伝説の環七「なんでんかんでん」の味をつくった男は今……。「御天」の超絶濃厚スープ&極細麺こそ正真正銘、博多仕込みのとんこつラーメンや!

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とんこつラーメンブームを巻き起こし、環七ラーメン戦争を巻き起こした伝説の名店「なんでんかんでん」(以下、なんでん)を覚えているだろうか!?

1987年にオープンし、数年でたちまち大行列店に。お店の前を通る環七には、当時は大らかだった路上駐車があふれ、交通整理が要るほどの大繁盛店となった。
経営者である川原ひろし社長は、元々歌手を目指し上京し、司会業やお笑いもこなすエンターティナーであったこともあり、2001年出演の『マネーの虎』をはじめ、テレビ番組でタレントさながらに活躍したことも記憶に新しい。
しかし、その後、路上駐車が厳しくなったり、不況も相まって、2012年に閉店した。

そもそも、なんでんが名店になったのは、東京にとんこつラーメンという食べ物を持ち込んだ功績による。
本場博多の長浜ラーメン最大の魅力は、とんこつのみを何日も煮込むことで生まれる、独特のクセになるコクにある。しかしその副産物として、強烈なとんこつ臭が店内はおろかお店の周辺にまで撒き散らされることとなる。
九州人やとんこつマニアにはタマラナイ匂いでも、なじみのない東京人には公害以外の何モノでもない。異臭騒ぎのレベルだ。とんこつラーメンがブームになったにも関わらず、東京に本格とんこつが広まらないのは、この匂い問題がネックのひとつとなっている。

そんな中、匂い問題をものともせず、なんでんのピーク時と同等、いやそれ以上に濃厚なとんこつラーメンをつくり続けているお店が存在する。

それが東京・下井草にある「御天」だ。

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実はこちらを経営するのは、なんでんの初期メンバーで、なんでんの味をつくっていた張本人。

なんでんは当初、アルコールやつまみも置いており、その頃のスタイルを継承しつつ、本格的な博多長浜のとんこつラーメンを提供している。

 

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なんでん時代のことや、真の博多長浜とは、そして濃厚とんこつを維持し続ける秘訣(ひけつ)とは?

私自身、なんでんをきっかけにとんこつラーメンにハマって25年、これまでずっと疑問だったことをどうしても知りたい。ならばと、直接ご本人に話を聞いてきた。

 

とんこつブーム前夜

お店で取材に応じてくださったのは、「御天」の岩佐俊孝氏だ。

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▲「御天」の岩佐俊孝社長。かつてなんでんの味を作り、「御天」として独立を果たした

 

── 岩佐さんはなんでんにいらっしゃったとお聞きしたのですが、川原ひろしさんとはどうして出会ったのでしょうか?

 

岩佐氏:私は元々福岡のホテルでフレンチをやっていたんですけど、高校の同級生である川原ひろしが、先に東京に出て、お笑い芸人を目指していたんですね。その頃、川原が言っていたことには「東京にはおいしいとんこつラーメンはない」と。

 

── 当時あった本格的なとんこつは、新宿の「熊本ラーメン桂花」くらいでしたよね。あとはただスープの色が白いだけの、なんちゃってとんこつラーメンがほとんどでした。

 

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▲ただ白いだけじゃない、本場のとんこつラーメンを作りながら、当時の状況をていねいに話して下さった

 

岩佐氏:それで私の方に相談がきて、じゃあ本格的なとんこつラーメンやろうか! という話になったんです。それで198586年くらいかな、上京して物件を探しに来たんですが、まだバブルが弾ける前で、ちょうどいい物件がなかったんです。

 

── 当時、賃料も相当高かったんじゃないですか?

 

岩佐氏:それ以前に、とにかく物件がない。見つかってもラーメン店には貸してくれない。やっと出物があったのが、あの環七の場所だったんです。

 

── 居抜き物件だったんですね。

 

岩佐氏:そうですね。そこで、なんでんをオープンしたわけです。

 

環七伝説の幕開け

── 当初、なんでんでの勝算はあったんでしょうか。

 

岩佐氏:その頃すでに札幌ラーメンがありましたが、東京のラーメンって醤油ベースじゃないですか。東京の人たちがウチみたいな本場のとんこつラーメンを食べるかどうか、わからないぞって(笑)。

 

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▲店内に強烈な臭いを放つスープが丼に注がれる。とんこつジャンキーにはタマラナイ芳香なのだ。

 

── 今まで東京にない味ですし、本格とんこつの強烈な匂いも独特ですものね(笑)。

 

岩佐氏:心配はありましたけど、でも近くの下北沢辺りにいた九州出身の人たちがウチに通い始めてくれたんですよ。飲めるような形にもしてあったので。

 

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▲「御天」のメニュー。半分はおつまみで埋め尽くされている

 

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▲棚に並ぶ焼酎瓶。グラス1杯 430~700円で飲める

 

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▲豚串 350円に合わせたのは、モンドセレクションを受賞した西酒造の芋焼酎・富乃宝山 650円をロックで。これが芋臭くなく、ややフルーティさがあって飲みやすい。かなりタップリと注がれるのもうれしい。豚肉はムチッとした食感で甘みもバツグン。とんこつの優良店ならではの逸品

 

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▲〆はラーメン750円。年間契約して安定した仕入れを実現しているという九条ネギは東京のスーパーでたまにみかけるものよりかなり太い。それをネギラーメンでもないのにタップリと入れてくれる。写真左上は辛子高菜。なんでん時代からの定番トッピング。あまりにたくさん入れられてしまうので、多く取られないように徐々に辛くしていたら激辛になったという。卓上には他に胡麻なども常備

 

── なんでんも当初は、「御天」のような飲める居酒屋スタイルだったんですか。

 

岩佐氏:元々料理人ですし、つまみで飲んで、〆にラーメンという形で最初火がついたんです。皆さんその頃はタクシーで来てくれてね。

 

── あぁ、タクシーチケットで来られるから。

 

岩佐氏:それで徐々に定着して行列ができるようになったら、テレビで取り上げられたんです。最初は『追跡』(※編注:1988~94年まで日本テレビ系列で生放送された情報・ドキュメンタリー番組)だったかな?

 

── 青島幸男さんのですよね。

 

岩佐氏:そうそう、高見知佳さんと。それともう1本、テレビのゴールデンタイムに立て続けに出たら、そこからボーン! と一気に大行列。それで、最初のとんこつラーメンブームになったと。

 

── 当時、なんでんかんでん渋滞とか、環七ラーメン戦争という言い方されていましたよね。

 

岩佐氏:結果そうなりまして、それからもドンドン露出が増えていって、浅ヤンの絡みで城南電機の……

 

── 宮地社長! 懐かしいですね~。

 

岩佐氏:とか、ほら、あのウルサい感じの中華料理人の……

 

── 金萬福(きんまんぷく)さん!

 

岩佐氏:料理人をイジッたようなバラエティ路線が流行ったじゃないですか。川原のキャラクターもあって、それに上手く乗っかっちゃったわけです。

 

── 川原さん、店先で行列客相手にマジックしたりしてましたよね。

 

岩佐氏:川原はいわば広告塔です。仕込みは全部私が自分でやってました。

 

── では厨房にはまったくタッチしてなかった?

 

岩佐氏:いや、なんでんは深夜3時までの営業だったんですけど、1時半に私が上がるんで、そこで彼が来たら交代で、あと任せたよと。実際、彼のお店ですから。

 

── 岩佐さんが独立された時期と、私がなんでんに行き始めた時期と前後するくらいなんです。岩佐さんがお店に居た頃と抜けた後ではやっぱりスープもあっさり目になったような気もして。自分の体調とかで感じ方の違いもあると思いますが。

 

岩佐氏:そんなこんなで、7~8年近くやりまして、その時にラーメン博物館の話も来ていたんです。出来る前に、館長となる岩岡さんという方が何度も熱心に来てね、なんでんをメインにやりたいと。でもその頃、お客さんを1日で1000人さばいていたんです。

 

── せ、1000人ですか!?

 

岩佐氏:手一杯で、新横浜には行けませんよと。スタッフを派遣するにも人が育っていませんし、私はその頃には、ここで「御天」を始めるのはほぼ決まっていたんです。

 

驚くべき濃厚スープの秘密

── なんでんを食べる前までは、関東でとんこつラーメンを食べるとなると、醤油や味噌のあるお店の一つのメニューに過ぎなかったわけですよね。そういうお店のとんこつラーメンはただ色が真っ白の、豚の骨を煮出して出来たうま味とはかけ離れた代物でした。

 

岩佐氏:実際、白くないですよね。

 

── そうなんですよ。

 

岩佐氏:赤茶系ですから。

 

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▲赤茶系と呼ばれるゆえんとなる「御天」のスープ

 

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▲アップにすると、白い中に赤い粒子のようなものが混ざって、赤茶けて見える。よく分かるように、油抜きで作っていただいた一杯

 

── 博多より赤茶色が強いですよね。昔は博多も赤茶系だったんですか?

 

岩佐氏:寸胴に骨入れて、(とんこつラーメンの本場である)長浜でもちゃんとスープ取ってるところは取っていますよ。でも、ただ白く白濁したら骨を取り出しちゃって、ラード浮かべてってところが多い。

 

── こちらでは白くなった後も寸胴で何日も煮込んで濃厚にしていると。

 

岩佐氏:「御天」になってからは5本の寸胴を使ってます。薄いところからドンドン濃くしていくんですね。で、濃くなりすぎたら薄いところから足して調整しています。増やす方がブレが少ないんですね。なんでんでは3本しかなかったんですが、3本で1000杯分をさばくわけです。ウチが独立した後、共通の業者さんがいたので、スープの濃度測ったそうなんですけど、ブリックスっていう濃度の単位でウチが12という数値だったのに対して、なんでんは4だったかな(笑)。

 

── なんでんの3倍ですか。それくらいの濃度にするには、骨の形がなくなるまで煮込むわけですよね。

 

岩佐氏:もうボロボロです。骨の色が最後、真っ赤なんです。

 

── 赤茶系の色になる理由はたぶん、煮込むと骨の中の髄の赤い砂状のものが出て、スープに混ざっているからだと思っていたのですが。

 

岩佐氏:そうです! 丼、最後全部飲めば、骨の粉が残っていると、ちゃんとしたところだと思いますよ。

 

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▲完食すると、丼の底に砂状の骨粉が溜まっていれば本物の証拠!

 

── 自分もそこを、お店に行った時の基準にしていまして、飲み終わると、おおっ、こんだけザラザラ残ってる! って喜んでいます。

 

岩佐氏:当たりです。ウチはなんでんの頃から、豚のゲンコツと頭(カシラ)の骨だけ。寸胴では、マロ(骨髄)脂っていう、骨から十分な油が出るんですよ、放っておけば。それが真ん中が湧いて、周りにバーっと浮いてくるんですけど、それが巡回して白くなるので、それだけで十分トロみが出ますから。

 

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▲寸胴の上に浮いてフチに溜まる白い部分がマロ脂。いわばとんこつスープの要だ

 

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▲油抜きだと、中心部分だけのスープとなる

 

── 自分、スープ自体が十分濃いと分かっている博多ラーメンのお店では、スープそのものを味わいたくてラード抜いて下さいって言うんです。

 

岩佐氏:抜きだと、スープが湧いた中心部からだけ、マロ脂が入らないようにして作りますよ。逆に「バリコッテリで!」「油多め!」って言われると、寸胴の周りに浮いてるマロ脂を入れてあげます。

 

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▲ラードが入った通常のラーメン。以前は写真にあるように、海苔に食用カルシウムによるプリントが入っていた。子どもウケは良かったが、食べないお客さんがいるということで現在は通常の海苔となっている

 

── てっきりただラードの量が増えるだけかと思っていました。今度試そう(笑)。

 

岩佐氏:でも、早死するぞ! って思いながら作ってますけど(笑)。

 

──  わはははは(苦笑)

 

岩佐氏:まぁ若いうちならいいけど、さすがにコレステロール取りすぎだろって。だから、私が食べる時はラードは入れませんね。

 

長浜屋台仕込みの極細麺

── とんこつスープの臭いや濃度とともに、麺の細さというのも長浜ラーメンの特徴だと思います。

 

岩佐氏:今利用している長浜の製麺業者さんを紹介してもらうために、1日長浜の屋台に修行に行ったんですよ。麺上げの練習やったり。最初なんでんも東京の業者さんにお願いしていたんですけど、オープンして半年で、もうダメだと。博多から麺取ろうと。それで当時、長浜屋台「ナンバーワン」の大将と知り合いだったんで、なんとかお願いして東京まで送ってもらっています。

 

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▲麺をゆでながら当時を振り返る岩佐氏

 

──それがこの麺ですね(写真下)。

 

岩佐氏:そう。やっぱり、濃厚なとんこつスープとの相性なんですよね、麺っていうのは。この極細麺が博多っていうか長浜っぽい。博多の中でも一番細い麺ですから。

 

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▲おもむろに袋から出して見せてくれた麺。確かに極細だ

 

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▲ゆで上がった麺

 

── 自分も長浜で食べたことあるんですけど、コチラのものより太い印象がありましたよ。

 

岩佐氏:あと、麺の硬さがあるじゃないですか。

 

── バリカタとか粉落としですよね。

 

岩佐氏:粉落としなんかもうほとんど生だからね。5秒しかゆでてないんだよ? そんなの食って大丈夫? って(笑)。

 

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▲残したスープに麺のお代わり「替え玉(粉落とし)」を投入。この瞬間が、とんこつラーメンの醍醐味(だいごみ)でもある

 

── つくってる側からそう言われるとは思っていませんでした(笑)。

 

岩佐氏:でもお客さんは「いや、この硬さじゃないとダメなんですよ」って言うの。ウチのお店でも、お客さんの8割はバリカタ以上でしょうね。

 

濃度をキープしてこそ

岩佐氏:私がなんでんから独立する時に付いてきてくれたのが、今も「御天」に店長としています。他にも横浜の方に1店舗作らせて。

 

── あ、そのお店って「御天」から「博多ラーメンもえぎ野」って名前に変えましたよね?

 

岩佐氏:グループから独立しました。他に千駄ヶ谷店もありますけど、5年前にのれん分けしたんです。ただ、今でもスープだけはここ井草本店で作ったものを運んでるんです。というのも、千駄ヶ谷のほうは裏手に新しいマンションが建って、スープが取れなくなったんですよ。

 

── 臭いの問題で存分にとんこつを炊けないという話はよく耳にします。よそのとんこつラーメン店だと、そういうところから、とんこつスープの濃度を落としてしまうんでしょうね。

 

岩佐氏:それだけ難しいんですね、キープするのは。

 

── それは、技術的なことで難しいんですか?

 

岩佐氏:技術もさることながら、コストもそうでしょう。

 

── 材料費が高騰している上に、ガス代も上がっている中で、特にとんこつラーメンはたくさんのガラを長時間炊くから余計にかかりそうですね。

 

岩佐氏:まぁ大変ですよ。それで材料ケチるとか結果、味落としていって、お客さんが引いていくって状況でしょうね。どこもそうだと思う。

 

── 数々の本格長浜ラーメンをうたうお店で食べてきましたが、ほとんどのお店がスープの濃度を落としていく中で、これだけ長い間、濃さをキープされてきたというのは、ブレない芯の強さがあってこそだと思うんです。だって普通なら、ラーメンのトレンドを気にしたりとか、商売上苦しんで濃度を薄めたりとか、ついつい流されてしまうと思うんですよね。

 

岩佐氏:この濃度をキープするのがお客さんとの約束じゃないですか。これが食べたくて皆さんいらっしゃるわけです。

 

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▲「お客さんは裏切れない」と、頼もしい言葉をいただきました

 

── ホントそうなんですよ!!

 

岩佐氏:お店を閉じるまでは、この味をキープしたいですね。

 

── 実質、東京のとんこつラーメンを作り上げてこられた岩佐さんの濃厚とんこつを、少しでも長く堪能しにうかがいたいと思います。今日はどうも、貴重なお話を事細かに、しかも面白く聞かせていただき、ありがとうございました。

 

「なんでんかんでん」なき今、とんこつラーメンを標榜する専門店のなかで、これほどまでに正統派のホンモノと出会える確率は、極端に低い。
とんこつを愛する筆者としては、「御天」のようなホンモノが増えてくれるのを願うばかりだ。たとえ時代でトレンドが変わろうとも、ホンモノはブレないのだから。

 

お店情報

御天

住所:東京都杉並区井草1-29-3
電話番号:03-3301-0311
営業時間:11:30~14:00/18:00~翌2:00(金曜日・土曜日~翌3:00、日曜日・連休最終日~翌1:00)
定休日:不定休(2018年より営業時間短縮の可能性あり。詳細は店舗にお問い合わせ下さい)

www.hotpepper.jp

 

書いた人:刈部山本(かりべ やまもと)

刈部山本

スペシャルティ珈琲&自家製ケーキ店を営む傍ら、ラーメン・酒場・町中華・喫茶で大衆食を貪りつつ、産業遺産・近代建築・郊外を彷徨い、路地裏系B級グルメのブログ デウスエクスマキな食卓 やミニコミ誌 背脂番付 セアブラキングザ・閉店 などにまとめる。メディアには、オークラ出版ムック『酒場人』コラム「ギャンブルイーターが行く!」執筆、『マツコの知らない世界』(TBS系列)「板橋チャーハンの世界」出演など。

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