『深夜食堂』のマスターが“通”な飲み方を伝授?俳優・小林薫さんインタビュー

f:id:Meshi2_Writer:20161031182434j:plain

(C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

新宿ゴールデン街を思わせる飲み屋街の路地裏にひっそりとたたずむ深夜営業の「めしや」。

そんな「めしや」を舞台に巻き起こるさまざまな人間模様を描いたシリーズ『深夜食堂』が、11月5日公開の『続・深夜食堂』として、ふたたび映画館に帰ってくる。

 

f:id:Meshi2_Writer:20161031182505j:plain

▲「めしや」の店内。年季の入った雰囲気が味わい深い © 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

営業時間は夜12時からとめちゃんこ遅いし、カウンターだけのこぢんまりとした店内は、ヤクザやら、ゲイバーのママやら、ストリッパーやら、やたらと事情通で世話好きなおじさんやらの、濃いめなキャラの常連さんたちでいつもいっぱい。

いちげんさんがフラッと暖簾をくぐるには、なかなかに勇気のいる店構えのこの「めしや」だが──。

 

f:id:Meshi2_Writer:20161031182530j:plain

▲メニューは「豚汁定食」のみ。酒も「3杯まで」が店のルール © 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

顔にワケありな“疵”のあるちょっとコワモテなマスターは、正式なメニューは“豚汁定食だけ”と言いつつ、「できるものならなんでも作るよ」なんていう神対応すぎる営業方針で、客の胃袋を鷲づかみにしてしまう素敵な御仁。

 

f:id:Meshi2_Writer:20161031182607j:plain

▲この厨房からマスターが作る気取らない逸品が次々生まれる © 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

エピソードごとに登場する客たちの「思い出」がつまった“飯テロ”感満載の美味しそうな料理の数々。そして、誰に対してもつかず離れずの絶妙な距離感で接してくれるマスターの存在……。そこから醸しだされる、いかにも居心地のよさそうなあの雰囲気には、思わず「飲みてぇ」、「食いてぇ」、「行きてぇ」と唸ってしまった人も、少なくないに違いない。

 

f:id:Meshi2_Writer:20161031182649j:plain

▲劇中のメイン料理ともなっている「豚汁定食」。これで600円なら毎日食べたい

 

そんなわけで今回は、もし仮に「この人が飲み屋のマスターだったら絶対行きたいランキング」があるなら、ぶっちぎりの1位に推したい『深夜食堂』のマスター役、小林薫さんに直撃インタビュー。ご自身のプライベートでのお酒の飲み方から、思い入れのある料理まで、“メシ”にまつわるお話をうかがった──。

 

私生活でも「酒は3杯まで」を実践!?

f:id:Meshi2_Writer:20161031182750j:plain

▲インタビューを快諾してくださった小林さん。やっぱりシブいっす

 

──劇中の「めしや」では「お酒は3杯まで」が決まりですが、小林さんご自身は、ふだんどんなお酒の飲み方をされているんでしょう?

 

自分ではあんまり意識したことはないんだけど、ビールを大きめのコップに一杯もらって、次に日本酒を一杯。そこから芋焼酎に変えて、2軒目でハイボールっていうのが、定番のパターンになってるみたい。焼酎だけをずっと飲んでると、どこかガラが悪くなっちゃう気がするから、たぶん最初に日本酒みたいな上品なものでホワーッとさせて、それを焼酎で一定に保ちたいんだろうね。

 

──あまり深酒もされないほうですか?

 

まぁ、そこには体力的な問題もあるからね(笑)。ただ、外で飲むときはやっぱり自然とテンションも高くなるし、一緒に飲んでる方たちが「これで終わり?」ってなるのも忍びないから、「もう一軒行こう」ってことでバーに行ったりはするよ。それでも、みんなにも予定はあるだろうから、だいたい12時ぐらいには締めるけど。

 

──お気に入りの銘柄などがあったりは?

 

それが、あんまりないんだよね。人から教えてもらったりしたときには、それを手に入れて飲んだりすることはあるけど、「コレ」ってものに決めなくても、美味しいお酒は日本じゅうにたくさんあるしね。いまは、新潟の『鄙願』っていう日本酒がウチにあるんで、「さて、これをいつ開けようか」と思ってるくらいかな。

 

──焼酎では、どうでしょう?

 

宮崎の『㐂六』(きろく)っていう芋焼酎をよく飲んでる。わりと有名だと思うんだけど、あらためて飲んでみたら、「旨いな」って見なおして(笑)。それを最後の仕上げで飲むのが、最近は好きだね。お店によってはプレミアがついていることもあるみたいだけど、ウチの近所の酒屋ではなぜだか普通に手に入るしね。

 

男子たるもの、食へのこだわりはもつべからず!?

f:id:Meshi2_Writer:20161031182910j:plain

▲マスターの顔の“疵”の詳細は不明。ヘタに詮索をしないのも「めしや」のよさ © 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

── 一方、『深夜食堂』の魅力と言えば、やはり料理。劇中に登場するお客さんたちのように、なにか思い入れのある逸品があったりはしますか?

 

お袋の味みたいなことで言うと、やっぱり僕は出身が京都だから、青菜とお揚げの炊いたんとか、身欠きニシンとナスの炊いたやつとか、気の利いたネーミングもないような、いわゆる京都の“おばんざい”が真っ先に浮かぶかな。ふだん、そういうものがウチの食卓にのぼることはないんだけど、小料理屋なんかに入ったときにあったりすると、「おー、コレコレ」って感じでつい注文しちゃう。そういうときは「確かにこういう感じで食ってたなぁ」と懐かしい気持ちにはなりますね。

 

──「あると、つい」ぐらいの感じだからこそ、美味しくも感じるんでしょうね。

 

まぁ、僕は基本的に「男子たるものが食いものにこだわるのは慎むべきだ」って考えだから、その場にあるものが美味しく食べられたらそれでいいんだけどね。尊敬する諸先輩方がそうであったように、僕自身も「男がグルメを気取るのは軽薄だ」みたいな空気感を、どこかで「カッコいい」と思ってきた昭和の人間だからさ(笑)。ただ、『深夜食堂』みたいな作品が、いまの時代に「おもしろい」と言ってもらえているのは、そういったグルメ的な方向性とはまったく逆を行っているからって部分もきっとあるんじゃないかな。

 

「どこか欠けている」のが作品の味わいに

f:id:Meshi2_Writer:20161031183050j:plain

▲常連客が集う店内。それぞれが不完全だからこそ「味わい」も生まれる © 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

 

──最後に、マスター役として足かけ7年。ドラマがリメイクされた韓国に続き、中国、台湾などでも好評を博す『深夜食堂』シリーズへの想いをお願いします。

 

演じるうえでも「マスターはあくまでも傍観者」という言い方を、僕はしているんだけど、こうしてアジアでの評判なんかを聞いたりすると、驚きもある反面、いい意味で「僕らの手を離れてるな」って気はすごくするよね。常連客も含めて、あの世界のなかではそれぞれの役割や位置づけみたいなものがすでにできあがっているから、もはや自分たちで「ああしよう、こうしよう」っていうのをあんまり考える必要がないって言うかさ。

 

──たとえばゴールデン街に行ったら、ホントにあるんじゃないかと思えるほどに『めしや』に集うみなさんは自然体ですもんね。

 

不破(万作)さんや綾田(俊樹)さんのような先輩もいるのに、こんな言い方をしたら怒られるかもしれないけど、あそこの常連客ってどこかが欠けていて不完全な人ばかりでしょ?(笑)。そういう「足りない部分」がうまく集まっていることが、『深夜食堂』という作品のもつ、味わい深さにもつながってるんじゃないかな。

 

観終わったあとに、なんとも心地いい余韻に浸らせてくれるのが『深夜食堂』シリーズの醍醐味。見るからに美味しそうな料理の数々に、「郷愁」という名のスパイスをさらに利かせた大人のファンタジーは、映画館の大きなスクリーンでこそ味わいたい。

 

f:id:Meshi2_Writer:20161031183142j:plain

【小林薫】

1951年9月4日、京都府生まれ。唐十郎氏が主宰した『状況劇場』で俳優デビュー。その後は、日本を代表する名優のひとりとして、映画・ドラマと幅広く活躍する。本作でもメガホンを執った松岡錠司監督とは、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いた06年の『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』、08年の主演作『歓喜の歌』でもタッグを組んだ間柄。

 

【作品情報】

映画『続・深夜食堂』2016年11月5日、全国劇場公開!!

制作・配給:東映

© 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

※本記事は2016年10月の情報です。

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

過去記事も読む

【閉店】【うまい日本酒】東京23区内で唯一続く日本酒の蔵元「赤羽・小山酒造」の工場に行ってみた

f:id:Meshi2_IB:20160924201139j:plain

日本酒を造る蔵って、どんな場所にあるイメージを持ってますか? 

普通に考えれば、自然のままの水や空気、景色を携えた山奥や、雪深く寒い地域といったところでしょうか。ですが、驚くべきことに東京都内にも、実は蔵元が存在しているのです!

とはいえそのほとんどは、少々都心を外れた西東京のもの。さすがにもう、大都会のど真ん中で酒造りなど行われてはいないでしょうか……? と思いきや。なんと、あの飲兵衛の聖地と言われる、東京都北区赤羽に現存していました。 

それが創業明治11年、23区内で唯一続く酒蔵「小山酒造」です。

 

これを知った酒好き+赤羽好きの筆者・もちづき千代子は、矢も楯もたまらなくなってしまいました! ぜひ、その酒蔵、行ってみたい! はやる気持ちを抑えながら、さっそく酒蔵へとうかがいました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201140j:plain

 

その蔵元は、赤羽にあった

小山酒造は、東京メトロ南北線・赤羽岩淵駅から歩いて5分ほど。荒川にほど近い場所にあります。一見すると酒蔵とは思えない外観です。この中で赤羽の地酒が作られているなんて、不思議な感じ。 

今回、酒蔵内の案内をお願いしたのは、小山酒造五代目社長の奥様であり、常務取締役広報担当の小山久理さん。彼女のアテンドにより、創業138年目を迎えるという小山酒造の歴史と、造られ続けているお酒の美味しさの秘密を紐解いていきたいと思います。

f:id:Meshi2_IB:20160924201141j:plain

小山酒造の創業は明治11年。創業者の小山新七氏は、もともと埼玉の造り酒屋の次男坊。湧き水が豊富な宿場町だった赤羽岩淵を気に入り、独立して酒蔵を立てたのだそうです。

 

久理さん:宿場町でのお酒の需要や、荒川での船運搬の利便性で、当時はだいぶ繁盛したようです。ここに展示してある道具は、昭和に入った頃に使われていたものです。

 

これらの道具を使っていた明治時代には、都内の酒蔵は60箇所ほど。昔は意外と多かったんですね! しかし、関東大震災の影響や空襲などで酒蔵が倒壊し、徐々に姿を消していったのだとか。東京は土地が高額だったためか、再度の復建が難しかったようです。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201142j:plain

展示物を見ていると、チラチラと目に入ってくる言葉が……「愛酒報國」? これは何ぞや? 

 

久理さん:これは「あいしゅほうこく」と読むのですが……2代目が作った造語です(笑)。当時は戦争真っ只中で、国にお金がない時代。当時の酒税は今とは比べものにならないくらい高かったので「国を愛しているならお酒を飲もう」という意味が込められています。

 

なるほど。つまり、お酒をじゃんじゃん飲んで納税して国を助けよう! ってことですね。

 

久理さん:この言葉をあまりに推しすぎて、店名や商品名よりも目立っていたみたいですね(笑)。 

 

ちなみに、小山酒造が「愛酒報國」推し真っ只中だったであろう昭和11年、都内の酒蔵の数は11社にまで減少していました。そして、東京大空襲により23区内の酒蔵はついに小山酒造1社に。以後、東京23区内で脈々と続いている酒造は、小山酒造のみとなっています。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201143j:plain

このガラスの向こうが蔵になります。小山酒造では、一般のお客さんに向けて蔵見学も行っています。酒造りのシーズンである9月上旬~5月上旬は、ガラス越しに日本酒の製造工程を見せてもらえるそうです。作業スケジュールよっては公開できない日もあるので、事前予約必須とのこと。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201144j:plain

そしてこちらが、滅多に直接目にすることはできない蔵の中です。うわぁ……あの丸い樽の中で日本酒が造られているわけですね! 目の当たりにすると、なんだか感動が……。しかし、想像していた蔵よりもだいぶ近代的な気がします。

 

久理さん:小山酒造では創業当初から、新潟から出稼ぎの職人さんを呼んで作っていたのですが、時代とともにそれが難しくなってきました。そして、20年ほど前に職人ではなく、弊社の社員が製造する方式に切り替えました。そのタイミングで蔵を建て替え、設備を一新したのです。

 

なるほど、これも時代の流れということですね。

 

……それにしても。やはりもっとも気になるのは、ここで造られているお酒の味ですよ! いったいどんな感じなんですか、久理さん? ねえ! ねえ!!

 

久理さん:お仕事中ですが、大丈夫ですか(苦笑)? よろしければ3種類ほど飲み比べをしてみてください。

 

やったぁ~!! ここでもちづき的メインイベント、日本酒の試飲に移らせていただきたいと思います。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201145j:plain

小山酒造の主戦力商品といえば、こちら。「丸眞正宗 吟醸辛口」(720ml/1,409円)! 

地元である北区を中心に、都内の城北エリアで販売されている、正真正銘の江戸の地酒です。試飲一杯目は、こちらの吟醸辛口。

 

久理さん:吟醸辛口は、爽やかな酸味とキレのある後味で料理のジャンルを問わず楽しめるお酒です。

 

その言葉通り、とてつもなくスッキリした味わいです! 後味なんて、キレがあるどころかキレッキレ! 秋には焼きサンマを濃厚なワタとともにいただいて、これでキュッと……。嗚呼、想像しただけでジュルリです。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201146j:plain

試飲二杯目は、こちらの「丸眞正宗 純米吟醸」(720ml/1,389円)。

 

久理さん:純米吟醸は、おだやかな吟醸香とまろやかな味わいが特徴です。ぬる燗がオススメですね。

 

おちょこを口に近づけただけでも、素敵な香りがふわぁ~っと鼻孔をくすぐります。とってもフルーティーなんですよ! 芳醇、という言葉がしっくりくる飲み心地。でも後味はやっぱりキレてる。これは敢えて生牡蠣なんかに合わせたいですね……。冬にしっぽりといただきたい。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201147j:plain

試飲三杯目は、こちらのカップ酒「丸眞正宗 本格辛口 マルカップ」(180ml/227円)。

 

久理さん:ワンカップは、もっとも親しみやすい味かもしれませんね。とろっとした豊かな味わいです。常温でも燗でも美味しくいただけるお酒です。

 

うん、思ったより辛口! でも、カップ酒としてはあり得ないくらい高いクオリティだと思います。出汁の美味しいおでんなんかと合わせると美味しそう。しかし、個性はそれぞれ違えど、三種類のどれにも共通するのが「後味のキレ」。なんと、丸眞正宗の名前の由来が「まるまる本物」+「名刀正宗」というほど、キレにこだわって作られているのだとか。

試飲終わりでだいぶ良い気分になってきた、もちづき。久理さんに大正10年に撮られた小山酒造・創業者と蔵人たちの写真を見せてもらいながら、ほろ酔い頭で改めてインタビューを開始。

 

日本酒の意外な利用法とは?

f:id:Meshi2_IB:20160924201148j:plain

──23区内で唯一続いている酒蔵ということで、最近はいろいろなメディアからも注目されていらっしゃいますね。ぶっちゃけ、製造量も増えてきてるのではありませんか?

 

久理さん:いえいえ、昭和50年あたりから比べると現在は1/5ほどに減っています。実は年々国内の日本酒消費量は減っていますからね……。

 

──なんと……! 小山酒造の話というよりは、全国的な傾向ということでしょうか?

 

久理さん:そうですね。それこそ、昔は国内には日本酒しかなかったので、必然的にお酒=日本酒だったんですけどね。洋酒の輸入が始まったころから、シェア率はどんどん低くなっていますね。ただ、うちはそこまで販売しているエリアが広くないですし、地域密着型というか。販売しているお酒は、ほとんど北区のある東京の城北エリアだけで捌けてしまうので、なんとかやっていけてますよ。

 

──なるほど。やはり小山酒造は、地元のお客さんに愛されてきた酒蔵なのですね。えっと、これは個人的に聞きたいことなのですが……。日本酒って、飲んだり料理に使ったり以外に使用できたりするんですか? お肌にいいとはよく聞きますが……

 

久理さん:ダントツでオススメなのは日本酒風呂ですね! 保湿性の高さと美肌効果が期待できます。でも、使うお酒は安くても古くても全然いいですよ。

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201149j:plain

 

──久理さんもお肌キレイですもんね……。説得力がありますね。

 

久理さん:実は10月から、池袋のスパ「タイムズ スパ・レスタ」で毎月26日に丸眞正宗を使った日本酒バスがスタートするんです。

 

──そ、それはひじょうに興味あります! 意外なコラボレーションもしてるんですね。2020年の東京オリンピックの影響もあって、今後はますます小山酒造の需要は高まっていくのでは? 

 

久理さん:だとしても、小山酒造は特に変わるつもりはありません。地元の人たちから受けた恩を返していくためにも、昔からのお客さんを優先して製造していきます。これからも、この赤羽で愛される酒蔵でいたいですね。

 

──熱い地元愛に感涙です……。今日はありがとうございました!

 

f:id:Meshi2_IB:20160924201150j:plain

脈々と受け継がれる、地元での酒造りへの思いを教えてくださった小山酒造。これからも150年、200年、300年と、素晴らしい日本酒を作り続けていただきたいですね!

 

お店情報

【閉店】小山酒造

住所:東京都北区岩淵町26-10
電話:03-3902-3451

営業時間:8:3017:30
ウェブサイト:http://www.koyamashuzo.co.jp/

 

書いた人:もちづき千代子

もちづき千代子

人生が常に大殺界な人妻ライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像技術者・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を始める。人生のテーマは「酒と涙と男と女」。

過去記事も読む

【人情酒場】1,000円でダラダラし放題の居酒屋さんで、ママさんの話を聞いてたらホロリと泣けた【高円寺】

f:id:Meshi2_IB:20160826161458j:plain

高円寺に「場所代として1,000円払えば、酒・食べ物の持ち込みは自由。時間制限無しで居放題」そんな、とんでもない居酒屋さんがあるといいます。自他ともに認める酒場フェチの筆者は「こいつは、なかなかのディープスポット情報だぞ!」と、狂喜乱舞。

さっそく好奇心で高鳴る胸を抑えながら中央線に飛び乗り、高円寺に向かいました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161446j:plain

噂のそのお店「ふるさと」は、JR高円寺駅の南口を出て徒歩3分ほどの場所にありました。好立地にもかかわらず、まったく賑わってる気配がなかったのは、周囲が閑静な住宅街だからという理由だけではないでしょう。このレトロな佇まい、正直なところ営業しているのかどうかすらわからない! 

その店がまえから、ただただ「ただものじゃない感」が伝わってきました。

しかし、ここで入ってみなければ、このお店のことは何もわからない! 意を決してお店の扉を開いたところ……。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161447j:plain

く、暗っ!

なんと、扉は開いていたのに中には誰もいません!

というか、ここ本当に営業してるの!? ってレベルです。電気はついておらず、こうこうと着いた灯りの下は……ぶ、仏壇!? 目を凝らしてよーく見ると大きな冷蔵庫にこんな張り紙が。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161448j:plain

……なるほど。こういうシステムですか。しかし、このインターフォンを何度呼び出しても応答がありません。

コール音のみが響く暗闇のなか、「これ……マジで営業してないんじゃ……」と疑念を抱いた筆者は、お店を後にすることにしました。

しかし……。帰る前にせめて、とお店の周辺だけでも撮影しておこうと建物の裏にまわると、「ふるさと」とは違うもう一つの看板に出会ったのです。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161457j:plain

へ?「スナック萩」?? 

なんと「ふるさと」の真裏に、こんなお店が。人がいる気配がしたので恐る恐るドアを開けると、店内ではご年配のご婦人がひとり、テレビを見ながらのんびりと食事をされていました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161455j:plain

実はこの「スナック萩」は、「ふるさと」のもう一つの顔らしいのです。

すでに開店している店内で、悠々と夕飯を食しているこの方こそが「ふるさと」の女将さんだということ。この二つのお店は中でつながっていて、「場所代1,000円で、酒・食べ物の持ち込みは自由。時間制限無しで居放題!」はこちらの「スナック萩」でも有効らしいです。ちなみにカラオケも歌い放題だそう。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161449j:plain

「ふるさと」の謎めいた店内とは打って変わり、古き良き昔ながらの飲み屋さんといった雰囲気。ちなみに、看板ではスナックと書いてありますが、近日中に「カラオケ萩」に変更予定だとか。8名ほど座れるカウンターの他に、ゆったりとしたソファー席もあり居心地はかなりいいです。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161458j:plain

せっかくなので女将さんに突撃インタビュー開始! なぜ、こんな変わった形態のお店を作ったのでしょうか? てゆうか、このお店いつからあるのよ!? 私のぶしつけな質問に、女将さんは笑いながら答えてくれました。

 

女将:「ふるさと」が出来て、もう50年になるねぇ。もともとは普通の焼き鳥屋さんだったはずなんだけど、いつの間にかこんなお店になっちゃった。

 

なんと、半世紀前から存在していたという「ふるさと」。その知られざる歴史を、女将さんがとうとうと語ってくれました。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161451j:plain

若い時から料理をすることが大好きだった女将さん。いくつかのお店で修行を積んだあと、某大手企業の食堂で働き始めたそうです。しかし、自分のお店を持つことを諦められず、約50年前にこの「ふるさと」をオープンしました。


女将:毎日、食堂の仕事が終わったら、会社近くで不動産の営業やってた旦那さんに車で迎えに来てもらって、大急ぎで家に戻るの。そこから開店準備をして、朝まで営業。それで翌日もふつうに仕事に行って、夕方からまたお店。そんな生活を定年まで続けたわよ。

 

正直、常人ではありえないほどハードなスケジュール! しかし、自分の作った料理を、美味しい美味しいとみんなが平らげてくれることがうれしくて仕方なかったといいます。もっといっぱい食べて欲しい……その一心で女将さん、なんと「酒代以外は無料」というとんでもないシステムで料理を提供し始めたのです! 学生や劇団員ばかりだったお店の周辺で「ふるさと」は大評判になり、高円寺きってのお店になったそうです。

 

ちなみに「スナック萩」は、「ふるさと」の好評ぶりにあおりを受けて閉店してしまったお店を買い取って始めたのだとか。居酒屋さんとスナックで連日大繁盛だったお店を、今のようなシステムにしたのはちょうど10年ほど前だったといいます。

f:id:Meshi2_IB:20160826161452j:plain

女将:やっぱりねぇ、旦那さんが亡くなっちゃって、ちょっとガクンときちゃったのよね。あれだけ大好きだった料理もなかなか出来なくなっちゃって。本当は今でも、昔みたいにお客さんに料理を振る舞いたいんだけどね。

 

体力と気力の衰えを感じた女将さんは、「ふるさと」で料理やお酒を提供するのを止めました。けれど、お店を畳むという選択肢はまったくなかったそうです。


女将:だって、賑やかな方がいいから。毎晩来てくれる長年の常連さんもいるし、こうやって貴女みたいにフラっと来てくれる人もいるし。もちろん、昔みたいにいろんな料理を出せればそれが一番だけど、もう年齢的に難しくて……。せめて寄っていってくれるだけでもって気持ちで、お代は場所代として1,000円にしてるの。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161454j:plain

その後も、女将さんの話(10年ほど前にプロカメラマンに弟子入りしていた、ソシアルダンスから日舞まで踊れる等)を聞いていると、もうひとり店員らしい女性が現れました。その女性は、女将さんの娘さん。お店は最近、ほとんど彼女が切り盛りしているそうです。ちなみに「ふるさと」のインターフォンは彼女の居住地である二階につながっていて、本来ならそのタイミングでお店に降りてくるらしい……(この日は外出していたそう)。


「ふるさと」も一応は営業をしていますが、少し前から足腰が弱ってしまった女将さんの寝食の場になったため、基本的にお客さんは「カラオケ萩」の方へ誘導しているそうです。そうか、だから仏壇があったのか……。ただ、どうしても「ふるさと」の方で飲みたいという方には、事情を説明したうえで開放するとのこと。

 

女将:あの独特な空間が好きっていう、物好きな方も意外と多いんですよ(笑)。本当に、何も出せないのが申し訳ないし、私の居住空間だからちょっと恥ずかしいけど、みんなで楽しく使ってくれるならうれしいわ。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161456j:plain

最後に、50年以上の歴史を持つこのお店が今でも続いている秘訣を聞いてみました。

 

女将:料理が好きで好きで仕方なかったから、どんなに忙しくて大変でもやってこれたの。今はもうできなくなってしまったけど、それでもお店を開けていれば誰かが何かしらの形で立ち寄ってくれる。だから、まだまだこれからも、この場所でお客さんとふれあい続けていきたいと思うのよ。続いてる秘訣って言うなら、そういう気持ちかしらねぇ。

 

女将さんの言葉を思い返しながら、筆者はちょっと涙ぐみ……カラオケで山口百恵の名曲を歌わせてもらいました。どんなに変わったシステムであろうと、ディープスポットと言われようと、「ふるさと」は今も高円寺の街に存在しているのです。

「私を待ってる人がいる」

この店は、女将さんのそんな思いひとつで続いているかもしれません。

 

f:id:Meshi2_IB:20160826161453j:plain

どれだけ持ち込みをしても、どれだけの時間居たとしても、お代は1,000円ぽっきり。逆に、持ち込みをしなかった場合は、瓶ビールとカワキモノ込みで1,500円とのこと。最新の機材を搭載したカラオケも歌い放題なので、二次会で訪問すると非常にお得なのではないでしょうか。

みなさんもぜひ、この不思議で楽しい空間をご堪能ください。

 

お店情報

ふるさと(カラオケ萩)

住所:東京都杉並区高円寺南4-42-10
電話:非公開
営業時間:不定
定休日:なし

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:もちづき千代子

もちづき千代子

人生が常に大殺界な人妻ライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像技術者・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を始める。人生のテーマは「酒と涙と男と女」。

過去記事も読む

古地図片手に江戸散歩! 今川焼き&人形焼きのルーツを探る旅【歩き旅応援舎】

 

先日、テレビを見ていてふと引き込まれた「まち歩き」の番組がありました。

いかにもな名所旧跡をたずねるのではなく、現代にすっかり同化した何気ないスポットを紹介しながら、江戸の昔を感じさせるそのスタイル、語り口がなんとも魅力的。案内をされていたのは、「歩き旅応援舎」代表の岡本永義さんでした。

『メシ通』でもぜひご登場願いたいと思い、さっそく取材を申し込みましたよ。食にからめたまち歩きのガイドをお願いしてみました。

今日はよろしくお願いします!

 

岡本永義さん

案内する人:岡本永義さん

「歩き旅応援舎」代表。江戸のまち歩き歴は約20年。江戸時代の古地図を片手に東京を歩き続け、盛んな好奇心と探求心から今も新たな発見を求め続ける。セブンカルチャークラブやよみうりカルチャーなどで講師もつとめる。 著書に『平成東海道五十三次―歩いて見て楽しむ』『東海道五十三次四百年の歴史をあるく』(共に、けやき出版)がある。

 

意外に知らない日本橋の歴史

f:id:Meshi2_Writer:20160722122214j:plain

 

大学時代から日本史や史跡めぐりが好きでした。古地図を片手にまち歩きをするイベントを企画・開催しています。現代に残る、"江戸が香る"ポイントをお教えしますよ。今日はよろしくお願いします。(岡本さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722122225j:plain

本日の待ち合わせはお江戸・日本橋。さっそく古地図を取り出した岡本さん、現在位置を示してくれました。約150年ほど前のこの場所は……。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722122521j:plain

 

ここですね。きょうは日本橋から北上していきましょう。地図の青い部分は川なんです。以前このあたりは魚市場で、魚が舟で運ばれていました。この魚市場が移転していまの築地ができたんですよ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722122538j:plain

 

日本橋は五街道、つまり東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道の5つの起点となるポイントです。この先の左側に、道路元票(どうろげんぴょう)が埋め込まれているので、見てみましょうか。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722123211j:plain

 

 これですね。本当は道路となっている日本橋の中央部にあるんですが、車の通行があって危いので、見学用に道脇に同じデザインのものが飾られているんです。この文字は元首相の佐藤栄作氏によるものなんですよ。

  

f:id:Meshi2_Writer:20160722123234j:plain

 

現在の日本橋の真上には高速道路が走っていますが、このように走行中でも「今、日本橋の上を通過したんだ」と分かるようになっています。あの街灯の下にある横長の棒のようなものは昔、日本橋を走っていた路面電車のパンダグラフの名残。もちろん、本来は日本橋の上に建てられていました。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722123256j:plain

と、日本橋ひとつとっても歴史の逸話が止まらない岡本さん。このままずっと聞いていたい気持ちをおさえつつ、三越本店を左に見て、中央通りを室町方面に進みます。

 

庶民に時刻を知らせた鐘つき堂

f:id:Meshi2_Writer:20160722123508j:plain

しばらく歩くと室町3丁目の交差点に。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722123554j:plain

 

 古地図でいうとこの交差点になります。ここを過ぎてひとつ目の細い道を右折しますよ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722123602j:plain

それがちょうど、この地点。ああ、江戸の面影は遠く。すっかり現代的な風景ですね。

 

そうなんですけどね、道脇を見てみましょう。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124026j:plain

 

江戸時代、庶民に時刻を知らせた時の鐘、つまり鐘つき堂がここにあったんです。 鐘つき堂というのは江戸城を中心に円をえがきながら点在したんですが、まず最初に中心部から鐘をつくわけです。それが聞こえると次のポイントがつく。だんだん円状にひろがっていくわけですから、少しずつ時刻はズレていってたでしょうね(笑)。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160831120354j:plain

この道、「時の鐘通り」と名づけられているのですね! 日頃、こういう掲示をかなり見逃しているんだろうなあ……。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124305j:plain

さて、中央通りにもどってすぐ隣のブロック、室町4丁目の交差点へ。 このすぐ近くに……。

 

今川焼きの発祥地発見!?

f:id:Meshi2_Writer:20160722124324j:plain

「今川橋跡」と刻まれた石碑が。つまりはここ、昔は橋だったんですね。舗装された大道路になったいまでは想像も難しい。しかしここで古地図に戻ってみると、

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124341j:plain

この川をあらわす青い線、岡本さんの指先がまさに現在地。我々は橋のたもとにいるんですな!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160831121044j:plain

 

この川は外堀から神田川、隅田川に通じる運河で、竜閑川(りゅうかんがわ)と呼ばれていました。井上竜閑という人が近くに住んでいたことからついたそうです。江戸時代は流通経路として使われていたんですよ。昭和25年に竜閑川が埋め立てられて、そのとき一緒になくなった橋なんです。

 

さっきから何度「へええぇ……」と言っているか自分でもわかりません。仕事ではよく通っているこの通りに、そんな歴史があったとは……。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124353j:plain

ここが65年前ぐらいまでは川で、橋がかけられていたんだなあ……。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124517j:plain

 

当時の様子を描いた絵を持ってきました。見てみてください。 

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722124541j:plain

橋がかけられて、大勢の人が渡っているところが、今歩いてきた中央通りにあたるわけですね。 

 

うわー、なんかしみじみします! 人の営みは今も昔も変わらない……。なんだかいつもの道路が違って見えてきた。。 

 

ここでいきなりの食ネタなのですが、この橋の名前が今川橋ですね。何か思い当たる食べ物はありませんか?

 

今川がつくものといえば……今川焼ですか?

f:id:Meshi2_IB:20160921194724j:plain

 

そうです! 今川焼の名前の由来は諸説あるのですが、この今川橋付近にあったお店が作って売り出したため、という説もあるんです。ちなみに、橋の名前は当時このあたりに住んでいた今川善右衛門という人の名をとってつけられたようです。

 

ほおお……、その善右衛門さんは今川焼を食べたんでしょうかねえ。

 

牢屋敷の街、小伝馬町

f:id:Meshi2_Writer:20160722131814j:plain

 

 さあ、次の目的地に向かいましょうか。目の前の細い道も昔は竜閑川です。川の上を歩いていきましょう!

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722131837j:plain

すたすたと昔の川の上を歩いていく岡本さん。歴史的な暗渠……と言っていいのかな?  なんだか水音が聞こえてくるかのよう。

 

さて、我々は首都高が上を走る昭和通り方面、岩本町や小伝馬町方面に歩いておりますよ。

 

しばし歩いて岡本さんが連れてきてくれたのは、中央区の複合施設、十思(じっし)スクエア。昭和初期に建てられた小学校を改修した建物で、ケアサポートセンターや保育園、公衆浴場などの施設があるところです。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160831125632j:plain

 

江戸時代の小伝馬町は、牢屋敷のあるところとして有名でした。今でいえば留置所ですね。入り口ホールにはその模型もあるんですが、この窓からは地中に残る牢屋敷の設備が見ることができるんです。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160831132130j:plain

四角いのが当時の井戸で、そこに繋がっているのが現在の水道管のようなもの。いわゆる“くさいメシ”をこの井戸の水で炊いていたのでしょうか……。屋敷内には取り調べをする部署もあり、「拷問蔵」なんてところも。まさに時代劇の世界ですな。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132019j:plain

これは発掘された当時の石垣。当時からこういうものでシャバと“あちら側”が分けられていたのですねえ。ちなみに牢屋敷の石塀は2.4mほどあったとか。その頃の平均身長は今よりかなり低いでしょうし、威圧感あったのだろうなあ。

 

江戸時代の宝くじって……?

f:id:Meshi2_Writer:20160722132218j:plain

さて一行は隣の大伝馬町を通り越し、堀留町までやってきました。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132231j:plain

 

古地図でいうとこの赤いポイントが…… 。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132342j:plain

 

ここ、椙森(すぎのもり)神社になります。江戸時代には「富くじ」(今でいう宝くじ)がよく行われた場所でもあるんですよ。神社仏閣は移設されることもありますが、長年位置が変わらないことが多いので、古地図でまち歩きをするときはよい手掛かりになるんです。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132406j:plain

案内の前にお参りを済ませたので帽子をとっている岡本さん。こういった礼儀というかマナーも、まち歩きガイドをする上で大事なのでしょうね。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132459j:plain

岡本さんが指し示していたのは、富塚。富くじの記念碑ですね。大正時代に建立されたものの関東大震災で一度倒壊。その後に有志を募って昭和28年に再建されたそうです。

 

f:id:hotpepper-gourmet:20160923193103j:plain

こんなシャレのきいた張り紙が。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132529j:plain

近くには当時の富くじの様子を描いたブロックがありましたよ。富くじ、落語でもおなじみですね。

図のように札をひいて、当たり番号が出たら賞金がもらえる……という現在とほぼ同じスタイル。いろんな泣き笑いがあったんだろうなあ。

 

人形町といえばあのお菓子!

さて、次にめざすは人形町です! ここから歩いて5分ぐらい。

f:id:Meshi2_Writer:20160722132801j:plain

現在の人形町の交差点。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132842j:plain

江戸時代の人形町の様子を描いたもの。当時は芝居小屋があり、大変なにぎわいをみせた時代があったのだとか。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722132902j:plain

 

人形というのは、今も残る文楽人形のことなんです。当時の芝居といえば歌舞伎と文楽。その文楽人形をつくるお店が多かったことから、人形町の名前がつけられました。先のにぎわいを描いたあたりはこのへんと思われます。もう当時の雰囲気はさすがにありませんね。

 

f:id:hotpepper-gourmet:20161006193007j:plain

そして人形町といえば人形焼き! このまちが発祥といわれ、通りを歩けば甘い匂いに誘われます。 

訪れたのは、創業百年以上を数える「人形焼本舗 板倉屋」。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160722133010j:plain

カステラ生地の中にはあんこがみっちりと。文楽人形や七福神をモチーフにしたものが伝統的なスタイルですが、現在ではお店によってデザインもいろいろ。こちらは七福神をかたどった、昔ながらのものでした(1袋 500円)。焼きたてをいただきましたよ。

 

まち歩きをしたあとは、こういうおやつがうれしいですね、岡本さん!

f:id:Meshi2_Writer:20160831140418j:plain

今日はあいにくと小雨が降ったりやんだりでしたが、これからの秋はまち歩きに良いシーズンです。江戸を感じられるいろいろなコースを企画していますので、またぜひ参加してみてください。いまの東京に続く様々な発見が待っていますよ。

 

お店情報

板倉屋

住所:東京都中央区日本橋人形町2-4-2
電話番号:03-3667-4818
営業時間:9:00~売り切れ次第終了
定休日:不定休
ウェブサイト:http://www.itakuraya.com/

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

取材協力:歩き旅応援舎

 

書いた人:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。

過去記事も読む

「山本のハンバーグ」の山本社長が語る激烈ハンバーグ愛

f:id:Meshi2_Writer:20160901035254j:plain

「俺の」から「山本のハンバーグ」へ

「俺のハンバーグ山本」という、一度聞いたら耳に残るネーミングのハンバーグ専門店があります。ハンバーグに特化した業態で一世を風靡したお店ですが、今年の春に、代表を務めておられた山本昇平氏が、新たな名前のお店を展開されはじめたとのこと。

現在は「山本のハンバーグ」というネーミングでお店を展開され、すでに都区内に6店舗を構えていらっしゃるといいます。新展開されたお店は、一体どんな感じなんでしょう。

今回ありがたいことに、山本さんにお時間をいただくことができました。さっそく東京渋谷恵比寿は「山本のハンバーグ 恵比寿本店」へ。

f:id:Meshi2_Writer:20160901035929j:plain

「待ってたぞ。ハンバーグ食べたいんだって?」

「そうなんす、アニキ」

そういうやりとりを妄想しちゃいそうな、ナイスガイ&タフガイな雰囲気の山本社長。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901040120j:plain

「まずはお店の中へどうぞ」

 

山本社長、実際にお会いするまでは、体育会系のイメージだったんですが、穏やかな話し方をされる物腰が柔らかい方です。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901040506j:plain

恵比寿本店は、なんだかとても暖かみがあって、スタイリッシュなお店。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901040518j:plain

女性の方が一人で来店しても入りやすそうな、いい雰囲気の内装ですよね。

 

サービスや商品力で勝負したかった

──まず「俺のハンバーグ山本」から「山本のハンバーグ」にお店の名前を変えられたのは、どうしてなんでしょう?

 

「俺のハンバーグ山本」というお店の名前自体は13年前に出店した時に、私が考えた店名です。オープンから4年ほどしてから、当時私が所属していたムジャキフーズさんが商標を取得されました。
私自身は、料理人として修行を積んでお店を出したわけではないんですね。大学を出た後に、独立支援を主力事業にしていたムジャキフーズさんに新卒で入って会社員として働いていました。そこは、社員各々が企画を出してプレゼンテーションをやって「いけそうなプランならお店を出してあげるよ」という仕組みがある会社だったんです。
幸いなことに出資を受けることができて、出店させていただくことになった際に「俺のハンバーグ山本」という店名をつけたというわけです。その後、契約の関係上、お店の名前をそのまま使わせてもらうかどうか決めないといけなくなったんですね。結果として今年の6月に「俺のハンバーグ山本」という店名を「山本のハンバーグ」へ変更させていただくことにしました。その際に、現在の渋谷の店舗のみ、ムジャキフーズさんとの関係上、移転しました。移転前に渋谷にあった元の店舗では、ムジャキフーズさんが「俺のハンバーグシュシュ渡辺」というお店を営業されています。

 

f:id:Meshi2_IB:20160904135848j:plain

 

──お店の名前が変わることに、葛藤はなかったのでしょうか。

 

私たちは、お店のネームバリューでお客様にリピートしてもらうのではなくて、サービスや商品力を高めてご愛顧をいただける工夫を重ねてきたつもりでした。そういった、私たちのお店作りの「思い」が、お客様に正しく伝わるようにしたかったんですね。ただ一方では(我々とは関係のない)「俺の」という名前がつくお店が増えてきた。そういったお店のほとんどが、私たちのお店作りの「思い」と違う部分が多かったんです。それで、そういったお店と混同されるのを避けるために「俺の」という部分を外して「山本のハンバーグ」に店名変更しました。ですから、そこまで葛藤はなかったですね。

 

──そもそも経営者としてハンバーグ専門店を立ち上げられた際に、どのような理由でハンバーグを選ばれたのかお聞きしたいのですが。

 

開業当時、飲食のプロとして経験が浅かったので、お客様に満足していただくお店作りをするためには、単品集中で提供するお店じゃないと難しいのではないかと考えていたんですね。それで、ハンバーグを提供するお店にしました。ハンバーグってわくわくするイメージがあるじゃないですか。子どもの頃、夕食に出されると楽しい気分になったメニューの一つだと思うんですよ。また、幅広い世代のお客様に来店してほしかったので、子どもから大人まで好きなメニューを考えた結果、ハンバーグを選びました。
ハンバーグって家庭的な匂いがする料理というイメージがありますけど、そこは、プロの料理店ならではのクオリティで料理を提供する、と。その上で、お店では家庭で食事をしている時のように、くつろいで楽しんでいただけるサービスを常に意識しています。

 

──なるほど。では経営される上で、何が一番大変だと感じていますか?

 

これはもう「人」ですね。スタッフをどのように教育していくか。社内だけで発揮できるスキルを教育していくのは合理的なんですけど、いわれたことしかやろうとしないタイプの社員が育ってしまう恐れがあります。スタッフ自身が、将来的にお店を辞めたとしてもハッピーでいられる力を養う教育を、常に意識しています。同時に、そういったスタッフとの出会いを大切にし、いかに長く続けていけるお店を作るかが、もっとも重要なテーマだと思っています。

 

少年時代に痛感した「やらない後悔」

──飲食業界は、料理人として修行を積んで経営者になる方が多いと思います。山本さんは、経営側からスタートされたわけですが、そもそも経営者に向いている方ってどんなタイプなのか、教えていただければ……。

 

私自身がそういったことを語れるとは思えないんですけど、やりたいことを、自分で能動的に動ける人かなと思います。そう思ってしまうのは、私の子どもの頃の経験が強く影響しているのかもしれません。子どもの頃は、テニスとボーイスカウトに熱中する子どもだったんですね。ある時、世界中のボーイスカウトが集まるジャンボリーという大会があったんです。私は、行ってみたかったんですけど、勇気がなくて見送っちゃった。ところが、参加したボーイスカウトの仲間が、とても楽しかったと熱っぽく語るんですね。「やるかやらないか選択を迫られた時に、やらなかったら、これだけ後悔するんだ」ということが、子ども心にすごく響きました。それから、迷ったらやるという考え方を培って今に至っています。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901041911j:plain

 

──お店の運営にそれだけ心を配ってらっしゃるのなら、お料理もたくさんの工夫をされているのだと察します。付加価値が高い商品を提供するにはどのような工夫を?

 

ハンバーグはお肉の劣化が味に出やすい料理なので、お肉を仕入れたらすぐにお出しするようにしています。作り置きをしないということですね。あくまでお店で一個一個、新鮮な素材を使って、手作りでハンバーグを作ることが大事。お店で朝仕込んだものは昼に使って、午後から仕込んだものは夜に全て提供してという感じで、一番おいしい状態のものを提供させていただくように心がけています。同時に安全面にも配慮しています。以前は、オーストラリア産のお肉を使っていたんですが、全て産地が分かる国産の牛肉、豚肉に切り替えました。もちろんオーストラリア産のお肉が悪いわけじゃないんですが、国産のお肉なら生産者までトレースすることができる。価格の問題もあって、ずいぶん悩みました。でも万が一、BSE(牛海綿状脳症:狂牛病)などの問題が起きた時に、私たちが提供しているお肉の安全性を確認できますからね。産地を調べることで、お肉が安全かどうかを確認できる体制があれば、お客様に安全なハンバーグを提供することができますから。

 

多店舗展開より一世紀続くお店

──「山本のハンバーグ」ならではの味の工夫もいろいろとありそうですね。

 

トッピングとソースで味を変えるわけではなくて、メニューが全て調理工程が違うので、メニューごとに違った美味しさを楽しんでいただけることがウチの特徴でしょうか。こういったことは、お店で手作りしているからできると自負しています。また、各店舗のシーズンメニューは、各店舗の料理長に、ある程度の裁量を持たせて開発させています。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901040717j:plain

 

──それにしても、メニューといい、お店の内装といい、とてもスタイリッシュですよね。それぞれのお店が個性的なんだけど統一感があるというか。山本さんのこの総合プロデュース力っていかにして培われたものなんでしょうか。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160901095453j:plain

▲パンフレット風に見えるが実はメニュー。写真がどれも美味しそう!

 

いえいえ、そこまで自慢できるほどではありません(笑)。ただ、学生時代にとてもセンスのいい友人がいて、流行のファッション雑誌とかは一切参考にしないで、自分の感性でかっこいいと思うものを選ぶヤツだったんですね。彼には結構インスパイアされましたね。周りから見てどう思われかではなくて、自分がいいと思うものを自信を持っていいと思うと主張する感性を常に大事にしています。

 

──ズバリ、座右の銘は?

 

出会いを大切にすること。そして継続していくこと。ビジネスは継続が大事ですから。多店舗を展開するお店を作るよりも、100年続くお店を続けるほうが価値があると思っています。いかに続けていけるお店を作るかが、もっとも関心があるテーマですね。

 

恵比寿店限定の極上ハンバーグ

小一時間ほどお話をうかがって、そろそろおなかが空いてきたので、お料理を出してもらうことにしました。メニューも豊富で迷ったんですが、恵比寿本店だけのメニュー「元祖山本のハンバーグ」をオーダー。

 

山本さんのお話どおり、ハンバーグは全てシェフが一つ一つ生地を手でこねて、焼き上げておられました。

f:id:Meshi2_Writer:20160903023751j:plain

ハンバーグって、火加減が本当に難しい料理なんですよね。ただ単に、強火でガンガン焼くと肉汁が逃げて、パサパサになっちゃう。絶妙な火加減で肉汁を逃さず、生地の芯まで火を入れていくテクニックは脱帽です。

 

さてさて、メインディッシュのハンバーグが登場!

f:id:Meshi2_Writer:20160901042507j:plain

▲ 「元祖 山本のハンバーグ」(1,750円)/恵比寿本店限定

 

写真は割愛させていただきましたが、このハンバーグに、ごはんとお味噌汁がついてきます。

「ハンバーグの上にかかってるのは、マヨネーズと卵を泡立てたものなんですね。ハンバーグの上に乗せて火を入れてあります」とスタッフさん。さらに、うれしい不意打ちが。ハンバーグを割ってみると、中には生ハムで巻いたチーズ入りのコーンクリームがトロっとお出ましになり、ダブルの愉悦が。 

フォークを口に運ぶたびに、複数のうまみが重なって、すごくリッチな風味が広がります。

 

さらにガッツリ系にいきたいならこんなメニューも。

f:id:Meshi2_Writer:20160901110214j:plain

▲「ハンバーググラタン」(1,500円)

 

ベシャメルソースは、クリームをしっかりきかせて作ってあって粉っぽさがまったく感じられない舌触り。加えてデミグラスソースも八丁味噌と出汁が混ざっており、コクのある風味に。

ふたつのソースを合わせると、どちらが勝るとも劣らない立体的な味が立ち上がる。それでいて、中に入ってるハンバーグもソースに負けることなく、濃厚な風味を主張しています。これは、名のあるホテル並みの美味しさですな。

 

そうそう、お味噌汁とご飯がついてくると紹介させていただきましたが、お邪魔したのはまだ残暑厳しい夏の終わりのためか、冷や汁もご用意されていました(別料金)。

f:id:Meshi2_Writer:20160901044425j:plain

スタンダードメニューだけでなく、季節ならではのメニューも各店舗でご用意されるとのこと。各店舗の独自メニューを食べ歩くのも楽しそうです。

これからだんだん涼しくなるにつれて、あたたかいものが恋しくなりますよね。お近くまで出かけられた際には、ぜひ一度試されてみてください。

山本社長、ありがとうございました!

 

お店情報

山本のハンバーグ 恵比寿本店 恵比寿本店は閉店

住所:東京渋谷恵比寿4-23-12 茗荷原ビル
電話番号:03-6455-7170
営業時間:11:00~15:00、17:00~23:00 (LO 22:30)
定休日:無休
ウェブサイト:http://www.yamahan.tokyo/

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:松沢直樹

松沢直樹

1968 年福岡県北九州市生まれ。SE、航空会社職員などを経て、1994年よりフリーランスの編集者・ライターとして活動。主に扱うジャンルは、食全般、医療、 農業、安全保障、社会保障など。マグロ解体ショーの実演、割烹の臨時板前などとして、メシを作ることも。近著に「うちの職場は隠れブラックかも(三五 館)」。

過去記事も読む

再生回数1億超! 世界を空腹にさせる料理動画「Tasty Japan」に突撃取材!

f:id:Meshi2_Writer:20160916171724j:plain

世界中で話題の料理動画「Tasty」とは

ぼんやりとFacebookを眺めていたら、昨年頃から早回しのレシピ動画を見かけるように。料理がものの1分でサクサク作られ、ついつい見入ってしまう中毒性の高い動画ばかり。

しかもやたらとシェアされている。撮り方も丁寧で、よく見てみると再生数も桁違い……! 

見ているだけで腹の虫が鳴ってしまう動画の数々をまずはとくと見てほしい!

 


▲「Tasty Pizza Puff Pastry Twists」ヒネリを効かせたピザのレシピ動画が一番好評。なんと1億5千万回再生!

 


▲フランスの動画。パンとエメンタールチーズを焼いたもの。「Miam Pain à l'emmental et au comté 」

 


▲ドイツのホットドッグの動画。ポテトとウィンナーは国民食。「demis Bolinhos de hot dog」

 


▲ブラジル発、サラダとベーコンのフレッシュな動画。「einfach Bacon-Tomaten-Avocado-Salat」

 


▲こちらはイギリスの動画。鳥の胸肉を使ったハッセルバック・チキン。「proper Hasselback Chicken」

 

テーマは「自分でも作れそうな料理」

この動画の配信元を調べてみると、海外のウェブメディア『BuzzFeed(バズフィード)』が運営する「Tasty(テイスティ)」というサイトであることが判明。さらに2015年には日本支社である『BuzzFeed Japan』が設立され、2016年8月からは「Tasty」の日本版「Tasty Japan」が正式に配信され始めていた。

さっそく『メシ通』は『BuzzFeed JAPAN』を直撃! 話題の秘密と、動画が作り出すユニークな食文化についての考えをうかがった。

f:id:Meshi2_Writer:20160916171724j:plain
▲今回取材に応じてくれたのは、BuzzFeed Japan代表取締役社長の上野正博氏。

 

──上野社長、本日はよろしくお願いします。「Tasty Japan」を見てまず不思議に思ったのが、サイト自体が「Tasty.com」のような母体のサイトがないですよね。

『BuzzFeed』は、1日に約600本の動画や記事を作っています。そのうち、世界中の『BuzzFeed』上で共通して読まれているものはそこまで多くなく、7割がFacebook、Twitter、Snapchatなど、様々なプラットフォームで閲覧されているんです。つまり、私たちは記事やコンテンツを作る企業であり、読者の方が読みたいプラットフォームにコンテンツを配信するという考え方ですね。「Tasty」も同様の方針に基づいて運営しています。

 

──なるほど、だから個人的にはFacebookで見かける機会が多いわけですね。そもそも「Tasty」自体は、当初どういった経緯で始まったんですか?

「Tasty」はFacebookの動画配信プラットフォーム「Facebook Video」の発表がきっかけで、その際に米国『BuzzFeed』にもコンテンツ配信のリクエストがありました。『BuzzFeed』はテキストや画像ベースのコンテンツが主流なのに対し、Facebookの動画は正方形のフォーマットが条件。そこで社内でどんなコンテンツを作るか議論する中で「料理動画を作ったら?」というアイデアが出てやってみることにしたんです。提供開始後は、動画のカメラのアングルや動画の早回しのスピード、尺などを繰り返し何百回と改良し、現在の「Tasty」で配信している形になりました。

 

──あの絶妙なカメラアングルや尺は最初から決めていたわけではなく、集計されたビッグデータによって、ベストな形になっているんですね。

「Tasty」は基本的にスマートフォンで見ることを想定しています。また、提供するレシピ自体は多くの人たちに「これだったら私でも作れるかも」と思ってもらえるようなものが中心です。見て楽しく、そして作ってみようかな、と思えるような料理動画を心がけています。

 

レシピをシェアしあう時代

──「Tasty Japan」のレシピは会議で決まるものですか?

そうですね。日本と米国ロサンゼルスに「Tasty Japan」のチームがあります。彼らは共に週一回はレシピを検討し、日米間でコラボレーションしながら日々動画を作っています。

 

──世界的な規模ですね。各国のレシピが公開されていて。

「Tasty Japan」で提供する動画の多くは、日本で撮影しています。世界的にも「Japanese Food」は人気が高く、本国の「Tasty」などでも動画を配信しています。また、他の国の料理コンテンツも、日本で食材が手に入るものであれば「Tasty Japan」で提供することもあります。「Tasty Japan」の動画に対する反応は非常にうれしいですね。わずか1週間で700万回ほど再生されまた「寿司ドーナッツ」は、ドーナツの型にご飯を入れてひっくり返したオリジナルのレシピで、 これは日本で撮影しました。コメントもバラエティに富んでいて、外国人の方から「ウニって食べられる事を知らなかった」という反応があったり。このレシピは特に海外の「Tasty」でも人気のコンテンツですね。

 


▲ワールドワイドな発想ならでは。「Tasty Japan 【おもてなしに】4種の寿司ドーナッツ」

 

──食文化で交流が生まれていますね。

日本で見てくださる方々もコメントしますが、 海外の方は友達をタグ付けして「今週末これを作ってみようよ」というコメントをする場合も多く見られます。コンテンツのシェアも、国によって様々ですよね。

 

──レシピをシェアしあうのが今の時代ということでしょうか。ところで「Tasty Japan」の好評な動画は?

一つ例を挙げると、「海苔とチーズの卵焼き」です。卵焼きにチーズと海苔を入れるのですが、チーズを入れると断然巻きやすくなる。普段あまり料理をしない方でも、「Tasty」には「へぇ!」と参考になる点があると思います。

 


▲四角いフライパンは日本ならではだとか。「今夜のおつまみはこれ。海苔とチーズの卵焼き」

 

──動画を作成して壁にぶち当たることはありましたか?

一緒に作っていく中で色々な発見はありますよね。今年、「Tasty」のアメリカチームのメンバーが来日したのですが、そのうちの一人は日本の食事を初体験で、焼き鳥やラーメン、寿司は知っているけど、モツ鍋は知らなかった。また、彼らは「日本の家庭では、だいたい毎食、和食を作るものだ」と思いこんでいるところがあった。そこで、『Buzzfeed Japan』のスタッフが集まって”実家の料理”を実演してみたところ、日本の料理のバリエーションの幅広さに非常に驚いていましたよ。その後、「Tasty Japan」チームのコラボレーションにより「4種の寿司ドーナッツ」が生まれました。

 

これが「Tasty Japan」の制作風景だ

──企画会議や制作現場にはやはりフードコーディネーターの方もいらっしゃるんですか?

「Tasty Japan」専属の社員がいます。アメリカと日本にチームがあり、料理を作る人、映像を撮る人、みんな専門スタッフですよ。いずれの動画も、時間をかけながら、レシピを考案し、そして撮影に挑んでいます。

 


▲こちらがアメリカのスタジオでの「Tasty Japan」制作風景

 

──想定する視聴者はいますか?

特には想定していませんが、現状ではネット活用している世代のうち、20代から30代が圧倒的に多いんです。視聴しているプラットフォームでは、インスタ映えもするので、最近Instagramからの閲覧の伸びが大きくて、フォロワーが33万人になっています。Facebookが 88万人で、その他、TwitterとPintarest、それと『Buzzfeed Japan』のトップページからも 動画を配信しています。コンテンツはだいたい1日1本で、コメントも何千件と付くものもありますね。

 

f:id:Meshi2_Writer:20160916184140j:plain

 

──料理はだれにでも共通することですしね。では最後に、ネットの世界では最近「Tasty」と同じような料理動画が急激に増えていますが「『Tasty』はここが違う」という部分を教えていただけますか?

「自分でも作れるもの」でしょうか(笑)。実際に、私自身も何度か試しに作ってみましたよ。それと、常にデータを重視し、改良を重ねている点。視聴者の方に最後まで見て、そしてシェアしてもらえるように考えています。シェアしてもらってコメントを書いてもらうことで、エンゲージメントが生まれる。そこが「Tasty」や『BuzzFeed』の特徴だと思います。『BuzzFeed』の理念は「人々の実生活にポジティブなインパクトを与えるため」に記事やコンテンツを作ること。料理動画を通じて、少しでもコミュニケーションが密になったらと思っています。

 

──ありがとうございました!

 

※数字に関するデータは8月31日時点のものです。

 

書いた人:高岡謙太郎

高岡謙太郎

オンラインや雑誌で音楽・カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。

過去記事も読む

早稲田大学学食研究会がイチオシする「最高にウマい学食」はどこだ【学食巡礼】

f:id:Meshi2_IB:20160824163456j:plain

『メシ通』の連載【学食巡礼】では毎月のように大学の学食をうろついていますが、いわゆる「学食界」には巡礼者としての偉大な先輩がおります。

それが早稲田大学学食研究会

 

f:id:Meshi2_IB:20160824163454j:plain

早稲田大学学食研究会は、学食を研究する大学サークルです。独自の学食ランキングを毎年発表しており、その調査結果は雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられて、学食に関するひとつの基準となっています。

学食巡礼者のはしくれとして、先輩のお話をうかがっておきたい。そのように思いまして、早稲田大学の学食のひとつである大隈ガーデンハウスにおいてインタビューをいたしました。

 

チャラくないサークルです

f:id:Meshi2_IB:20160824163457j:plain

▲右が幹事長の堀田さん、左がサークル員の飯田さん

 

堀田:堀田悠生、教育学部3年。早稲田大学学食研究会で18代目の幹事長をやっています。1999年設立のサークルです。

飯田:昭和女子大学3年の飯田伽穂です。幹部ではないんですけど、堀田と同期でやってます。

 

――インカレサークルなんですね。インカレというとチャラいイメージもありますが。

堀田:幹事長がこんななんで、想像つくと思います。

 

――なるほど。いや、想像つかないです。

堀田:ほんと全然チャラいことなくて、飲み会のコールとかもないし。

 

――学食でチャラいコールしてたら、それはそれで楽しそう。

 

ちなみにいまのサークルメンバーは26校の大学から集まっているとのこと。

早稲田大学、明治大学、立教大学、法政大学、学習院大学、日本大学、文化学園大学、東京家政大学、帝京平成大学、東京工業大学、日本赤十字看護大学、成城大学、帝京大学、文教大学、昭和大学、女子栄養大学、聖心女子大学、共立女子大学、昭和女子大学、東洋英和女学院、清泉女子大学、実践女子大学、東京女子大学、白百合女子大学、日本女子大学、学習院女子大学

 

――サークルの具体的な活動はどのようなものですか。

堀田:週に2〜3回ほど学食にみんなで一緒に行って、自分の好きなものを食べて、最後に調査書に感想を書いて終了、というものです。あまり遠くへ行くのは交通費の面で厳しいですが、関東圏内ならいいでしょうってことで。千葉埼玉神奈川なら行ってますね。2月と9月、半年ごとに学食ランキングというものを作っていて、それがよくメディアのみなさんに扱っていただくような資料となっています。

f:id:Meshi2_IB:20160824163453j:plain

――そのランキングは某公共放送や有名なビジネスニュースでも参考にされているそうですね。なんでも殿堂入りの学食があるとか。

堀田:東洋大学が殿堂入りになっています。僕が1年のときから3年間ずっとアンケートで1位をとっていまして。殿堂入りにしたことで、いつもと違う学食がランキング10位の中に入ってくることができますし。これまで殿堂入りは東洋大学だけですね。

 

――殿堂入りしたらその学食にはもう行かなくなるんですか。

堀田:新入生には伝えていきたいので、行っています。週2回なので、半年に1回は同じ学食に行く感じですね。

  

――そもそも初代の人はなにを目的にサークルを作ったんですかね。

堀田:もともとは学習院大学と早稲田大学の学生で作った研究会なんですよ。そのときに公認サークルとして登録できたのが早稲田大学のほうだったので早稲田大学学食研究会という名前になっているんですが。当時の資料も残ってないので詳しいことや正確な経緯はちょっと……。ランキングで使う調査書も、いつからあるのかわからないんですけど「伝統の調査書」となっていまして。基本的には昔からの伝統を引き継いでいて。メニュー、値段、主観的なコメントを書いて、学食の雰囲気とか諸条件を書いて、最後に5段階評価。〈味〉〈量〉〈安さ〉〈雰囲気〉〈健康度〉ですね。

 

――〈健康度〉って項目が気になる(笑)。

堀田:まあ、完全に主観なんですけども。

f:id:Meshi2_IB:20160824163452j:plain

――飯田さんは女子大の人ですが、なぜこのサークルに。

飯田:もともとは全然知らなくて。高校の時の友人がこのサークルに入っていたんですけど、一緒に行く予定だった友達が来れなくなったので代わりに来ないかって誘われて、暇だから行ってみたらけっこう楽しめて。ノリで参加しました。

 

――合コンのメンツ足りないから来ないか、みたいな。

堀田:ひとりで行くのが心細いから友達連れてくるみたいなのはけっこうありますね。とくに女の子はそういうのが多いですね。

 

いつ活動しているのかしら

堀田:平日に行くことが多いので、授業が終わった夕方になりますね。

 

――じゃあランチメニューなんかを食べることは少ないんですか。

堀田:土日だとランチに行くことが多いです。たとえば南大沢にある首都大学東京の学食はランチなら安くていいので。夜になると3,000円くらいするんです。フレンチのお店で。

 

――おおー。学食なのに?

堀田:外部の企業が経営しているお店で。「ルヴェ ソン ヴェール」って。東京大学の駒場キャンパスにもあるんですけど。南大沢のほうに行くと、1,000円でサラダバーとパン食べ放題がついてるんですよ。

f:id:Meshi2_IB:20160824163432j:plain

▲早稲田大学の学食、大隈ガーデンハウス

 

取材時のランキングについて話を聞いた

――いま1等賞なのは國學院大学でしたっけ。

飯田:私は國學院の学食には行ったことないんです。いつも日程合わなくって。行ってみたいのに。

堀田:学食の雰囲気は昔ながらのところではあるんですけど、ここの特色は香川県から讃岐うどんを直輸入していることです。なんか、学長さんが讃岐うどんを好きみたいで。そういうこだわりが出ているみたいですね。

 

――「輸入」って(笑)。こだわりが強いのは私立ならではですね。

堀田:そうですね。うどんのほかにも、かつお節とかサバ節とか醤油とか、全部香川県のほうから仕入れてるんですよ。それで、200円くらいからうどんを食べられて、天ぷらもその場で揚げてくれて。ちなみに鶏天ってのがおすすめで、コスパがいちばんよくて、なおかつおいしいんですよ。

 

――大学生はコスパで測る(笑)。

堀田:そうなんですよね。ほかの学食にはお高いところもあるので。

 

――この値段で本場の讃岐うどんを、トッピングも入れて……

堀田500円でおさまるので。鶏天は100円なんですけど、これくらいの大きさのが2個入ってるんですよ。

f:id:Meshi2_IB:20160824163433j:plain

▲大隈ガーデンハウスのメニューサンプルだがグリルコーナーが気になる

 

エスニックバイキングの学食はどこだ

堀田:ランクインしているほかの学食を見てもわかるんですけど「ここはこれだ」という特色のあるメニューがあるところが人気を得やすくて。たとえば2位の立教大学だと、雰囲気がいいんですよ。第一食堂はよく「ハリーポッターの食堂みたい」と言われてて。そういう洋風な雰囲気と、あと「長嶋茂雄さんが愛していたといわれるカツ丼」があるという話で。そんな伝統も織り交ざっていて。そういう特徴やこだわりがあるところが人気を得やすいですね。サークルの中で。特徴のないところにはみんなもう投票しないんですよ。

 

――生協の運営する学食は多くの大学にありますね。その場合はどこの大学でもメニューはそんなに大きく変わらないですしね。

f:id:Meshi2_IB:20160824163450j:plain

堀田3位が神田外語大学なんです。ここ2〜3年でオープンした学食なんですけど、土日のみ一般開放していて、土曜の夜に行くのがおすすめです。2,000円でバイキングなんですよ、学食なのに。アジアン食堂という名前で、アジア各国の食事を揃えてて、グリーンカレーとかトムヤムクンとか普通にあって。基本的なところは週替りのメニューなんですけど、デザートにあまりアジアっぽさがなくて、そこがちょっと残念なんですよね。2,000円食べ放題で、雰囲気も重視しているのがよくて。遠くてなかなか行きづらいんですけど。

 

――最寄り駅は海浜幕張ですか。神田じゃないんですね。

堀田:キャンパスもここにしかないんですよ。学食の真ん中にステージがあって、たぶん神田外語大の学生が歌とかを披露してて。学生との結びつきが強い学食なのかもしれませんね。学食で学生がパフォーマンスをやっているのを見たのはここが唯一ですね。家族連れのお客さんとかも多くて。なんだっけ。来場数が2年間で……。

飯田:「20,000人を越えたそうです」って。サークルの冊子のここに書いてある。

堀田:しかも土日限定ですよ。そのうちの30人くらいはウチがまかなってると思います(笑)。

 

――2年くらいだとして、営業日が200日くらいだし、しかも学食で一般客が20,000人でしょ、すげえ。

堀田:機会があればみなさんぜひ一度は行って欲しい学食ですね。

f:id:Meshi2_IB:20160824163438j:plain

▲入ってすぐの床に混雑対策のルート表示があるのだ

 

堀田:ランキング4位は、東京大学の駒場ですね。ランキングって実は、行ったことある学食のベスト3を投票して、上から3ポイント2ポイント1ポイントと順番に振っているんです。どうしてもその学食に行った人数に差が出てきてしまうので。今度そのへんをアベレージとかにして変えようかなと思ってるんですけど。4位の東大駒場はさきほどちょっと触れた南大沢と同じ「ルヴェ ソン ヴェール」というフレンチのお店で。駅も駒場東大前なのでアクセスも良くて、お母さん世代のお客さんが多いですね。

 

――地元の人も多そうですね。

堀田:予約席とかもあって。その場合メニューはコースになるんですけど。予約なしでもランチは800円くらいで。肉か魚か選んで。気軽にフレンチを食べられるんです。

f:id:Meshi2_IB:20160824163437j:plain

▲床のテープを追えば目当てのカテゴリーのカウンターに行ける

 

私はオムライスが好きなんですけど

――5位はどうでしょう。

堀田:武蔵野大学、有明キャンパスのロハスカフェです。

 

――なぬなぬ、えー、国際展示場駅ー? ビッグサイトの近くですな。

堀田:ここも行くのに交通費がけっこうかかっちゃうんですけど。名前の通り、カフェです。比較的新しめの学食で、絵的にきれいなんです。

飯田:おしゃれなんだよね。

堀田:デザートもしっかり凝ってて、無料で炭酸水が飲めるんです。炭酸水サービスは他にはないんですよ。あとここ、貸し切りパーティもできるんですよ。3〜4年前にウチのサークルがここで追い出しコンパをやったんです。

 

――わっはっは!

堀田:立地的に二次会とか絶対に無いですよ。よくここでやるなって感じですよ。

飯田:近くにショッピングモールとかあるからさ、友達と遊びに行った時にお昼に行ったりできそう。

堀田:そうだね、お台場に遊びに行って、ランチはここでっていう。でも最近けっこう混んでるんですよ。

 

――安くておいしいレストランとして知られてきたんですかね。周りはけっこうお高いお店ばかりだし。

堀田:でも、お台場から有明の方に行ってまたお台場に戻るのはけっこう面倒くさいんですよ。いちおう学食値段ではあるので、500円くらいで食べられますね。パスタとか雑穀メニューとかもあって、そこはそれこそロハスなカフェっぽいところですね。デザートなど、女性をかなり意識してるのかなって。

飯田:ここけっこういいよね。たしかパンケーキもあったような。デザートもおいしそうだし。私はオムライスが好きなんですけど、写真で見てすごくおいしそうだったんですよ。「これめっちゃ食べたい」ってなったんですけどその日は売り切れで食べられなかったんですー。あと、商品の見せ方とかもうまいんですよね。

堀田:最近、後輩がですね、場所が遠いと来ないんですよ。来られないメンバーがいると調査書の集まりが偏るのでランキングに変動が出てしまうんですよ。

 

――意外と現実的な困難が! 幹事長としては悩ましいところですね。

堀田:ウチの学年は僕がいるからまだいいんですけど、下の学年になると「遠いからちょっとお金なくて」というのが多くて。わざわざ遠いところを選んでいるということはおいしいとこなんだよと言いたいところなんですよ。

f:id:Meshi2_IB:20160824163439j:plain

▲大隈ガーデンハウスの特徴は鉄板のグリルメニュー

 

学食巡りのセンパイに聞く

――『メシ通』の【学食巡礼】でも、それなりに学食を巡ってきたつもりではあります。学食巡りの先輩として、おいしい学食の探し方とか、伝統的なノウハウとしてお持ちならお聞きしたいのですが。 

堀田:そうですね。絶対おいしいというのは、なにかしらこだわりがある学食ですね。ネットで検索するとだいたい食堂の写真が出るじゃないですか。そこで判断するとけっこういいところが見つかるんじゃないかと思ってて。武蔵野大学の有明キャンパスもそうです。意外と子ども連れのお客さんも多くて、子どもが遊べるスペースもあるんですよ。立教大学も神田外語大学も雰囲気があっていいですし。

 

ーー「雰囲気がいい」という要素もあるのかー。最近は新しくできた学食も多そうですしね。

堀田:最近は千葉商科大学。これは市川のほうで、また遠いところで申し訳ないんですけど(笑)、新しくできた学食に行った人からの評価がどんどん上がってて。20155月に開業したのかな。おしゃれなカフェなんかをたくさん経営しているトランジットジェネラルオフィスが運営している学食で。かなりいい品揃えのランチで500600円なんですよ。健康にも気を使ってる感じで。冊子の写真の色具合からも健康度は伝わるかと思うんですが。

 

――ふむふむなるほど。たしかに茶色と緑と。

堀田:後輩に伝えたい学食ということで、今度行く予定です。ここが、僕が最近行った中でいちばん「今の学食の法則」みたいなものに則ってて、おしゃれで、いい学食です。

f:id:Meshi2_IB:20160824163442j:plain

▲焼けた鉄板に肉を乗せタレをかけると湯気が舞い上がりシズルサウンドが聞こえる

 

飲食の業者が運営している学食を探すべし

堀田さんの言う「今の学食の法則」は、一般の方向けの学食巡りのコツとしても使えそうだ。まずは「飲食の業者が運営している学食を探すべし」とのこと。理由は以下のとおり。

  •  土日も開店しているところが多い
  •  かなりの確率でおいしい
  •  夏休みや冬休みの時期も開いているし、その時期は学生が少ない
  •  だいたいの場合、食券の販売機の左上がその学食のメインのメニュー

なるほど、これなら間違いないと納得できるノウハウです。

f:id:Meshi2_IB:20160824163445j:plain

▲学食なのにアツアツの鉄板モノ

 

あの夏、いちばんおいしかったメニュー

飯田:私は、同志社大学の今出川キャンパスをすごく推してるんですよ。

堀田9月と3月あたりに合宿があって、京都に行った時ですね。合宿は二泊三日で、お昼には必ず学食に行くようにしてて。やっぱりいちおうは学食のサークルですから。

飯田:同志社の今出川キャンパスの学食がすごいんですよ。一食分にいろいろ乗ってて、なのに500円以下というすごさと。

堀田:(冊子の写真を指す)これはフィッシュアンドチップスなんですけど。炭水化物多めなんですけど。

 

――フィッシュアンドチップスとご飯。なるほど。ちょっとヘビーな組み合わせですね(笑)。ご飯よりもビールが欲しくなるなあ。

飯田:カフェも併設されてて。パフェが5種類くらいあるのかな。わりとボリュームがあって。

堀田:なかなかあの大きさはないよね。それとパフェメニューの選択肢が季節限定とかを合わせて8種類くらいあって。すごく力入れてるんですよ。

飯田:建物内もすごくおしゃれで。コップとかもカラフルでかわいいんですよ。だから私はここがイチオシです。

 

――おお、京都京都カフェ文化よ。

f:id:Meshi2_IB:20160824163449j:plain

――それでは堀田さんのおいしかったものは。たとえば死ぬ前にもう一度食べたくらいのものは。

堀田:死ぬ前にもう一度ということでいうと、東京大学柏キャンパスの「お魚倶楽部はま」ですね。でも……遠いんですよ。柏の葉キャンパス駅なんですよ。つくばエクスプレスじゃないと行けないんです。もともと中野にあった東大の施設が柏に移転になったときに一緒に移動したらしいんです。

 

――(冊子を見る)え、これ学食なの? もうかなりお寿司屋さんじゃん。

堀田:いちおう学校の敷地にあるし、広い意味では学食ということで。学生値段でもやってくれてるんですよ。ランチ限定でワンコイン丼というのをやってて。500円で海鮮丼を食べられますよと。Twitterアカウントがあって「今日のワンコイン丼はこれ」というふうに毎日つぶやいてるんです。ほかにも840円でお寿司がつく海鮮丼もあるんです。本格的なお寿司や海鮮丼を食べられるという意味ではなかなか無い学食で。夜はお酒も出すんです。茶碗蒸しとかがついてるレディースセットもありますね。

 

――500円でこの内容の海鮮丼もすごいし、本格的な寿司がある学食というのもすごい。

堀田:ここは大人の人に行って欲しい学食ですね。

f:id:Meshi2_IB:20160824163448j:plain

 

行ってみたい学食ってありますか

飯田:私、個人的には、東京大学駒場キャンパスの第二食堂? 前に東大の人と話をしたら、そこの玄米オムライスがすごくおいしいから食べて欲しいって言われて。それ食べたいなと思ってるんですけど、休日は営業してないんです。平日に行けたらいいんですが、授業があって。

堀田:駒場には第一食堂があるから第二食堂は夜までは営業してないしね。毎月定例会というのをやってて、そこで行きたい学食を募るんですけど、最近手詰まりになってきて。営業時間の問題で行けないこともありますね。たとえばデジタルハリウッド大学とか。平日の昼しかやってなくて。行くなら授業をサボって行かなきゃいけない。学校の名前だけで盛り上がってて、食堂の情報はぜんぜんないんですけど。あとはなるべく、新しくオープンしたところには行くようにしています。

 

学食研究会も合宿をする

堀田:今年の合宿は仙台に行きます。

 

――ああ。合宿というのは、たとえば九州なら九州をぐるっと回ってあちこちの大学の学食を食べて回るとかではなく、ピンポイントでその土地に行くんですね。

堀田京都大阪くらいの距離なら移動もありますが、基本的にはその場所で、というかたちです。あ! 僕、仙台で行きたいところあって。東北大学なんですけど、ここモーニングをやってるみたいで。フレンチトーストがあるんですけど、おいしかったと評判なのでぜひ夏合宿で食べてみたいんです。

f:id:Meshi2_IB:20160824163451j:plain

 

ハーバード大の学食

飯田:留学でハーバード大の学食に行ったんですよ。すごく広くて、学食らしい学食ではないんですけど、バイキング形式で、最後に会計して、広いところで食べられる。すごくいいところでした。あのときはサンドイッチを食べましたね。サブウェイみたいに好きなものを選んで、はさんでもらって。そんな高くない学生値段なんですけど向こうは物価が高いんで、それはたしか8ドルくらい?

 

――ハーバードはハーバードで学食もたくさんあるんでしょうね。

飯田:はい。なんか、ハリポタの学食のモデルになったというところがあって。でもそこはハーバードの1年生しか入れないんですよね。それが残念でしたけど。

 

――へえ。そういう風習みたいなのがあるんでしょうかね。たとえば「早稲田の中に、早稲田の1年生しか入れない学食がある」っていってもピンと来ないですけど、そういうことですか。

f:id:Meshi2_IB:20160824163455j:plain

 

学食はもう安かろうまずかろうの場所ではない

堀田:大学に入る前、高校生の時に親から聞いてる学食のイメージは「安かろうまずかろう」だったんです。

 

ところが実際に堀田さんがサークルに入ってあちこちの学食に行ってみたら、ぜんぜん安かろうまずかろうではなかったと言います。実際に足を運んで実際に食べるのは楽しいことだし、おいしいところも多かったのだと思います。

これはかなりおもしろい体験なのだと思います。実際の経験は思っていたよりも上を行くものだった、というわけですから。

とくに最近の学食は、学生向けに安さはキープしつつも、クオリティも決して低くないんです。あと、バイキングだったりフレンチのコースだったりとハイクラスなものも選ぶことができるのです。

すでに学食は安いばかりの場所でもなくなってきています。選択肢が多いということは、豊かだということです。

 

こぼれ話的にいくつか興味深いエピソードを。

 

早稲田大学学食研究会はサークル活動前日にTwitterで「ここに行きます」とツイートをするのですが、それが仇となり、当日の学食活動中に店長から「君ら、学食研究会だよね」と言われたことがあるらしいです。

学食のメシがマズいという噂が学生の間で流れる某大学がありまして。その大学から早稲田大学学食研究会宛てに「第三者視点で冷静に評価して欲しい」と直々に依頼があったとかなんとか。信頼されておりますな。

あと堀田さんと飯田さんからは「ここの学食は本当にマズい」という話をいろいろ聞いたんですが、その事実はこれからの【学食巡礼】の中で明らかになるやもしれません。

 

次に行く学食はあなたの母校かもしれない。

そこが女子大であることを私は願っている。

 

早稲田大学学食研究会

公式ブログ:http://ameblo.jp/wsdgksk/ 

公式Twitter: https://twitter.com/Wsdgakusyokuken

 

お店情報

早稲田大学 大隈ガーデンハウス

住所:東京新宿区早稲田鶴巻町538-13 早稲田大学 25号館 2F3F
電話:03-5273-8101

営業時間:2F/平日10:30~14:00、 土曜日10:30~14:00。3F/平日11:15~19:50、 土曜日11:15~15:15
定休日:日曜日、祝日

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。好きな蕎麦屋は三朝庵。好きなわせ弁は唐揚げ明太。

過去記事も読む

トップに戻る