
最近は建物を建てるとき、すべて壊して建て直すのではなく、既存の建物の特徴を活かして再構築するリノベーションという手法が注目されています。
まい泉は、「かつサンド」で有名なとんかつ屋です。そのまい泉青山本店の館内にあるレストランはリノベーション前、銭湯の脱衣場でした。風呂屋の番頭をしている筆者が、実際の銭湯の写真とともに、まい泉青山本店のレストラン「西洋館」をご案内します。

こちらの写真は開店間際の様子。平日にも関わらず行列ができています。
外国人の方も多く、世界のTOKYOが擁する観光地といっても過言ではありません。

カウンター席を抜けて進むと、通路の中央を壁が塞いでいるところがあります。
どこか不自然な印象をうけませんか? じつはこれ、銭湯の名残なんです。

【銭湯、天神湯の入り口】
これは実際の銭湯玄関です。
正面に傘置き、両サイドには男女別の脱衣場へ続く扉と下足箱があります。

【西洋館の入り口】
改めて、まい泉に戻りましょう。
ふたつの出入り口の両脇にあるくぼみに下足箱、正面の壁面部分には傘置きの名残が感じられます。出入口の上部、すのこ状になっている部分は男、女と掲示されていたのでしょう。

「あ、靴脱がなくていいんだった。」
銭湯ユーザーだと、勘違いしてしまうほど銭湯っぽい! まい泉は土足OKです。
改めて比べるとかなり似てる!銭湯と西洋館
銭湯の流れでいうと、下足箱の次は脱衣場です。早速入ってみましょう。

あ、暖簾ないんだった。

こちらがまい泉青山本店のレストラン、西洋館。一般的なレストランではなかなか見られない高い天井には、格子状の装飾が施されていますね。

【銭湯、浜の湯の天井】
こちらは実際の銭湯の写真です。このつくりは格天井(ごうてんじょう)といい、寺社建築の建築様式と言われています。戦後焼け野原となった東京にこぞって銭湯がつくられたころに流行っていたのだそう。
格天井の銭湯は減っているので、見つけるとテンションが上がります。

【西洋館の天井】
西洋館の天井を見上げてみると、同じように格天井です。
もともと銭湯だったと知らず、とんかつ屋として入店してこの天井を見たら、違和感を覚えると思います。それほど銭湯以外で見る機会が少ない建築様式です。
また、この写真で注目すべきは格天井だけではありません。

【西洋館の天井】
拡大してみました。
天井と壁面が交わる部分がS字にカーブしているのが見えるでしょうか。
このカーブにも大きな意味があります。

【銭湯、浜の湯の天井】
浜の湯の天井も同様に拡大してみましょう。こちらにもS字のカーブが入っています。
これは「折上格天井(おりあげごうてんじょう)」といいます。木材にカーブを付ける加工は難しいと想像がつきますよね。これを天井という規模でおこなうわけですから、単純に格天井をつくるよりも高い技術が必要な、建築というか芸術に近いです。
これを見ると、建設当時、経済力のある銭湯だったのだと推測できます。

【銭湯、浜の湯の脱衣場】
さらに比較をしていきましょう。こちらは浜の湯の脱衣場から浴室に向かって撮影した写真です。
銭湯らしさを感じる藤の籠、ロッカーがなかった時代はこの籠に衣類をいれて床に置いていました。それを泥棒から守るのが番台に座る人の仕事だったと言います。

【銭湯、浜の湯の脱衣場壁面】
床面には銭湯の脱衣場らしいものがあふれていますが、ここはひとつ、浴室上部の壁に掛けられた時計と、浴室に続く扉の上部に注目してください。

【西洋館の壁面】
時計の位置と、壁面を横断する梁がほぼ同じような配置になっていますね。銭湯の写真と比べると、衝立の向こう側は浴室だった場所とわかります。
とんかつがほかほかで出てくるという点では現役の浴室、なのかもしれません。
風呂屋の人間としては、あの位置に時計をずっと置き続けているところから、銭湯としての保存をしてくれているんだなぁと、まい泉の心意気を感じます。
「番台」の跡もくっきりと
銭湯といえば、お金の受け渡しをする「番台」ですね。銭湯のシンボルです。

【銭湯、浜の湯の番台】
こちらは実際の銭湯の「番台」です。もしかしたら初めて見た方も多いかもしれません。両サイドには男女脱衣場への出入口、そして私の背後には電気のスイッチが集中しています。
この2点に注目してまい泉にある番台の名残を見てみましょう。

【西洋館の番台跡】
こちらは、先ほどの玄関部分をレストランのなかから見た写真です。
私の背後にある、通路をふたつに分ける壁は、男女の脱衣場を仕切って番台を設置するために必要なものだったのです。
とはいっても、いまはもう必要ないはずです。なぜ残されているのでしょう。

【西洋館の番台跡】
この壁にある電気のスイッチ、銭湯時代のものをそのまま使っているのです。
「改装当時から建物を変にいじって、レストランとして都合のいいようにつくり変えたくないという思いがあった」と担当者はおっしゃっていました。風呂屋の番頭としては、この壁があるからその言葉が真実だと感じられますね。
とんかつ屋には絶対必要ない、風呂屋の象徴も残ってる!
誰が見ても「これあるなら銭湯だわ!」と納得してしまう銭湯の名残がありました。

銭湯のシンボル、煙突です! とんかつ屋としてはまったくもって不要な設備です。お店の正面からは見えませんが、まい泉の横道を歩くと誰でも見ることができます。

この写真を見ると、煙突以外は民家ですよね。昔ながらの銭湯にはよく見られるつくりで、建物の裏側は店主の家、というケースは多いです。
私自身の経験として、お湯を沸かす釜場が家の中なので、冬場はポカポカ。よく下風呂(お湯をためるところ)の上にタオルを敷いて昼寝をしたりしていました。
現在建物としてどのように使われているのかはわかりませんが、こちらも銭湯時代のものをそのまま残しています。
調味料で気分に合わせたとんかつを
銭湯の話ばかりになってしまいましたが、まい泉はとんかつ屋。おいしいとんかつの食べ方を最後に押さえておきましょう。
まい泉の方にオススメの食べ方を聞きました。

【甘口ソース】
これぞまい泉のド定番、甘口ソース。とんかつらしい味わいを楽しみたいときに。素人の私でもかなりの野菜を煮込んでいるような深い、優しい味わいを感じます。
【辛口ソース】
魚介系の揚げ物にピリッとさっぱり食べたいときに。辛口といってもほんのりピリッという辛味なので、味を変えたいときにもいいです。
【塩とレモン】
肉らしさを感じながらスッキリと食べたいときに。ソースに目がいきがちですが、まい泉ブランドのスパイスソルトが卓上にあります。
銭湯の脱衣場として残す意味

この写真は、まい泉に残っている唯一の銭湯時代の写真です。この銭湯時代のこと、改装の経緯を知る人は、まい泉社内にはもう誰もいません。
昔銭湯に来ていたお客さんから銭湯時代の話を聞き、店の歴史を学ぶそうです。地域の方が西洋館の歴史を守り、受け継いでくれているのです。

「とんかつは誰でも食べられる庶民の食事」と、担当の方はおっしゃっていました。銭湯も、誰もが入れる地元のお風呂。業種は違えど同じ心意気を感じました。
とんかつを食べながらその歴史と心意気をぜひ感じてみてください!
写真協力
脱衣場、天井、番台……杉並区浜田山「浜の湯」【2013年12月惜しまれながら廃業】
玄関……中野区中野「天神湯」15:45~23:00
お店情報
とんかつまい泉 青山本店
住所:東京都渋谷区神宮前4-8-5
電話番号:0120-428-485
営業時間:11:00~22:45(ラストオーダー22:00)
ウェブサイト:http://mai-sen.com/restaurant/
※本記事は2016年2月の情報です。











































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