東海住みなら知らぬ者はいない「ベトコンラーメン」とはなんなのか

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愛知県のご当地ラーメンといえば、何といっても台湾ラーメンが有名。しかし、もう一つ台湾ラーメンと同様に、ニンニクと唐辛子のパンチがきいたラーメンがあるのをご存じだろうか?

その名も「ベトコンラーメン」。

 

ベトコン、と聞いてついベトナム戦争をイメージする方もいるかもしれない。

ベトコンラーメンとはいつ、誰が考えたのか。そして、なぜ、その名が付けられたのだろうか? その真相に迫ってみた。

 

特徴はニンニクをたっぷり使うこと

ベトコンラーメンを出す店は、愛知県を中心に岐阜県や大阪府、岡山県などにある。ひょっとしたら、今ではそれ以外の地域でも食べられるかもしれないが、発祥の店は、愛知県一宮市で1969(昭和44)年に創業した「ベトコンラーメン 新京本店」

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お店の入口にある「ベトコンラーメン」の文字がわかるだろうか。

 

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まずは、二代目店主の稲垣賀彦さんにベトコンラーメンを作ってもらった。

このプロセスを参考にすれば、ベースがインスタントの袋入り麺でも似たような味になると思う。ぜひ家庭でも試してほしい。

 

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ベトコンラーメンの特徴は、ニンニクの粒がゴロゴロ入っていること

ニンニクはあらかじめ低温の油でじっくりと揚げたものを使い、ベトコンラーメン一杯につき、8粒~10粒も入る。つまり、ほぼニンニク1個丸ごと入っていることになる。

 

f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:ニンニクを揚げた油もモヤシとニラ、豚肉を炒める際に使います。良質なニンニク油ですから、風味がまったく違います。

  

スープは鶏ガラ&豚骨ベース

では実際に工程に入ろう。

まずは中華鍋に油を引かずにニンニクを入れて、表面に軽く焦げ目ができるまで焼く。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:これは香りを出すためで、ベトコンラーメンを作る上でもっとも重要な工程になります。

 

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次にモヤシを入れて、ニンニク油をかけて強火で手早く炒める。

モヤシがややシンナリしてきたところで豚肉とニラを投入して、さらに炒める。味付けは数種類をブレンドした醤油と唐辛子。

 

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醤油ダレが入った丼にスープを注ぎ、麺を入れる。ちなみにスープは鶏ガラと豚骨がベース。

 

f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:豚骨は砕かずに、丁寧にアクを取りながら煮ていくので、澄んだスープに仕上がるんです。ベトコンラーメンはスープが美味しいからこそ。だから、スープの仕込みも重要なんです。

 

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そして、炒めたニンニクとモヤシ、ニラ、豚肉を麺にのせて完成。

 

疲労回復や風邪のひき始めにも

これが「ベトコンラーメン」(Mサイズ・950円)。

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まずは、麺の上にのるモヤシから食べてみる。

うん、シャキシャキでニンニクのパンチがしっかりきいている。それはスープにもしっかり溶け込んでいて、飲むごとにパワーがチャージされたような気分になる。

 

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パンチのあるスープと麺の相性は抜群。麺の一本一本にも野菜とニンニク、スープの旨みがしっかりと絡む。モヤシを炒める際に唐辛子を入れていたので、辛いのを覚悟していた。

しかし、それは全体の味を引き締めるためのもので、逆に心地良い。もう、野菜とともに食べると、箸が止まらなくなるほど旨い!

 

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ニンニクはジャガイモのようにホクホクの食感。ほのかに甘く、ニオイはまったく気にならない。これも頬張るごとにパワーが満たされていくような気分。実際、疲れているときや風邪のひきはじめに食べに来る人も多いという。

美味しい上に身体にもよい。それが長年にわたって、地元の人々に愛されている理由だろう。

 

由来は確かにベトナム戦争だったが……

それにしても、ベトコンラーメンは何をきっかけに生まれたのだろうか?

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:うちのお店は私が小学生の頃に父がはじめました。父は満州国の新京市で生まれ育ちました。それが店名「新京」の由来です。満州から日本に帰ってきてからは、愛知県一宮市で服屋を営んでいました。

 

愛知県一宮市は繊維業が盛んで、1950(昭和25)年の朝鮮戦争の特需で空前の好景気に沸いていた。機織り機の音がガチャンと鳴ったら一万円儲かることから、“ガチャマン景気”と呼ばれ、繊維業は隆盛を極めた。

稲垣さんの父、稔さんの服店も例外ではなかった。ところが……。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:オイルショックで打撃を受けて、倒産してしまったんです。あの頃のこともよく覚えています。それまで暮らしは裕福でしたが、一気に貧しくなりましたね。そこで、生まれ育った満州で食べた中国の家庭料理を出すお店をやろうと。当時はカウンター7席の小さな店でしたが、とても繁盛していました。父と母だけでは手が足りなくなって、中華料理の経験のある料理人を雇ったんです。

 

当時のお店の厨房は今のように換気がしっかりしておらず、稔さんは疲労と湿気で食欲不振になり、体調を崩すこともあった。そんなとき、雇っていた料理人がニンニクをたっぷり入れたモヤシの炒め物を作ってくれた。これがベトコンラーメンのヒントになる。

 

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:食欲がないときでも食べられるし、何よりも満州時代を思い出させる懐かしい味だったそうです。体調が悪いときや疲れがたまっているときは、それをラーメンにのせて、賄いで食べていました。それをお客さんに出したところ、おいしいと評判になったんです。
メニューにくわえるにあたって、名前を考えねばなりません。当時はベトナム戦争の真っ只中で、ニュースでも頻繁に取り上げられていました。そこで、ベトナム戦争を勇敢に戦う兵士をイメージして、ベトコンラーメンと名付けたんです。

 

次第にベトナム戦争は泥沼化していき、国内でも反戦ムードが広がっていった。悲惨なベトナム戦争を連想させるラーメンではあまりにもイメージが悪い。しかし、ベトコンラーメンという名前はすでに定着していた。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:多くのお客さんから「ベトコンラーメンを食べると、身体の調子がよくなる」と言われていました。そこに着目したんです。つまり、食べるとベストコンディションになる、と。ベストコンディションを略して、ベトコン。名前はそのままに、由来を変えたんです。(稲垣さん)

 

本店で修業した人が独立し、お店を出したことでベトコンラーメンは愛知県や岐阜県から広がっていった。しかも、チェーン展開しているのではなく、昔ながらの「のれん分け」。ゆえに、店ごとに価格やメニューが異なり、食べ比べるのも楽しい。

絶好調なときはもちろん、絶不調でベストコンディションになりたいときも、パンチのあるラーメンが食べたいなら、ぜひ試してみてほしい。

 

店舗情報

ベトコンラーメン新京

住所:愛知県一宮市松島町5
電話:0586-73-5715
営業時間:
11:30~14:30(14:00L.O.)、17:30~21:00(金・土・祝全日は~22:00)
定休日:火曜日

www.hotpepper.jp

 

「世界の山ちゃん」が飲茶の新業態「世界のやむちゃん」で新規参入。その驚きの理由と練り上げられた戦略とは?

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「世界のやむちゃん」

この店名を聞いたとき、名古屋のみならず今や全国にその名をとどろかす手羽先の大型チェーン「世界の山ちゃん」をどこかのお店がパクった、もとい、オマージュでつけたのだろうと思った。

実は「やむちゃん」は「山ちゃん」の系列店。壮大な冗談ではない。その事実を知ってまたまた驚いた。

 

「私たちが狙っていたのは、まさにそのリアクションなんです!」

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そう話すのは、「世界の山ちゃん」を手がける株式会社エスワイフード・業態開発部副部長の堺和也さん(写真)だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:店名を聞いて「おや?」と、思ったらまずネットで検索しますよね。そして、当店のウェブサイトにたどり着く、と。そういう想定のもとでお店のネーミングを考えました。

 

やむちゃんは、その店名からでもわかるように、扱うのは飲茶。なぜ、まったく異なるジャンルの業態を手がけようと思ったのか。堺さんに話をうかがうとともに新業態店の全容をレポートする。

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▲「世界のやむちゃん」はビルの2階。階段を上ると「世界の山ちゃん」のキャラクター“鳥男”がお出迎え

 

悲願だった別業態の出店

山ちゃんの別業態は、栄・女子大小路と最近鶴舞にもオープンした「ら~めん やどかり屋」とフランチャイズで別のラーメン店、さらにカフェレストランの計4店舗。

国内外に78店舗展開する山ちゃんにしては決して多い方ではない。

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▲2019年1月にオープンした「ら~めん やどかり屋 鶴舞店」(エスワイフード提供)

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:弊社の山本重雄前会長もかつては女性専用のバーや海鮮居酒屋店を手がけたこともありましたが、長くは続きませんでした。新業態店を出すことは山本前会長の悲願でもあったんです。

 

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▲山本重雄前会長(エスワイフード提供)

 

山本重雄前会長は、2016年8月に59歳の若さで亡くなった。今はその意志を継いだ妻の久美氏が代表取締役として手腕を振るっている。

 

「女性向けカジュアルな飲茶」という未開拓の市場

一方、堺さんがエスワイフードに入社したのは昨年6月。それまで別の会社で店舗開発の仕事をしていて、新業態店のためにヘッドハンティングされたという。つまり、半年でゼロから「世界のやむちゃん」を立ち上げたということになる。

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f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:まず、新業態を考えるにあたって、山ちゃんにこれまで来店されたことがないお客様、つまり、おもに女性をターゲットにしようと思いました。名前は知っていても、一度も来られたことがないという方は意外と多いんです。

 

女性が足を運びたくなるお店をと考えてみると、名古屋にも飲茶や点心のお店はたくさんある。しかし、その多くは高級志向。それこそ山ちゃんのように居酒屋感覚で気軽に行けるお店は少ない。ここに攻め入るべきマーケットがあると確信。本格的な飲茶をリーズナブルに楽しめることをコンセプトの一つとした。

 

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▲「世界のやむちゃん」のメニュー。点心は1個68円~とお値打ち価格

 

とはいえ、飲茶に関してはまったくの素人。小籠包ひとつ作ろうにも作り方を教えてくれる人がいなかった。だったら本場へ行ってみるしかない。堺さんはメニュー開発のスタッフとともに台湾へ行き、現地の点心を食べ歩いた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:私自身、中華料理は15年ほど前にマネージャーとして働いた程度でまったくわかりませんでした。だから、自分が実際に食べてみて、おいしいと思ったお店の味を再現しようと。幸いにも台湾にも「世界の山ちゃん」はありますから、現地スタッフにも協力してもらい、一つ一つ作り上げました。

 

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▲「世界のやむちゃん」店内。ほどよい中華感!

 

店内は、台湾の路地裏をイメージ。壁や床もわざと汚してあり、インテリアもガーデン用のテーブルやチェアを使用していて、まさに本場の屋台の雰囲気だ。カメラを店内のどこに向けても「絵」になるので、SNSをも意識してのことかもしれない。

それと、店内には日本語が書かれたポップやポスターが1枚もないことに気がついた。これもリアルを追求してこのことだろう。

 

名付け親は中学生!?

新業態店は飲茶に決定したものの、店名の“やむちゃん”はまだ決まっていなかった。命名したのは、意外な人物だった。しかも、それは偶然に生まれた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:弊社の代表が中学生の娘さんと話しているときに、「山ちゃんが飲茶のお店をやるなら、やむちゃんでいいじゃん」と。それがきっかけとなって店名が「世界のやむちゃん」に決まりました。私自身、そのエピソードを聞いて、体に電気が走りましたね(笑)。もう8割は成功したと確信しました。

 

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▲誰もが「おやっ?」と思うネーミングじゃないと、この時代なかなか覚えてもらえない

 

8割は成功したと感じても、残り2割で手を抜くと足元をすくわれる。そこで、いかにお客さんが足を運びたくなる仕掛けを作るかに神経を注いだ。

堺さんが着目したのは、よくありがちな飲茶専門店の点心は3~5個売りで、たくさんの種類を選べない点。ここに改善点を見い出し自社メニューに反映させた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:日本中探しましたが、点心の1個売りをしているお店はなかったんですよね。ここに勝機があるんじゃないかと。

 

実際、やむちゃんのメニューを見ると、点心は全部で41種類もあり、1個から注文できる。つまり、数多くの中から選ぶ楽しさがあるのだ。

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▲手前の列左から右へ「巾着小籠包」(208円)、「珍珠丸子」(158円)、「うさぎ饅頭」(168円)。真ん中の列左から右へ「錦糸焼売」(148円)、「翡翠餃子」(168円)、「蟹肉焼売」(228円)。いちばん奥の列左から右へ「紅色ココナッツ団子」(148円)、「黄金饅頭」(228円)、「もち米焼売」(138円)

 

さらに1個ずつ「枡(ます)」に入っている点にも注目してもらいたい。いかにも女性ウケしそうな見栄えではないか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:インスタ映えする器を探していたときに、打ち合わせ先でたまたま酒枡が置いてあったのを見つけたんですよ。底の部分に穴を開けたら、せいろの代わりになるのではと思ったんです。ただし、枡を作る職人さんはせいろとして使用することを想定していませんから、枡の厚みや高さ、使用する塗料などをテストしてはまた作って、の繰り返しでした。すべて完全オーダーメイドです。

 

“映え度”満点な飲茶メニュー

では、数ある点心の中でも評判のメニューを紹介しよう。

まずは、コンニャクの粉末でできた皮で包んだ「巾着小籠包」(写真下、208円)。弾力があって破れにくいので、通常の小籠包よりも肉汁を閉じ込めることができる。

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▲かなり熱々なのでヤケドに注意!

 

こちらは、「もち米焼売」(写真下、138円)。五目おこわを包んだ、焼売とちまきの中間にある一品。

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▲蒸し上げた餅米のもっちりとした食感と味付けのバランスが絶妙。2個、3個と注文したくなる

 

デザート系の点心では、フォンダンショコラを中華スイーツ風にアレンジした「黄金饅頭」(写真下、228円)がオススメ。

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▲頬張ると、チョコレートではなく、黄金ソース(カスタード)が飛び出す。彩り的にも思い切りインスタ映えしそうだ

 

餃子には「山ちゃん」のスパイスが

新業態店ゆえに、山ちゃんらしさはかなり薄めてあるのかと思いきや、そうではない。山ちゃんの看板メニューである「幻の手羽先」の、“幻”の名を冠したメニューが存在するのだ。それが「幻の名古屋餃子」(写真下、348円)。

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豚肉ではなく、鶏肉を使った餃子なのだが、食べてみると、山ちゃんの手羽先の味そのもの。男性にもおすすめの一品である。

 

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ご覧の通り、皿には山ちゃんの秘伝のスパイスがかけられていて、その上に餃子をのせている。

 

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これがジューシーな鶏肉のあんを見事なまでに引き立てているのだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:いやぁ、本当にこのメニューは苦労しました。あんにスパイスを混ぜたり、皮にスパイスを練り込んだりしましたが、熱が加わると風味が飛んでしまうんです。でも、考えてみれば、手羽先も揚げた後でスパイスを振りかけているわけですから、最初からこうすればよかったんですけど(笑)。

 

筆者がお店へ行ったのは、午後2時。にもかかわらず、店内は満員だった。それも9割以上は女性客。オープン前に堺さんが思い描いていた光景がそこにはあったのである。

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▲メニューの表紙には「世界的飲茶」。つまり、訳すと「世界のやむちゃん」……。どこまでもシャレが効いている。ちなみにメニューは持ち帰り可能

 

新業態もまずまずのスタートを切った「世界のやむちゃん」。果たして今後、どのような展開になっていくのだろうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:「世界の山ちゃん」は、いまや東京大阪にもありますから、名古屋以外の都市に出店したいですね。そして、いずれは飲茶の本場、台湾にも逆輸入という形で進出できたらと思っています。

 

東京大阪でも山ちゃんの知名度はすこぶる高く、かつての名古屋めしのお店というある種特殊なジャンルの(?)お店ではなく、リーズナブルでうまい居酒屋店チェーンとして認知されている。

また、海外のタイや台湾でもその名をとどろかせているだけに、他の都市や海外への進出はそんなに遠い夢ではないと思う。夢の「飲茶逆輸入」なるか?

 

店舗情報

世界のやむちゃん

住所:愛知名古屋市中区栄3-12-21-2 寿子ビル2F
電話:052-265-7538
営業時間:11:30~23:00 (料理LO 22:30 、ドリンクLO 22:30)
定休日:年末年始(12/31~1/3)

www.hotpepper.jp

 

ラーメンを愛する全○○リアンよ、名古屋「さんすけ」の濃厚焼豚うどんをゼヒ一度体感してくれないか?

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今や関東エリアに留まらず、日本全国のラーメン業界で猛威を振るう「○○系」←イキナリだけど名前を出せないのは大人の忖度(そんたく)を感じて欲しい。

山盛り太麺に山盛りの野菜、醤油系の濃厚スープにギトギト油(脂)、そしてニンニクどっちゃり。そこに思わず「マシマシで!」という魔界の呪文を唱えてしまう。潔いまでの「オトコ飯」に心躍るラーメン好きは少なくないだろう。

ラーメン業界では長らく「○○系不毛の地」と言われていた名古屋でも(ホントか?)、ここ数年は「つけ麺・まぜそば」ブームと一緒くたになって、いかにも「○○系そのまんま」だったり、いわゆる「○○インスパイア系」のラーメン店が増加傾向にある。

 

し・か・し!

 

そんな名古屋に、まさかのうどん店が突如として出現したといううわさを聞きつけた!

なんでも、うどん店なのに出してくる商品が、まんま「○○系のラーメン」だというのだ。

大事なことは2回言う。ラーメンではなく、うどんなのだ!

 

ご存じのように名古屋は味噌煮込みだのきしめんだの台湾ラーメンだのあんかけスパだの何だのと(中略)、他国人から見ると「なんだこりゃ食いもんかこりゃ」的な目を向けられる、鎖国的麺文化立国である。

そんな麺の番外地に殴り込みをかけてきたというのは、相当な度胸である。しかも、○○系ラーメンならぬ「○○系うどん」とは、想像がつかない。

情報によると店主は関東で、なんと「ラーメン○○の店長だった」というではないか!!!

つまり、ラーメン○○直系の血を引いているのだ。

なのにどうして?

なんで、わざわざ名古屋でうどん店なの???

聞けば聞くほど謎が深まる。ということで、さっそく現場に向かったのであった。(前置き、長っ!!)

そして話を聞くと、そのこだわりは実に漢(オトコ)を感じさせるものだったのである。

 

場所はかつての名古屋城下町

足を運んだのは、名古屋市中区丸の内。地名でわかる通り、江戸時代は名古屋城の城下町で、今も周辺にビジネスビルが立ち並ぶ名古屋の中心地の一つだ。
その「京町通」と「桑名町通」と呼ばれる路地の交差点に、お目当てのお店「肉うどん さんすけ」はあった。

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▲丸に「三」の文字がインパクト大! どっしりとした要塞(ようさい)のよう

 

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▲「京町通」と「桑名町通」の交差点角にある。ランチタイムはビジネスマンやOLが頻繁に足を運ぶ

 

店内に入ると、自動券売機がお出迎え。このあたり、たしかにうどん店というより、今日日(きょうび)のラーメン店と同じ“におい”を感じる。
店内はコの字型をしたカウンター16席のみで、意外なことに女性客も普通に来店しているよう。オフィス街なので、麺ならチャチャっと食べられるからだろう。

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▲店内はコの字型をしたカウンター16席のみ

 

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▲自動券売機で先に食券を購入する最近ではおなじみのシステム(取材は昼で、夜しか食べられないメニューもあって残念)

 

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▲券売機の横にあるメニューの説明書き。うどんのボリュームが明記されているのでお腹の具合に合わせて選ぶことができる。ビールにはさりげなくハートランドが!

 

アイドルタイムに訪れたのだけど、ピンポイントでお客さんは来る。だからなかなか店主がヒマにならない。やっとのことでタイミングを見計らって、カウンター越しにいろいろ話を聞いてみた。

 

店長さん、どん。

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▲「肉うどん さんすけ」店主の加藤省吾さん

 

今年で40歳になるという「肉うどん さんすけ」店主の加藤省吾さん。ナイスガイというよりも、物腰柔らかな中にも漢(オトコ)を感じさせる風貌である。

聞けはうわさ通り、東京埼玉で長年、「ラーメン○○」の厨房に立っていたそうだ。それにしてもガタイのいい加藤さん。「昔、ラグビーでもやってたんですか?」と聞いてみたら

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:ラーメン店の厨房なんて肉体労働ですからね〜。それで、賄いでラーメンばっかり食べてたら、こうなるもんですよ〜ハハハ(笑)。

 

な、ナルホド。この鋼の肉体は、“マシマシ”の“超絶スタミナ&カロリー”を毎日食し、日々の力仕事で培われたたまものなのだ。

実に漢である。

 

店名「さんすけ」の由来は信長だった

まずは、お決まりの質問から攻めてみよう。

「さんすけ」という店名の由来って、なんなんでしょ? という軽いジャブを振ると、

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:司馬遼太郎の小説『国盗り物語』が好きで、その中で出てくる織田信長が自称していた幼名の「サンスケ」からもらいました。ここは名古屋ですし、信長のような野心を持って、ここからスタートしたいと!

 

と、左フックのようなインテリジェンスな答えを返す。

やっぱり漢である。

 

ラーメン○○大宮店の店主として埼玉○○リアンの欲望を満たす

加藤さんのバイオグラフィーを簡単に紹介しよう。

加藤さんは、石川県生まれの関東育ち。大学を卒業後、居酒屋さんの厨房で1年勤務。その後「将来は独立したい」という思いを胸に、みんな大好き「ラーメン○○」の高田馬場店に勤務。そこで8年間、修業の日々を過ごした。

その間に資金を貯め、2008年に「ラーメン○○大宮店」をオープン。16年に閉店するまで、オーナーとしてお店を切り盛りした。

つまり、高田馬場時代と大宮時代を合わせて15年以上の長きにわたり、ジ……いや、○○リアンのお腹を満たしてきたというわけだ。

 
 
 
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▲ラーメンファンのインスタより。深夜にお客さんが行列を作る「ラーメン○○大宮店」。ポストの日付を見ると閉店間際の1枚か

 

大宮○○リアンの神(オーナー)として、日夜ガシガシと働いていた加藤さん。でも、オーナーにまでなったのだから、本来の「独立する」という目標はすでに達成されている。じゃあ、なんで辞める必要があったのか。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:オーナーになり、ラーメン○○のブランド力で、お客さんにもたくさん来ていただました。でも次第に、ここで満足しちゃいけないと思うようになったんです。自分で自分の味を作り出したくなった。それで、新しい道を進むことに決めました。

 

もう一つ上の高みを目指す。それはまさに、サンスケ(信長)が尾張を統一し、次に天下統一を目指した漢の姿に重なるのである。いや少し大げさだなこりゃ。

そんなオーナーの決断から、「ラーメン○○大宮店」は、2016年11月30日に惜しまれつつお店を畳むことになった。 

 
 
 
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大宮店の閉店を知らせる貼り紙

 

「うどん」だからこそ自由にやれる

とはいえ、独立後はラーメン店をやるという話にはならなかった。いや、なれなかった。

育ててもらった古巣にワガママを言い、「これからは好きにやらせてもらいたい」という決意で離れるのだ。だから、「古巣の名を出さない」そして「ラーメン店をやらない」という形で、加藤さんとしては折り合いをつけた。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:うどんは、ラーメンと同じ小麦粉の麺なので、ラーメンのノウハウをいかせます。だから、心機一転してうどん店をやろうと思ったんです。

 

大宮店を畳んだ加藤さんは、一時的に、父の出身地である岐阜県羽島市に身を寄せる。羽島市に一番近い都会といえば、名古屋だ。

だから、名古屋に出店するのはある意味、加藤さんにとっては自然な流れだったのだ。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:羽島には、今も叔父が住んでいるんです。大宮のお店を畳んだ後、羽島で間借りをしながら、名古屋でお店を出す準備をしました。

 

羽島で加藤さんは、自分が納得できるうどんの味作りに没頭する。その一つのキーデバイスになったのが、味わいの決め手の一つになる「醤油」だ。

 

さんすけでは、醤油に「たまり醤油」を使っている。たまり醤油というと「あー名古屋ならではね」と思わせるが、さにあらず。加藤さんが「昔から慣れ親しんでいた味」だという岐阜県産のたまり醤油を使用している。

このたまり醤油を使うことで、濃厚かつ独特なコク満点の味わいを実現しているのだ。

 

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岐阜県産のたまり醤油が「さんすけ」の味の根幹をなす

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:このたまり醤油は、私の一族が昔から慣れ親しんだ、もはやソウルフードです。別に変わった味ではないんですが、寝かせると香りもうま味も強くなるんですよ。

 

かくして、1年間の準備期間を経て、2017年10月18日に「肉うどん さんすけ」のオープンにこぎつけたのである。

 

漢は凝り性の中の凝り性! アジの風味をトコトン追求してオリジナルのつゆが完成

さんすけのメニュー構成は、大きく分けると、まったく新しい自分の味を追求した「肉うどん」(780円)と、ラーメン○○の流れを踏襲したガッツリ系の「濃厚肉うどん」(980円)の2つがメインだ。

つゆ、麺、そして具材と、それぞれのこだわりを見ていこう。

肉うどんのダシは、メインのアジに加えて昆布、サバ、カツ節でとった純和風。スッキリ感のある澄んだ味わいだ。でも、そもそもどうしてアジに着目したのか。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:日本を代表する農学者であり、発酵学の権威でもあり、作家の小泉武夫さんのファンなんです。それで、小泉さんの著書にアジ干しを使ったラーメンの記述がありました。それで、自分が独立したら、アジをダシに使いたいと思っていました。

 

なるほど。……って、インテリか!

 

それに加え、横浜のラーメン博物館で出合った旭川「蜂屋」のアジ干しのラーメンにも衝撃を受けたことも、アジにこだわるきっかけになったという。

そして、加藤さんは凝り性である。それも相当な凝り性なのである。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:実はこのアジをいかしたダシ作りが、一番苦労しました。完成には丸々1年かけましたが、実はオープンしてからも研究を続けていたくらいです。

 

アジには、境港で水揚げされたアジを使用。

それに加えて、枕崎産のカツオ、道南の昆布、沼津熊本産のサバもダシも加えている。産地を聞くだけで、そうそうたるメンツだ。もはや和風だし界のマンチェスター・ユナイテッドじゃないか。

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▲肉うどんの味の根幹、境港の干アジ

 

そして水との調和にも苦心した。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:名古屋の水は軟水系で、おいしいんですよ。その水の良さに、魚介のうま味を上手にのせることに苦労しました。

 

そして、そのこだわりは麺にも及ぶ。

麺は自家製で、足でこねて寝かせる作業を繰り返して熟成させる。そして、手打ち風うどんの機械で打っている。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:肉うどんの麺はめちゃめちゃ固く作って、食べているうちに、小麦本来のモチモチ感がある、柔らかい歯応えになるように仕込んでいます。

 

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▲店奥でせっせと麺づくりに勤しむ。休みヒマなし!

 

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▲打ち上がった生うどん

 

肉うどんの麺は、きしめんに近い平打ち麺。愛知県の小麦「きぬあかり」を中心に、三重県産を独自ブレンドして作っている。

肉うどんの麺を一口すすると、麺の固ゆでのインパクトが漢を感じさせる! ズルズルっと食べていくと、そのうちモチモチした食感に変わる二面性がいい!

 

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▲強烈なコシを感じさせる平打ちのうどん麺

 

肉うどんの命といえる豚ウデ肉は、たまり醤油をベースに甘辛く煮込み、程よい脂身が食べ応えアリ。味がうどんのつゆに染みて、甘みと風味をじんわりと加えてくれる。

 

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▲肉うどんの命! 豚ウデ肉

 

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▲土鍋で仕込まれ程よく煮込まれた豚ウデ肉。グツグツグツ

 

きしめんライクな麺&たっぷり豚肉

というわけで、ここからは肉うどんを作る過程を連続写真で見ていこう。

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▲麺をゆであげ、チャッチャと湯切りして……

 

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▲つゆの入った丼にイン!

 

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▲そしてお待ちかねの豚肉をたっぷりオン!

 

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▲もひとつ分厚いチャーシューも!

 

 
 
 
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▲現場で肉うどんの写真を撮れなかったので、インスタで見つけた肉うどんの投稿を上げときます。ごめんして

 

肉うどんの麺は175グラム。多めだけれども、女性でもおいしく食べられる程よいボリュームだ。「そんなにがっつり食べなくてもいい」という人は、肉うどんがオススメだ。

とにかく、こだわりのアジ干しのダシが効いたつゆは、どこまでも深くスッキリとした味わい。優しい味の反面、しっかりとしたダシと濃厚なたまり醤油の風味が、きしめんのような太い平打ちの麺をガッチリとホールドする。実に相性がいい!

 

なお、最近では新メニューの「味噌だれうどん(880円)」もリリースされた。味噌で程よく煮込まれたミンチ肉がトッピングされている。簡単に説明すると「辛くない台湾ラーメン風の味噌風味うどん」だ(なんだそれは) 。

スッキリしたつゆに肉味噌のタレが混ざり、食べるほどにコクと甘みが増す。名古屋ならではの味噌文化と、漢の感性が融合した一品だ。

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▲味噌だれうどん

 

「ラーメン○○」の遺伝子を感じる濃厚さ

ラーメン○○のDNAが騒ぎ出すがっつり系が食べたいなら、「濃厚うどん」シリーズをチョイスしたい。こちらは麺250グラムの食べ応えたっぷりなボリュームと、豚骨ベースならではの文字通りの“濃厚”なつゆがウリだ。

つゆには豚ウデ肉のゆで汁、そしてチャーシューの煮汁がブレンドされ、うま味が倍増。ここに、たまり醤油のインパクトが加わってさらにパンチのある味わいに仕上がっている。驚愕(きょうがく)の事実なのが、「うどんなのに魚介系のダシが入っていない」ということだ。そう、もはや「つゆ」ではなく「スープ」と言った方が正しい。

 

そして麺も、「肉うどん」とはガラッと変更している。小麦粉には、北海道産の「ゆめちから」を使用。うどんの麺としてはやや細麺だが、歯応えが強く、ゴワっとした食感、そして伸びにくい頑強さが特徴だ。そしてもちろん、自家製である。

 

それでは、濃厚肉うどんを作る過程を連続写真で見ていこう。

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▲ゆで上げた麺を丼に移す。この時点で既に「これ、うどん……?」という素朴なクエスチョンが頭をよぎる

 

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▲麺の上にもやしを大盛りでオン。トニカク多めに! ワッショイ!!

 

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もやしのサイドに豚肉をたっぷりオン! お好みでニンニクも! すでにうどんの面影なしw

 

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▲最後に山盛りもやしの上にドバーッと濃厚な汁をかける、かける! こ、濃ゆいぞ!!

 

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▲いやたまらん。写真見ただけで腹減ってきた

 

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▲完成した「濃厚肉うどん」。肉うどんとは(肉以外は)麺もつゆも何もかも違う! 写真ではややモヤシがつぶれてしまったが、作りたては高さ18センチ以上ある

 

さらにさらに。

濃厚肉うどんの兄弟分として、厚めのチャーシューがトッピングされた「濃厚焼豚うどん」(980円)も存在する。

こちらは、まんま「あの」ラーメンである。

しかし分類としては、あくまでうどんなのだ! お間違えのなきよう!

とはいえ、これはもう遺伝子が濃いよ!! というツッコミをあえて入れされていただこう。

 

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▲濃厚焼豚うどんは、どこかでさんざん見たあのフォルム。私たちは何かの幻覚を見ているのであろうか……(今回は高さを維持して写真が撮れた)

 

内心「これはラーメンと言っても誰も驚かないのでは?」と、一瞬の思いが心をよぎる。

しかし、あくまで「うどん」なのである。自分自身が未熟なのである。

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▲うどんにしてはやや細麺、しかしラーメンとしては極太麺という立ち位置の濃厚うどんの麺。それよりも麺のコシの強さ、小麦粉ならではの香り高さに注目してほしい

 

なお、うどんは全メニュー、ネギ・ニンニク・スープの濃いめ・こってりを希望する人は、カウンター上の「トッピングチケット」を取って提示すれば、無料でトッピングしてくれる。

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▲カウンター上の丼の中にあるトッピングチケットを提示すれば、うどん全メニューで無料トッピングOK。これすらも、やはりラーメン○○の遺伝子か……

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:うどん本来の味を楽しみたい人は、肉うどん系。ガッツリ食べたい人は、濃厚肉うどん系。2つの味、両方とも力を入れていきたいですね。

 

そのほか、濃厚肉うどんの動物系のスープに、専用のタレを合わせた「うどんつけめん(880円)」、自家製の肉みそをトッピングした釜玉うどん風の「どてかまたまうどん(780円)」も人好評だ。

 

一応、お店のインスタ貼っとく。

 
 
 
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▲うどんつけめん

 

 
 
 
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▲かまたまうどん

 

なお、加藤さんのポリシーとしては、

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:あくまで、おいしいものをお腹いっぱい食べていただきたいことが前提です。ですから、ことさら大盛りやマシマシにこだわっているわけではありません。

 

とのこと。

しかしインスタを漁ると、トッピングや追加の具材(肉増し200円、焼き豚追加2枚150円、麺大盛り100円など)を駆使して強烈ハイカロリーなメニューを独自開発する猛者も少なくない。

例えば、こんなん。

 
 
 
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まったく、○○リアンって奴は……(褒めてる)

そう。ここは○○リアンのニューフォロンティア。○○リアンの海図が、この漢によってさらに拡がったのである。ラーメンとうどんというジャンルさえも超越して。

 

さりげなく無化調、なのにウリ文句にしないのがまた漢

ここまで読めば、いかにこのお店が漢のこだわりを具現化したお店かということがお分かりいただけたと思う。

しかし、もっとビックリすることがあった。実はこのお店、化学調味料を使用していない、いわゆる「無化調」のお店なのだ!


数あるラーメンの系譜の中でも、「○○系」「○○インスパイア系」は、(あえて言葉を選ばずに言えば)「ジャンク系の王道」である。カロリー万歳! 不健康万歳イェーイ! と心の中で叫びつつ食する「背徳的フード」に他ならない。

 

それが、健康志向の代名詞である無化調だと……?

時空のゆがみを感じさせる言葉ではないか!

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:さんすけのテーマのひとつは「無化調で実現するワンランク上の味」なんです。素材の味わいをいかし、それでいて、がっつり系の人も満足できるものを作るが目標です。

 

加藤さんによれば、濃厚うどんの麺を「ゆめちから」で作ることにしたのも、最近だという。無化調をベースに素材や塩加減の試行錯誤を繰り返した結果だという。もちろん、味は日々アップデートの努力を重ねている。

そして 加藤さんは信長ばりの壮大な夢を語るのだ。

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:将来、海外でも評価されるような「無化調でもここまでできる!」というモデルケースになるようになればいいですね。

 

そのための情報発信として、あえて調理法の一部をSNSで発信している。

ちょっと待って。お店が苦心して作り上げた企業秘密をあえてオープンソース化するとは、漢が過ぎるというものだ。神店確定じゃないスか!

 
 
 
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▲ダシ取りの一部始終をインスタで公開している

 

 
 
 
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▲常に進化を続ける「最新版濃厚肉うどん」の調理法

 

しかし、その思い入れが強過ぎて(?)原価がかさむようになり、コストバランスを考慮して2019年1月末から多少の値上げを敢行せざるを得なくなったという。orz...…。

ただし!!

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:値上げはしましたが、ボリュームもアップするなど、チューニングしました。メニューの完成度と満足度はより高くなったと自負しています!

 

というので、その漢気に免じようではないか!!

 

ご飯系アレンジメニューも楽しいじゃないか 

さんすけでは、ライチタイムでご飯が食べ放題になる(カウンター後ろのジャーからセルフサービス)。炭水化物大好きマンにとってはたまらないサービスだ。

 

ちなみに加藤さんによると「名古屋の人は、うどんとご飯を一緒に食べるんですよねぇ、普通に」と、ちょっと謎的なリアクションをされたんだが、そんなに不思議なことなんだろうか。味噌煮込みにもご飯が普通につくけれども……(と、名古屋人丸出しの自分)。

 

白ご飯のまま食べるもよし、ダシガラで作った自家製ふりかけをかけるもよし。そして、うどんでアレンジするのも好評だという。

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▲ダシガラから作られたふりかけ。カルシウム摂取ヤバイ。無限にご飯が食べられてヤバイ

 

f:id:rudders:20190215210611p:plain加藤店長:肉うどんの肉をご飯にのせると、豚丼になります。これがおいしいと好評です(笑)。また、つけ麺の残りのスープにご飯を入れると、クッパのような味わいになるのでこれもオススメですよ!

 

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▲肉うどんのトッピング肉をご飯にのせると極上の豚丼に変身する。この肉のテリ! そりゃあうまいよなぁ……

 

なお、「さんすけ」では「宅麺」というサイトで「濃厚肉うどん」をネット販売している。遠方の人はこちらを利用してみたらいかがだろうか。

www.takumen.com

 

そして蛇足。

 

店主の加藤さん。初めて会った時から妙な既視感があった。

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▲記者がなんとなく既視感を感じた店主の加藤さん

 

「もしや以前、どこかで会ったこと会ったことあったかなぁ〜?」ってずっと思ってたんだけれど、ポプテピピックの青い方(背の長い方)に似てると感じたのは自分だけだろうか……。

hoshiiro.jp

 

現 場 か ら は 以 上 で す。

 

店舗情報

さんすけ

住所:愛知名古屋市中区丸の内2丁目8−30 竹中ビル1F
電話:052-203-8181

営業時間:月曜日〜金曜日 11:00〜14:00、17:00〜20:30、土曜日・祝日 11:00〜14:00

定休日:日曜日

nikuudonsansuke2017.amebaownd.com

 

【こっちが元祖】名古屋手羽先界もうひとつの大物チェーン「風来坊」の手羽先唐揚はいかにして生まれたのか

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甘辛いタレにピリッとスパイシーな味わいの手羽先唐揚。名古屋めしの代表選手であることは言うまでもない。

 

では手羽先唐揚といえば、どのお店を思い浮かべるだろうか?

 

「世界の山ちゃん」と答えたアナタは、おそらく名古屋以外の人だろう。

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「世界の山ちゃん」と双璧をなす……というよりも、手羽先唐揚を名古屋で最初に広めたお店があるのだ。

それが「元祖手羽先唐揚 風来坊」

とは言っても、手羽先唐揚は、いつ、誰によって生み出されたのだろうか?

実は「風来坊」のルーツに、手羽先誕生のヒミツがあったのだ。

 

唐揚げにタレをつけるという「発明」

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やってきたのは、2018年5月にオープンした「元祖手羽先唐揚 風来坊 名駅5丁目店」。

 

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ここ以外にも栄店と千種店、東桜店を手がけるオーナーの久保山憲仁さんに話をうかがった。

そもそも「風来坊」の始まりとは、どんな形態だったのだろう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:第一号店は名古屋市内の熱田区にある比々野店ですね。現・風来坊チェーンの大坪健庫会長が昭和38年に開店させました。当時は鶏料理のほかに焼きそばやちゃんぽんも出していて、しっかりと食事ができて、お酒も飲めるというお店でした。

 

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▲「元祖手羽先唐揚 風来坊」チェーン初代会長、大坪健庫氏(写真提供:風来坊チェーン本部)

 

大坪会長は北九州出身。名古屋へ来る前は、門司で奥様とともに小さなお店を営んでいた。そこで鶏肉を素揚げしてタレをつけた唐揚げを出していて大好評だったという。これが後に手羽先唐揚の誕生へとつながるのだが、唐揚にタレをつけるという発想はどのようにして生まれたのだろうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん: 九州も鶏料理店が多く、会長がいろんなお店を食べ歩く中で他店とは違うものを出そうと研究を重ねたそうです。仕事の合間を縫うようにして、広島大阪にまで出かけていったようですね。そうしていくうちに、唐揚の味や香りを引き立てるためにタレをつけるという結論に至ったそうなんですが、これが実際に味を完成させるまではかなり大変だったと聞いています。

 

唐揚げにタレをつける。この「発明」とでもいうべき工程がついに生み出されはしたものの、まだ手羽先唐揚が完成するにはもうすこし先になる。

 

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▲第1号店の「風来坊 比々野店」(風来坊チェーン本部提供)

 

丸鶏の発注ミスがきっかけに

大坪会長は昭和4年生まれで、今年卒寿(90歳)を迎える。第一線こそ退かれたが今でもお元気に過ごしてらっしゃるという。「風来坊」を創業したのは34歳のとき。北九州から名古屋へ来たのは、大坪会長がこだわったタレが完成し、鶏料理専門店として勝負するためだった。東京ではなく、名古屋だったのは、当時は集団就職で九州から名古屋へ来ることが多かったからだ。

また、当時は鶏料理専門店であれば、店名に“鳥”をつけるのが常識だった。そんななかで「風来坊」と命名したのも興味深い。信念はあるがいろいろなことに挑戦する大坪会長を見て奥様が名付けたという。

 

f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:創業当時の名物がひな鶏の半身を丸ごと素揚げして、秘伝のタレと調味料で仕上げた「ターザン焼」(写真下)でした。これは今も風来坊の人気メニューですが、力強いイメージにしようと当時はやっていた映画『ターザン』から大坪会長が命名しました。当時は同じ味付けで、もも肉やむね肉をぶつ切りにした唐揚も出していました。

 

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▲「ターザン焼」の名に恥じないワイルドなルックス(870円  ※名駅5丁目店の価格)

 

店名といい、メニュー名といい、このあたりのセンスが常人ばなれしている。時代の2歩、3歩どころか30歩くらい先へ行っている。

実はこの「ターザン焼」が手羽先唐揚誕生の布石となったのだ。お店の代名詞どころか名古屋を席巻し、全国にその存在を知らしめた手羽先唐揚は、あるミスから生まれたという。

 

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f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:ある日、発注ミスでターザン焼用の丸鶏が入らなかったことがありました。そこで大坪会長は丸鶏の代わりにと、業者の倉庫で山のように積み上げられていた手羽先をお店に持ち帰ったんです。当時、手羽先はスープの材料くらいにしか使い道がなかったのですが、「この手羽先にターザン焼のタレをつけたらどうか」というアイデアが浮かんだんです。

 

揚げ方から盛り付けまで計算し尽くされた手羽先

ここで「風来坊」の手羽先が出来上がる過程を見ていこう。

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手羽先唐揚は、まず素揚げすることからはじまる。以前は低温で中まで火を通した後、高温で表面をカリッと揚げる「二度揚げ」を行っていたが、名駅5丁目店はセントラルキッチンであらかじめ火を通した手羽先を仕入れているため、一度のみ(二度揚げをしている店舗もあります)。

 

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これにより作業効率も上がり、注文して提供するまでの時間も短縮することができたという。手羽先も時代とともに進化しているのだ。

 

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素揚げした後、網の上に並べてタレを塗っていく。片面を塗り終えたら、網を返して残る片面も塗る。

味にムラが出ないように、満遍なく丁寧に塗るさまはまさに職人の仕事。見ていてとても心地良い。

その後、調味料とゴマをかけて手羽先唐揚の完成!

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これが「元祖手羽先唐揚」(5本 450円)。

注目すべきはその盛り付け。言うまでもないが、手羽先は鶏一羽から左右1本ずつ、計2本しかとれない。1つの皿に右側と左側が混在すると、見栄えが良くないため、向きをそろえて盛り付けてあるのが「風来坊」の特徴だ。

 

「世界の山ちゃん」創業者もここから巣立った

安くておいしい手羽先唐揚は、瞬く間に大ヒットとなり、大半のお客さんはそれを目当てに訪れるようになった。大坪会長は1号店の開店から約2年後に熱田区伝馬町に2号店をオープンさせた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:一号店は大坪会長の一番弟子である久保山鉄男、つまり、私の父が店長となって引き継ぎました。さらに昭和50年代から60年代にかけて30店舗展開したのですが、フランチャイズではありません。すべて大坪会長のご兄弟やご親戚、師弟関係の弟子たちが経営しています。昔ながらののれん分けですね。お金もうけよりも、人を育てることや技術を継承すること、安くておいしいお店を作ることを第一としていて、それが「風来坊」の経営理念となっています。

 

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▲大坪会長(右)と久保山さんの父である鉄男氏(左)。確かに親子で似てらっしゃる!(写真提供:風来坊チェーン本部)

 

昭和50年代後半には、ほかの飲食店オーナーたちがお店に通って味を研究し、自分のお店で手羽先唐揚を出すようになった。

その中の一人が「世界の山ちゃん」の創業者、故・山本重雄氏だ。

 

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f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:ほかのお店がウチのまねをしたからこそ、名古屋名物として認知されたのだと思います。ただ、手羽先唐揚を出すお店が増える中、ウチが元祖であることをPRしなければなりません。そこで考えたのがCMです。当初は映画館で流していたのですが、テレビでもやってみようと。

 

「風来坊」のテレビCMは、いくつかの種類があるそうだが、昭和63年に制作され、現在も放映中のCMがこれ。

www.youtube.com

「風来坊でございます。今日もお仕事ご苦労様です」と、カメラに向かって語りかける大坪会長の姿がいかにも素人っぽいが、かえってその方が実直さもにじみ出るというもの。当時は企業のトップが出演するローカルCMも多かったような気がして、思わず懐かしくなってしまった。

 

かくして、「風来坊」は名古屋を中心とした東海エリアほぼ全域にその名を知らしめることとなった。

 

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▲大坪会長とお弟子さんたち(写真提供:風来坊チェーン本部)

 

手羽先以外のメニューも要注目

現在「風来坊」は、北は北海道、南は九州、さらに海外はアメリカまで68店舗を展開している。

「手羽先唐揚」などの鶏料理はすべての店舗で食べられるが、それ以外のメニューは各店舗ごとに異なる。それもまた、のれん分けの良いところだ。

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こちらは名駅5丁目店で好評の「照り焼きチーズつくね」(580円)。

熱々の鉄板の上には新鮮な国産鶏ミンチを使用した自家製つくね。地元産の醤油がベースの甘口照り焼きソースととろけるチーズの相性は抜群だ。

 

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〆のメニューでおすすめは、ピリ辛の台湾ミンチをたっぷりとのせた「台湾飯」(550円)。フライドガーリックのサクサクとした食感と風味がアクセントになっていて、卵黄を絡めて食べるとマイルドな味わいになる。

 

f:id:Meshi2_IB:20190128112716p:plain久保山さん:私も含めて、現在は大坪会長の直弟子の子ども世代がお店を任されています。お店を訪れるお客様も世代が変わっていく中で、伝統の味を守りつつ、新メニューの開発など新たなチャレンジをしていきます!

 

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今や誰もが知る名古屋の手羽先唐揚は「風来坊」から生まれた。これは紛れもない事実である。

素揚げした手羽先にタレをつけ、調味料で仕上げるというアイデアを半世紀以上前に思いつき、実行した大坪会長のバイタリティーは相当なものだ。しかも、大坪会長のチャレンジ精神が多くの弟子たちに継承されているのである。それらに思いをはせながらビール片手に手羽先唐揚を堪能したい。

 

店舗情報

元祖手羽先唐揚 風来坊 名駅5丁目店

住所:愛知名古屋市中村区名駅5-23-12
電話:052-756-2365
営業時間:17:00~24:00
定休日:日曜日
ウェブサイト:http://www.furaibou.com/

www.hotpepper.jp

 

名古屋の「台湾ラーメン」は台湾でどこまで受け入れられるのか 〜あるラーメン店主の海外挑戦〜

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ニンニクや唐辛子でピリ辛の味付けをしたミンチやニラをのせた「台湾ラーメン」。1971年頃に名古屋市内の台湾料理店から生まれた創作メニューだ。だから、台湾の名を冠していても、台湾にはない。

 

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期間限定メニューとして提供しているお店や、台湾ラーメンならぬ「名古屋ラーメン」という名で出しているお店もあるようだが、いずれも台湾では定着していない。

そんな中、台湾ラーメンを引っさげて台湾の首都・台北に出店したラーメン店がある。愛知県刈谷市にある繁盛店「半熟堂」がそれだ。

 

代々受け継ぐソウルフード「北京飯」

台湾ラーメンを、台湾へ ──

 

誰しも思いつくことはあれど、誰もなし遂げなかったこの無謀な挑戦。そもそも台湾進出のきっかけはなんだったのか。

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答えてくださったのは、「半熟堂」店主の杉浦正崇さんだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:きっかけは台湾ラーメンではなく「北京飯」だったんですけどね。台湾ではご飯の上に大きな肉をのせたお弁当を食べている人をよく見かけるんです。テイクアウトすることも考えて、ウチの北京飯で勝負してみようと台湾への出店を決めました。

 

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ん、北京飯?

北京飯といえば、以前に『メシ通』でも紹介した、愛知県安城市のソウルフード。醤油と砂糖がベースの甘辛いタレで味付けしたトロトロの玉子丼に豚肉の唐揚げをのせた丼モノである。

www.hotpepper.jp

 

実は発祥のお店であるJR三河安城駅前の「北京本店」は、杉浦さんの実家なのだ。お店は弟が継ぎ、杉浦さんは刈谷市に「半熟堂」と岡崎市、安城市に「つけめん舎 一輝」を営んでいる。

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「半熟堂」は、発祥のお店「北京本店」と同じレシピで作る北京飯と「つけめん舎 一輝」で培った技術を余すことなく発揮したラーメンの二枚看板。いわば、杉浦さんの料理人としての集大成ともいえるお店だ。

「北京飯」に台湾の人がどのような反応を示すのか。それをどうしても自分の目で確かめたくなり、台北へ向かった。

 

意外! 台湾人には辛すぎる台湾ラーメン

MRT(台北市の地下鉄)忠孝復興駅を出て、歩くこと数分……。

あった。

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ここだ。確かに、半熟堂がある。

「半熟堂 台湾台北店」は、この日はたまたま杉浦さんもお店へ来ていて、台湾人スタッフたちに調理や接客を指導していた。お店はまだプレオープン中だったため、提供できるメニューは限られていたものの、名物の北京飯は用意できるとのことだった。

ところが、メニューに北京飯の文字が見当たらない。実は台湾と中国の微妙な関係から北京飯という名称が使えず、店名を冠した「半熟飯」にしたという。

 

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これが「半熟飯」(160元=約610円)。

玉子のとろみ加減やサクサク食感の豚肉の唐揚げ、甘辛いタレの味の何もかも「北京本店」と同じだった。ほかのテーブルには家族連れで来店している台湾人が半熟飯やラーメンをおいしそうに頬張る姿もあった。

遠い異国の地で地元の味が楽しめたことにしみじみと感動したが、杉浦さんはどこか浮かない表情をしている。聞いてみると、日本人と台湾人の味覚の違いについて悩んでいるという。

 

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▲現地スタッフに囲まれる杉浦さん

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:かなり予想外だったんですが、ウチの北京飯は、台湾人にとっては辛すぎるんです。台北には日本のラーメン店が数多く出店していますが、その大半は日本人が食べておいしいと感じるギリギリまでスープを薄味にしています。しかし、それをしてしまうと、北京飯をわざわざ台湾まで持ってきた意味があるのかと。10月29日のグランドオープンまでには結論を出しますよ。

 

これは驚きだった。てっきり現地ではより辛めの味つけが好まれると踏んでいたからだ。

本来の味で勝負することしか頭になかった杉浦さんだけに、ここにきて明らかに壁にぶつかっているように見えた。

 

ローカライズはしない

杉浦さんから連絡があったのは、オープンの10日前。刈谷市の「半熟堂」へ足を運んでみると、台北店で提供するメニューの最終的な試作を行っていた。

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f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:台湾ではラーメンに限らず、東京博多札幌大阪京都という地名が付いたお店がはやっているんです。台湾人が日本でよく訪れる街の名前そのものがブランドになっているので、台湾人経営のラーメン店でも博多ラーメンと名乗っていたり(苦笑)。だから、ウチは愛知を全面に出していきます。台湾人が抱く愛知県や名古屋市のイメージは、やはり自動車産業で、おいしいものがあることを知りません。だからこそ、やる価値があるのかと。もちろん、台湾人向けに味を薄くしたりもしません。ウチの味を楽しんでもらってこそ、出店する意義もあるので。

 

祖父の代から味を受け継いできた意地だろうか。そこには、腹をくくった職人の姿があった。

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これは今、「半熟堂 台湾台北店」で提供されている「半熟飯」(170元=約650円)。味付けは同じだが、小松菜が添えられている。台湾人は日本人以上に健康志向で、ほんの少しでも野菜を入れた方が好まれるという。

 

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台湾で愛知県のイメージを定着させるために杉浦さんが着目したのは、地元で盛んな醸造文化から生まれた白醤油やたまり醤油、味噌。愛知県碧南市の白醤油メーカー、日東醸造の白醤油を使った「半熟名古屋まぜそば」(300元=約1140円)もメニューにくわえた。

 

お客さんの大半は台湾ラーメン目当てだった

そして、アノ名古屋めしも、現地向けにカスタマイズするのではなく、そのままの味で勝負するという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:名古屋のラーメン文化を語るには欠かせない台湾ラーメンも出します。名古屋の台湾ラーメンも、名古屋で始まった当初は辛すぎて受け入れられなかったと聞いています。しかし、何度か食べるうちに辛さの奥にあるおいしさにハマっていくのが台湾ラーメンの魅力です。必ず台湾でも定着すると確信しています。

 

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これが「台湾ラーメン」(220元=約840円)。

ちまたには、ただ単に既存の醤油ラーメンの上に台湾ミンチやニラをのせただけの台湾ラーメンも多いが、これは完全に一線を画する。杉浦さんが修業先で教わった台湾ラーメンをベースに一からレシピを考案。最大の特徴は、豚骨と鶏ガラのスープで唐辛子やニンニクを煮込むことで辛みをアップさせていることだ。

 

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しかも、台湾ラーメンの知名度を上げようと、グランドオープン初日はナント100食限定で10元(=約40円)で提供するという。

 

帰国後、台湾での反響を聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:台湾人経営のラーメンがだいたい100元(=約380円)くらいですから、10元というのがいかに安いかわかるでしょう。初日に訪れたお客さんはほぼ全員、台湾ラーメン目当てでしたね(笑)。中には一度に2杯注文する方も……(苦笑)。辛さは選べるのですが、「もっと辛くても大丈夫」というお客さんもいて安心しました。肝心なのは、台湾ラーメンとは、半熟飯とはこういうものだ、というプロモーションを徹底することではないかと思っています。

 

これを聞いて、日々名古屋めしをリポートしている私も安堵(あんど)感に包まれた。台湾ラーメンは台湾でも通用したこと以上に、杉浦さんの味が現地で受け入れられたことが何よりうれしかった。

 

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半熟飯も「今まで食べたことのない味!」と評判は上々で、大口のテイクアウト注文が入ったこともあるという。

今後は愛知県のたまり醤油や味噌を使ったメニューを投入していくのだとか。同じ愛知県民としてこの上ないエールを送りたい。

 

お店情報

半熟堂

住所:愛知県刈谷市桜町1-46
電話番号:0566-91-0638
営業時間:11:30~14:00、18:00~23:00(金曜日・土曜日は~24:00)※スープがなくなり次第終了
定休日:日曜日

www.hotpepper.jp

 

半熟堂 台湾

住所:No. 32號, Lane 190, Section 1, Dunhua South Road, Da’an District, Taipei City, 台湾 106
電話番号:+886 2 2776 6665
営業時間:11:30~14:00、17:30~20:30(金曜日・土曜日は~21:00)
定休日:月曜日
Facebook:https://www.facebook.com/Hanjukudo/

 

学校給食でおなじみの「ミルメーク」は、いまどうなっているのだろう【なんと生誕半世紀】

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私は子どもの頃、牛乳がキライだった。小・中学校の給食では鼻をつまみながら飲んでいたものである。

 

しかし、月に数回登場する“魔法の粉”がユーウツな気分を吹き飛ばしてくれた。私にとってまさに救世主。

 

それは……

 

ミルメーク。

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覚えているだろうか、ミルメークのうまさを。

知っているだろうか、ミルメークの存在を。

 

まずは知らない方のために解説しよう。

ミルメークとは、粉末タイプの牛乳用調味料。牛乳に入れてかき混ぜるだけでコーヒー牛乳に変身するのだ。個人的には、その日学校を休んだ人のミルメークをめぐって熾烈(しれつ)なジャンケン大会が繰り広げられたりしたのが懐かしい。牛乳瓶1本に2袋のミルメーク。当時の私たちにとって、これ以上のぜいたくはなかったのだ。

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給食で出たミルメークは、コーヒー味かココア味だったが、いちごやバナナ、メロン、抹茶きな粉、キャラメル、紅茶と全8種類(上写真)。

これらが毎日出ていれば、私の給食ライフも楽しい思い出として心に刻まれただろう。また、瓶ではなく、紙パックの牛乳に入れる液体タイプもあり、こちらはコーヒーとココア、いちごの全3種類ある。

 

ミルメーク誕生の会社を訪ねてみた

私がここまでミルメークをゲキ推しするのはワケがある。

製造元の大島食品工業株式会社が、名古屋市守山区にあるからだ。牛乳キライの子どもたちの救世主が、名古屋から生まれたということを私は誇りに思っている。

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ってことで、大島食品工業株式会社でミルメークについていろいろ聞いてきた。

 

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案内してくださったのは、名古屋営業所長の原谷昭久さん。ご自身も生まれ育った春日井市で小・中学校時代にミルメークを愛飲していたという。

大島食品工業株式会社は、昭和23年から粉薬を製造していた大島製薬所が前身。その後、食品部門が設立され、昭和40年には学校給食用食材の製造を開始した。そうした背景には、学校給食で飲まれていた脱脂粉乳の存在があった。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222130140p:plain原谷さん:私は脱脂粉乳を飲んだ世代ではありませんが、栄養価が高い半面、味が今ひとつだったようです。そこで昭和40年に学校給食の脱脂粉乳がおいしく取れるように、「プリンの素」という商品を開発したんです。これがミルメークの誕生へとつながりました。

 

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これが現在も発売されている「プリンの素」。

当時、プリンはデパートのレストランでしか食べられない高級品だった上に、粉末を牛乳と混ぜるだけという手軽さもあって大ヒットした。

 

ミルメーク誕生の秘密とは

ミルメークが発売されたのは、昭和42年。学校給食が脱脂粉乳から牛乳へと切り替わる過渡期でもあった。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222130140p:plain原谷さん:牛乳になって飲みやすくはなったものの、カルシウムやビタミンB2などの栄養価は脱脂粉乳の方が優れていたんです。その不足した栄養素をおいしく補うことができないかと栃木県の学校給食会から打診されたことがきっかけでした。カルシウムなどをそのまま牛乳に入れてもおいしいはずもなく、試行錯誤を繰り返しました。そんなとき、担当社員がコーヒー牛乳を飲む子どもの姿を見て、それをヒントにインスタントコーヒーとカルシウムを混ぜたんです。それがミルメークの誕生です。昨年、発売50周年を迎えました。

 

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私が小・中学校時代に飲んでいたミルメークはしっかりとかき混ぜないと瓶の底にたまることもあった。最後のひと口がやたらと甘くておいしいので、それもよかったのだが、現在は溶けやすい顆粒タイプになっている。

さらに注目すべきは、1袋当たりの量。コーヒーとココアが8グラム。いちごとメロンが6グラム。バナナと抹茶きな粉、キャラメル、紅茶は7グラムと、それぞれ微妙に異なるのだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222130140p:plain原谷さん:粉末タイプのミルメークコーヒー(10グラム)はミルメークの原点ですから、実は現在も製造しています。ちなみに人気トップ3は、コーヒー、ココア、いちごの順。とくにコーヒーは全体の7~8割をしめます。トップ3以下の味はほぼ横並びですね。それぞれ1袋当たりの量が違うのは理由がありまして、瓶の牛乳1本(200ミリリットル)と混ぜたときに一番おいしくなるよう調節しているんです。もちろん、実際に飲み比べて決めました。

 

ここでちょっとミルメークの工場をのぞいてみよう。

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工場ではロール状になっている小袋がカットされ、決められた分量のミルメークが詰められていく。そして大量のミルメークが出来上がる。製造工程を見ていて実に気持ちがよい。

 

なぜ地域によって認知度に差があるのか

さて、製造を依頼した栃木県学校給食会から太鼓判を押されたミルメークは、評判を聞きつけた近隣の県から全国へと瞬く間に広がっていった。

原谷さんからいただいた給食用ミルメークの2017年度の県別出荷数集計表によると、出荷数は約1250万食で47都道府県すべてを網羅している。

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とはいっても「えっ! ミルメークなんて知らない」という方もいるだろう。

実際にSNSでミルメークを検索すると、「出た」、「出なかった」、「存在すら知らなかった」と認知度が分かれる。

 

 

 

それは給食の献立は、主に市区町村の教育委員会が中心となって決められるからだ。

出荷数ランキング3位(約67万食)の大阪府は豊中市や四條畷市、門真市などへ出荷されているが、なぜか大阪市と堺市への出荷はない。

東京都は21位(約19万食)で、出荷は足立区、板橋区、江戸川区、荒川区。

そして全体の2割弱、約260万食を占めるランキング1位が地元の愛知県だが、ミルメークのお膝元である名古屋市への出荷はこれまで一度もない。名古屋市民の多くにとってミルメークは「未知なる味」ということになる。

 

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f:id:Meshi2_IB:20181222130140p:plain原谷さん:給食も教育の一環ですから、牛乳には何も入れず、そのまま味わってほしいという思いがあるようですね。

 

毎日、ミルメークが出るというならそれも理解できるが、地元が生んだロングセラー商品を知ることも教育ではないのだろうか。

この原稿を書いているときに、ニュースが飛び込んできた。

名古屋市内の小学校で給食の牛乳が飲み残され、廃棄されているというのだ。昨年度はなんと、84万本。金額にしておよそ4,300万円分にもなる。そこで、名古屋市議会で牛乳用調味料、つまりミルメークの導入について議論がなされたのだ。

 

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f:id:Meshi2_IB:20181222130140p:plain原谷さん:名古屋生まれのミルメークがなぜ名古屋市内の小学校で出ないのかと少し寂しい思いをしていましたが、この「導入について議論がなされた」というニュースには、社員一同本当に喜んでおります!

 

当の原谷さんも大喜び。名古屋市で導入されれば、他の政令指定都市も追随する可能性だってある。

ミルメークを飲んだことがないという人は、一生縁がないのかというと実はそうではない。全国のスーパーやドラッグストア、100円ショップでも発売されているのでご安心を。

今回、約35年ぶりにミルメークを飲んでみると、その味は子どもの頃よりも甘く感じた。同時に小・中学校時代の思い出がよみがえってきて、なんだか懐かしい気持ちでいっぱいになったのであった。

 

取材協力:大島食品工業株式会社 https://www.milmake.com/

 

名古屋麺文化の生き字引「きしめんよしだ」吉田孝則社長の“きしめん人生”

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数ある名古屋めしの中でも400年以上の歴史があるといわれる「きしめん」。

その発祥や名前の由来など解明されていない部分が多いのは、お上ではなく庶民によって育まれた大衆文化だからだろう。

 

この名古屋のきしめん文化を語る上で絶対に欠かせない人物がいる。

名古屋市中川区荒子に本社がある、吉田麺業有限会社の吉田孝則社長だ。

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▲吉田麺業有限会社 吉田孝則社長。御年87歳になっても矍鑠(かくしゃく)とされていた

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:薄く伸ばした生地を切ったものがきしめんです。ただ、薄く伸ばすには非常に手間がかかる。昔は切ったうどんをさらに麺棒で伸ばしていたのではないかと思いますね。薄くすることでゆで時間の短縮になりますし、燃料代の節約にもなる。名古屋人の経済観念というか気質に合っていたから広がったのだと思います。

 

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名古屋駅、新幹線地下街エスカ内にある「きしめんよしだ エスカ店」

 

現在、吉田麺業有限会社では贈答用の乾麺や半生麺の製造・販売のほか、出来立てのきしめんを食べさせてくれる直営店も手がけている。

その一つが名古屋駅の新幹線地下街エスカ内にある「きしめんよしだ エスカ店」。こちらのお店で、吉田社長に自らの“きしめん人生”を語っていただいた。

 

公設市場で食べたきしめんが味の原点

吉田麺業有限会社の創業は1890(明治23)年。農業を営んでいた創業者が農産物の収穫を終えた秋から春先までの副業として、麺づくりをはじめたのがルーツである。

当時は保存がきく乾麺がメインだった。吉田社長の若かりし頃は、出来上がった乾麺を市内の至るところにあった公設市場内のきしめん店へ届ける仕事もしていた。

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▲きしめんよしだ エスカ店の「きしころ」(680円)

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:当時はどのお店も手打ちのきしめんを出していましてね、そこで食べたきしめんが本当においしかった。夏場はゆでたての麺を水でしめて、温かいつゆをかける“ころ”もありましたよ。何とかこれらの味を再現したい、というのが私のきしめんづくりの原点です。

 

「ころ」は、今でこそ冷たい麺の呼び名になっているが、昔はいわゆる「ひやあつ」だったのも興味深い。

実際、きしめんの老舗店の中には麺もつゆも常温で提供しているところもある。だから「ころ」の本当の意味は冷たい麺ではなく、温かくない麺ということになる。

 

シンプルな「きしめん」は麺にこだわる

こちら(写真下)は「きしめんよしだ エスカ店」の「きしめん」(680円)。シンプルに見えるが、吉田社長のこだわりを凝縮させた一杯である。

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▲具材は煮揚げとネギ、ホウレン草、花がつおとシンプル

 

まずは麺。商品である半生麺や乾麺ではなく、直営店専用に開発した生麺を使用。これがまた、喉越しや食感も手打ち麺にも劣らないほど完成度が高い。

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:目指したのは、やわらかい喉越しともっちりとした食感です。小麦粉は地元の愛知県産のきぬあかりと三重県産のあやひかり、北海道産のきたほなみをブレンドしています。もちろん、保存料などの添加物は一切使っていません。

 

むろん、厳選した材料だけではおいしいきしめんはできない。大事なのはその素材をいかに、完成の状態にまで作り上げるか。

ややマニアックな話になるが、生地の塩分濃度と練り、伸ばし、そして熟成が重要なファクターとなるのである。吉田麺業有限会社ではこれら一連の作業をすべて機械で行っている。

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▲出来立てのきしめん。時期に合わせて粉の配合や幅、厚みなど微妙に変えている

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:麺をゆでる際にお湯の中で塩分が抜け、その後水洗いの際に急激に冷やされて麺がしまるとでコシが生まれます。生地の塩度が高いほどコシが強くなるのですが、讃岐うどんは夏場で10度あるかないか。きしめんは18度になります。さらに一昼夜熟成させることでもっちりとした食感が生まれます。

 

塩分を多く含んだ生地を練って、伸ばすのは容易ではない。生地はやわらかそうに見えるが、車のタイヤくらいの固さになる。機械で力任せに伸ばすと、グルテンの組織が壊れてしまい、おいしくなくなるのだ。機械であっても手打ちのような適度な力加減が求められるのである。

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▲麺をかんだとき、口の中いっぱいにジュワッと広がるダシのうま味と香りがたまらない

 

つゆはムロアジが定番。その理由は?

麺とともに、シンプルなきしめんを形作っているのが、思わずホッとする味わいのつゆだ。

つゆはムロアジをベースにサバ節やソウダガツオをブレンドしたダシにたまり醤油を合わせて仕上げた、昔ながらの、いかにも名古屋らしい深い味わい。

ダシに使うムロアジなどの節類は、削ったものを仕入れると、時期によってはどうしても味にバラツキが出てしまう。そのため削る前のものを自社で削っているという。そりゃうまいはずだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:関西では瀬戸内で捕れたいりこと昆布でとったダシに薄口醤油を合わせます。関東はダシに枯れ節を中心に使いますから、名古屋は関東風でも関西風でもありません。ムロアジを使うのは、静岡の遠州灘など近くで捕れたからだと思います。麺もダシも醤油も地元のものを使っているからこそ、古くから地元で根付いているのでしょう。

 

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▲白つゆ仕立ての「てんぷらきしめん」(980円)。具材の色も鮮やかだ

 

またまたマニアックな話になるが、シンプルなかけきしめんはたまり醤油ベースのパンチのある「赤つゆ」が使われるが、天ぷらや玉子とじなど麺の上に具材がのるきしめんは白醤油ベースの上品な味わいの「白つゆ」が用いられる。

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:たまり醤油は色が濃いので、具材がつゆの色に染まってしまいます。白醤油であればそんな心配は要りません。おそらく、全国でも2種類のつゆを使い分けるのは、きしめんだけでしょう。これも名古屋独自の文化だと思います。

 

きしめんの魅力を全国に発信したい

半世紀以上にわたっておいしいきしめんを追求し、つくり続ける中で冬の時代もあった。

とくに終戦直後は質の悪い、黒っぽい小麦粉しか入ってこなかった。その反動もあって、高度経済成長期にかけては真っ白な小麦粉が人々に好まれた。

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f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:本来、小麦粉は少し黄色がかっているものなんです。ところが、入ってくるのは漂白したような真っ白な小麦粉ばかりでした。時代とともに小麦粉の品質もずいぶんと良くなりました。麺づくり専用の小麦粉も開発され、北海道産は10年ほど前から、愛知県産はここ5年でようやく私の納得する品質になりました。

 

話を聞いていて、思わず震えた。吉田社長は、終戦直後から今もなお、きしめんづくりに最適な小麦粉を探し求めていたのだ。

何たる探究心であろうか。職人というよりは、研究者だ。かつて日本経済を支えたモノ作りへの真摯(しんし)な姿勢がうかがえる。

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▲大ぶりなえび天と野菜天がたっぷりのっかった「えびおろしきしめん」(1,200円)

 

吉田社長が4代目の社長に就任したのは昭和40年、34歳のときだった。

昭和40年代は大型スーパーが名古屋市内に続々とオープンした時代。そこに乗じて、1970(昭和45)年には名古屋市西区のダイヤモンドシティ・名西ショッピングセンター(現・イオンタウン名西)に直営店「きしめんよしだ」の1号店をオープンさせた。

新幹線地下街エスカに出店したのは、その翌年のことだった。

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製麺業を軸にしながらも、飲食の分野へ。 新たな挑戦の陰には、迷いもあったという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181129173128p:plain吉田社長:今でもそうですが、名古屋以外の方にとって、きしめんはおいしいというよりも珍しいという印象を持ってるんですね。やはり、きしめんよりもうどんの方が人気なんです。直営店を出すときも、うどんをやった方がもうかることはわかっていたので悩みました。しかし、名古屋のきしめんの魅力を全国に伝えたいという思いから、きしめん専門店にしたんです。できることなら、駅のホームや構内など県外から多くの人々が集まるような場所できしめんを出したいですね。

 

損得勘定を抜きに、きしめんの魅力を全国に伝えることを自身の使命としている吉田社長。今後も名古屋麺文化の生き字引として、第一線を走り続けていただきたい。そう願わずにはいられない。

 

お店情報

きしめんよしだ エスカ店

住所:愛知名古屋市中村区椿町6-9 エスカ地下街
電話番号:052-452-2875
営業時間:11:00〜21:30(LO 21:00)
定休日:無休(年末年始はエスカの定休日に準ずる)
ウェブサイト:https://yoshidamen.co.jp/

www.hotpepper.jp

 

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