つい先日、衝撃的なものと出会った。
その今まで見たことのないビジュアルに、私は心をがっちりつかまれてしまった。
「小倉ホットケーキ」だ。
ホットケーキに「これでもか!」という量のあんこがかかっている。
いや、あんこがかかっているというか、あんこにつかっている。
例えるなら、あんこのお風呂。
もっと言うと、あんこの海に浮かぶホットケーキの島のような。
それとも、あんこの宇宙に浮かぶ惑星ホットケーキの方がふさわしいだろうか!
圧倒的なあんこを例え出すと興奮が止まらないのでこの辺でやめておこう。
ということで今回は、こちらの「小倉ホットケーキ」をご紹介しようと思う。
老舗の和菓子屋さんが作る「小倉ホットケーキ」
先ほどのホットケーキを出しているのは「とらや椿山」。
大正14年創業の和菓子屋さんだ。シックな佇まいの外観からも老舗の風格がうかがえる。
店頭のショーケースをのぞきこむと、例のホットケーキを確認できた。
上段右の「小倉ホットケーキ」。びっくりするほど普通のテンションで並んでいる。
お店の佇まいやショーケースを見る限りでは、誰もあのようなダイナミックなホットケーキが出てくるなんて想像できないだろう。
お店の手前は和菓子の販売スペース。その奥にゆったりと落ち着いた雰囲気の喫茶室がある。
この雰囲気の中で、何の前触れもなくあのホットケーキが登場するので気を付けていただきたい。
まずは飲み物で一服し、精神統一を済ませておいてほしい。
▲小倉ホットケーキ(750円)
お待ちかねの「小倉ホットケーキ」が運ばれてきた。
それでは、じっくりと観察していきたい。
写真では伝わりづらいが、運ばれてきた時点でお皿全体から湯気がふよふよと漂っていた。ホットケーキもあんこもホカホカだ。
ホカホカ具合に、私は思わず顔面で立ち上る湯気を受け止めにいった。顔面が甘くて香ばしい香りに包まれる。
家にこういう加湿器を置いておきたい。そしてホカホカの湯気を顔面で浴び続けたい。
今にもお皿からあふれそうなあんこの海。
ホットケーキ用のあんこは、お汁粉と同じ材料を使用しているが、ホットケーキに合うよう水分量を調整しているそう。
お汁粉よりもとろみがあり、濃厚に仕上がっている。
和菓子屋さんなので、もちろんあんこがおいしい。そして控えめな甘さでとても食べやすい。
絶景にうっとりするのはほどほどにして、温かいうちに食べたい。
ナイフを入れると簡単に切れた。生地の断面が現われ、あんこの海も見事に割れた。
モーゼが海を割った時も人々はこんな気持ちだったのだろうか、と私は和菓子屋さんの奇跡を目の当たりにして思った。
優しい甘さの生地は柔らかく、粉感もちょうど良い。
家で作るホットケーキのような素朴さだが、空気感と粉感のバランスが絶妙で、なかなかまねのできない生地だと思う。
食べ進めるうちに、ある変化に気が付く。
いつの間にかあんこの海が消えている。満潮だったあんこの海はどこへ行ってしまったのか。
しかし、これは決して悲しい現象ではないので安心してほしい。
ホットケーキの生地があんこの水分を吸い上げたため、あんこの海が引いたのだ。
あんこの海につかっていた部分の生地は、しっとり食感に。
そして程よく水分の抜けたあんこは豆の食感が鮮明に。
時間経過と共に現れた食感のグラデーションに、私は感動を抑えきれなかった。
夢中で黙々と食べる別視点ガイドの松澤さん。
今回は1皿を2人で分けたので、少し物足りなかった。
松澤さん分のホットケーキを見ながら「半分返してくれないかな……」と思ったりもした。
次は1皿全てのあんこの海とホットケーキの大陸を占拠しようと思う。
「小倉ホットケーキ」はどら焼きをヒントに誕生した
3代目店主の坂井さんに、「小倉ホットケーキ」についてお話を聞かせていただいた。
── 「小倉ホットケーキ」はいつ頃、どのように誕生したのでしょうか。
「創業当時は和菓子の販売のみで、喫茶は昭和40年あたりから始めました。当初はあんみつなどの甘味系をメインに。
そのうち、お客さんからのリクエストでホットケーキも始めましたが、最初はバターとシロップのシンプルなものでした。
次第にアイスやフルーツを添えたりするようになって。
そこから和菓子屋さんならあんこだと思いついて、どら焼きをヒントに『小倉ホットケーキ』が誕生しました」
── なるほど、お客さんからのリクエストや工夫を重ねられて、今の「小倉ホットケーキ」が出来たのですね!
甘い皮2枚とあんこ、確かにどら焼きと同じ組み合わせ!
最近のパンケーキブームの影響で、テレビや雑誌で紹介されると翌日にはお店の外まで行列がのび、とても驚いたそうだ。
「和菓子の形も時代と共に変わっていく」という坂井さんのひと言が印象的だった。
インパクト大!「大栗まんじゅう」はお土産におすすめ
店内のショーケースに並んだ和菓子も見せていただいた。
たくさんの和菓子の中でも、ひと際目立っていたのは、大きな栗まんじゅう。こんなにロマンと冒険心をくすぐる栗まんじゅうは他にない。
ショーケースの前で「すごい……!」と小声でささやいていたら、従業員さんが優しく声をかけてくださった。
「大きくて食べきれないと思うでしょう? でも半分食べ終わったら、すぐにもう半分って、ぺろっと1個食べちゃいますよ。甘さ控えめだから。昔の和菓子はうんと甘かったけど、最近は上品な甘さが人気ね」
伝統を守りつつ、その時代の好みに合わせて味を調整しているそうだ。
確かに昔のお菓子ってすごく甘かったような気がする。
▲大栗まんじゅう(380円)
持ち帰った「大栗まんじゅう」を袋から取り出したら、本当に大きくてちょっと笑ってしまった。
「大栗まんじゅう」を割ってみると、これまた大きな栗が中から顔をのぞかせた。
しっかり焼き上がった皮に、甘さ控えめの白あん、ほくほくの栗。ニヤニヤが止まらない。
お土産でもらったらうれしいに決まっているな、と思いながら大満足で食べ終わった。
ごちそうさまでした!
お店情報
とらや椿山
住所:東京都杉並区阿佐谷南1-33-5
電話番号:03-3314-1331
営業時間:9:30~19:00
定休日:無休
ウェブサイト:http://www.toraya-chinzan.com/