サウナ、好きですか?
近年、サウナを扱った漫画が多数出版されドラマ化した作品も出るなど、その熱の高まりは凄まじいものがあります。
そんなサウナブームの最中、サウナ本場の国、フィンランドの大使館内にあるサウナがリニューアルし、メディア向けにそのお披露目会が開催されるとの情報をキャッチ。
日本で唯一、「純度100%フィンランド」な場所のサウナ…… 。いったいどうなっているのか。サウナーの端くれとして絶対参加したいと案内に目を通していたところ、信じられない言葉を発見しました。
サ、サウナフード!! なんだそれは……!!
フィンランドではサウナのなかで食事をしたりするのか? その料理はサウナの熱を活用して調理した食べ物なのか?
疑問がムクムクと湧いてきたので、フィンランド大使館で聞いてきました!
サウナフードはどのへんがサウナかよくわからなかった
多くの国の大使館が立ち並ぶ、東京都港区南麻布。フィンランド大使館もこのエリアにあります。
受付にはサウナのフォトスペース(!?)。大使館を訪れた人が必ず通る場所に設置されており、サウナがどれほどフィンランドを象徴する文化なのかが伝わってきます。
ご案内いただいた先にはテーブルがあり、その上には様々な料理が並んでいます。どうやらサウナ室内で食べる食事がサウナフード、というわけではないようです。テーブルを覗いてみると……。
味の異なる3種のソーセージ。サウナのあとにビールと一緒につまむと最高そうです。
北欧といえばのミートボール。オリーブも入ってます。
そしてこちらも北欧を代表する食材であるサーモンのポテトグラタン。
お野菜もどうぞ。ポテトサラダ。
うん、フィンランドっぽさは感じるけど、サウナ感はない!
いったいどういうことか、大使館の方に話をうかがってみましょう。
取材に応じてくれたのはフィンランド生まれフィンランド育ち、サウナ愛に満ち満ちた報道・文化担当参事官マルクス・コッコさん。
もうお一方。フィンランド大使館広報部の秋山さんに話をうかがいます。
──サウナフードをいただいたのですが……正直私にはサウナを感じられませんでした。どのへんがサウナなのでしょうか?
コッコさん:今回ご提供したのは一般的なサウナフードの一例です。サウナフードは本来「これがサウナフード」と決まってはいません。サウナの合間に食べる食事全般をサウナフードと呼びます。今回はサウナの合間に召し上がっているわけではないので、確かにサウナを感じなかったかもしれませんね。
──具体的にコレ! というものはない…?
コッコさん:はい、定番はあっても決まってはいません。日本のサウナとフィンランドのサウナは使い方、設備の面はもちろん、考え方、発展の経緯に違いがあります。それを知ればサウナフードを理解していただけると思います。
秋山さん:フィンランド大使館のサウナは、もちろんフィンランド式のつくりになっていますので、ご覧いただきながらフィンランドのサウナ文化をお話させていただきます。
【超貴重】アヴァントとヴィヒタ以外はほぼできる、大使館のサウナ
秋山さん:こちらはゲストの方向けのサウナです。電気で温めるタイプで、1時間ほどで80~90度の温度になります。サウナストーブはフィンランド製の「iki」、実際サウナを利用する際にはベンチにフィンランドブランド「LAPUAN KANKURIT」のリネンを敷きます。
──余計なものが何もない、とてもシンプルなサウナですね。
コッコさん:サウナは静かで、落ち着いた空間である必要があります。日常を感じさせるものを置くべきではありません。その点、日本のサウナにテレビがあることは非常に違和感がありますね。フィンランドではテレビのあるところはまずありません。サウナは瞑想して内に目を向ける場所なので、日常のニュースを耳に入れたくはないです。
──「サウナには教会に行く気持ちで入れ」、という言葉を聞いたことがありますが、そんな心持ちがサウナに入るうえでふさわしいのでしょうか?
コッコさん:サウナは一緒に行く人がいるかどうかで目的が変わります。1人なら瞑想に浸ることも多いので、教会に行く時と気持ちが近いかもしれません。ただ2人以上の時は交流を目的とすることもあります。ですので「サウナには教会に行く気持ちで入れ」という表現は間違いではありませんが、必ずしもそうである必要はありません。
──なるほど……。ん? サウナ奥にあるこれは、まさか!
コッコさん:大使館のサウナはロウリュ(サウナストーンに水をかけ蒸気を発生させること)が可能です。これがないとフィンランドのサウナとは言えません。自宅のサウナでは自分の好きなようにロウリュできますが、公衆サウナでは一声かけるのがマナーです。それが会話のきっかけになることもあります。
──私自身フィンランドのサウナに行ったとき、「ロウリュしても良いですか?」と居合わせた方から聞かれました。そこからスカイツリーの高さの話をしたのはいい思い出です。
▲クア・アンド・ホテル 駿河健康ランドのロウリュ
──ちなみに、日本ではタオルでおこした熱波を浴びることをロウリュと呼びますが、このフィンランドとの認識の違いはコッコさんの目にはどう映りますか?
コッコさん:フィンランドでは自分でロウリュをすればサウナの温度を上げることができます。この「日本式のロウリュ」はフィンランドには存在しない文化です。
──サウナ本場の地に存在しない文化……?
コッコさん:サウナは各国で独自に生まれたものもありますし、フィンランドのサウナを取り入れてその国独自の進化をしたものもあります。ドイツのサウナでは「アウフグース」という呼び名で、この光景はよく見られるようですね。
©Petri Asikainen for Embassy of Finland
──ドイツから入って日本で定着した文化なのですね。フィンランドのサウナ室内でできることといえばもう一つ、ヴィヒタ(白樺の枝)で体をバシバシ叩く、ということがあるかと思いますがそれは……?
コッコさん:それはフィンランドの文化です。ただ大使館のサウナには置いていません。ヴィヒタは白樺の若葉であることが重要です。そのため、若葉が枝についている6月前後に使われることが多いです。それ以外の時期には冷凍したものを使っていますね。
©Petri Asikainen for Embassy of Finland
秋山さん:サウナの正面にはシャワーブースを用意しています。こちらで体を洗ったり、冷水を浴びてクールダウンします。
──フィンランドのクールダウンといえば、湖に飛び込むイメージが強いです。
コッコさん:フィンランド国内には大小188,000の湖があり、フィンランドを代表する自然景観です。湖に入ることは、自然景観を楽しみながら風呂に入る、日本の露天風呂と近い感覚なのではないでしょうか。クールダウンとともに自然とつながる感覚を楽しみます。
©Visit Karelia / Harri Tarvainen(写真提供:Business Finland Mediabank)
──冬場は凍った湖に入りますよね。どんな感覚なんですか?
コッコさん:凍った水に入るのには勇気が必要です。すぐに出たい衝動に駆られます。そして出た後は一瞬体が暖かく感じられ、頭が冴え、最高の気分になります。ちなみに、凍った湖に入ることを「アヴァント」といいます。
──専用の言葉があるんですね(笑)。(日本でも水風呂に入ることに専用の言葉をつくってもいいかもしれない……。)
フィンランドサウナの真髄は休憩にあり
秋山さん:こちらは休憩スペースです。配置している家具はすべてフィンランドのインテリアデザインブランド「Artek」、カーテンは「Ivana Helsinki」のデザインです。サウナとサウナフード、そして交流を楽しむ……そんなフィンランド流のおもてなしを体験していただく場所です。
──ここではどんな格好をして過ごすのでしょうか? サウナの中ではタオルを巻きますよね。
秋山さん:フィンランド大使館のサウナでは、同性のみの場合、基本的に裸で、希望があればタオル、水着の着用は可能です。男女混合の場合は水着を着用します。休憩スペースではタオルを巻いたり、ガウンを羽織って過ごします。
──日本では多くの施設で上下の服をしっかり着てから食事をするのがほとんどです。フィンランドではなぜこのスタイルなのでしょうか。
コッコさん:フィンランドの多くの人は長期休暇になると湖畔のサマーコテージに滞在します。そのほとんどにサウナが付いていて、緑豊かな環境でサウナに入りながらのんびりと過ごすのが一般的です。何度もサウナや湖に入りますので、その都度着替えたりはしません。その流れが馴染んだ結果なのではないでしょうか。
©Visit Finland(写真提供:Business Finland Mediabank)
──完全にプライベートでの利用ができるからこその滞在方法なのかもしれませんね。そしてサマーコテージ……ですか? みなさん持っているものなのでしょうか?
コッコさん:具体的な数字を申し上げることはできませんが、私の体感として多くの人が持っているように感じます。私はサマーコテージに行くと長い時は5時間、サウナを楽しむこともありますね(笑)
──5時間サウナ……そりゃあ合間に食事をする必要がありますね。フィンランドでのサウナの認識は日本と根本的に違う……よくわかりました。
©Finnish Lakeland/Jyväskylä Region Photo by Julia Kivelä(写真提供:Business Finland Mediabank)
コッコさん:サウナへの思いは非常に強いです。フィンランドには日本では絶対に見られない、特殊なサウナもあるんですよ。例えばスキーのゴンドラがサウナ、バスの中がサウナ、いつでも湖に飛び込めるボートサウナもあります。
──サウナへの愛というよりも、サウナはフィンランド人のアイデンティティと言ったほうが正確ですね。
秋山さん:大使館にはバルコニーもあります。この椅子はフィンランドの木製家具ブランド「EcoFURN」製のエコチェアです。木製というと硬いイメージがあるかもしれませんが、フィット感は抜群です。
──外気浴までできるなんて!
©Petri Asikainen for Embassy of Finland
コッコさん:この写真のようなかたちで利用しています。外気、自然に触れることもサウナにおいて重要なことです。
──階下を覗き込んだら湖がありそうですね(笑)。日本では外気浴中に究極のリラックス状態になることを「ととのう」と表現しますが、フィンランドではどうでしょうか。
コッコさん:その感覚はフィンランドにも存在します。サウナ→クールダウンのなかで得るなにかがあることは皆が理解しているのですが、それに該当する言葉はありません。
──日本ではととのいを求めて〇分〇セットという入り方をするのがトレンドですが、フィンランドではいかがでしょう?
コッコさん:フィンランドではサウナに時間の概念を持ち込みません。サウナ室内に時計は置きませんし、出るタイミングは自分が熱いと感じた時です。クールダウンも同様に、サウナに入りたくなるまでただただリラックスし、日常の忙しさを忘れて過ごします。会話をするもよし、散歩をするもよし、読書をしてもよし、そして食事をするもよし。すべきことは何もなく、この行程すべてがサウナです。
──サウナと捉える範囲が日本とは全然違いますね。日本だとサウナはサウナ室で完結し、食事までサウナの一環とは見ていないように思います。
コッコさん:その違いがサウナフードという言葉の捉え方の違いを生んでいるのかもしれませんね。フィンランドでは、サウナの後や合間に食べる料理をサウナフードと見なしています。大使館のメディア向けお披露目会で提供した料理のような品々です。
──ということはスーパー銭湯でサウナからいったん出て食べる蕎麦や、サウナの帰り道をクールダウンの時間と考えて、道中に刺身と日本酒をいただく……なんていうのもサウナフードと考えてよいでしょうか?
コッコさん:サウナフードの意味合いを考えれば、日本らしいサウナフードと言えるのかもしれません。
──サウナフードについて、理解が深まりました。ありがとうございました! 最後に、今回日本とフィンランドのサウナの違いの話が多かったので、共通していると感じることを教えていただけますか?
©Petri Asikainen for Embassy of Finland
コッコさん:男女別々に裸で入って、熱気を楽しむという点ではフィンランドでも日本でも同じだと思います。あとは、サウナの後のビールが最高にうまい、ということでしょうか。
──サウナあがりのビールは国を問わずうまい!
サウナを日本以上に幅広くサウナと捉える認識と、愛という言葉のもう一段上をいくサウナへの思い。
この2つが、一見普通の食事を、サウナの合間というだけで特別な「サウナフード」に仕立てていました。
サウナーの皆様、この認識を持って食事をとることで、本場フィンランドのサウナに一歩近づいた体験ができるかもしれませんよ!
最後に、このサウナに入りたい方へ
──最後に、めちゃくちゃしっかりしたサウナがある大使館ですが、一般の方が体験することはできるのでしょうか?
秋山さん:大使館ではサウナを体験しながらコミュニケーションを取る「サウナイルタ」という、フィンランド外交サウナクラブを定期的に開催しています。このイベントは、政治家、ビジネスマン、文化関係者、メディアの方々をお招きし、参加者との会話を楽しみ、バルコニーで涼んで、フィンランド流のおもてなしを体験していただいたうえで、フィンランドサウナとの末永い関係を築いていただくことを目的としています。
──なるほど、招待を受ければ「サウナイルタ」に参加できるんですね! 招待のない私達のような庶民が入ることは……?
秋山さん:現在のところはそういったイベントを開催する予定はありませんが、過去に一般の方を招くイベントも開催したことはありますので、フィンランド大使館のSNSをマメにチェックしていただくと入れる機会があるかもしれません。
──これは絶対入ってみたい…! マメにSNSチェックさせていただきます。本日はありがとうございました!