粉からこねて「チキンラーメン」を自作してみた【理系メシ】

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やってきました、「カップヌードルミュージアム」。

横浜の赤レンガ倉庫のそばに立つ、しゃれた建物だ。あんまりシャレているので、気づかずに通りすぎる人もいるそうだ。

さて。なぜ「カップヌードルミュージアム」に来たかというと、チキンラーメンを作りに来たのだ。

こちらでチキンラーメンの手作り体験ができるというのである。

熟語のテストで「厚顔無恥」を書けと言ったら、「え? 痛くねえ? なんでタマにムチ?」と言った息子を連れて行く。

日清のチキンラーメンを知らない日本人は、ほぼいないと思う。

お湯を入れたら3分で食べられる驚異の食べ物。

考えてみればとんでもない話で、即席食品という概念自体がチキンラーメンから始まった。

缶詰に匹敵する大発明だ。

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アテンドしてもらう日清ホールディングス広報部・内田さん

 

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日清ホールディングス広報部・内田さん:戦後間もない頃の食糧難の時代に闇市が開かれていて、ある日、創業者の安藤百福が通りかかった際、長い行列ができているのを見つけました。その行列の先には1軒のラーメン屋台があったそうなんです」

その後、頼まれて理事長になった信用組合が倒産して一文無しになった時、思い出したのがその風景。

内田さん:家庭でお湯があればすぐに食べられるラーメンを作れば、みんなが喜ぶだろうと。

なるほど。

それから丸1年間、平均4時間の睡眠で、ひたすら試作を繰り返して作り出したのが世界初のインスタントラーメン、チキンラーメンなのですね。

わかった?

はい、では安藤氏にあやかって、ちゃんと銅像をよくなでておくように。

 

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夏休み中ということで、館内は人多し。

内田さんによると、夏休み期間中は1日4000人以上の来館者が訪れるそうだ。

チキンラーメンの手作り体験ができるチキンラーメンファクトリーは完全予約制。

「カップヌードルミュージアム」のホームページまたはネットで予約する。

あっという間に満員御礼になるので、余裕を見て予約することをおすすめする。

 

さあ、チキンラーメンをつくろう!

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席についたら、ひよこちゃんのバンダナとエプロンをして、手を洗う。

食べ物を扱う時は手洗いが大事。

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まずは小麦粉から練るのだ。

よろしくお願いします~。

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小麦粉をボウルに入れてくぼみを作り、そこにかん水と水と塩を混ぜたねり水を投入、混ぜ合わせる。

スタッフさんから指導が入る。

 

スタッフさん:片手で素早くぐるぐるかき混ぜます。早さが大事ですねえ。指の間を粉が通るようにぐるぐるぐるぐる。

 

おお! 粉が黄色くなってきた! 

これがかん水の力か。

かん水は炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ性の食品添加物。

タンパク質に作用してコシやツヤを生み、小麦粉のフラボノイドと反応して黄色に発色する。

食品分類上、かん水の入っていない麺は中華麺とは呼ばない

ただの細いうどんである。

 

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できた生地をこねる。

まず手で生地をつぶして広げて折りたたみ、つぶして折りたたみを繰り返す。

 

スタッフさん:できるだけ固くなった方がおいしいので、しっかりつぶしてね。

 

続いて麺棒を使って、押し伸ばしてはたたみ、また押し伸ばす。

 

スタッフさん:まな板と同じぐらい、1センチぐらいの厚さになるまで伸ばしてね。

 

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次は製麺機を使った作業。

 

スタッフさん:ハンドルを矢印の方向に回してね。麵生地は乾燥しやすいので早く回すのがコツ。

 

出てきた生地を半分に折り、折り目から製麺機へ入れ、また伸ばす。

 

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繰り返すと生地がぴかぴかになってきた!

 

スタッフさん:今3回目ですが、全部で10回、回していきます。

 

ありゃ。意外と大変。

 

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スタッフさん:最後広げてみて、表も裏もまっ平らな状態になる。これで完成。

 

生地をビニール袋に入れて、生地を熟成させる。

 

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生地を寝かせている間、パッケージに日付と絵を描く。

内田さんと再度合流。

製麺工場の見学はしたことがあるんですが、こうやって手で触るとなかなか面白いですね。

 

内田さん:工場でも同じ工程で大量生産されています。実際に体験された方からは、チキンラーメンはおなじみの食材から作られていることがよくわかった、とおっしゃていただきました。

 

たしかに。

 

内田さん:防腐剤や合成保存料、合成着色料も入っていないことが、体験するとわかりやすいですよね。

 

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いよいよ製麺。

 

内田さん:生地を薄く長くのばしていきます。この作業は4回繰り返します。

 

麺の太さ=生地の幅&厚さってことか。

 

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内田さん:では麺にしていきます。20cmぐらいの長さにハサミでちょきんと切ってください。

 

麺がどんどん出てくると面白いな。

ハサミでちょきん。

面白い、面白い。

 

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100gずつに分ける。ちょうど2食分の麺がとれるのだ。

 

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手もみで縮れを加えながらふんわりと麺をかごに入れ、一度、蒸す。

 

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蒸し上がった麺に味付けをする。

まず、ごま油をざっとかけて麺をほぐし、次に醤油や鶏エキスの入った味付けスープをかけて手早く全体になじませる。

粉末調味料だとばかり思っていたが、液体をかけるのね。

ごま油が使われているのも発見。

 

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油で揚げるための型に入れる。

麺がくっつかないように、ふんわりが基本。

この製法、安藤百福氏が考えた発明当初のやり方と基本は全く変わっていないというからすごい。

天才っているんだね。

 

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揚げる前に、串で麺の絡みをとって隙間を作る。

けっこうな職人技である。

工場のラインではこれを機械でやるのだそうだ。

 

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麺を油で揚げる。

これが世界初のインスタントラーメンを誕生させた瞬間油熱乾燥法である。

奥方が天ぷらを揚げているのを見てひらめいたという逸話があるこの製法、高温の油で麺を揚げることで麺の水分が急速に蒸発、麺の中に無数の小さな穴ができる。

この穴にお湯が浸み込むとたちまち麺が元の水分を含んだ状態に戻るというもの。

 

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すごい勢いで水分が蒸発している。

現在もインスタントラーメンの製法といえば瞬間油熱乾燥法が主流で、生麵のような食感のノンフライ製法は熱風で乾燥させている。

 

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はい、出来上がり!

 

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パッケージに入れて、封をしたら完成だ。

他にも日清カップ焼きそばプチU.F.O.や工場で作られたチキンラーメンなどをお土産にもらった。 

 

どうも一日ありがとうございました!

 

いよいよ実食

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さて、手作りチキンラーメン、果たして味は市販品と同じなのか?

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ちゃんとたまごポケットもあるのだ。お湯をかけて3分間。

昔のCMでは子連れ狼こと拝一刀が、「3分間待つのだぞ」と言っていたけど、そんなことを覚えているオヤジも数が減ったよな。

 

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完璧。

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どうかね、味は?

「ぐっじょぶ!」

何がグッジョブだよ。

 

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市販品と食べ比べると、麺がおいしい。

スープの味はまったく一緒だが、麺がワンランク上。

がんばってこねたかいがあったというものだ。

 

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そんなわけで安藤百福氏のクリエイティブシンキング=創造的思考に触れることのできる「カップヌードルミュージアム」、イチオシである。

インスタントラーメンが体にいいとか悪いとかいうけど、安藤百福氏は亡くなるまで毎日チキンラーメンを食べていたそうである。

それで享年96才の大往生ですからね。

実際に麺から作ってみて、まったくこれこそがラーメンそのものであることよとわかったのだった。

内田さんおススメのチキンラーメンまんじゅうもやたらにおいしかったので、お試しあれ。

 

施設情報

カップヌードルミュージアム

住所:神奈川横浜市中区新港2-3-4
電話:045-345-0918 (案内ダイヤル)※お電話のおかけ間違いには、十分にご注意ください。
開館時間:10:00~18:00 (入館は17:00まで)
閉館日:火曜日 (祝日の場合は翌日が休館日)、年末年始
入館料:大人 (大学生以上):500円  ※高校生以下は無料
チキンラーメンファクトリー:小学生 300円 / 中学生以上 500円

www.cupnoodles-museum.jp

※チキンラーメンファクトリーの体験はネットから事前申し込みが必要です。

 

「意識高い系チャーシュー」をつくる【理系メシ】

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最近のラーメンは、意識が高い。

無化調は当然、塩は天然塩、醤油は樽づくりの3年物、麺は国産小麦の全粒粉の自家製麺。どんぶりはお店専用を懇意な陶房で焼いてもらい、水は水素水。

 

……あ、水素水はともかく。

昔の、一斗缶に入った大豆かすで作った醤油に化学調味料をスプーン山盛り、麺はお店の前に山積みでガンガンに日光に当たってもまったく変色しない、絶賛プロピレングリコール満載中のラーメンとはわけが違う。ちなみに「プロピレングリコール」とは石油由来の保存料で、これを使うと麺が硬くならない。

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それはさておき、最近の一杯1,000円くらいの「意識高い系ラーメン」に使われているチャーシューも、そうとう意識が高いと思う。

 

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チャーシューといえば「茶色の煮豚」が常識だったのものだが、今どきのチャーシューはピンク色。

ものすごく柔らかくておいしい。

なんなんだ、あれは? 

私の知っているチャーシューと全然違うぞ?

低温調理という。タンパク質が凝固する60度前後で長時間加熱すると、ああいうピンク色のチャーシューができるらしい。ラーメンの調理本に意識の高いお店のチャーシューの作り方が書いてあったのでまねしてみた。

 

「意識高い系チャーシュー」を作ってみる

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チャーシューの肉を2日間、醤油2:みりん1:酒1 の中に漬けておく。

 

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表面をフライパンで焼いて焦げ目をつける。

「糖とアミノ酸で焦げる=メラノイジンができる」のをメイラード反応と呼ぶのだが、こいつが香気成分を生み出し、香ばしいおいしさになる。

 

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湯煎(ゆせん)する。

60度で2時間。

これが低温調理のゆえんだ。

タンパク質の凝固する一番低い温度でゆっくり熱を通すことで、ジューシーさが失われず、生肉のような赤みを残したチャーシューに……

 

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……ならないじゃないか! 

たしかに中心部は赤いけど、私が食べたいのはもっと意識が高いやつ! 

ピンク色のふわふわのやつ!

食べたらおいしかった。

業務用とは肉のサイズが違い過ぎるから、茶色になっただけでとてもおいしい。だけど、もっとピンクにしたいのだ。

どうやればいい? 

意識を高く、クリエイティビティーな気づきでエビデンスで……醤油をやめよう。醤油の色がつくんだ。白醤油に変えよう。

ついでにもっと赤みを増すには塩豚だ。

豚肉に塩をまぶしておくと水分が抜け、肉が赤くなるのだ。

意識の低い輸入肉は臭みが残る。香辛料で臭みを取ろう。

リベンジだ!

 

「もっと意識高いチャーシュー」を目指してみる

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塩を塗り込む。分厚く塗らないとうまくいかない。

 

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ラップで密封したら冷蔵庫へ。そのまま2日放置。

 

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ラップから出した肉は赤いドリップにまみれて大変なことになっている。

水で洗い、水に30分つけて塩抜き。抜けたかどうかわからない時は、はしっこを少し切って焼いて食べたら良いよ。

 

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漬け汁を作る。

白醤油は塩味が強いので、みりんと1:1で混ぜる。

 

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パックのブーケガルニを投入。2パック120円で売っていた。

にんにくもローズマリーもバジルも全部入っていて便利。

 

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ビニール袋に入れた肉と漬け汁を水の中に沈め、空気を抜いて口を縛る。

空気が入っていると煮ているうちにひっくり返っちゃうのだ。

 

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低温調理の問題は、ガスレンジで一定温度を保つのが非常に面倒ということ。

超とろ火にしてじわじわとやってもすぐに80〜90度まで上がってしまう。

そうなると肉が固くなる。

58~68度の幅に入れておくと柔らかく仕上がるのだが、それは難しい。

そこで便利なのが炊飯器の保温機能だ。水を入れて放っておくと、ほら67度! 

素晴らしい。

機種によっていろいろあるだろうが、ほとんどが60~70度なので、低温調理器具としてベスト。ここで気をつけなきゃいけないのが食中毒だ。

厚生労働省の豚の食肉の基準によると、「63℃で 30分間以上加熱するかこれと同等以上の殺菌効果を有する方法」とある。

保温器で1時間以上加熱するのは十分にこの基準を満たす。問題なし。

ただし! 

水が温まる前の保温器に肉を入れてしまうと食中毒の原因になる。

30~40度で菌が繁殖するので、その温度帯をゆっくり通ると菌が異常に増えるのだ。

そして68度になったからと引き上げたら、肉の中まで温度が十分にあがっておらず、お腹が痛くなるわけ。気をつけましょう。

 

意識高い系インスタントラーメンの完成

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2時間経過。肉も十分に67度となったので、冷やす。

 

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どうだ! ……って、なんだこれは。これじゃない! 

こんなもんではないのだ。もっと生で赤くてジューシーじゃないとダメだ!

 

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やり直しだ。

加熱が長すぎたのだ。

次は1時間の加熱に短縮して再トライしてみることに。

 

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冷めるのを待つ。

漬け汁に入れたまま冷やすと味が入りすぎることがわかったので、肉を出してさます。どうだ? 今度はいけるか?

 

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これだ! 

見たまえ、このピンク! 

これこそが低温調理チャーシューである!

 

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うまそうではないか!

まとめよう。

 

自宅で簡単にできる低温調理チャーシュー(別名:意識高い系チャーシュー)の作り方

【用意するもの】

  • 豚の肩ロースもしくはモモ肉 400グラム前後
  • 白醤油
  • みりん
  • ブーケガルニ

 

STEP1:肉全体に塩を厚く塗り、2時間放置。これで臭みを抜く。およそ2時間たったら、水で塩を洗い流す(2日置いておくと塩が肉に入りすぎてしっぱくなってしまったのだ)。

 

STEP2:厚手のビニール袋に肉を入れ、そこに白醤油とみりんを11で混ぜた漬け汁とブーケガルニ1袋を加え、口を縛る。空気をよく抜くこと。白醤油、みりんは50mlずつが目安。

 

STEP3:炊飯器の釜に6070度のお湯を入れるか、水を入れて保温で30分で湯にするか、どちらでもいい。肉をビニール袋ごと入れ、保温で1時間放置。

 

STEP4:袋から肉を出し、冷ます。だいたいの熱が取れたら、冷蔵庫に放り込んでおく。冷えたところで切れば、あなたのラーメンも今日から「意識高い系」。

 

わかってしまえば簡単である。

でもって、安い。肉なんて今はカナダ産が100グラム98円とかで売っているのだ。さくっと作って、意識高くなっていただきたいものである。いや~苦労したわ。

 

※この記事は2017年9月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー「科学実験酒場」を主宰。

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【うま味の研究】トマトやチーズがダシになるって、ホント?【理系メシ】

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「うま味」の正体ってなんなんだ?

つけ麺を食べるたびに思うのだが、味が濃い! つけめんのダシ、濃い! 

ただでさえ濃い上に魚粉まで入れて、どこまで濃くすればいいのか。

しかし、うまい。うまいがとても濃い。

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濃いからうまいのか、うまいから濃いのか。

最近のラーメンはダシがややこしくて、昔は鶏ダシにうま味調味料としょう油だったと思うが、今はそんなものでは許されない。

 

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貝に豚骨、鶏、さらに酒粕を使っているなんてものまであって、確かにおいしいんだけど、どうなのか。

それは正しいベクトルなのか。入れすぎじゃないのか。

ダシってだいたいどういうものなんだ?

わからないことはプロに聞け! 

そういうわけで、NPO法人うま味インフォメーションセンターへ話を聞きに行った。

 

そもそも「うま味」ってなんなんだ?

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NPO法人うま味インフォメーションセンターとは、「(前略)うま味に関する正確で有益な情報を知らしめることによって『食と健康』への関心を高め、うま味の理解を深めるとともに食育の推進、ひいてはQOL(生活の質)の向上に寄与することを目的とする」団体である。

 

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ご応対いただいたのは、同センター理事で農学博士の二宮くみ子さん。基本の味のひとつである「うま味」が正しく理解されるよう、各方面でさまざまな取り組みをしている。現在の一番の活動目的は「減塩」。

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plain「うま味」を上手に使うことで、減塩ができるんですね。動物性油脂が少なくても、「うま味」があればおいしく食べられます。「うま味」を感じると唾液が出てくるんですよ。それが酸っぱいものを食べた時の唾液と違って、粘性のある唾液がじわじわ出ます。

 

最近の塩分過多、脂肪過多の食事を見直し、「うま味」で満足感を得る食事に変えようというわけだ。よく「あとをひく味」というが、食べ終わった後でも最後まで下に残る味覚が「うま味」なのだそうだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plain唾液は口の乾燥を防ぐので、ドライマウスが原因になっているような高齢者の味覚障害を改善することができます。東北大学などでは薬を使わず、意識して「うま味」を取ることを指導されています。なかでもグルタミン酸とイノシン酸が組み合わされると、「うま味」は7~8倍も強くなります。

 

「うま味」の正体はうま味調味料の代名詞的に使われるアミノ酸の一種、グルタミン酸と核酸のイノシン酸、しいたけなどのグアニル酸、貝類のコハク酸などがあり、その組み合わせで味の強さが変わる。「うま味」は単独よりも複数のアミノ酸や核酸が重なることで強さを増していく。

だから、違う種類のダシを組み合わせることで、「うま味」がより強くなる、という理屈だ。

もちろんバランスが大事で、なんでも混ぜて濃くすればいいかというと、苦みや酸味が強くなるなど味がマイナスになってしまう。日本には昆布とカツオ節という強力なうま味の素があるが、海外ではどうしているのだろう?

 

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plainいろんな国に行きましたけど、日本みたいに繊細な味のスープストックを使っている国はないですよ。海外では味を重ねて行きますから。だから「うま味」だけを単体で感じることがなかなかできない。でも最近は、「うま味」を知る外国のシェフが増えています。アメリカ人のシェフで、パルメザンチーズの皮をダシに使っている人がいました。

 

おお、「MOTTAINAI」精神ですな。

f:id:Meshi2_IB:20170708144014j:plainちなみに野菜のなかで一番グルタミン酸が多いのは、トマトなんですよ。

 

なるほど。

トマトにチーズ、どちらも「うま味の塊」なのだ。

だから日本人はイタリアンが好きなのか? 

じゃあ、トマトとチーズもダシになるのか? 

さっそく昆布とカツオ節とで比較してみることにした。

 

トマトやチーズは、本当にダシになるのか

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まずはドライトマト。

スーパーで100グラム入りを売っていたので買ってきた。

問題は昆布。

重量を合わせるととんでもない量になる。

 

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うちは昆布の問屋か。

 

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これはないだろうよ。

 

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一回のダシに20グラム程度が使われるので、昆布はそれで。

 

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水に浸して1時間ほど放置。

その間にチーズの用意。

 

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パルミジャーノ・レッジャーノの皮を切り落とす。

 

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細かく切る。

 

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沸騰したお湯に突っ込んで、弱火で10分。

カツオ節もダシ用の厚切りを同様に煮る。

 

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煮えたらこす。

いわばチーズの一番ダシである。

 

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トマトと昆布も煮る。

 

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トマト……煮えたけど、これでいいのか?

透明だぞ?

 

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トマトもこす。

トマトの一番ダシ。

 

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奥左から反時計回りに

  • チーズ
  • トマト
  • 昆布
  • カツオ

のダシ。

 

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昆布は昆布の味。

カツオは、カツオダシだけであまり飲まないので、改めて飲むときつい。

魚の乾いた味で酸っぱい。

 

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チーズは思ったよりも乳製品っぽい。

ヨーグルトと上澄みとバターを足したような感じ。

トマトは、びっくりするほど甘酸っぱい。

透明なのに、どこに溶け込んでいるのか。

チーズもトマトも単体ではダシとしては使い物にならないだろうと思う。

チーズは味のぼやけたスープとも言えないスープだし、トマトはとにかく酸っぱい。

 

それぞれを混ぜてみる

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さっそく、それぞれを混ぜてみることにしよう。

昆布とカツオは? 

おお、これはおいしい。粉末ダシの味だ!

……って、本末転倒か。こっちの味が本来のダシ。

ではチーズとトマトのダシを混ぜると……おお、これは……ミネストローネ? 

あれ……? おいしいのはなぜ? トマトスープのおいしいやつの味だ、これ。

単独では使い物にならなかったのに、混ぜたら、全然イケてる。

 

じゃあ、全部混ぜてみたら? 

……うまい。

とてもおいしいスープの味。和風ではなくて洋風の、よく煮込んだトマトスープの味だ。なるほどね。

せっかくなので、トマト&チーズのダシぢからをラーメンでたしかめてみよう。

 

ラーメンのダシにしてみた

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まずドライトマトとチーズを水に浸して1時間。

その後、沸騰させてダシをとる。

 

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市販のスープを半分に分けて、

 

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片方はお湯、片方はトマト&チーズのダシ汁で割る。

 

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麺を入れて、味の差をみようというわけだ。

 

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腹が減った! と帰ってきた子どもに食べさせてみる。

「うめえ! これは何? しょうゆ?」

……そこからかよ。

反対側のやつも食べて。

 

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「お! んん? バター味? 酸味もあるけど。後味が酸っぱい」

いい舌してるね。

チーズとトマトでダシをとったんだ。

どっちがおいしい?

 

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「こっち! コクがあってうまい。バターじゃないのか、チーズかあ」

よくトマトや粉チーズを入れるラーメン屋さんがあるけど、あれは理にかなっているんだな。

ダシはいくつもが組み合わさるとやたらにおいしくなる。

 

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二宮さんはうま味調味料はちょっとだけ使ったらよいとアドバイスしてくれた。

基本的にはダシをとるが、温度や素材で味は少しづつ変わる。

だから味を一定にする調整用として使うと良い、とのこと。目安は0.3%。

ほんとにちょっとで良いのだ。でも劇的においしくなる。

まさに隠し味である。

 

協力:NPO法人うま味インフォメーションセンター

www.umamiinfo.jp

※この情報は2017年7月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

過去記事も読む

【痩せたい】脂肪の燃焼に効果的?うわさの野菜スープを1週間飲んでみた【理系メシ】

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うわさの「野菜スープ」はホントに脂肪燃焼に効果的なのか

痩せる! 今年の夏は痩せる! 

言うのは簡単だが、中年が痩せるのは本当に難しい。

しかしあっさり簡単にやせてしまう方法があるというのだ。

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それがこのスープ。

ただの野菜スープにしか見えないが、飲んだ人は1週間で7キロ痩せたというのだ。

なんだそれ? あぶない薬のスープか?

 

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痩せたのは、吉原悲劇さん。

シンガーソングライターの癖に178センチで87㎏もあった体重を1週間で7キロ、さらに10日かけてトータル12キロ落としたという。マジですか。

吉原さんがベースにしたのが「1週間脂肪燃焼ダイエット」。

ダイエットに挫折しまくっている人の間では有名なダイエット法である。

1週間の食事を以下の通りに制限する。

  • 1日目 野菜スープ飲み放題、果物食べ放題
  • 2日目 野菜スープ飲み放題、野菜食べ放題
  • 3日目 野菜スープ飲み放題、野菜・果物食べ放題
  • 4日目 野菜スープ飲み放題、バナナ3本とスキムミルク
  • 5日目 野菜スープ飲み放題、肉350~700g、トマト最大6個
  • 6日目 野菜スープ飲み放題、肉350~700g、野菜食べ放題
  • 7日目 野菜スープ飲み放題、玄米、野菜食べ放題

アメリカで太り過ぎて手術できない人を強制的に痩せさせるためのプログラムで、ポイントは野菜スープ。もともとの名称はキャベツスープダイエットというだけあって、キャベツプラス他の野菜でスープを作る。

野菜スープのカロリーは1食分で100キロカロリー程度。

少々食べても1,000キロカロリーにもならない。成人男性の1日の基礎代謝量は1,500~2,000キロカロリーといわれているので、差し引き分だけ痩せることになる。

とうもろこしや根菜類、イモ類は使用禁止。つまりは糖分禁止。

最近はやりの糖質制限ダイエットの一種と考えればいい。

カロリーを極端に落とすと筋肉を消費してしまうので、たんぱく質の補充は必須だ。

脂肪の燃焼が始まるのが3~4日目。糖質が足りない分を、脂肪からケトン体を作って補うようになる。脳がブドウ糖もしくは代替物のケトン体しか栄養にできないためだ。それでも足りないから筋肉を分解してエネルギーに変える。

そういう点で、たんぱく質の消費が始まる5日目から肉を食べるというのは理にかなっている。

 

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「私はこれにあるものを加えて、真・脂肪燃焼スープに改良したのです」

と自慢げに吉原さん。加えたのはココナツオイル? 

そういやありましたね、ココナツオイルダイエット。あれさ、痩せるどころか太ったよ? 


「パンに塗ったらダメですよ」

バターの代わりに使うんじゃないの? 違うの? ちょっとでいいんですか。

使いすぎるとダメですか。

吉原さん曰く、ココナツオイルのような中鎖脂肪酸は脂肪を分解、血管にも良いとのこと。ココナツオイルを加えることで、キャベツスープが文字通りの脂肪燃焼スープになるという。でも7キロ減は大げさ……まあいい、やってみましょう!

 

さっそく野菜スープをつくってみる

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というわけでスープの材料はこちら。

  • 玉ねぎ 1個
  • セロリ 1本
  • キャベツ 半玉
  • トマト缶 1缶
  • にんじん 1本
  • ピーマン 2個
  • マッシュルーム 4~5個
  • ココナツオイル 大さじ1
  • 水 適量
  • 唐辛子 1本
  • コンソメスープの素 1個
  • 塩コショウ 適量

 

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玉ねぎは皮をむいて千切り。茶色の皮もとっておく。

野菜のきれっぱなしを煮て、ダシを取るのだ(面倒な人はやらなくていいです)。

 

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にんじんも皮をむき、適当なサイズに切る。

 

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根っこや皮は全部鍋に放り込んで煮る。

 

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キャベツも根っこと表皮をとって鍋へ。本体は5~6つにざく切り。

 

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セロリの葉っぱは折ってそのまま鍋へ。グツグツと中火で煮る。

 

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マッシュルームは千切りに。

脂肪がケトン体に変わって消費され始めると、独特の妙な体臭がする。体が臭い。なのでマッシュルーム。体臭を抑える働きがあるのだ。

 

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準備完了。玉ねぎと他の野菜は分けておく。

 

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ココナツオイルを大さじ1杯。

 

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フライパンで熱し、

 

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中火にして玉ねぎを投入。茶色になるまで辛抱強く炒める。

 

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煮ていた野菜くずをこす。

 

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厚手のクッキングペーパーを網に敷き、こせ上等な野菜スープの出来あがり。

 

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トマト缶を加える。ホールでもカットでもいい。

 

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とうがらしを一本入れておきたい。とうがらしの辛味で食欲が増す。

 

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さらに、コンソメスープの素を入れた方がおいしい。

 

自分の体重を測ってみる

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さて。初日の体重は86.9kg。

重い。重すぎる。写真も撮ったが、醜悪なので掲載取りやめ(笑)。

怖いな、まるで父親にそっくりだ。遺伝子が怖い。

 

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ココナツオイルが効いていて、思ったほどおなかはすかない。

そりゃ多少はすきますけどね、当たり前だけど。

逆に考えると、ココナツオイルのカロリー分だけ痩せにくくなるってことか?

 

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2日目、3日目。86.3㎏。

そう簡単に減るものではないらしい。

 

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4日目。85.4㎏。

急に体重が減ったが、いまの精神状態としては「食べ物のことしか考えられない」。

ただし、恐ろしい量の野菜を食べているから、おなかがすいているわけではなく、糖質の問題らしい。

脳が栄養にするブドウ糖が足りず、いわば「脳のおなかが減っている状態」なのだ。

 

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トマトスープに飽きたので、新しくエスニックなスープを作る。

キャベツ1玉、ブロッコリー1株、トマト3個、セロリ1本、玉ねぎ1個、たけのこ1個、マイタケ2パックとマッシュルーム1パックはダシ代わりにミキサーでみじんにして加えて、これを煮ると6リットルの鍋がいっぱいに。

タケノコは糖質が低いのだ。歯ごたえ大事。

唐辛子とナンプラーで食べるとエスニックでとてもうまい。うまいなあとお代わりしていたら、夕方までに9割方、食べ尽くしてしまった。

夜、トイレに何度も起きる。スープも含め、すごい量の水分を取っているので仕方ない。スープにはマイタケも入れているので、おなかも緩くなるし、液体と野菜ばかりなのだから当然だろう。

これが女性誌だと、「デトックス」とかいうんだろうな。

 

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5日目。84.25㎏。

2.5㎏減は順調と言えるか? 

全然見かけは変わらないけど。空腹でイラつき、困った。

どうにも仕事が手につかない。

 

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5日目と6日目は肉を食べていい。

肉は最大700グラムまでで、脂肪分の少ないものを。

あとはスープとトマト。なんでトマト?

朝飯に白ワインに漬けていた豚の赤身を150グラムほど食べたが、余計にお腹がすいた気がする。

 

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6日目。84.75㎏。

食べた肉の分だけきっちり戻ってないか? いいのか?

 

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食べてもいいというから、ここで肉を食べる。

450グラムのステーキだ。

おにぎりでも食べるみたいにあっという間になくなり、ガッカリ。

 

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7日目。84.95㎏。

ほらあ、肉を食べた分だけ戻ったじゃないか! 

もともとのキャベツスープダイエットでは、最終日は野菜スープと野菜のみ。

玄米なんてアメリカ人は食べない。なので野菜スープのみで過ごしてみたが、結果はこのとおり。どだい1週間で7キロ減なんてのは無茶な話なのだ。

 

それにしても、2キロしか落ちなかったのは残念だ。もうちょっとがんばってほしかったな。そして、この「1週間ダイエット」を終えてもとの食事に戻したら、3日で1キロ戻してしまった。最終的には1キロしか体重が減っていないという厳しい現実が待ち受けていた。

そういうわけで現在は2巡目に入り、85キロという状況である。

結論。短期間で落とした体重は、短期間で戻る。

気長に野菜スープと付き合っていくしかなさそうである。

参考記事:いいかげんどうしたら吉原悲劇にモテ期が来るのか

 

※この記事は2017年6月の情報です。
※ダイエットの結果には個人差があります。すべての方が同様の結果になるとは限りません。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。主な著書に『あぶない科学実験』(彩図社)、『ホントにすごい!日本の科学技術図鑑』(双葉社)など。イベントバー『科学実験酒場』を主宰(現在休止中。今秋から再開予定)。

過去記事も読む

【つくりおき】ムチャクチャ身体にいい!「生姜シロップ」を自作してみた【理系メシ】

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5時間煮る! 超辛ごくうまジンジャーエールの「生姜シロップ」を自作する

今日は「生姜シロップ」を作ろう。

科学実験酒場」でも出している「生姜シロップ」、こいつが超好評! 

おかげで誰もビールを飲まなくなり、原価が下がって店主はありがたい。みんな「生姜シロップ」で割ったドリンクしか頼まないから、生姜シロップ専門店にしようかと思うほどだ。

実際、おいしい。

炭酸で割れば「辛口ジンジャーエール」、ビールに入れればビールのカクテル「シャンディガフ」、お湯で割ってもおいしいし、私のおすすめはジンで割る飲み方。ジンと「生姜シロップ」を1対1で混ぜ、炭酸で割ると、ジン特有の薬臭さが生姜でいい香りに変わる。

後味の重さも生姜の辛さでキレイにぬぐわれる。

 

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 そういうわけで作り方だ。用意するのは

  • 生姜:2kg程度
  • 唐辛子:1本
  • 粒コショウ:お好みで
  • 塩:小さじ1杯
  • 白砂糖:500~600g
  • レモン汁:レモン半個~1個分

※今回作った「生姜シロップ」の材料・分量です。

 

たったこれだけ。

もうひと手間かけて、味をパワーアップする方法は文中で説明する。

何はともあれ、生姜だ。

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ちまちまと小さい瓶で作ってもすぐになくなるから、家でも一気に作ろう。水で割ってもおいしいので、すぐ飲み切ってしまうのだ。生姜1㎏でだいたい1リットルできると考えればいい。今回は2kg強を使う。

 

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まず生姜を洗う。 

生姜は中国産がびっくりするほど安い。しかし実は国産だって安いのだ。今回使ったのは高知産。「生姜シロップ」を作るまで、高知県が生姜の名産地だなんて知らなかった。 

さらに、ネットで買うと超安い。スーパーでは100グラム100円前後だが、業務用スーパーや八百屋さんで買う方がずっと安く、ひと山5600グラムで300円程度。私がネット通販で買ったのは5㎏で1,700円。

たぶんこれが底値だ。

 

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隙間に泥が入っているのでよく洗う、面倒ならズバッと切って洗えばいい。

 

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薄く切る。

スライサーはすぐ目詰まりして(生姜の繊維はタフだ)イラつくので、おすすめしない。包丁でサクサク切ろう。切り方は雑でいい。

 

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中ぐらいの鍋にいっぱいできた。 

 

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煮詰まって蒸発する分を考え、ひたひたより少し多めに水を入れる。今回は3リットル作るつもりなので、3リットル半の水を入れる。 

 

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隠し味その1。

唐辛子と粒コショウ。 

 

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唐辛子は1本で充分。あくまで生姜の味を引き立てる隠し味であって、唐辛子の辛さが目立ってはいけないのだ。種は抜いておかないと、無駄に辛くなる。

 

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隠し味その2。

塩を小さじ一杯。3リットルに対して小さじ1杯なんて誤差範囲ぐらいだが、これを入れるか入れないかで味のキリッと感が全然違う

1リットルなら小さじ1/3で充分。 

香辛料をいろいろ入れたい人も多いだろうが、入れすぎにはご注意を。一般的にはクローブやカルダモン、ローリエあたりだろうか。くれぐれも数粒程度。入れすぎると苦くなる。

 

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これを煮る。とろ火だ。

絶対に沸騰させてはいけない。

上限は80度だ。

 

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「生姜シロップ」の作り方を探すと、「レンジでチンする」とか「オーブンで乾燥させる」とか「天日で干す」とか書いてある。

はっきり言って、「ただ煮るだけ」というのは私ぐらいだと思う。

しかし、だ。

面倒だろう? 

干すとかオーブンとか。ホントに必要なのか? さっそく調べてみた。

 

ショウガオールの効能がスゴすぎる

生姜を食べるなり飲むなりすると、体が温まる。

これは生姜の薬用成分によるもので、生の生姜に含まれるジンゲロールは末梢血管を広げる働きがある。ジンゲロールに熱を加えるとショウガオールに変わるが、ショウガオールはある種のペプチドの産出を促して、心臓の血液量を増やし、腹部の血行を良くする。(※1)

体を温めるという点では同じだが、この2つは働き方が違う。

してショウガオールの方が、より体を温める。

 

痩せるという話もある。

ショウガオールは体脂肪を分解し、筋肉に使われやすい遊離脂肪酸に変化させる。炎症を押さえたり、胃腸を整えたり……と、その作用は広い。

 

「生姜シロップ」は、「おいしい」ということ以上にそうした薬効も期待されるので、ジンゲロールをどうやってショウガオールに変えるかが作り方のポイントになる

だから焼いたり干したり蒸したりする。

では、どのくらいのジンゲロールがショウガロールに変わるのか? 

生姜のジンゲロール:ショウガロールの比は982。ほぼジンゲロールだ。(※2)

これを1時間ゆでると同937、蒸すと928 

増えましたよ、たしかに。でも2%が7~8%への変化ですよ? 

オーブンで手間かけて1時間乾燥させてもそんなものなんだよ。

これ、手間をかけるほど見合う作業なのか? 

言い切るよ……見合いません!

 

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オーブンで焼くというのも最初はやってみたけどさあ、よほどの暇人だよ。

ひと切れずつくるくるひっくり返さないと焦げ付くし。

そういうわけで煮るわけだ。

なぜか? 

ジンゲロール:ショウガロールの比が1:150:50まで跳ね上がるからだ。

すごいでしょ? これが正解でしょ? ショウガオールをマックスまで増やす、その方法は「電子レンジ」でも「オーブン」でも「天日」でもないの!

煮るの!

 

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5時間、煮る。譲って4時間。

これでジンゲロールがショウガオールへ限界まで変化する。目安は80度。これを超えるとジンゲロールもショウガオールも分解してしまう。煮る意味がない。だから絶対に沸騰させない。

超弱火でひたすら煮る。

 

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煮えたら砂糖を加える。

3リットルに対して500600グラム。砂糖はいろいろ試したけど、黒砂糖やグラニュー糖よりもここは白砂糖。ホントにシロップみたいにしたい人はさらに砂糖を増やす。甘くすると辛さが感じられなくなるので、味をみながら調整しよう。ハチミツもおいしい。

レモン汁を半個~1個分加えると味が締まる。だからレモン汁は入れることをおすすめする。「科学実験酒場」では、飲む時に入れている。その方が香りが立つからだ。

 

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容器に移す。

煮崩れた皮や繊維が気になる人は、あとで網でこして、詰め直せばいい。 

 

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完成。

簡単も簡単、時間だけはかかるが、その分、おいしい。 

 

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試飲。どうかね、辛いかね? 

 

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「おいしい! 辛いけどおいしい!」

さらに辛くしたい人は、瓶の中に生の生姜の薄切りを突っ込んでおく。ジンゲロールの方がショウガロールより辛いからだ。

1日たてば、辛さがパワーアップする。

 

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ポイントは気長に弱火で煮るだけだ。

簡単なのでぜひお試しを。

 

【注釈】

(※1)参考:食品医学研究所:しょうが(生姜)の効果・効能::【お知らせ】体を芯からポカポカ温めるには加熱ショウガか、蒸しショウガを!

(※2)参考:「ショウガ中の6-ジンゲロールの加熱調理による変化」(聖徳大学/吉田真美,平林佐央理/日本調理科学会誌 Vol. 48 (2015) No. 6 p. 398-404)

※この記事は2017年7月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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【実験】カップ麺に「苦味」を加えると本当においしくなるのか【理系メシ】

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カップラーメンに苦味を加えて、おいしさのワンランクアップを目指してみる

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カレーを手軽においしくする方法がある。

 

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カレーの隠し味にインスタントコーヒーを入れるのだ。

なぜコーヒー?

それは「コクが増す」から。

コクの正体とは、5つの味覚(甘味・塩味・酸味・苦味・うまみ)の総合的なバランスが取れている状態をいう。

 

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さらに「風味」という味覚もある。

食べ物が口の中で放つ香りを口蓋(こうがい)上部の鼻口蓋管(鼻に通じている穴)で受け取り、外気からの香りとは別に「おいしさ」として知覚するのだ。

市販のカレーの場合、ファミリー向けの商品ではカレーの焦げに由来する苦みを減らしている。苦みは食品が悪くなったり毒がある場合の味なので、味の経験が少ない子どもは本能的に嫌うからだ。自分で作る場合は徹底的にたまねぎを炒め、甘みと苦みをカレーに加えるが、これは手間も時間もかかる。

本格的なスパイスのインドカレーを食べてみると、いかに市販のカレーが日本人が好き嫌いを感じないレベルにスパイスの香りを抑えているか、よくわかる。

そこでコーヒーだ。

苦みを足してコクを出し、スパイスの香りにコーヒーの香りを足すことで、さらに風味を増す。簡単で効果的なカレーの隠し味である。

 

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同じ理由でカレーに苦みを足す隠し味として、コーヒー以外にも「チョコレート」「ココア」「ソース」「ビール」などが有名だ。

少し苦みを加えると、カレーにコクが増すわけだ。

これをラーメンに応用できないか? 

ラーメンも焦がしねぎを入れるとおいしい。誰も面倒でやらないだけで、本当は少し苦みがあった方がカレーと同様、コクが出ておいしいのではないか?

というわけで実験だ。まずコーヒー。

 

カップラーメンにインスタントコーヒーを投入実験

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量が難しい。

カレーの場合、4人分に対して小さじ1杯が目安らしい。

カップ麺の場合、1人分なので単純に小さじ4分の1?

1.25グラムだ。これはものすごく少ない。こんなので味が変わるのか?

 

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とりあえずお湯を入れて3分間待ってみる。

今回は実験なので、ミニサイズのカップめんを使った。

普通サイズを何杯も食べられない。

 

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3分経過。うーん、意外と茶色い。

 

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左が普通にお湯だけのカップめん。右がコーヒー入り。

味噌ラーメンっぽい色味で、地味。あまりおいしそうじゃない。

 

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とりあえず普通バージョンから食べてみる。

普通です。おいしいです。

 

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で、コーヒーバージョン。……?? 

ちょっと待って。

こっちが普通バージョンで、こっちがコーヒー……。んん!?

おいしくなってる! 

おいしいよ、これ。

 

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スープはコーヒーの味がするなあ。味が分離している。

でも麺はおいしいな。ダシをワンランク上げた味がする。

 

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コーヒーラーメン、ありです。おいしいです。

ちょっとだけでいい。普通サイズのカップめんに1グラムでいいと思う。

苦みもだが、少し酸味も足されるからか、ダシを強くした感じだ。とてもおいしい。

 

カップラーメンにチョコを投入する実験

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続いてチョコ。

チョコレートはカレー以外にもトマトソースやシチューなどに隠し味で入れると、コクが増す。ラーメンの場合はどうか?

 

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当たり前だが、チョコが溶けている。

どうなんだろう、お菓子を普通の食べ物に入れるって。

 

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混ぜると、見た目は味噌ラーメンっぽい。

名古屋の味噌ラーメンって感じだ。

 

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さっそく食してみる。

意外とアリっちゃアリか……? スープが甘い! 

砂糖の甘さとダシの甘さは根本的に違うようで、砂糖の甘さだけが舌に残る。

 

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微妙。やらなくていいんじゃないか? 

ひょっとしたら甘くないチョコを使ったらいいかもしれない。研究の余地はある。

 

カップラーメンにウスターソースを加えてみるとどうなるか

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ウスターソース。

カレーにソースをかけるのは昔は普通でしたからね。今もやる人多いんじゃないか。

 

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うん、これはやらなくていいです。

ウスターソースの酸味がたってしまって、おいしくない。

 

カップラーメンにココアを投入してみる

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次、ココア。

チョコがまあギリでいけなくはない感じだったから、ココアはいけるんじゃないか?

砂糖抜きのチョコだし。

 

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むむむむ。

ダメでした。

ココアって香りが相当に甘いんだな。ラーメン、台無し。

味もファンシーな感じで、この味がお店で出てきたら怒っていいレベル。

まったく合わない。

 

カップラーメンにビールを投入実験

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最後にビール。

飲んだ締めにラーメンはおいしいから、酒との相性も悪くないんじゃないか? 

ラーメンを食べながらビール飲んでもおいしいし。

炭酸でシュワシュワしたらそれだけでおいしくないので、まずは加熱して炭酸を抜く。

 

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隠し味なので水で3倍に薄めてみた。

 

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炭酸が抜けない、抜けない。20分ぐらい煮沸してようやく抜けた。

 

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さてビールラーメン、おいしくなりそうだが……?

 

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これはまったくダメ。

気の抜けたビールでラーメンを作ったらこういう味という、それ以外の何物でもない感じ。

 

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そういうわけで、ラーメンに苦みを足したらおいしくなるか? 

やってみた結果、コーヒーが唯一、ラーメンと相性のいい苦みなのだった。

ほんのちょっとだけ、今度ラーメン食べる時に入れてみてください。

おいしくなるから。でも本当に「ちょっとだけ」ですよ。

コーヒーの味は思った以上に強いから、入れすぎるとラーメンが台無しです。

 

※この記事は2017年5月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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30分かけてつくる!?オタクが考えた究極のスクランブルエッグとは【理系メシ】

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「男の料理」というと、肉を塊で焼いたり酒を一本まるごと鍋にぶち込んだり、豪快かつ予算度外視、うまけりゃ正義、後片付け? よくわかんない、だったと思う。

では「オタクの料理」とは? 

タカタッタターン!

『Cooking for Geeks 第2版ー料理の科学と実践レシピ』(発行:オライリー・ジャパン/発売:オーム社)という本がある!

オタクによるオタクのためのオタクな料理本、それがこの本。

Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)

Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)

 

 出版社のオライリー・ジャパンは、一部の理系人間の間では有名なサイエンス雑誌『Make:』の出版社だ。

 

一般にオタクの料理というと、手抜き・インスタント・一発ギャグ的な、ようはネット発の“合法ドラッグ”、シソ(シソをニンニク醤油に漬けた料理)や悪魔のトースト(砂糖を振りかけて焼いたバタートースト)のようなものを想像するが、その内容はめっちゃハード!

科学的にねっちりと料理を解説する本である。

 

最近、お高いお店で出される分子料理という、液体窒素でアイスクリーム作ったりするやつの原理原則が事細かく説明されている。

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この本をぺらぺらと読んでいくと……「スローなスクランブルエッグ」なる記事を見かけることになった。

 

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30分かけてつくる!? たかがスクランブルエッグに!?

意味不明である。

通常、スクランブルエッグと言えば、こうつくるはずだ。

 

普通のスクランブルエッグのつくりかた

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卵を割って、

 

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よくかき混ぜて、

 

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塩を少々入れて、

 

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牛乳を少し入れて、ふわっとさせて

 

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火は中火。

 

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フライパンにバターを溶かして、

 

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熱くなったフライパンに卵を流し込んで、

 

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大きくゆっくりかき混ぜて、

 

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完成。

 

トロっとフワっと、うまし!(by 柳沢きみお)。

冷蔵庫から卵を出して皿にフォークを突き立てるまで、10分もかからない。

この料理で、何をどうしたら30分かかるというのだ? 

同書によると、超弱火でフライパンの温度を卵のタンパク質の凝固温度をほんの少し超える71度以下に抑え、絶え間なく我慢強くかき回していくと「まるでチーズやクリームのような風味が生じる」(同p.180)のだそうだ。

著者の場合は出来上がるまで20分かかったという。そして、「一度は試してみる価値はある」(同)というのだが、マジか?

 

30分かけるとスクランブルエッグがチーズやクリームのように……想像できない。

論より証拠、そんなに言うなら、試してみようじゃありませんか。

 

30分かけてスクランブルエッグをつくる

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まず卵を3個、かき混ぜる。ここは普通に。混ぜるのは箸でも泡立て器でも。

 

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火は超弱火

 

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フライパンはテフロン。バターも何も引かず、卵を投入。

味の変化がみたいなら塩を入れるなと書いてあったので、入れない。

 

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ちょっと熱くなってきたな、と思ったらすぐに火から離す。

 

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これを延々と30分やるわけだ。

……だるいな、これ。

 

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10分経過。なんとなく全体にゲルっぽい、もったりした感じが。

 

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これ、やってみるとわかるけど、とてもせわしない。

ちょっとでも放っておくと卵が固まってくるのだ。固まらせてはいけないので、混ぜ続ける。混ぜて、混ぜて、疲れてきた。

 

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ほら、もう20分……だんだんかき混ぜるというよりも「練る」?

 

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正直、どうでも良くなってきたけどね、足もだるいしね。

まだなのかよ。ゴールが見えない料理は作りにくい。

これがどうなったらチーズなんだよ。

 

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お? おお? 固まった? 急速かつ迅速に固まった?

 

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30分後、たぶん完成。もうこれ以上はひっついて固まって扱えない。疲れた。でもこれはさあ、スクランブルエッグじゃないだろ? スクランブル=かき回してないよね。練ってるよね。

 

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カスタードクリームだな、ようするに。

キャラメルとカスタードクリームの中間ぐらい? 

たしかに見たこともない、奇妙な食べ物になったが、おいしいのか?

 

‥‥目玉焼きの黄身? 

目玉焼きの黄身だけをなめているみたい。たしかにクリームだけど、これは甘くないとダメじゃないの? このままじゃおいしくな‥‥

 

良いこと思いついた!

 

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バタートーストにコッテリと塗って、塩を振って食べたら……バルス! 

これだろう、これはうまいぞ、おい。

『天空の城ラピュタ』の目玉焼きのせトーストを究極に進化させた、どこまでも目玉が最後まで終わらない、超ぜいたく目玉焼きのせトーストではないか!

 

まさにおっしゃる通り、一度はやってみる価値がある。彼氏彼女のために作って出したら、これはウケる。間違いなくウケる。こんな朝ごはん、もうね、出会いに感謝だろう。

これを出されて、感動しない相手とは別れた方がいい。

安い、ただの総菜を手間ひまで一流に変える、まさにリアル美味しんぼ。

オタクな料理の神髄はこういうことなのだと理解したわけだ。

 

※この記事は2017年1月の情報です。

 

書いた人:川口友万

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。

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