東北各地で人口減少の問題は続いていました。私のふるさと青森は、人口が戦後すぐのレベルにまで近づいています。

"とにかく活性化させたい!"
そういう思いが、ずっとあったんです。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160418174258j:plain

▲お店の壁には、各地の生産者と植村さんが映るスナップ写真がたくさん貼られている

 

この店で出しているものは、自分が実際に東北で出会って、その場で味を試したものだけです。 業者さん任せにしているものはひとつもありません。生産者と消費者をつなぐ役割を果たしたいんですよ。そして「おいしい!」といってくれた方の声を現場に届けたいんです。

 

「あなたの作ったもの、育てたもの、獲ってきたものが、こんなにも喜ばれているよ」と、現地の生産者に伝えたいという植村さん。声を届けることで、やりがいが生まれ、職場にも活気が生まれていく。活気ある職場には応募者も増えていくかもしれない。そんな良いことの連鎖を、植村さんは考えている。

事実、このお店で東北のプロダクトの良さを再確認し、大学卒業後は「東北に帰って就職しよう」と考えるようになった東北出身の若者も少なからずいたとのこと。

 

そうそう、先の三陸産茎ワカメのお通しは、植村さんのアイディア。

 

あれは食べ放題ですから、よかったらおかわりしてください! この店に来たら、まずは三陸を感じてほしいんです。三陸をいっぱい食べてほしい。三陸も広いですからね、場所によって少しずつワカメの味も違う。そんなことを感じながら各地をまわって、紹介したいものを探してきました。

 

みちのくの肴に、岩手の銘酒「浜娘」を

東北が誇る「酒の友」を一堂に集めた自慢のメニューがあるというので、早速頼んでみました。

f:id:Meshi2_Writer:20160411101820j:plain

その名も「TOHOKU」(990円)。

植村さんが出会って惚れた、みちのくの酒肴がてんこ盛り! 手前から時計回りに、宮城産サーモン刺、岩手産水ダコの燻製、山形産のあおさ天、秋田のいぶりがっこクリームチーズ、青森産アピオス、青森産菊と青菜のおひたし、山形産鯉の甘煮、そして真ん中が宮城・白石蔵王の卵を福島で燻製にしたもの。

 

名産品と郷土料理がほどよくミックスされて、東北の食文化がすてきに点描されているなあ。うれしくなってきたぞ。これはやっぱり日本酒でしょう!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411101535j:plain

岩手の銘酒「浜娘」をいただきます。

ちなみに、こちらの日本酒はグラス1杯どれも580円。月替わりでいろいろな東北のお酒が楽しめます。好評なのは「3種飲み比べセット」480円。これを2回頼めば、東北6県のお酒めぐりがコンプリート!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411101549j:plain

「浜娘」、うまいよ……。

米のフレッシュなうま味がすっきりと味わえて、余韻も長い。震災で蔵を失ったものの、みごと復活を遂げた蔵元さんのお酒。しかしそういうドラマと関係なく、シンプルにうまいお酒なんですよ。機会があったら、ゼヒ味わってみてください。

さん、おかわりィ!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160418183539j:plain

ふとカウンターの上を見れば、南部地方(東北の南のほうじゃなく旧南部藩エリアのこと。青森県と岩手県が含まれる)の名物南部せんべいと、近年の岩手が生んだヒット商品、「Ca va ?」缶(サバのオリーブオイル漬)が。さりげなく東北テイストに満ちあふれています。この南部せんべい、子どもの頃はよーく食べました(父が八戸出身)。耳だけかじって怒られるんです、これ。耳のとこが妙にうまいのよ。

 

 お値打ちせんべいピザ&ガッツリ牛肉

f:id:Meshi2_Writer:20160411101622j:plain

この南部せんべいをピザにしちゃった「せんべいピザ」(280円)も、いいつまみ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160411101646j:plain

がっつりお肉が食べたいなら「牛みすじのソテー」(980円)がおすすめ。

青森名物「十和田ばら焼きのたれ」で食べてみてください。十和田地方のB級グルメで、いわゆる焼肉用のたれ。醤油ベースの甘辛さが特徴で、地元では様々なメーカーのものが売られています。

 

現代は流通が各地に行き届いて、どこに行っても同じものや商品が手に入る時代。でも食べものは、まだまだ豊かに地方色が残っています。それらすべてが合わさって、“無形文化遺産”の「和食」ではないでしょうか。東北の地域食のおもしろさを体験できる「できる食堂 プエドバル」、北千住駅の周辺で食べ飲みする際は、ぜひ寄ってみてほしいなあ。

 

ちなみに、ある日のメニューより。

f:id:Meshi2_Writer:20160419093211j:plain

東北たっぷり、200円台のメニューもたくさん!

東北と他地方の特産品を組み合わせた料理も多いですよ。東北ワインはグラス380円~、ボトル3,900円~です。

 

お店情報

東北うまいもの酒場 プエドバル(旧できる食堂 プエドバル)

住所:東京都足立区千住町41-14 第一ビル1F
電話番号:03-6806-2400
営業時間:カフェ営業 月~金曜 10:00~15:00(ランチ11:00~14:00)、バル 月~土曜 17:00~23:00(LO 22:00)
定休日:日曜日、祝日

ウェブサイト:https://canfs.biz/puedobar/

www.hotpepper.jp

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。

過去記事も読む

【閉店】あの富士桜高原麦酒が待望の東京進出! 「BeerBar富士桜Roppongi」に行ってきた【ビール】

f:id:Meshi2_Writer:20160407120928j:plain

ビールが苦手な人に飲んでほしい「ヴァイツェン」

あれは2年前、2014年のこと。

世界30か国以上、700種類ものビールの中から選ばれる、ワールド・ビア・アワード2014で見事「ワールドベスト・スモークド」(スモークフレーバー部門で世界一)に日本のビールが選ばれたと聞いて、「いったいどんなビールなんだろう?」と興味がわいた。

 

その名は、富士桜高原麦酒。

山梨県・河口湖のそばでつくられるビールである。

幸いにも近くのスーパーで、瓶入りのものを購入できた。早速飲んでみれば、まず香りの豊かさとノド越しの重厚感に……やられた。晩酌でひとり、カンゲキ。なんてうま味が濃いんだろう……! ああ、いつかこの「生」を飲んでみたい。

 

けれど山梨の直営レストランにはなかなか足を運べず、またビアイベントでも富士桜とは縁がないまま、時が経ってしまった。

 

しかし!!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121007j:plain

富士桜高原麦酒の直営店が、とうとう東京にこの春オープン。

さっそく『メシ通』の編集者を半強制的に説得して、取材をしてきたのである!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160506143025j:plain

いらっしゃいませ、「BeerBar富士桜Roppongi」へようこそ!

 

迎えてくれたのは、支配人でビアソムリエの前田武志(まえだ・たけし)さん。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121504j:plain

わが社のビールは、富士山の天然水を使用しています。ミネラルに富んで硬度もちょうどよいこの地下水は、ビールづくりにとても適しているんですね。それがやはり、おいしさの大きな理由のひとつだと思っています。水の良さをいかした、うちの代名詞のひとつ「ヴァイツェン」をまずは味わってみてください。(前田さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121742j:plain

▲「ヴァイツェン」Mサイズ 756円(250ml)、Lサイズ 1,080円(500ml)、Massサイズ 2,052円(1,000ml)

 

う、うまい……。

小麦麦芽を50%以上使用した、なんともフルーティーな仕上がり。コクがしっかりとあるのに、スルッと飲みやすいのが面白いなあ……。ああ、グビグビいってしまう。

 

そうでしょう? この「ヴァイツェン」は、ビールが苦手な方にも好評なんです。というのは、仕事関係の会食などでいらっしゃたものの、ビールが苦手なお客様もこの「ヴァイツェン」を飲むと「これなら飲める」「はじめてビールをおいしいと思った!」なんて言ってくださる。もちろん、ビール好きの方にもおすすめ(笑)。(前田さん)

 

なるほど。「クラフトビールって重すぎて、正直苦手」という声、実際「ビール好き」からも聞かれる。そういう人にも、ぜひトライしてほしい味わいだ。ああ、あのフルーティーさ……忘れられない。

 

ビール党に激おすすめ「ラオホ」「ピルス」

f:id:Meshi2_Writer:20160506141656j:plain

▲「ラオホ」Mサイズ 756円(250ml)、Massサイズ 2,052円(1,000ml)

 

そしてこれが、ワールド・ビア・アワード2014で「ワールドベスト・スモークド」に輝いた「ラオホ」の生。麦芽を乾燥させるときにスモークしてつくられるため、独特の芳香が生まれるのだそう。

さっそくいただいてみれば、まずクリーミーで粒立ちのきれいな泡のうまいこと! 続いてビールが口に入ってきたときのタッチがなんとも、ソフトでまろやかなんだなあ。チョコレートやカシスを思わせるようなニュアンスを感じつつ、きれいに後味が消えていく。残るのは、うまいビールを飲んだという充足感……。

 

たまらん!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121358j:plain

▲「ピルス」Mサイズ 756円(250ml)、Lサイズ 1,080円(400ml)、Massサイズ 2,052円(1,000ml)

 

つづいてこちらが「ピルス」、「ラホオ」とはまた全然違うタイプの味わいです。ホップのフレッシュでナチュラルな味わいが楽しめるビールですよ。一般的なラガービールの感じと思っていただければ、分かりやすいと思います。(前田さん)

 

おお、これはスーッと飲めるビールですねえ。飲みやすいのに軽すぎず、それでいて満足度が高い。

日本で「飲みやすいビール」となると、味が薄いというか、膨らみのない、ひらたい味わいになりがちに私は思うのですが、この「ピルス」の軽快さと味の深みが同時にある感じ、好きだなあ。

 

山梨の恵みを生かした秀逸フード

f:id:Meshi2_Writer:20160407121811j:plain

 

これらのビールとの相性バツグンのうちの料理も、ぜひ味わってみてください! 我々の本社がある山梨の良質な食材を使ったものをご紹介。クラフトビールにはぜひ、クラフトフードを合わせていただきたいです。

 

と、イケメン店員さんがおすすめしてくれた料理の数々、ご覧あれ! 

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121019j:plain

▲甲斐サーモン コンフィ(1,274円)

 

山梨の豊富な天然水はビールづくりだけでなく、淡水魚の養殖にも使われている。その代表的なもののひとつがこの甲斐サーモン。

味わいのすっきりとしたニジマスを、低温の油でじっくりと火通しするコンフィ仕立てに。中はしっとり、皮はパリッと香ばしい理想的な仕上がりとなっている。

 

「ピルス」などの繊細な味わいのビールによく合います。口の中の脂分をきれいに洗い流してくれますよ。ちなみにうちのシェフはフレンチ出身。フランス料理の技法をいかした料理が楽しめます。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121030j:plain

▲揚げ信玄鶏(2,030円)

 

山梨県産地鶏はくさみの無さ、淡泊で食べよい味わいが身上。しっかりと揚げられた皮目はカリカリと香ばしく、プリッとした肉質は弾力も上々。ああ、なんと理想的なビールのアテだろうか。

また先のサーモンも同様だが、添えられた野菜のうまいこと! いずれも味が濃くて、主菜同様の魅力を放っている。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121039j:plain

 

いくらメインがおいしくても、野菜類が良くなくては「ひと皿」としてダメだと思うんです。それが私たちのお店の信念。野菜も山梨のよいものを伝えつつ、全国のそのときの旬のものを織り交ぜながら、ご提供していますよ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121706j:plain

そして「おひや」がまたいい。ここのビールづくりにも用いられている「富士桜命水」が供される。柔らかで素直な味わいの水を補給しつつ、クラフトビールを堪能しよう。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121213j:plain

個室も充実。ビアバーでありながら、会食や接待といったシーンにも好適だ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160407121224j:plain

もちろんカウンターでサクッと飲むもよし。クラフトビール好きな女性のひとり客も少なくない。チャージは300円(個室利用の場合は別途500円プラス)。

 

近年、クラフトビール人気はますます高まって、海外からも注目が集まっています。外国の方からの問い合わせや注文もおかげさまでいただいており、海外へ発信していきたいという意味も込めて、六本木での直営店オープンとなりました。ビール1杯でも、どうぞお気軽に飲みにいらしてください!(前田さん)

 

この富士桜の「生」を飲むために来日した、なんて海外からのお客さんが早くも訪れているようだ。小規模生産ならではの濃密で繊細な味わいのクラフトビール、ぜひ体験してみてほしい。 

この夏は、日本の良質な手づくりビールを味わってみませんか?

 

お店情報

Beer Bar 富士桜 Roppongi

住所:東京都港区六本木4-8-7 嶋田ビルB1F
電話番号:03-5411-3333
営業時間:月曜日〜木曜日 17:00~23:30 (料理LO 22:30 ドリンクLO 23:00)
     金曜日・祝前日 17:00〜翌5:00 (料理LO 翌4:00 ドリンクLO 翌4:30)
定休日:日曜日、祝日の月曜日
ウェブサイト:http://www.beerbar-fujizakura.jp/

www.hotpepper.jp

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

執筆・撮影:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。

過去記事も読む

【姫乃たま】奥渋「SONE BAR」で考える“マルチな才能”とは【今夜もヒミツ酒:7軒目】

f:id:Meshi2_IB:20160328202443j:plain

誰にでも秘密はあります。たとえば、故郷などないような顔をしている酒場の人たちにも、きっと。おいしいごはんとお酒に緩んだ、その口元から溢れる、あなたの秘密を教えてくれませんか。

 

日替わりマスターの店「SONEBAR(ソネバー)」

前々から気になる飲食店ばかりが軒を連ねていた通りに、いつの間にか「奥渋(おくしぶ)」なる名前が付いていました。渋谷東急本店を駅から離れるように奥へ。

ついさっき外国人観光客とギャルカップルのための殿堂、ドン・キホーテを通過したばかりとは思えない、しっとりとした賑わいに満ちています。

f:id:Meshi2_IB:20160328203726j:plain

老舗の人間は「あそこのお店、ランチで奥渋カレーなんて出しちゃって、商魂たくましいというかなんというか」と笑います。曖昧な笑顔に、商店街を感じました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160328203745j:plain

奥渋の真ん中あたりでピンクの看板を見つけたら4階の「SONEBAR」へ。

ちょっとクローズドな雰囲気。これが隠れ家というもの?

 

f:id:Meshi2_IB:20160328203811j:plain

このお店では、様々な本職を持つマスター達が、日替わりで出迎えてくれます。火曜日のマスターは、俳優・パフォーマーの「けーすけ」さんだと聞いていたのですが、扉越しにのぞくと、あれ? 誰かいますね……。

 

この方が、けーすけさんかな?

f:id:Meshi2_IB:20160328203853j:plain

ネット記事的なおとぼけを済ませて、着席。

 

f:id:Meshi2_IB:20160328203933j:plain

 

はい、この方が今夜のマスター、けーすけさん。 毎週火曜日の夜限定でお店に立っています。さっきのワンコは、彼の相棒のマンゴーちゃん。

f:id:Meshi2_IB:20160330215240j:plain

 

カウンター、広めのソファー、そして背の低いテーブルが置かれた店内には、日替わりマスター達が、それぞれ持ち込んだであろうポスターやオーナメントが、それぞれの場所で落ち着いていました。

f:id:Meshi2_IB:20160330215631j:plain

カウンターの中で働くけーすけさんを愛犬のマンゴーちゃんがソファーから見守ります。

 

パトカー運転手役で大暴走したデビュー作

f:id:Meshi2_IB:20160330220555j:plain

――あ、はじめまして、地下アイドルの姫乃たまです。アイドルと言いつつ、今日みたいにライターとして取材したり、いろいろやりながら、フリーランスで活動してます。けーすけさんは俳優だとうかがっていたのですが、ツイッター(@k_suket)を見ていると、なんだか毎日違う仕事をしていらっしゃるので、勝手に親近感を抱いておりまして……あはは。あの、肩書きってどうしていますか?

 

けーすけさん(以下敬称略):元々「せーじ・けーすけ」っていう漫才コンビで、1990年にデビューしたので漫才師だったんですよ。事務所が渡辺プロ(渡辺プロダクション)でなまじ大きいもんで、最初から俳優とか声優の仕事もさせてもらえてたね。ただ3年くらい前にコンビが解散して以降はピンなんで、いまの活動としては俳優が多いかな。

 

――そのコンビ名からして……元相方は、せーじさん! いまどうしてるんですか?

 

けーすけ:そうそう、せーじ。いまはバルーンアーティストやってます。僕もやってるんだけど。だから肩書きは、俳優と声優とバルーンアーティストとMCと歌手と、ペット・トリマーアシスタントもやってて、あ、あとここのバー店主と……

 

――あわわわ、ありがとうございます、ありがとうございます……多いなあ!!(笑) ありがちな質問ですけど、俳優業デビューのきっかけはなんだったんですか?

 

けーすけ:当時のマネージャーさんに神戸の劇団に所属してたって言ったら、けーすけは演技できるんだねってことになって。事務所が大きいので、吉田栄作さんの、いわゆるバーターでね、映画『代打教師 秋葉、真剣です!』(1991年)に警官役でデビューしました。監督は亡くなりはったけど、那須博之さん。ビー・バップと同じで、渋谷の本物のチーマーが出演してて、パラララ~♪ってバイクで来て、また撮影終わるとパラララ~♪って帰って行く。また那須監督って向こう見ずというかトッポイ人でね、「けー(低い声)」って僕のこと呼んでくれるんだけど「けー、パトカー運転できるか?(低い声)」って言われて、「できます!!」って即答して。

 

――あれ、スタントの経験ないのに、いいんですか?

 

けーすけ:そりゃもううれしいから! 監督に声かけられてね。免許持ってるし、いけるやろって気持ちで。何回かテストした後、本番前に監督が来て、「けー、そこのカーブでブレーキ踏むなよ……パトカーがブレーキランプ点けたらダサいだろ……(低い声)」って。助手席の俳優さんは本気にしてなかったみたいで「ブレーキ! ブレーキイィィ!」って叫んでたけど、アクセル全開でカーブ曲がったら監督にほめられてねえ。でもその撮影、あまりに危険で、午後にプロのスタントマンが事故りはって。その直後、事務所の人からはめっちゃ怒られたわ。「運転はスタントマンの仕事なんだから!」って。ただ、それを見てたマネジャーさんは、上司から「だったらお前が現場付いてけえ!」って二重で怒られてた(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20160328204337j:plain

助手席で叫んでいた俳優さんを笑いながら再現中

 

――わははは、このしっかり落としてくる感じに、元漫才師を感じます……! 青春映画の仕事が多かったんですか?

 

けーすけ:女の子は知らんと思うけど、映画『湘南爆走族』に地獄の軍団って出てくるでしょう。その中の瀬島渉の役もやってたよ。赤い字で「呪」って書いてあるマスク付けて……。

 

――(一同ネット検索で写真を見て)わはははは、本当だ!! 「呪」って書いてある!

 

アキバのアイドルイベントでは「売れっ子MC」に

――秋葉原の電気店って週末にグラビアアイドルのDVD発売イベントやるじゃないですか。けーすけさんはああいうイベントで司会もされていますよね。一時期MCで引っ張りだこだったと聞いてますよ。

 

けーすけ:真鍋かをりちゃんの最後のイベントでMCやったの僕ですよ。安田美沙子ちゃんの初めてのイベントも僕。自慢です。いまはMCの仕事だいぶ減ったけどね。ソフマップ、石丸電気、LAOX……ピークの時は土日で8本! 1本だいたい2時間だから、週末は秋葉原だけで16時間も働いてた。

f:id:Meshi2_IB:20160330223442j:plain

――下手したらアイドルより働いてますね(笑)。

 

けーすけ:ほら、あの秋葉原の事件あったやん。ソフマップの前の道路で車突っ込んだ悲惨な事件ね。僕、あの日はたまたま早い時間空いてたんやけど、いつもなら丁度あの時間に渡ってたんよね。いろんな人が心配して電話かけてきて。でもその日の午後はイベントがあったから、すぐ後に警察がいる事件現場渡ってソフマップに行って。お客さんもちらほら来てたけど、こんな日に何やってんのかなあって。あと、昔あった「ヤマギワソフト」って知ってる?

 

――うーん、知らないですね。ソフマップみたいなお店ですか?

 

けーすけ:そうそう。あそこでもイベントやってたんやけど、ある日、前日にバラしになったことがあって、それはさすがにあかんでって言ったら、「会場が火事になっちゃったんです……」って電話が。それはしょうがないなと。で後日、延期になったDVDのイベントを改めてやったんやけど、タイトルが「BURN」やってん。堀口としみちゃんの『BODY BURN』。あれはいまでも忘れられない。

 

――ちょっと、それは話が出来すぎじゃないですか……!

 

亡き先代オーナーは伝説のDJ

f:id:Meshi2_IB:20160328204152j:plain

――ところで「SONE BAR」ってどうしてマスターが日替わりなんですか?

 

けーすけ:先代オーナーの曽根さんが、飲みすぎで店をたたむことにした時に、いまのオーナーが引き継いだんだけど、最初はふたりで店をまわせないから、仲間の常連さん達が手伝ってて、その時の名残なんでしょうね。

 

――けーすけさんは先代の時からいらっしゃるんですか?

 

けーすけ:いや、僕はいまのオーナーになってすぐ。なので7年前からかな。この仕事始めるまで、お酒はほとんど飲めなかった。

 

――へえー、意外!

 

けーすけ:飲めないし、まったく知らないから、お客さんにハーフ&ハーフって言われて、「……すいません、なんのハーフですか?」って聞いちゃって「何言ってんねん、ビールと黒ビールや!」って呆れられて、厨房入ってからやっと黒ビールがないことに気がつくようなレベルやったわ。

 

――ははは、すごく勉強されたんですね。

 

けーすけ:もうほんとに基礎的なところからね。でも「モスコミュール」とか「スクリュードライバー」とか、カクテルの名前ってなんでこんなんなのかなあって気になり始めてから面白くなったなぁ。

 

――じゃあ、せっかくなのでカクテルを飲みます……!

f:id:Meshi2_IB:20160330223232j:plain

けーすけさんがカクテルを作り始めると、この連載のカメラマンである沼田学さんが何かに気が付きました。

 

沼田学(以下、沼田):なんか、レコードたくさんありますね。けーすけさん音楽好きなんですか?

 

けーすけ:いや、僕はそっち方面よくわからないのよ。サマソニってのも知らんくて、僕はてっきり埼玉のソニックシティでやるからサマソニやと思っててん!

 

沼田:えー、あれ、「SONEBAR」のSONEって……もしかしてDJ曽根さん?

 

けーすけ:そうそう! へえ、やっぱり音楽好きの人には有名なんだ! なんかうれしいなあ。

 

沼田:ほげえええええええ!!!

 

もう一度、えっ、と驚いてしばらく硬直した沼田さんは、えっえっえっ、とさらに驚き、曽根さんのMIX CDを聴いていたこと、いかに曽根さんがすごいDJだったかを話し始め、リキュールをシガーカップに注ぐけーすけさんが「イベントのチラシ、トイレに飾ってあるよ〜」と言い終わる前には、トイレに向かって駆けだしていました。

f:id:Meshi2_IB:20160328204248j:plain

トイレには、レジェンドDJゆかりのフライヤーが

 

ジントニックからは、器用で凝り性なけーすけさんらしい味がしました。

 

先代のDJ曽根さんがどれだけすごかったかは、沼田さんに3回くらい教えてもらいました。「道ばたで会うといつも酔っ払っていたけど、生前から天使のような優しいおじさんだった」とは、けーすけさんの言葉。3年前に逝去された曽根さんは、本当に天使になったのかもしれません。

f:id:Meshi2_IB:20160328204231j:plain

同じビルの2階、おでん屋「まめひろ」から、休憩時に一杯だけ飲みに来た店長さんと乾杯

 

けーすけさんの秘密。大物芸能人のスタイリングを勝手に……

――そうだ、この連載、こっそりヒミツを教えてもらう連載なんですよ。すっかり忘れていたので、無粋にもほどがありますが、何かヒミツを教えてください……!

 

けー すけ:僕ね、渡辺プロの頃、N・Hさんの付き人を一時期だけやってたんだけど、当時N・Hさんが14本とかレギュラー持ってる頃でめっちゃ忙しくて。今でも大物やけどね。で、彼のスタイリストさんがまだそんなに売れてなかったN君(現在は超有名ファッションデザイナー)やってん。それでも当時から忙しい人やったから、14本分の衣装を一気にドサッと預かるのね。それで僕がスケッチブックと照らし合わせて、番組ごとにN・Hさんに渡すんやけど、よーわからんねん。衣装っていっても14のスタイリング、そんなに大差あるわけじゃないからね。赤いチェックのシャツっていっても、同じようなのが何枚もあるような有り様で。

いま時効やから言えるけど、だんだんどれでもいいような気がしてきて、僕がテッキトーに渡してた。だからあの当時のスタイリングは半分くらい僕やね。そもそもスタイリング放棄してるけど。わははは。

 

――わはははははは! これ書いていいのかしら。私も結構いろんな活動をしているんですけど、肩書きが多くてよかったことってありますか?

 

けーすけ:フットワークが軽くなるのはいいかなって思う。ピエロになって子どもたちにバルーンアート作って、スーツに着替えてグラビアアイドルの司会やって、ちょっとお色気系のVシネマに出たり……とか、そういう日があるのは面白いね。N・Hさんの付き人をしていた時、「みんな僕に何屋さんって聞くけど、それは世間が決めることで、僕は現場に合わせた職業になる」って言ってた。あれ、いま考えたら名言やなーって思う。

 

――私も時々何をしている人なのかわからないと言われるので、その名言を思い出すことにします。

 

けーすけ:俳優って究極のコスプレイヤーやと思うねん。アメリカだと映画の俳優は映画、CMはCMっていうふうに活動領域が限られているのが普通やけど、日本の芸能界はボーダーレスだし、ある意味でそこが醍醐味やろ。いろんな仕事して楽しんだ方がええと思うで。

 

私の目を見ながら真剣に話すけーすけさんは、手元の乾き物を思い切りカウンターにばらまきました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160330225318j:plain

落ちた乾き物を悩ましく見つめ、自分で食べ始めたけーすけさんを、ソファからマンゴーちゃんと、オーナーのacoさんが見守っていました。

明日、けーすけさんは、acoさんが先生をしているベリーダンス教室の発表会で、司会をするそうです。

 

今夜の一品

けーすけさんのジントニック(800円)

お酒はほとんど飲めなかったというけーすけさんが、猛勉強の末、持ち前の器用さと凝り性を発揮して作ってくれます。

f:id:Meshi2_IB:20160328204304j:plain

 

今夜のお店

SONEBAR(ソネバー)

住所:東京渋谷区神山町17-1 第2渡辺ビル4F
電話番号:03-3465-4841
営業時間:21:00~5:00(日によって異なる場合もあります)
ウェブサイト:http://sonebar.jimdo.com/

 

書いた人:姫乃たま

姫乃たま

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)があ る。

過去記事も読む

隠れベストセラー『暗渠マニアック!』著者と行く、東京暗渠飲み【渋谷編】

f:id:Meshi2_Writer:20151125103245j:plain

暗渠(あんきょ)、知っていますか?

 

この1~2年ほど目にすることが増えた「暗渠」という言葉。

 

私は当初、どう読むのかさえも分かりませんでした。

 

【渠】[音]キョ(漢) [訓]みぞ

 

こんな字が日本語にあるんだなあ……!

 

しばらくは読めないままに放っておいたんですが、

定期的にツイッターやらSNSに出てくると、やっぱり知りたくなるもの。

 

辞書を引いてみれば、

【暗渠】覆いをしたり地下に設けたりして、外から見えないようになっている水路

と、ありました。

 

要するに

「昔、川や水路があり、現在はフタをして見えなくしてある場所」という意味。

 

うーん……それで?

 

それの何がおもしろいのだろう……? 

 

はてな。

 

言葉の意味がわかっても、トピックになる理由が分からないまま過ごしていましたが、そうこうするうち一冊の本が話題に。

それがトップ画像の『暗渠マニアック!』(柏書房)です。

オビには「暗渠を知ると“街の見え方”が変わる」の文字が。

 

ふーむ。

 

さっそく読んでみたんですが、結論からいって…

 

とっても、おもしろかったんです!!

 

どうおもしろく感じたかっていうと、

東京をみる目が、ホントにかなり変わりました!

日常的にみていたものが変容していく驚き。

東京って、こんなに川や水路があったんだなあ……! 

 

 そして著者のブログを見てみると、

各地の暗渠を訪ねては「都市のいまむかし」を感じつつ、

その近所で飲み食いを楽しまれている模様がアップされていたのです。

 

それこそが、暗渠飲み。

 

うーむ。

 

これもひとつの食の楽しみ方のひとつでは? 

 

これは取材したいぞ。

 

『暗渠マニアック!』はおふたりの著者による共作。

髙山英男(たかやま・ひでお)さんと吉村生(よしむら・なま)さん、

暗渠のたのしみと暗渠飲みについて、具体的に教えてくれませんかー?

 

『暗渠マニアック!』著者のおふたりと、いざ出発

このへんで読み方忘れたひとも出てきそうですね。

確認のため、もう一度。暗渠(あんきょ)ですよ。アンキョ。

f:id:Meshi2_IB:20160217103547j:plain

ちょうど暗渠探索中だったおふたり。

左側が高山さん、右が吉村さん(顔出しはご都合上NGとのことなので、ご了承ください)。きょうは渋谷の暗渠を散歩中でした。

 

渋谷といえば今や世界的に有名な街。

あの街のにも暗渠、すなわち「覆いをしたり地下に設けたりして、外から見えないようになっている水路」があるのでしょうか?

 

まずは実際に体験してもらったほうがいいと思うので、渋谷の暗渠を一緒にまわってみましょう! スタートは宮益坂下、ビックカメラの東口店の前から、渋谷駅方面に行きますよ。(高山さん) 

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125111422j:plain

高山さん「すぐに自転車置き場が右手に見えてきます。この奥に看板があるので、よーく見てください」

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125111334j:plain

「なんて書いてあります?」

「え? 渋谷川遊歩道…しぶやがわ、ゆうほどう、ですね」

「そう、つまりここはもともと、川だったんです

 

それでは、もう一度見てみましょう。

f:id:Meshi2_Writer:20151125111422j:plain

イマジン。 想像してみてください。

 

ここが昔は、川。

そう言われてみれば、道路のゆるやかなカーブがちょっと川っぽいかも……?

 

f:id:Meshi2_IB:20160217102801j:plain

先の地点から1分ほど歩いて、渋谷西武デパートのA館とB館の間へ。

高山さん「さっきの渋谷川の支流のひとつが、山手線の高架下を抜けて、ここに連なっているんですよ」

 

え。

じゃあ幾度となく歩いてきた渋谷のこの通りって……

「川だったんです。いや今もこの下は川なんですよ。下水道になっていますけれどね」

じゃあ、いま道をゆくあのタクシーって、川の上を運転しているようなものなのか。

なんだか急に……A館とB館をつなぐあの立体通路が橋に見えてきたぞ。

 

「この先の町名を思い出してみてください。交番がありますよね?」

ああ、宇田川町の交番ですね。

 

え。

あれ。

「そう、宇田川町……ですよね?」

あ、そうか……

だから宇田「川」町なのか……!

 

渋谷川をさかのぼっていくと、宇田川があったり、初台川があったり、いろいろな支流と出会えます。渋谷川って、分岐の多様性がおもしろい川なんですよ」

 

いやはや、なんとも。

渋谷駅からロフトやハンズのあたりが「かつて川だった」って、

どのくらいの人が知っているんだろう?

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125113025j:plain

渋谷・東急本店と、東急ハンズをつなぐ道にて。旬のスポット「奥渋谷」に続くあたりですが、ここもかつては川だった、と高山さん。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125113214j:plain

髙山さん「この道路の蛇行する感じ、これが“かつての川”としての名残をすごくあらわしているんです。いかにも川らしい流線形じゃありませんか」

 

確かに、さっきよりも川らしいラインのうねりが感じられる。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125113532j:plain

吉村さん「この通りにある富士そば、“暗渠そば”ができるので重宝するんですよー」

暗渠を眺めつつたぐるそばは、たまらないのだそう。

かつてここが現役の川だった時代にも、そば屋さんがあったりしたんだろうか。

 

宇田川沿いでビールを飲みつつ、暗渠ウォッチング

f:id:Meshi2_Writer:20151125115738j:plain

この宇田川、いや「宇田リバーサイド」にあるおすすめ暗渠飲みスポットがデンマークからやってきたビールスタンド『ミッケラー・トウキョウ』。

味わいしっかりのビールが常時約20種類楽しめます。

以前にメシ通でもご紹介したんですよ!(編集部註:2016年2月末で閉店。現在はビアバー「OL TOKYO」として同所で営業中)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125120421j:plain

外のテラスが暗渠好きにはたまらないロケーション、なのだそう。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125120446j:plain

高山さんの“暗渠つまみ”は、古地図アプリと地図。

これらを照らし合わせつつ、まちのかつての情景に思いを寄せて、酒を飲む。

ここはかつてどんな川だったんだろう。

 

川辺に住む人々はどんな暮らしをしていたのか。 そして、その面影を残すものは?

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125120603j:plain

変わらないのは空ばかり。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125120649j:plain

  

さて、街歩きも再スタート!

さらに宇田川遊歩道を「上流」へ。

f:id:Meshi2_Writer:20151125120637j:plain

 

こういう「車止め」があるところは、暗渠の可能性が高いんです。暗渠とは簡単にいって「川にふたをした状態」であるわけで、重量のある車両が乗り入れないようにしているんですね。車止めがある=暗渠じゃないですが、かなり暗渠指数の高いものです。(高山さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125121253j:plain

繰りかえしますが、暗渠というのは、もともと川。

フタや覆いができる規模なのだから、支流の小川だったり、

もともとは「どぶ」であったものも多いんだろうなあ。

 

だから暗渠にそって建てられているものは、暗渠を背にしていること多いんです。これらのマンションもそうですね。このすべてから背を向けられている感じ、好きなんですよ。暗渠独特の、たまらない寂寥感がある(高山さん)

 

暗渠もいろいろで、もともと本流だったものは現在、遊歩道や車道になっていたりします。細い支流だったところは現在でもわびしい空気が漂っていたり。そういうところは家々が暗渠に対して背を向けていることが多いですね(吉村さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125121819j:plain

ふたりは宇田川町から富ヶ谷方面に歩き、代々木八幡を抜け、山手通りへ。

 

ここまで渋谷から富ヶ谷、2つの谷を歩いてきました。谷があるということは、川がある、ということだと考えています。谷のつく町名には、かつて川があったんだろうな、と。そして今はその姿がない=暗渠があるんだろう、って思うんですよ(高山さん)

 

土地の名称から水の在りようを思い、そして実際に、歩いてみる。

 

現地を歩いて、川を思わせるカーブの残る道、車止めのある小路などを見つけては、

過去の地図や資料類と照らし合わせる。

そうした行程を経て、以前は川だったことをつきとめたときは、

なんともいえない達成感と喜びがあるのだそう。

 

 ちなみに、おふたりは2009年頃からこの活動を続けているのだとか。

『ブラタモリ(NHK)』などまち歩きが注目されて久しいけれど、

過去と現在がつながっていることを確証する瞬間ってのは、

独特の興奮があるもの。

今を生きているというひとつの「点」から、

何か脈々とした「線」につながったような、あの独特の瞬間……。

そんなことをつらつら考えていたら、

 

タクシー営業所やバスターミナルは典型的な“暗渠サイン”

f:id:Meshi2_Writer:20151125122355j:plain

「初台川へようこそー」

高山さんは橋に腰かけていました。

川が現役だったら、水面にダイブする方向です。

カミナリじいさんがいたら怒られるなあ。

 

いやしかし、こんなにハッキリと橋が残っているものなんですねえ!

「でも、ここがかつて川だったことを知らなければ、何も気づかず通り過ぎてしまうでしょうね」(髙山さん)

 

ああ……確かに。まったくもってスルーしてしまうか、

よくて「高さのハンパな手すりだな」ぐらいにしか思わないかも。

 

暗渠を歩くことって、私の場合は川跡特有のものの『外形を味わう』ことに魅力を感じたことから始まりました。この手すりもそうですけど、哀愁漂う古いもの、川の名残の構造物は本当に味わい深いと思います。(吉村さん)

 

役目を終えたものがポツンと残る。これも「暗渠らしさ」なのだな。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125122651j:plain

しばらく進むと、タクシー営業所が。

 

これも、暗渠サインのひとつです。タクシーの営業所やバスターミナルって、暗渠のそばに多いんですよ。ある程度の広さが必要な施設って、湿り気の多い川流域では確保しやすかったんじゃないでしょうか。

暗渠サインは他にもいろいろあります。「大量の排水が必要となる商売」が暗渠のそばに多くて、銭湯、釣り堀、金魚店、クリーニング店、豆腐店、氷室、印刷所などが代表的なものでしょうか。(髙山さん)

 

 これらのご商売が近所にあるかた、ひょっとしたらあなたのそばに暗渠があるかも?

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125124150j:plain

さらに初台川暗渠をのぼっていくと、なんと湧き水が!

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125124235j:plain

わかります? 

 

写真だと単なる水たまりに見えてしまうなあ…。

実際はちろちろと微量ながら、確かに水が湧いていました。

ずっと暗渠を歩いていてふと水面に出会う。これ、ちょっとした歓喜ですよ。

 

ただ、これが本当の湧き水なのかは分かりません。ある方は「老朽化した水道管からの漏れ水が湧き水となって地表に出ているのではないか」とも考えているようです。(高山さん)

 

なるほど。 

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125125140j:plain

歩いてたどれる初台川暗渠は、湧き水のところで、おしまい。

その先は雑草生えの防止か、黒いビニールに覆われていました。

でもそれがあたかも闇夜の川のように思えて、

かつて開渠(※暗渠の反対語)だった時代が、ちょっとしのばれるようでもあり。

 

暗渠近くにはクリーニング店、服店、銭湯なども

f:id:Meshi2_IB:20160217104000j:plain

さて、今度は代々木上原に移動。

正面奥にスーパーの丸正が見えますが、この裏道もかつて川だったとは……!

知らないまま川の上、何度も通ってたな。

暗渠サインのひとつ、車止めも発見。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125125837j:plain

そして「暗渠サイドには裏口が」というセオリーはここでも立証。

 

f:id:Meshi2_IB:20160217104059j:plain

さらに暗渠サインのひとつ、クリーニング店、そして服店も近くに発見!

(きものは染めや洗い張りなど水が大量に必要な商売)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125130050j:plain

さらには銭湯も。

 

こちらの銭湯、代々木上原の名物スポットのひとつ。

芸能人のサインがたくさん飾ってありますよ。

昭和の大物歌手やボクシングのチャンピオンのヴィンテージ・サインも。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125130326j:plain

このあたりのかつての地図を調べると、たくさんの橋があったことがわかります。

 

暗渠飲みの絶好スポット、渋谷・神山町「おいちゃん」

さて、一行は渋谷へ戻ってきました。

神山町は宇田川遊歩道沿いにある『おいちゃん』暗渠飲みですよ!

 

f:id:Meshi2_Writer:20151207124824j:plain

何気なく通り過ぎがちなこの宇田川遊歩道、実はけっこういいお店が多いのです。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151207124910j:plain

この看板が目印!

 

f:id:Meshi2_Writer:20151125124837j:plain

髙山さん、かつての宇田川の流れに思いを馳せていますね……。

道が川面に思えてきました。

  

f:id:Meshi2_Writer:20151203133726j:plain

こちら、ご主人特製の焼き鳥とおでんが名物!

  

f:id:Meshi2_Writer:20160224141433j:plain

串もの、おでんはすべて1品200円均一です。

  

f:id:Meshi2_Writer:20160224141237j:plain

個人的なおすすめがこのマッシュルーム串!

うまみたっぷりで、なんともいいアテなんですわ。

  

f:id:Meshi2_Writer:20151207124726j:plain

ポテサラがうまい店は何を頼んでもはずれません。

酒飲みセオリーここにあり。

 

さて髙山さん、宇田川暗渠を眺めつつのいまのお気持ち、いかがですか?

 

お酒も暗渠も大好きなので、格別です。お酒を飲んだり酔っぱらうことは、まあ非日常体験だったりしますよね。私はお酒のそういうところも好きなんです。朝呑みで味わえる『いつもと違う午前中』とか、近所の公園呑みで感じる『見違えるような居心地のよさ』とか、いろんな呑み方で、世界が無限に広がっていく…。

暗渠も似ています。きょう白央さんが感じられたように、暗渠を知ることで見慣れた日常が違って見えますでしょう。お酒も暗渠も、トランス装置のようなものなんでしょうね。今はそのトランス装置がダブルで稼動している、という恐ろしい状況であると…。とても贅沢な時間です。

 

吉村さんは、いかがでしょう?

 

暗渠化以前の川は、時代によりさまざまな表情を見せていて、汚いどぶ川のときもあるけれど、清流に魚が泳いでいた時代もあります。そんな川面や生物たちを幻視しながら飲む、というのはたまりませんね。ここはさながら川床、でしょうか・・・暗渠沿いにあるというだけで、街の『飲み屋さん』はたちまち『暗渠飲み屋さん』となり、とても特別なものに思えてきます。

暗渠さんぽ自体、宝探しのような愉しみがあるのですが、暗渠飲み屋さん探しもまた同様で、ぽつぽつとお店が建っている宇田川には、宝が詰まっているように思いました。この『おいちゃん』のテラス席は特等席ですね。いやぁ・・・ここのおでん、ほんとうにおいしい!

 

暗渠さんぽ、そして暗渠飲み、いかがでしたか?

 

東京はこの他にも、いたるところにたくさんの暗渠があるのだそう。

ある暗渠好きのかたが以前、SNSに書かれていた言葉が印象的でした。

「雨が降っていまは道路になっている暗渠が濡れると、川だった時代の姿がよみがえるようで、思わず足をとめて見入ってしまう」という言葉。

 

平凡な道々をそんなふうに見られるって、すごい。

 

土地開発が起こるのは仕方ない部分もあるけれど、

せめて町名・地名は残してほしい……そんなことを思った、

東京暗渠めぐりでありました!

 

お店情報

おいちゃん

住所:東京渋谷区神山町10-14
電話番号:03-6804-8609
営業時間:18:00〜深夜
定休日:不定休
ウェブサイト:https://www.facebook.com/kushimotsuoichan

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。

過去記事も読む

トップに戻る